上 下
28 / 104
二章 イアサントとアデラールとオーブ

7.どうしよう

しおりを挟む

 大きな手が頬を撫でている。気持ちいい……

「ルチアーノ気が付いたか?」
「ん……?イアサント様……」
「ふふっアデラールを抱けたようで良かったよ」

 彼の立膝により掛かる形で抱かれてた。ええと返事しながら視線を股間に落とすとヤッた後でデロデロ。そして消えないお腹のイアサントの紋。

「イアサント様……お腹に……」
「ああ、子が出来たな」
「はあ……戻れば消えますか?」
「ん?消えないな」
「ふえ?今なんと?」
「ルチアーノと俺の子だ。大切に育ててくれ」

 優しく抱きしめ愛しそうに腕が回る……僕は背中に嫌な汗が流れた。耳元で、

「悪いとは思ったがお前から少しアデラールの魂を抜いた」
「え?魂……って」

 顔を上げて隣を見ると僕より少し年上の僕……いやアデラールだな。

「ルチアーノありがとう。お前のお陰で兄様とまた一緒になれた。感謝する」
「はあ……」

 嬉しそうに見つめ合う二人。なんと幸せそうなんだろう。

「あのな、我らの魂はオーブの中にある。だから供給の度に会う事が出来るんだよ。双子とお前で供給すれば双子も来る事が可能だ。まあなんだ、文句はその時に聞くと伝えてくれ」
「はい……」

 二人とまだ子供も作ってもいないのに他の人の子を妊娠とか。なんで……どうしよう。弁解の言葉すら思いつかないよ。

「そんな顔するな。番と子を作る前なのは悪かったが、オーブがそこまで減ったらこうするしかなかったんだよ」

 と、なぜ抱いたかの説明をしてくれた。番になり交わらないと一気に魔力を移せないらしい。大体現代の魔力持ちは魔力少なすぎとイアサントは文句タラタラ。彼らが生きている頃の平均的貴族の魔力は五十万くらいあるのが普通だったそうだ。って事は庶民が今の双子と同じくらいかすごい。

 お前の魔力は現代では多いが俺の十分の一しかなく、アデラールは俺の倍だと教えてくれた。交わる事で僕の記憶が見えたんだと。マジか……何見たんだろ?そんで現代人の魔力はなぜ減った?

「でな。ここまで減って随分経ったようだから満タンに供給してもすぐ無くなるからな。土地が俺たちの生前まで戻るには半年か一年か……毎月来なさい」
「え?毎月?」
「そうだ、それくらいでオーブは空になるはずだ。ん~お前は産んだら双子とカジミールの子に任せろ」

 それで移した後のお前の魔力量だがと、

「今はアデラールと同等二百万だ。でな、双子はお前と交われば俺と同等百万までは引き上げられるからたくさん交われ」

 一回では無理だがそのうち上がるからと言われた。

「そうすればまた今まで通り十年に一回ですみますか?」
「うん、ルチアーノなるよ……」

 ふわっとイアサントの膝に寄り掛かる僕をアデラールは抱いてごめんねって、だめな父でごめんねって……泣き出した。

「苦労させてごめん……無理やり騎士団長にしたのを怒ってたよね。母上が可哀想と泣いてたのに無理やり……ごめんね」

 あれ?誰の感情なの?彼の子供の?その景色が見えるし感情も伝わる。大好きな母上の子を優先して欲しかったのにって。俺はリンゲルでは異質な子供なのにって強く思っていたのが伝わる。確かにリンゲルの獣人や人族の番は一人だけ。彼は二人の子ではない自分の存在が辛かったという思いが伝わる。なのでアデラールにそれを伝えた。

「やはりそう思っていたか。あの子は本当に僕の妻に懐いていてね。そして僕を嫌っていたんだよ」

 嫌って?……違うと思うな。

「う~ん、怒っていたし父上可哀想とどこか思っていたのかな?本当に好きな人と一緒にいられないから。母上を愛しているのは分かってたけど、どこか寂しそうなのも知っていた。俺を見る目が時々哀しげでそれも嫌で、自分の存在も何もかも嫌だと思っていた時に猫族の彼に一目惚れ。頭が限界に達して彼に溺れて……」
「そう……」

 ふふっと微笑むアデラール。するとイアサントの胸に抱かれ、

「もう時間だ。次に来た時に話を聞かせておくれ。リュシアンの子、ルチアーノ」
「はい」
「またすぐ会えるよ。愛しいリュシアンの子……」


 ……チアーノ!起きてくれ!

「あ……ジュスラン……」
「はぁ……ルチアーノどこか具合悪い所は?」
「ん……ないけど……まず供給してからね」

 起き上がり台に手を置くと身体から魔力が吸い取られていった。ものすごい勢いだな。だけどイアサントが言うように魔力量が多いから気を失うこともなく楽だった。そしてオーブは満タンになり表面だけではなく中も虹色に輝く液体のようなものが溜まっていった。これでよし!

「アンセルム完了です。ですがオーブは減り過ぎてしまっていて土地に吸われるのも早く来月には空になります。なので半年か一年くらい毎月供給してその後は十年一回でいいそうです。まあ、俺たちに会いたければ細かく供給でも好きにしろと言われました」

 は?……それは誰の?と驚いた顔したけどここでは何なので部屋でゆっくり説明しますと供給の間を出て僕の部屋に移動。イレールがお茶を用意し部屋を出るとアンセルムが防音障壁を張った。

 はあ……いいにくいのもあるけど隠せはしないしね。僕は供給の間であったことを話し始めてそして……僕はシャツを捲り二人にお腹の紋を見せた。

「マジか……それ本当にイアサントの紋だ……イアサント王国の家紋はこれを元に好きだったカトレアの花と混ぜてるんだ……クソッイアサント殺す!」
「もう死んでますアデラールもね。無理だよジュスラン」

 冷静に突っ込むアンセルムと泣きそうな顔のステファヌ……

「それしか方法がなかったとしても……俺のルチアーノを抱くとは……もう一度殺せるなら殺したい!はあ……でもさ、本当に五百年も待つほど愛してたんだねイアサント」

 うんとみんな彼の一途な愛には言葉にならなかった。

「ですが解決の目処は立ちました。そして二人が供給出来なかった理由も分かりましたしね」

 そう、アンセルム"と"供給すればよかったたけなんだよね。初期の五人の子の誰かと一緒にやる、それだけ。だから台が五個なんだそうだ。一人でやるには王族イアサントの家系だけなんだけど、五人の子孫二人以上ならアンでもノルンでも関係なく供給出来るそうなんだ。……何だそれとは思ったけどオーブを作る時王族に不測の事態を想定してそうなってるらしい。

 イアサントとアデラールのノルンの子孫が万が一途絶えたりした時の安全策。それとオーブを浮かせてるのアンセルムの先祖のカジミールの特殊技能だそうで聞きたければ来いと。でも感覚的なもので説明は難しいかもね、うははと言っていたのを伝えたら……

 アンセルムからブツッと何かが切れる音がしたような?表情が変わったよ?

「クソ先祖……書き残して置いてくれればこの様な事には……ルチアーノ様にも迷惑を掛けることもなかったのに殺すぞ!カジミール!!」
「お前もか……もう死んでるって」

 そんなやり取りを聞きながらアンセルムの言葉を反芻はんすうした。そうなんだ……もう僕の価値は長くて一年でなくなる。イアサントの子を産もうが他に元々の五人の子の貴族がたくさんいるんだものね……確かに僕の魔力は多いけどみんなで力を合わせればもう……

 この国に……彼らに僕は必要ないと思うと目からボタボタと大粒の涙がとめどなく溢れた。この半年楽しかったし二人が大好きで……王様には未練はないけど二人には未練だらけだ。これからどうしよう。一人で生きていけるかな……辛くて三人のやり取りの声が遠くに感じられて……哀しくて……

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

縦ロールをやめたら愛されました。

えんどう
恋愛
 縦ロールは令嬢の命!!と頑なにその髪型を守ってきた公爵令嬢のシャルロット。 「お前を愛することはない。これは政略結婚だ、余計なものを求めてくれるな」 ──そう言っていた婚約者が結婚して縦ロールをやめた途端に急に甘ったるい視線を向けて愛を囁くようになったのは何故? これは私の友人がゴスロリやめて清楚系に走った途端にモテ始めた話に基づくような基づかないような。 追記:3.21 忙しさに落ち着きが見えそうなのでゆっくり更新再開します。需要があるかわかりませんが1人でも続きを待ってくれる人がいらっしゃるかもしれないので…。

魔族の嫁になった僕

たなぱ
BL
人を可愛がりたい魔族達と、そんなことは知らずに女神の名の下、魔族は悪と洗脳教育する人国は長年戦争を繰り返す 魔力の多さで無差別に選ばれた農民の兵士は洗脳がうまく機能しておらず…? 魔族の嫁になった平凡農民くんが快楽攻めされて絆されていく話 本編二部まで完結済み 尿道触手出産とかも書きたい布教活動勢なので番外編は注意書きをよく見てください 尿道責めもっと増えないかなーって書いてみた初心者作です!色々ノリと勢い!

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

条件付きチート『吸収』でのんびり冒険者ライフ!

ヒビキ タクト
ファンタジー
旧題:異世界転生 ~条件付きスキル・スキル吸収を駆使し、冒険者から成り上がれ~ 平凡な人生にガンと宣告された男が異世界に転生する。異世界神により特典(条件付きスキルと便利なスキル)をもらい異世界アダムスに転生し、子爵家の三男が冒険者となり成り上がるお話。   スキルや魔法を駆使し、奴隷や従魔と一緒に楽しく過ごしていく。そこには困難も…。   従魔ハクのモフモフは見所。週に4~5話は更新していきたいと思いますので、是非楽しく読んでいただければ幸いです♪   異世界小説を沢山読んできた中で自分だったらこうしたいと言う作品にしております。

皇太子が隣で正室を抱くので側室の俺は従僕と寝ることにします

grotta
BL
側室に入った狐獣人でΩのエメは、人間の皇太子ルーカスの寝所で正室オメガにより惨めな思いをさせられる。 そしてある日、狼獣人と人間のハーフであるヴィダルが従僕となった。彼は実は狼一族の子孫で、αだった。 二人は皇太子を騙して帝国を乗っ取るためにあることを企てる。 【狼一族の生き残りα×美人狐獣人Ω】 ※前半皇太子と正室による胸糞注意

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

そんなに私の婚約者が欲しいならあげるわ。その代わり貴女の婚約者を貰うから

みちこ
恋愛
小さい頃から親は双子の妹を優先して、跡取りだからと厳しく育てられた主人公。 婚約者は自分で選んで良いと言われてたのに、多額の借金を返済するために勝手に婚約を決められてしまう。 相手は伯爵家の次男で巷では女性関係がだらし無いと有名の相手だった。 恋人がいる主人公は婚約が嫌で、何でも欲しがる妹を利用する計画を立てることに

転移したら獣人たちに溺愛されました。

なの
BL
本編第一章完結、第二章へと物語は突入いたします。これからも応援よろしくお願いいたします。 気がついたら僕は知らない場所にいた。 両親を亡くし、引き取られた家では虐められていた1人の少年ノアが転移させられたのは、もふもふの耳としっぽがある人型獣人の世界。 この世界は毎日が楽しかった。うさぎ族のお友達もできた。狼獣人の王子様は僕よりも大きくて抱きしめてくれる大きな手はとっても温かくて幸せだ。 可哀想な境遇だったノアがカイルの運命の子として転移され、その仲間たちと溺愛するカイルの甘々ぶりの物語。 知り合った当初は7歳のノアと24歳のカイルの17歳差カップルです。 年齢的なこともあるので、当分R18はない予定です。 初めて書いた異世界の世界です。ノロノロ更新ですが楽しんで読んでいただけるように頑張ります。みなさま応援よろしくお願いいたします。 表紙は@Urenattoさんが描いてくれました。

処理中です...