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二章 お互い足りない

10.話し合いは長かった

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 僕は納得いかなくて悩んでしまった。負けず嫌いは大きな違いでしょう。僕は負けてもそんなもんだって思ってるし、誰かに抱かれて発散?思いつきもしないよ。

「納得出来ない?」
「うん」

 ちょっと待ってトイレって立ち上がってパタン。うーん、僕は普段から察しが悪いからなあ。広翔が何言いたいのか分かんないよ。ジャーって水音がしてスタスタ戻っておかわりってカップを差し出した。

「うん」

 僕は豆をセットしながらなんだろなあって考えながら淹れていた。

「どうぞ」
「ありがと」

 無表情でコーヒーを飲んでいる。

「仕方ないね」
「え?」

 その言葉に、心臓がドクンとしてバクバク。いらねって言われるの?察しが悪すぎて本気でいらねって?ど、どうしよう……額から冷や汗が流れ落ちた。

「千広ホントに分かんないみたいだから、きちんと話すよ」
「うん」

 僕はギュッと目を閉じた。覚悟してテーブルの上の手を強く握った。

「千広?」
「はい」
「そんな力こめて聞かなくていいよ」
「でも」
「目を開けて」
「うん」

 少し呆れたような感じだ。何言うのかドキドキは収まらない。

「千広は俺を美化しすぎ」
「は?」
「俺は女々しいし、みんなも言ってたろ?ねちこいし、千広と違って受け身じゃないだけ。他は同じなんだよ」
「え?」

 頭掻いて言いたくはないんだよねって。

「ねちこいのは自分を知ってもらって愛してもらうため、優しいのも半分逃げられないためにしてんの。初めの頃ベタベタしなかったろ?変なとこで女々しいんだよ。昔の彼が好きだったからって、今彼に我慢させるとかちっせえにも程がある」
「ああ」

 俺もいつも胸の真ん中に穴があって、恋人で埋めてるんだって。ゲイってけっこういじめられたり、隠すのに必死になるだろ?家族も理解してくれるとは限らない。大小のダメージ抱えてんのは一緒なんだと微笑んだ。

「俺は外に出たらカッコつけたい。ステキって見て欲しいって浅ましい部分もある。だから外と内の印象が違う。千広もだろ?」
「うん。そこはしっかりしてるように見えるようにはしてる」
「だろ?そこが過剰なだけ」

 あーあ、俺こんなダメなところ話すつもりなんてなかったんだ。どうせ言わなくても感じてただろうし、わざわざ言葉にして言いたくはないって。

「洗濯も適当だし、掃除もね。飯だけは気合入れてたけど、それ以外は千広のほうがきちんとしてる。俺の部屋がきれいなのは使ってないだけだったんだ。いないからね」

 部屋だけ大きいのは狭い家が苦手だから。実家が狭かったんだ。今こそ広いけど、子供の頃は前の千広の部屋くらいに親子三人で住んでて、反動だよ。家賃が高いから少し都心から離れてここなのって。中心部でこの部屋サイズはさすがに無駄だし狭いのはイヤ。

「俺はいいとこのボンでもなんでもない。勉強がそこそこ出来ただけ」

 僕はその「そこそこ」が足りませんでした。けっこうな塾とか入れてもらったけど、残念な頭でね。

「ガサツだし、カッコつけなきゃヤバいんだよ」

 困り顔で微笑む広翔はやだなあって。俺は死ぬまで嘘つこうと思ってたのに、千広のかっこいい恋人でいるんだって思ってたのにって。

「かっこいいよ」
「嘘つくな。下半身はホントはだらしないし、嘘つきだし。セックス上手いってのも数こなしてるから。天然じゃない」

 モテるのをいいことに、千広に出会うまではやりまくってたしねって。甘えたいのも本当。セックスでいじわるしてんのも甘え。千広なら許してくれるって甘えだよ。かあヤダ!と頭を抱えた。

「こんな俺でもまだ好きって言える?千広以上に問題だらけだよ。稼ぎがいいを抜けば悪いとこしかねえもん」
「うん。好きだよ」

 言いたくないことをわざわざ帰ってきてまで言って、僕を繋ぎ止めようとしてくれる。広翔はたまに掴み所がない気がしてたんだけど、そっか、ホントの素を出してなかったからか。

「今しかないよ、俺を捨てるならね」
「捨てない。僕は着飾ることが出来ないからこのまんま。中身はないし弱いし、察しも悪いし、頭も悪い。それでもよければお願いします」

 僕は頭を下げた。広翔は、俺は千広が頭悪いなんて思ったことはない。多少察しは悪いけどって。

「もう逃げ場はないからな。俺が逃さないから」
「うん」

 僕は立ち上がって広翔の側に立って、

「改めておかえり。嬉しい」
「うん。ただいま愛してる千広」

 僕は彼の膝に跨り抱きしめた。ずっと触れたかったんだ、寂しくて寂しくて堪らなかった。嫌われたくなくて、弱さをなんとかしたくて……そのままでいいって言葉を、飲み込むことが出来なくて苦しんだ。自分の至らなさだけに目が行き、広翔のいいところだけを見て。

「完璧な人なんていないんだよ」
「うん」

 広翔の体の温かさが嬉しかった、こんな僕のために……

「さて、俺仕事行ってくる」
「え?休みじゃないの?」
「あはは。半分仕事で十日で帰る。実質一週間ない」
「うそ!」
「ごめんね。夏に帰って来たくて仕事詰め込んてきた」
「おお…ぅ……」

 なんてこと……夏休みの早もらいって言うから、二週間くらいはいるかと思ってた。

「よし!なら無駄遣いだけど、僕が広翔のところに行く!十日くらい休みをもぎ取る!」
「ほんと?ホテルいらないからさ。その分安いよ。今から飛行機取れば……いや、あんま変わらんか」
「それでもね!ひろちゃんが仕事に行ってる間に予約する!」
「うん」

 てのが春先、夏に僕はみんなに頭下げて無理やり休みを取って、広翔のところに行って、少しして広翔が帰国してなんて夏はバタバタしたけど楽しく過ごした。そしてまたいつもの日常。

「あはは。ケンカになると思ったよ」

 僕はけっこうバーに来てたのに会わなかった佐久間さんは、久しぶりに会ったら大笑い。

「大声で叫んだか、ふーん。取り繕えなかったのかな。必死だな」
「うん。怒鳴るのなんか聞いたことなかったから」
「その後音信不通にキレて帰国とは。バカだ」

 長い付き合いの人らはまあやりそうって。

「あいつ変なとこでフットワーク軽いんだよぇ。キレてると余計ね」
「ふーん」

 広翔は、みんな口にしないけど武勇伝が多そうだね。

「だから友だちならいいけど恋人は無理。情熱的って言えば聞こえはいいけど、無謀なんだよ。そういうところも嫌いだから、恋人にも寝ようとも思わなかった。ちーちゃんも怖かったろ」
「あー……はは、うん」

 だよねえってみんなうんうん。

「でも腹割って話したからスッキリはした」
「そう?俺はドン引き」
「そうだね。でも好かれようと思ってだから……」

 そんないつかばれる嘘なんてつくもんじゃない。月日が過ぎればボロは出るもんさって、佐久間さんは冷たい答え。
 でもね、俺はひろの気持ちはわかる気はするってゆうくん。

「そこまで好きで、なんとか繋ぎ止めようって気持ちはね」
「まあなあ」

 人の好みも情熱も何に掛けるかは人それぞれ。前のこともあって、逃がしたくない一心だったんだろうねって。

「その情熱で仕事もうまく行ってんだろ。ちーちゃんも頑張れ」
「うん」

 春先には帰って来るはずなんだ。交代の人が行って引き継ぎもあるから、正確な日付は近くにならないと分かんないけどね。

「ちーちゃんも落ち着いたし、変なエロさも復活したから、帰る時気を付けてね」
「あ~はい」

 ママに注意されてから店を出た。あの公園近くがマズかったらしいのはみんなの意見で、そういう公園だそう。あの辺りはそういった人で……ね。ってことでいつもと同じ、違う道をふんふんと鼻歌歌って歩いていた。
 ひとりで物色ふうの人が見えると警戒してはいて、無駄な気はしたけどさ。前回は偶々だと思って人多いねえなんて、キョロキョロしてた。

「お兄さん、いい人探してる?」
「はい?」

 え?ニコニコしてる。

「僕今日さ、客にドタキャンされて困ってんの。これでどう?それとホテル代だね。嫌なら自宅でもいいよ」

 肩に手を置いて顔を近づけてくる、きれいな子が金額であろう指を立てて……サーッと血の気が引いた。

「ご、ごぉめんなさい。僕はいいことあって浮かれてただけで、探してたわけじゃ……」
「なーんだ残念。でもしない?僕安いほうだよ?タチもネコもオッケー」

 おお……この仕事に偏見はないが、僕はいらない。ごめんね!とまたダッシュ!逃げ帰った。どうも気を抜いてる時が不味いなと学習はした。
 いかにも仕事で通りかかったふうの、あんまり飲んでない時はないから僕の隙か。
 あーあ。部屋に着いてから落ち込んだ。



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