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一章 双子の王と王弟 

16.国内の戴冠式

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 腹は括ったけどさすがに当日の朝は緊張で吐きそう。二人は笑顔で大丈夫、練習した通りでいいからと励ましてくれたけどね。

「ルチアーノ様こちらで支度を」
「分かったイレール……」

 まだ朝も明けない時間から起きて湯浴みをして身体を磨き上げ……って僕立ったり座ったりくるくる回って……そう、実は僕は忙しくない。忙しいのは側仕えのみんなだ。言われるまま動き、支度が進んで行く。

 鏡の前には王の様な……赤髪の王か……ここまで来てもまだ僕は不安だ。ブンブンと頭を振って弱気を吹き飛ばした。が、髪が崩れると怒られた。マントを付けてもらうと一層王らしい。馬子にも衣装だね。ははっ

 支度が出来ましたと側仕えが汗だくで微笑む。もう吐きそうとか言ってる場合ではない。皆の努力を僕自身の努力も見せる第一弾なんだから!

 そうこうしている内に広間のドアの前に立っていた。玉座のある小広間の謁見の間。盛大な戴冠式はずっと先になる。なぜなら他国の調整に時間が掛かるからなんたけど、まあ早くても半年は先だね。

 因みにジュスランの退位式は数日前に行われた。僕、双子とアンセルムだけのもので、ジュスランが玉座に王冠と笏を戻して終わりの簡素なものだ。まあ今回何もしないのも何だからと形だけでもするか?とジュスランの発案からだった。本来はどの国もコレやらないからね。退位ってさ死んじゃってるからさ……

 重厚なドアの前には衛兵が二名。目が合うと僕を見てにっこりした。あっ近衛の騎士さん!そうか……戴冠式だから彼らが担当なんだね。彼らから小声で頑張ってと声援がとても嬉しくて、顔を上げて胸を張った。いつ声が掛っても大丈夫なようにドアを睨んでいた。

「ルチアーノ様、我らはここまでです」
「うん。感謝する」

 イレールとレオンスは下がって行った。

「新国王ルチアーノ王。ご入場!!」

 声と共に中のザワザワとした話し声は消え衛兵が左右のドアを開けた。真正面には玉座。その左右にジュスランとステファヌが立っている。正装した彼らは美しかった。司会役のアンセルムはジュスランの横で一歩前にいた。

 一直線に引かれた赤絨毯の先の玉座を見据え、僕の王としての一歩を踏み出した。

 歩き出すと周りの興味津々の小声が聞こえる。髪が赤い……幼いとか否定的なの言葉も聞こえたが、概ねかわいいとか思ったより……とか肯定的な声もする。僕は双子より頭ひとつ小さいから仕方ないし、歳も四つも下だ。

 だけど、玉座を見据え歩き階段の下に到着。アンセルムが装飾された羊皮紙を広げ、口上を読み上げる。

「本日前王ジュスランが退位し、新国王ルチアーノが即位する事を宣言する!」

 この言葉で僕は片膝を付いてこうべを垂れる。

「ジュスラン様挨拶をお願いします」

 僕は下を向いていて見えなかったけどカツカツと靴音が響いた。

「皆の者!本日私は退位する。理由は先の会議で伝えた通りだ!まだ納得がいっていない者もいるであろうが、私とルチアーノの魔力量の差は如何ともし難い物があるのだ。そしてここの者しか知らぬ重大な問題も新たな王の魔力と血によって解決に至る。納得はせずとも良い、認めてくれ。それと彼は人族になったばかりでこの様な重責に………」

 ジュスランは滔々とうとうと話し続ける。よく通る声で諭すように。

「では、王笏を」

 コツコツと階段を降りる靴音がして、僕の目の前に彼の靴が見えた。

「面を上げよ」

 僕は顔を上げた。たくさんの宝石が付いた美しいを王笏を持つジュスランは王に相応しい姿だった。キリリとした表情も相まってカリスマ性のある……だけど!

「新たな王よ。始祖より受け継がれしこの地を収め、民を愛し地を愛し繁栄を………」

 祝詞を上げながら肩に笏をトントンと両肩に軽く触れる。ジュスランの目配せで立ち上がると横に並び、向かい合うようにしてまた片膝を付いた。

「始祖から受け継がれるこの王笏、王冠を其方に授ける」
「はっ」

 アンセルムがら王冠を受け取り僕の頭に乗せ、笏を両手で受け取る。そして階段を上がり玉座の前に立った。そして笏をドンッと強く床に打ち付けた。

「私はルチアーノ。イアサント王国国王である!!皆よろしく頼む!!」

 うわああ!!!と割れんばかりの拍手と歓声が上がった。歓声の中で小声で二人がよくやったと褒めてくれた。その言葉で緊張が少し解れた気がした。

 そして僕が玉座に座ると貴族たちは各々の席に付き、何故亡くなった訳でも無いのに王が変わるのかをアンセルムが説明をした。ここにいる貴族は大臣、何処かの省のトップばかり。家族は入れていない。そう、オーブの資料を探した時に手伝ってくれた腹心の者ばかりだ。

「オーブの解決策がルチアーノなのだ。彼はアデラールの直系子孫で二重紋を持つ。魔力量は十万強だ」

 おお……と地響きのような声が会場から起こった。

「そして彼は今十九、半年前に変体した。今まで聞いた事がない事例だが、リンゲル王国の猫族の者だ」

 ザワザワとし出したね。まあそうだよね。僕何もかもが異例だもの。貴族の一人が怖ず怖ずと手を上げ、

「あの……リンゲル王国には魔術団長の家系があるのでは?そちらと婚姻か番に迎えれば良かったのではないですか?」

 フンと鼻を鳴らしアンセルムが、

「それは真っ先に考えた。しかし……あの家系はどこかでアンとノルンが入れ替わったようで、今の当主の血族はアン由来なのだ。他の家族、嫁いだ血族も失礼承知で頼み込み鑑定したが、アンの血族しか居なかった」
「なんと……」

 質問した貴族どころか会場の貴族の殆どが絶句した。

「その為二重紋の者は誰も居なかったのだ。以前はいたのだろうが途絶えたようでな」

 ふぅ……と一呼吸置いて、

「我らはの絶望は其方たちも理解してくれるだろう」

 そんな時、王と王弟が予知しルチアーノを確保して今日まで教育を施し今に至るのだと。確保……僕ペットの魔物みたいだね……

「彼は何故その血を持っていたのでしょう?」
「父方がアデラールの血脈だろう。父からしか遺伝しないからな。彼の父は代々農家だそうだで城にも出入りしていた業者だったのだそうだ。きっとどこかで出会い恋にでも落ちて野に下ったのだろうと推測している」
「はあ……なんとまあそんな事が」

 ザワザワと話し声が響いている。父親は二重紋ではなかったのか?とか聞こえるが、父のはねぇ……見ないよね。母とヤッてる所でも見ない限り。それは息子としてどうよ?あはは。

「そこの者の話の通り父親の紋をルチアーノがこちらに来てから訪問して確かめた。……何故だかは分からぬが不完全な紋だったのだ。二重ではなく一重の縁に花びらがあった」

 え?そうなの!?いつ行ったの?なら父さんたちは僕の立場を理解しているの?

「彼の問題かその親の問題かは分からぬ。だが、子のルチアーノは完全な紋で産まれたのだ。もう始祖の家系のノルンの血は五国で彼のみなのだ」

 それからも質問形式で話を進めて途切れた所でアンセルムが場を閉じた。

「コレ以降は会議の時にでもしてくれ」

 アンセルムが目配せをしたがら頷いて立ち上がった。

「これにて即位式を終了する!王から一言を」

 僕は深呼吸して……僕の言葉で。

「聞いて下さい!僕はこの半年とても悩みました。魔力だけでいいのかと。その為に努力もしました。ジュスランたちには劣りますが、それなりに魔法も使えるようになりました。頼りないかもしれません。ですが……あの……これからも……」

 言葉に詰まりあたふたしていると会場から大きな声が掛けられた。

「ルチアーノ王!あなたは救世主だ!存在がもう王だ!他は慣れだ!!期待していますよ!」

 誰だかは分からないけどその言葉に皆の緊張した空気はなくなり、そうだそうだと笑顔も出て……

「王のご退場!!」

 掛け声と共に盛大な拍手が沸き起こり、それに見送られて僕は後ろに下がった。皆から見えなくなった所で緊張の糸が切れて膝から崩れた。

「ルチアーノ!」
「ステファヌ……ありがとう」

 転びそうになった所を腕をステファヌが掴んで何とか。

「お前は頑張ったよ」
「うん……」
「ルチアーノ立派だった。お前の言葉が伝わったようで良かったな」

 ジュスランに抱かれて、ステファヌは後ろから抱いてくれた。本当に怖かった……これでようやく半分終わった。……そう半分。苦手な社交がこれからだ頑張ろう。

 少し休もうとアンセルムと二人は僕の側仕えを呼んでくれて、近くの部屋を開放してくれた。見知った家族のような人ばかりで安心する。 

「お疲れ様でした。上手く行きましたか?」
「最後がねぇ上手く……え?」

 優雅にお茶を飲む二人……?は?何故ここにいる!いつもと同じだから気が付くのが遅れた!

「何でここに!アンセルムと行ったんじゃ!?仕事は?」
「んふふっ俺たちも疲れたの。少し休む」
「いや……あのアンセルムが困らない?」
「何とかするでしょ。短い時間くらいさ」

 二人とも我関せずですか……一応僕のためのものなので……あのね?ん?顔が近づき、

「ルチアーノ……」

 んんっ!何すんの!今はキスしてる場合じゃないでしょ!両手で押し戻した。

「ハァハァ……だ、ダメでしょもう……」
「俺さ怒ってんの。勝手にルチアーノの家に行ったでしょ!アンセルム」
「ああ……確かに驚いた。もう父さん母さん知ってるのかと。僕は手紙すら書かなかったら……」

 だから嫌がらせだよと。ルチアーノの気持ちをもっと優先してもいいと思うからね。本当にこんな事なければ街で楽しく生きてたかもしれない子なのに……あいつは!!

 ふふっ僕の代わりに怒ってくれるんだね。

「ちょっとだけ見ないでくれる?レオンス、イレール」
「かしこまりました」

 後ろを向いてくれたのを確認して、ジュスランの膝に跨り頬を撫でながら、

「ありがとう……んんっあふっ僕の為に怒って……あん…くれて」
「いいお礼だな……ふふっ」

 くちゅくちゅと楽しんでチュッと終わらせると、ステファヌにも同じ様に跨り、

「ステファヌ……チュッ」
「嬉しいお礼だ。この所忙しくてしてなかったから」
「うん……あんっありがと」

 キスで僕の緊張も大分和らいだ。二人の香りで落ち着いたんだ。愛しい二人の香りが……とても気持ちいい。

「はあ……ふふっでは二人はアンセルムの所に行ってね」
「え?ヤダよ!」

 変なトコで声を揃えない!と言って追い出した。はあ。

「ふふっ愛されてますね」
「うん。僕も愛してる……えへへ」
「ようございます」

 迎えが来るまで短い時間だけどレオンスとイレールに即位式の話を聞かせながら待っていた。
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