19 / 35
二章 お互い足りない
6.長い!長過ぎる!
しおりを挟む
「いやだあ……ひろちゃんうわあーん」
「俺も千広と離れるのは嫌だよ。ごめん」
本気で泣いていた。いなくなっちゃうんだ。三年も駐在で行くんだって、うそでしょ!
「年に何度かは帰ってくるけど……ごめん」
「うわーん。ひろちゃん僕がいない間に忘れちゃう!かわいい誰かを見つけちゃうんだ!いやだぁー!」
「ないよ」
「うそだあ!」
僕はもう寂しさが爆発して何言ってるか分かってなかった。寂しいしかなくて。
「そんなことしない。俺身持ちは固いよ?」
「うそだあ!セックス大好きなひろちゃんが、三年も我慢なんか出来るはずない!そこらでして僕なんかいらなくなるぅ!」
「失礼な。我慢する」
我慢?出来ないだろ!暇があれば僕を抱いてるし、昔は食っちらかしてたんだから!
「我慢って言ったあ!アジア人はあっちで人気って聞いたもん!お肌つるつるでかわいいって大人気だって」
「あはは……それは嘘じゃない」
「いやあ!」
僕は泣きながら怒鳴ったり抱きついたり。この数年が幸せすぎたから、どうしていいか分からない。
「千広」
「やだあ……うわーん」
「千広」
「うう……やだあぁ」
僕はこんなに泣き叫ぶほど広翔が好きになっていた。いるのが当たり前で、愛されるのが当たり前と……以前の僕はどこかに行ってて、元彼とは全く違う愛情を広翔に向けていた。
「俺こんなに千広に愛されてたんだね」
「バカ!いやだよぉ」
「ちーちゃん」
頬を両手で持ち上げてくちゅってキス。愛してるよ、千広を愛してるって。
「ハァハァ……ひろちゃん」
「これは出世なんだよ」
「うん……それは分かってる。おめでとう」
「ありがとう。だからね」
「うん……」
僕は広翔を見上げてたけど、ボロボロと涙が溢れた。そんなことは理解してる、どれだけ広翔が頑張って来たかも知ってる。
「……ごめん取り乱した。ここで待ってる」
「うん。待ってて」
チュッとされて本当はねって。
「千広を連れて行きたいなんてバカなことも考えた。三年は長いから、でもね」
俺たちは夫婦じゃない。連れて行くってことは、俺が千広の人生を全部貰うことになる。万が一のときは、千広の人生だけが狂ってしまうんだ。それが嫌だったって。感情だけならしてたかもしれない。ノンケなら奥さんとして人生を掛けて貰ったかも知れない。だけどねって。
「千広には幸せでいて欲しい。俺がいない間に好きな人が出来ても仕方ないと思ってる」
「やだ……待ってるもん」
「うん……」
「広翔のほうがそうなるでしょ?」
「ならねえよ。たぶん」
「なんで言い切れるのさ」
ふふって。俺前にふったことないって言ったろって。
「うん」
「学生時代の彼もあっちから別れたいって言われたんだ。俺は落ち着けばきっとって信じてた。あれだけ仲良く過ごしてたんだ。きっとってね」
「うん」
「だけど彼はそうじゃなかった。もう無理って、愛した分嫌いって」
とても哀しそうになった。今でも嫌いじゃないし、どこかで幸せにしてるといいなあって思ってるって。
「だから俺は待てるんだ。千広がどこかにいかなければ……」
「行かないよ、待ってる。僕も待つのは得意だよ」
「うん」
そして広翔はいなくなった。彼の帰って来ない日々は辛くて、少しすれば帰ってくるってことじゃないから。部屋も広翔の物を見ると涙が溢れた。連絡はマメに来るけど余計寂しくて……
「ちーちゃん泣かないで」
「うん……でも寂しい」
「俺もだよ。ほら見て!俺の部屋!」
駐在だから社宅があって、そこに住んでるんだそう。
「ほら!こんな感じ」
ぐるりと写してくれる部屋はまぁまぁ広くて、日本とはデザインも違っておしゃれ。
「水と風呂が不満。短期ならまあと思ってたけどね。食べ物も千広のご飯が懐かしいよ」
「うん……帰ったら好きなの作ってあげる」
「楽しみにしてる」
毎日忙しいけど、日本のような忙しさはないそうだ。現地法人だから、その国に合わせてるからって。それに、カレンダーの祝日も違う。
「有給は取りやすいかな。残業も日本よりは少ないし」
「ふーんそれはよかったね」
「だから体は元気だよ」
「ふふっいいね」
「千広がいれば抱き潰してるよ」
「あはは……」
こんなやり取りをしながら過ごしていって一年。時々帰って来るとは言ってたけど、半年に一度くらいの里帰りって感じ。有給消化が大変らしいんだよね。ひと月分くらいあって完全消化しないと法律違反になるそうで、それを使って夏に帰って来て、あっという間に帰っちゃった気がした。
「慣れた?」
「まあ。泣き暮らすはなくなったね」
「そう」
ゆうくんが可哀想にって。アレの場合このあたりで捨てられてたからねって。寂しくてお店に遊びに来た。
「ひろは、以前あっちにいるのが多い年があったんだよ。ほとんど日本にいないみたいな。そしたらあっという間だ」
「そりゃあ気の毒に。だけどそれで僕と出会えたからまあいいや」
「言うね。ちーちゃん、よく待てるね?」
「うん、これは僕の特技だよ」
うへぇ……って。
「相性バッチリだね。ひろもそうだからね。アレねちこいから」
「あはは。そうだね」
うーんと僕を眺めている。なんだよ。
「エロさが抜けてる気がする。ノンケと言われても通りそうになるのも時間の問題か」
「あはは、仕方ないよ」
僕は近くで愛してるって言われてないと素の自分だけになるから、地味で見えなくなるんだって説明した。
「いや、そこまでじゃないけど彼女がいる普通の人っぽい」
「そう?ならここに遊びに来るのは安全かな?」
はあ?って呆れてた。
「ボケェ!そういうのを好む人もいるから、安全なんかないよ!若いってそういうこと!」
「あはは!そっか」
時々広翔を知る人と、広翔の話がしてくてここに来る。カミングアウトしてないから、会社では話せないしね。人事のみんなとはそつなく仲良くなった。柳瀬とは時々どうよ?って飲んだりもする。
「まあまだ長いんだ。ここに遊びに来て紛らわせばいいよ」
「そうよ。あたしたちが遊んであげるから」
「はい。ありがとうございます」
ママもゆうたちも優しい。どうにか僕はひとりで生きていた。
「俺も千広と離れるのは嫌だよ。ごめん」
本気で泣いていた。いなくなっちゃうんだ。三年も駐在で行くんだって、うそでしょ!
「年に何度かは帰ってくるけど……ごめん」
「うわーん。ひろちゃん僕がいない間に忘れちゃう!かわいい誰かを見つけちゃうんだ!いやだぁー!」
「ないよ」
「うそだあ!」
僕はもう寂しさが爆発して何言ってるか分かってなかった。寂しいしかなくて。
「そんなことしない。俺身持ちは固いよ?」
「うそだあ!セックス大好きなひろちゃんが、三年も我慢なんか出来るはずない!そこらでして僕なんかいらなくなるぅ!」
「失礼な。我慢する」
我慢?出来ないだろ!暇があれば僕を抱いてるし、昔は食っちらかしてたんだから!
「我慢って言ったあ!アジア人はあっちで人気って聞いたもん!お肌つるつるでかわいいって大人気だって」
「あはは……それは嘘じゃない」
「いやあ!」
僕は泣きながら怒鳴ったり抱きついたり。この数年が幸せすぎたから、どうしていいか分からない。
「千広」
「やだあ……うわーん」
「千広」
「うう……やだあぁ」
僕はこんなに泣き叫ぶほど広翔が好きになっていた。いるのが当たり前で、愛されるのが当たり前と……以前の僕はどこかに行ってて、元彼とは全く違う愛情を広翔に向けていた。
「俺こんなに千広に愛されてたんだね」
「バカ!いやだよぉ」
「ちーちゃん」
頬を両手で持ち上げてくちゅってキス。愛してるよ、千広を愛してるって。
「ハァハァ……ひろちゃん」
「これは出世なんだよ」
「うん……それは分かってる。おめでとう」
「ありがとう。だからね」
「うん……」
僕は広翔を見上げてたけど、ボロボロと涙が溢れた。そんなことは理解してる、どれだけ広翔が頑張って来たかも知ってる。
「……ごめん取り乱した。ここで待ってる」
「うん。待ってて」
チュッとされて本当はねって。
「千広を連れて行きたいなんてバカなことも考えた。三年は長いから、でもね」
俺たちは夫婦じゃない。連れて行くってことは、俺が千広の人生を全部貰うことになる。万が一のときは、千広の人生だけが狂ってしまうんだ。それが嫌だったって。感情だけならしてたかもしれない。ノンケなら奥さんとして人生を掛けて貰ったかも知れない。だけどねって。
「千広には幸せでいて欲しい。俺がいない間に好きな人が出来ても仕方ないと思ってる」
「やだ……待ってるもん」
「うん……」
「広翔のほうがそうなるでしょ?」
「ならねえよ。たぶん」
「なんで言い切れるのさ」
ふふって。俺前にふったことないって言ったろって。
「うん」
「学生時代の彼もあっちから別れたいって言われたんだ。俺は落ち着けばきっとって信じてた。あれだけ仲良く過ごしてたんだ。きっとってね」
「うん」
「だけど彼はそうじゃなかった。もう無理って、愛した分嫌いって」
とても哀しそうになった。今でも嫌いじゃないし、どこかで幸せにしてるといいなあって思ってるって。
「だから俺は待てるんだ。千広がどこかにいかなければ……」
「行かないよ、待ってる。僕も待つのは得意だよ」
「うん」
そして広翔はいなくなった。彼の帰って来ない日々は辛くて、少しすれば帰ってくるってことじゃないから。部屋も広翔の物を見ると涙が溢れた。連絡はマメに来るけど余計寂しくて……
「ちーちゃん泣かないで」
「うん……でも寂しい」
「俺もだよ。ほら見て!俺の部屋!」
駐在だから社宅があって、そこに住んでるんだそう。
「ほら!こんな感じ」
ぐるりと写してくれる部屋はまぁまぁ広くて、日本とはデザインも違っておしゃれ。
「水と風呂が不満。短期ならまあと思ってたけどね。食べ物も千広のご飯が懐かしいよ」
「うん……帰ったら好きなの作ってあげる」
「楽しみにしてる」
毎日忙しいけど、日本のような忙しさはないそうだ。現地法人だから、その国に合わせてるからって。それに、カレンダーの祝日も違う。
「有給は取りやすいかな。残業も日本よりは少ないし」
「ふーんそれはよかったね」
「だから体は元気だよ」
「ふふっいいね」
「千広がいれば抱き潰してるよ」
「あはは……」
こんなやり取りをしながら過ごしていって一年。時々帰って来るとは言ってたけど、半年に一度くらいの里帰りって感じ。有給消化が大変らしいんだよね。ひと月分くらいあって完全消化しないと法律違反になるそうで、それを使って夏に帰って来て、あっという間に帰っちゃった気がした。
「慣れた?」
「まあ。泣き暮らすはなくなったね」
「そう」
ゆうくんが可哀想にって。アレの場合このあたりで捨てられてたからねって。寂しくてお店に遊びに来た。
「ひろは、以前あっちにいるのが多い年があったんだよ。ほとんど日本にいないみたいな。そしたらあっという間だ」
「そりゃあ気の毒に。だけどそれで僕と出会えたからまあいいや」
「言うね。ちーちゃん、よく待てるね?」
「うん、これは僕の特技だよ」
うへぇ……って。
「相性バッチリだね。ひろもそうだからね。アレねちこいから」
「あはは。そうだね」
うーんと僕を眺めている。なんだよ。
「エロさが抜けてる気がする。ノンケと言われても通りそうになるのも時間の問題か」
「あはは、仕方ないよ」
僕は近くで愛してるって言われてないと素の自分だけになるから、地味で見えなくなるんだって説明した。
「いや、そこまでじゃないけど彼女がいる普通の人っぽい」
「そう?ならここに遊びに来るのは安全かな?」
はあ?って呆れてた。
「ボケェ!そういうのを好む人もいるから、安全なんかないよ!若いってそういうこと!」
「あはは!そっか」
時々広翔を知る人と、広翔の話がしてくてここに来る。カミングアウトしてないから、会社では話せないしね。人事のみんなとはそつなく仲良くなった。柳瀬とは時々どうよ?って飲んだりもする。
「まあまだ長いんだ。ここに遊びに来て紛らわせばいいよ」
「そうよ。あたしたちが遊んであげるから」
「はい。ありがとうございます」
ママもゆうたちも優しい。どうにか僕はひとりで生きていた。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~
松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。
ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。
恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。
伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
魔性の男は純愛がしたい
ふじの
BL
子爵家の私生児であるマクシミリアンは、その美貌と言動から魔性の男と呼ばれていた。しかし本人自体は至って真面目なつもりであり、純愛主義の男である。そんなある日、第三王子殿下のアレクセイから突然呼び出され、とある令嬢からの執拗なアプローチを避けるため、自分と偽装の恋人になって欲しいと言われ─────。
アルファポリス先行公開(のちに改訂版をムーンライトノベルズにも掲載予定)
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる