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プロローグ

1.何で今頃なんだよ!!

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「あっ……うぅんんっあっ……っ」
「なあ……俺の子を産んでくれよ……ハァハァ」
「うあ!待って……まだ……ああ……ダメ!」

 うなじをねろって舐められて、

「いいだろ?噛んでいい?この薄っすら光る魔防陣エロいよな。お前の派手だし」
「うんぅ……気持ちいい……けどダメ……あん」

 子供が産める者の首にセックスの時に現れる魔法陣だ。一度噛めば番が成立して相手を変えることは死ぬまで出来ない。相手が死んでしまっても変えられない。これはいつ噛んでも同じ。だけど噛んだ相手が光る魔法陣を噛みながら射精すると百発百中で妊娠する。妊娠をコントロール出来るのが利点だ。だから普段間違って誰かに噛まれないように、アンの者は魔法陣が隠れる首輪をしている。

「ハァハァ……お店作ったばっかりで借金もまだだし。もう少し待とうよ」
「待てない。待ってたらお前を誰かに取られるかもしれないじゃん。お前モテるんだよ」
「僕はヨハンが好きだから……いやあ!イクから!噛んじゃダメだよ!ああ!」
「クソッ……うっ」

 ううっ…気持ちいい……ヨハン最高。はあ、好きな人とのセックスは堪んない。

 僕たちは猫族で彼のは柔らかい棘があって特にね?擦れる刺激が他の獣人とは違ってさ。なぜ違いを知っているかって?一度別れて犬族の彼氏がいた事あったんだよね。

 彼も優しかったんだけど僕以外にも恋人が……って言うか腐れちんこのプレイボーイだったんだよね。この世界では番は遅くとも三十歳くらいまでに見つけないとだから、それまで遊ぶんだと豪語された。騙されたよね。

 それが発覚して落ち込んでた頃、ヨハンがお前でないとと頭下げて浮気は悪かったと。実は彼はうさぎ族の凄くきれいな子にフラフラとついて行ってしまって僕はもう要らないって言ってね。ちょうど僕が成人前。その一年後何があったかは聞かなかったけど、うさぎの子は同じうさぎの王国騎士とラブラブなのを見かけた。

 振られたんだろうね。騎士の彼は凄くカッコよかったし。そんな事を思い出しながら、今の幸せを大切にしようなんて……うふふっはあ。余韻に浸って頭撫でて貰ってうっとりしていたのに……

 ドクンッと心臓がおかしな動きをした瞬間。うぐっ!!胸が苦し!!痛い!!

「ぐうっ!!うっ!!……ッぐわぁああ!!!」

 突然の苦しさにもがいた。味わったことのない強烈な痛みに全身が切り裂かれるようだ!!

「え?ルチアーノ!どうしたんだ!?おい!?」

 返事も出来ないくらい痛い!!!心配して擦ってくれる手がもう痛くて辛い。触らないで!!身体を左右に揺すり触るなと……手を離してくれだけど……ぐぐぅ!!ぐあああ!!

 余りの痛さに丸まって耐えていた。奥歯が割れるのではというくらい食いしばりヨダレを垂らしながらふ~っふ~っと。
 とても長い時間に感じてたけど急にフッと痛みがなくなった。

「ハァハァ……ごめんね。急に胸が痛くて……」
「ああ……」

 ん?反応が変だな?

「ヨハン?」
「ああ………あっ済まない……」

 哀しそうな顔して呆然として僕の隣で座り、無言で涙を流していた。なんで?

「ねえ?どうしたの?」
「……さっきうなじ噛んでればもしかしたら……ううっ……クソッ」

 涙を流しながら呟いて……別にお店が落ち着いたらいつでも噛めばいいのに?と、うなじを触る……!!!

「あれ?僕の首の毛が……ない?」
「…………うん。なくなった」

 ヨハンは優しく微笑み頷いた。身体を触ると体毛が!頭を……耳が!!僕の耳がない!!

「ヨハン!!耳ない!!」
「バカだな……ぐすっ……ここだ」

 顔の横を……うそ?………コレは……僕十八だよ?今年十九に……嘘だよね?ヨハンにすがるように見上ると首を横に振るだけで……

「哀しいな……お前と所帯持って小さくても店やって楽しくずっと……ううっ……」

 あ…ああ………無くなったんだね……僕とヨハンとの未来は……子供も……何もかも……ヨハンを見ながら涙が溢れて止まらない。

 うわああ!!と抱きついて二人で叫ぶ様に泣いた。幼馴染でどちらの親も二人で生きていくと信じてくれたくらい家族ぐるみで仲良くて、復縁からは将来を疑ったことすらなかったのに。まさか僕にこんな事が起きるなんて夢にも思わなかったよ。


 僕たちは獣人。稀に人に変体する者がいるんだけど、十を過ぎて遅くとも成人の十五までに変体を済ますのが普通だ。

 ここのゴンドワナ大陸にはたくさんの国があるけど、僕等の国は高い山脈に遮られていたり、魔物の森が交易をジャマして実質五王国のみで仲よく暮らしているのが現状だ。他も同じような感じだと、冒険者から話を聞くくらいで実際には他所の国は見た事はない。

 僕は獅子王ファンダル様が統治するリンゲル王国に住んでいる。他に翼竜の王国、エルフ族ドワーフ族の国、魔法大国人族の国、鳥族の国で五つ。中央に人族の国を置き東西南北に4つの国がある。僕達は被毛を持つ獣人が住まう国。

 北の高い山脈に囲まれて芋とかいもとか……いも?玉ねぎ、にんじんとか野菜や麦など穀物と家畜の鬼牛の乳とチーズが有名な一次産業のあんましお金のある国ではない。だからこの農業国には人に変体する者自体がとても少ない。人の血が混ざっていない獣人が多いからだ。

 建国の頃の史実だと、中央の人族を誘拐し子を産める性別の「アン」は孕ませ、種付けの性別の「ノルン」はムチを打ってでも交尾させて、変体する子供を作る時代があったそうだ。中央は人の姿のみではなく強力な魔力持ちが生まれる。大小はあるけど、外の国には居ないであろう魔力持ちなんだ。

 そのために戦時中は……酷いことが行われていた。それを収めたのが今の中央国の初代王イアサント。戦で疲弊しているのに民間人も拐われて、五国全土が焦土と化していた。戦に参加せず分厚い魔法の防壁を張り国民を守っていた人族の王は、目的が何かを察していて決断が出来ないでいた。

 だけど魔術師が四人自らを差し出せと言ってきた。王はどんな扱いになるか知っていたから悩んだが、四人の説得に折れて泣き崩れたそうだ。その後五国の重鎮を招集して、王国の特別な血筋の大魔法使いを一人ずつ進呈するから停戦を提案。

 他国の王は人族を属国にしたくて争っていたんだ。だけどその時何があったかはわからないけど、特別な血を手に入れられたならばと表向き停戦。そんなんで停戦するとは思えないから裏があったんだろうと思うけどね。魔法使いが行ったどの国も種馬としか見てなかったらしい。停戦にはなったけど、魔法使いは死ぬまで種馬で……気の毒でしかない。

 だけどその犠牲があって今まで停戦が続いて、戦の匂いも無くなって穏やかに……だけど僕の国はその血を要らないと言ったそうだ。でもリンゲルだけ来ないのもねって事で特別の中の特別な魔法使いが来たらしい。そんな事情だから魔法使いは宰相として普通に生き、家庭を築き子にも恵まれて、今でもその子孫が王国の魔術師団の騎士団長だ。

 だけどこの譲渡には条件があってね。血を分けるかわりに人に変体する子が産まれたら中央に籍を動かすことになっている。獣人の中にいる人族は余りにも目立ち、虐待や奴隷商が子わ生産するための種馬や子を産むだけの……になるからだ。五百年前の会議での決議に各国は納得して変体した獣人を差別なく保護する事を条件に承諾した。一部は王国の魔術師になるけどね。ここまで学校で習うからみんな知ってる。

 だから人族になると民間人は強制的に中央に籍は移るんだ。危険だしね。でも行った人は戻っては来ないし来れない特別何かがなければ。ただ戻りたいでは保証はすべての国がしてくれない。国籍不明な奴隷身分になる未来しかない。それでもよければだね。黒い森を抜け見ず知らずの他国に山を超えて行くしか道はない。

「ヨハン、僕一度実家に帰るね……明日」
「うん。戻って来てくれよ……行く……まえに……は……顔を見せて……くれ」

 涙声になって話せなくなってるのを見ると僕も涙が溢れ……布団を被って抱き合って寝ようとしたけど……二人で泣くばかりで寝ることは出来なかった。泣き続けているうちに東の空は白み始めて来ていた。
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