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二章 お互い足りない

6.長い!長過ぎる!

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「いやだあ……ひろちゃんうわあーん」
「俺も千広と離れるのは嫌だよ。ごめん」

 本気で泣いていた。いなくなっちゃうんだ。三年も駐在で行くんだって、うそでしょ!

「年に何度かは帰ってくるけど……ごめん」
「うわーん。ひろちゃん僕がいない間に忘れちゃう!かわいい誰かを見つけちゃうんだ!いやだぁー!」
「ないよ」
「うそだあ!」

 僕はもう寂しさが爆発して何言ってるか分かってなかった。寂しいしかなくて。

「そんなことしない。俺身持ちは固いよ?」
「うそだあ!セックス大好きなひろちゃんが、三年も我慢なんか出来るはずない!そこらでして僕なんかいらなくなるぅ!」
「失礼な。我慢する」

 我慢?出来ないだろ!暇があれば僕を抱いてるし、昔は食っちらかしてたんだから!

「我慢って言ったあ!アジア人はあっちで人気って聞いたもん!お肌つるつるでかわいいって大人気だって」
「あはは……それは嘘じゃない」
「いやあ!」

 僕は泣きながら怒鳴ったり抱きついたり。この数年が幸せすぎたから、どうしていいか分からない。

「千広」
「やだあ……うわーん」
「千広」
「うう……やだあぁ」

 僕はこんなに泣き叫ぶほど広翔が好きになっていた。いるのが当たり前で、愛されるのが当たり前と……以前の僕はどこかに行ってて、元彼とは全く違う愛情を広翔に向けていた。

「俺こんなに千広に愛されてたんだね」
「バカ!いやだよぉ」
「ちーちゃん」

 頬を両手で持ち上げてくちゅってキス。愛してるよ、千広を愛してるって。

「ハァハァ……ひろちゃん」
「これは出世なんだよ」
「うん……それは分かってる。おめでとう」
「ありがとう。だからね」
「うん……」

 僕は広翔を見上げてたけど、ボロボロと涙が溢れた。そんなことは理解してる、どれだけ広翔が頑張って来たかも知ってる。

「……ごめん取り乱した。ここで待ってる」
「うん。待ってて」

 チュッとされて本当はねって。

「千広を連れて行きたいなんてバカなことも考えた。三年は長いから、でもね」

 俺たちは夫婦じゃない。連れて行くってことは、俺が千広の人生を全部貰うことになる。万が一のときは、千広の人生だけが狂ってしまうんだ。それが嫌だったって。感情だけならしてたかもしれない。ノンケなら奥さんとして人生を掛けて貰ったかも知れない。だけどねって。

「千広には幸せでいて欲しい。俺がいない間に好きな人が出来ても仕方ないと思ってる」
「やだ……待ってるもん」
「うん……」
「広翔のほうがそうなるでしょ?」
「ならねえよ。たぶん」
「なんで言い切れるのさ」

 ふふって。俺前にふったことないって言ったろって。

「うん」
「学生時代の彼もあっちから別れたいって言われたんだ。俺は落ち着けばきっとって信じてた。あれだけ仲良く過ごしてたんだ。きっとってね」
「うん」
「だけど彼はそうじゃなかった。もう無理って、愛した分嫌いって」

 とても哀しそうになった。今でも嫌いじゃないし、どこかで幸せにしてるといいなあって思ってるって。

「だから俺は待てるんだ。千広がどこかにいかなければ……」
「行かないよ、待ってる。僕も待つのは得意だよ」
「うん」

 そして広翔はいなくなった。彼の帰って来ない日々は辛くて、少しすれば帰ってくるってことじゃないから。部屋も広翔の物を見ると涙が溢れた。連絡はマメに来るけど余計寂しくて……

「ちーちゃん泣かないで」
「うん……でも寂しい」
「俺もだよ。ほら見て!俺の部屋!」

 駐在だから社宅があって、そこに住んでるんだそう。

「ほら!こんな感じ」

 ぐるりと写してくれる部屋はまぁまぁ広くて、日本とはデザインも違っておしゃれ。

「水と風呂が不満。短期ならまあと思ってたけどね。食べ物も千広のご飯が懐かしいよ」
「うん……帰ったら好きなの作ってあげる」
「楽しみにしてる」

 毎日忙しいけど、日本のような忙しさはないそうだ。現地法人だから、その国に合わせてるからって。それに、カレンダーの祝日も違う。

「有給は取りやすいかな。残業も日本よりは少ないし」
「ふーんそれはよかったね」
「だから体は元気だよ」
「ふふっいいね」
「千広がいれば抱き潰してるよ」
「あはは……」

 こんなやり取りをしながら過ごしていって一年。時々帰って来るとは言ってたけど、半年に一度くらいの里帰りって感じ。有給消化が大変らしいんだよね。ひと月分くらいあって完全消化しないと法律違反になるそうで、それを使って夏に帰って来て、あっという間に帰っちゃった気がした。

「慣れた?」
「まあ。泣き暮らすはなくなったね」
「そう」

 ゆうくんが可哀想にって。アレの場合このあたりで捨てられてたからねって。寂しくてお店に遊びに来た。

「ひろは、以前あっちにいるのが多い年があったんだよ。ほとんど日本にいないみたいな。そしたらあっという間だ」
「そりゃあ気の毒に。だけどそれで僕と出会えたからまあいいや」
「言うね。ちーちゃん、よく待てるね?」
「うん、これは僕の特技だよ」

 うへぇ……って。

「相性バッチリだね。ひろもそうだからね。アレねちこいから」
「あはは。そうだね」

 うーんと僕を眺めている。なんだよ。

「エロさが抜けてる気がする。ノンケと言われても通りそうになるのも時間の問題か」
「あはは、仕方ないよ」

 僕は近くで愛してるって言われてないと素の自分だけになるから、地味で見えなくなるんだって説明した。

「いや、そこまでじゃないけど彼女がいる普通の人っぽい」
「そう?ならここに遊びに来るのは安全かな?」

 はあ?って呆れてた。

「ボケェ!そういうのを好む人もいるから、安全なんかないよ!若いってそういうこと!」
「あはは!そっか」

 時々広翔を知る人と、広翔の話がしてくてここに来る。カミングアウトしてないから、会社では話せないしね。人事のみんなとはそつなく仲良くなった。柳瀬とは時々どうよ?って飲んだりもする。

「まあまだ長いんだ。ここに遊びに来て紛らわせばいいよ」
「そうよ。あたしたちが遊んであげるから」
「はい。ありがとうございます」

 ママもゆうたちも優しい。どうにか僕はひとりで生きていた。

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