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一章 神様はいじわるだけど
2.お友だちになろうお食事会
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ブーブー 携帯のバイブがテーブルに振動している。僕は手に取り確認。
彼とはラ◯ンも交換していたから、そちらで連絡が来た。いつ来てもいいって。
そろそろ行くかな。姿見の前でおかしくないかチェック。いつも会社帰りに会ってたから、スーツ姿しか知らないもんなあ。
「まあ、マンション内移動だからこんなもんか」
普通の今どきの格好だし、スキニーとパーカーでいいでしょ、友だちとしてお誘いなんだからおしゃれし過ぎは……ねえ。用意したお菓子を手に七階に向かった。
ピンポ~ン ガチャリとすぐにドアは開いた。
「いらっしゃい斎藤さん」
「お招きありがとうございます。これ」
僕はお土産のお菓子を差し出した。
「あ~気を使わせましたね。ありがとうございます」
「いえ、これくらいしか思いつかなくて」
「ふふっ中入って!」
「はい。お邪魔します」
彼の後ろを着いていくと部屋はいい匂いが広がっていた。リビングは僕んちの倍、カウンターキッチンの前にはダイニングテーブルセット、ソファセットが置けるくらいには広かった。
家具もそこらの安いお店のではないものばかり。色も統一されていて、シンプルだけどおしゃれ。小物もね。
「座って下さい」
「ああ、はい」
ソファの方を勧められ座ると、料理が運ばれてきた。煮豚やサラダ、唐揚げとか統一感はなかった。きっと彼の好きなものを作ったんだろう。
「すごいね。煮豚とか大変でしょう」
「いえ、圧力鍋使いますからそんなには」
朝から頑張ったであろうと品揃えだ。でも、酒のつまみふうだねぇ。
「お酒飲みますよね?」
「え、ええ」
やはり。まあ予定もないし下に帰るだけだから問題はない。彼は缶ビールを二本とグラスを運んだ。
「あの、手伝いましょうか?」
「いえ、お客さんだから座ってて下さい」
「はい」
待つ間ソワソワ居心地が悪く、緊張で死にそう。彼は全部支度すると向かいに座り、缶を開けると僕にどうぞとお酌してくれた。
「ありがとう」
グラスにビールを注いでもらい彼は手酌で。
「あ、僕が」
「いいですよ。ではカンパイ!」
「カンパイ」
何にカンパイかは分からないけど、ぐびぐび。昼から飲むお酒は美味いね。
「好きなものをどうぞ。何が好きか分からなかったので色々作りました。スーパーでは斎藤さん肉も魚も買ってたから」
「僕好き嫌いはないです」
とりあえず美味しそうな煮豚を取って一口。うまっ!ホロホロで本当に美味しい。
「料理上手なんだね。とても美味しい」
「ありがとうございます。今はネットでレシピはいくらでもありますから、食べたいのを作ってますね」
「僕も同じです」
平日は疲れるからセット物、レンジアップだけで食べられる物も買うけどね。彼はグラスを置いた。
「何から話しましょうか。まず敬語やめましょうよ。仲良くなりにくい気がしますから」
「はあ、そうですね」
じゃあここから敬語禁止ねって。楽しそうに笑う。僕は彼をきちんと見てなかったけど、イケメンだな。どこかかわいい雰囲気もあるし、女性にモテそうだ。
「俺が誘ったからまず、名前以外の自己紹介からね」
「うん」
彼は九州の方に三年ほど会社の出向で行ってて、最近帰還したそうだ。出世するには地方に行かなくちゃならない、暗黙の決まりがあるそう。戻ると役職が約束されるそうだ。
仕事は貿易関係だそう。僕も知ってる会社の名前、有名どころだ。
「親は近くにいますが、あんまり帰りませんね。盆と正月くらい。ひとりっ子なんですが、俺にあんまり興味はないようです」
「そんな事は……」
一人息子が興味ないとか、そんな事ないでしょうよ。
「ん~俺は結婚とか興味ないし、仕事も忙しいから恋人も長く続かなくて。地方にも行ったから余計ね」
「ふーん」
親が興味ない理由はサラッと流されて聞けなかった。趣味はこれといったものはなく、強いて言えば料理かなって。
「本も読むし、音楽も映画もそこそこ。何かにハマってるなんてのはないね。広く浅くかな」
「僕も似たようなもんだなあ」
次に僕も自分のことを話した。僕は地方から大学でこちらに来て就職。親は地元にいて妹が一人。すでにあちらで結婚して子供がひとりいる。
「親は僕には興味ないね。そこは同じ」
「ふーん」
料理とお酒が緊張のせいですすんでしまって、酔ってふわふわしてきた。空きっ腹は回るね。
「あのね。僕と友達になるより彼女作ったほうが建設的なんじゃないかな」
え?っと言うと困ったようになった。
「うん……そうだよね。でもそれは斎藤さんもだよね。別れたって言ってたじゃない」
「あ~……うん」
なんて言おうか。彼は友達欲しくてだろうし。彼女じゃなくて彼だとは言いづらい。
「武田さんはなぜ僕に声かけたの?」
「え?」
どうしようかと考え込んでいるように見えた。うーんと声まで出してる。
「あの、斎藤さんかわいいって……その……直球で聞くけど、ノンケじゃないよね?」
「えっと?」
僕が驚いた様子に、えっ俺間違った?どうしようってアワアワ。失礼になったよね。ごめんなさい!て。
「そのステキだなあって……声かける前からずっと見てて。見かけると近づいたり…してて…ね」
あ~ゲイだと思って近づいてきたのか。ほーん。
「それは間違ってない…です」
ほんと?よかったあ。間違ってたら嫌われるかもと苦笑いだったけど、急に真顔になった。
「好きなんです。付き合って下さい!」
「え?」
ん?聞き間違いかな?好きって聞こえたよ?恋人いなくて、心の願望でそう聞こえたのか?僕は受け止められなくて呆然としてしまった。
「好きなんです!俺はダメですか?」
ええ?ホントにそう言ってる?ならこれは僕連れ込まれてるのかな?……いや、僕なんか襲ってもねえ。
「僕は全くそんなこと考えてなくて驚いててて……」
「うん。今から考えてよ!」
「はい?」
友達のつもりで来たからえっと?つい舐めるように彼を見てしまった。
かっこいい子、うちの会社にはいないタイプで仕事も出来そうだ。スタイルもいいし、人好きのする笑顔で好みではある。でもねえ。
「なんで僕なの?」
ん?と不思議そうにした。
「恋愛に理由なんてあるの?ああステキ、こんな人が恋人だったらなあって思ったんだ。別れたばかりと言うことは、恋人いないんだろうって思ったし、今がチャンスかなって」
「ほほう」
こんなイケメンに好きと言われて嫌な気分はしない。だけどなあ、前の彼との気持ちが整理出来てないんだよね。時間と共にモヤモヤがどんどん湧いたんだ。やっぱりあんな別れ方しても好きだったんだよね。驚きで感じなかった悲しさも後から湧いてきてさ。
彼の新しい恋人との差が見た目も中身もあんまりなかったのが悔しいし、なんでだよって気持ちが拭いきれない。
「君はかっこいいし素敵だと思う。僕見た目よりウジウジするし……前の彼から母ちゃんみたいって言われたし。世話焼きってわけじゃないんだけど、言いたいこと言わなかったりするし」
なにマイナスなことしか言わねえんだよ。目の前のグラスを掴んで、残りのビールを飲み干した。
「君もすぐ飽きちゃうよ」
もういいよ。きっとチャンスなんだと思うけど、僕は小さな会社で平凡なサラリーマンだし、能力も月とスッポンだろう。すぐ違ったって言われてフラれるのも辛い。僕は彼から視線をそらして俯いた。
「斎藤さん!いや、千広さん!俺はそんな軽く見えますか?」
「……いや」
俺は地方に行くことになって、前の彼に振られたそうだ、待てないって。向こうではいい人も現れなくてひとりだったそうだ。
「女性にはモテましたが、対象外でしたので意味はなかったんです。お試しからでもいいから!ねえ!」
「うーん……」
彼は立ち上がり僕の隣に座った。
「ねえ千広さん考えてよ」
僕の顔を覗き込む。彼も酔って顔は赤くなっていて、その真剣な目が……
「うーん。また振られたらキツいんだよ僕」
「それは俺もです」
肩を掴まれねえって。積極的だね。
「俺はダメ?」
「あの……」
彼は真剣に聞いてくるけど、僕は一歩踏み出す勇気が出ないんだよ。あの時の彼らの顔が浮かんで、辛い気持ちが胸を刺激した。
「千広さん」
もう逃げたくなった。きっと彼を好きになれると思う、とても好みだもの。だからこそ僕のほうが夢中になって、前みたいに信じ切ってる時に振られるのは……悪い想像しか浮ばない。
「好きなんです。千広さん」
「でも……」
こんなに真剣なんだもの、ちゃんと言わなきゃだよね。下向いたまま声を絞り出した。
「あの……怖いんだ。振られるのが怖くて……またひとりになると思うとその、怖いんだ」
彼は約束は出来ないけど、俺からふったことは今までない。千広さんが嫌って言うまで隣にいるからって。
「あの……」
あ~こんな自分嫌い。告白されることは以前もあったよ?でもすぐ飛びついて痛い目にしか合ってないんだ。前の彼は同棲までしてからで、ダメージは大きかったし、ゆっくりと現実が押し寄せてきて心を蝕んでさ。あまりに突然言われたから、実感するまでタイムラグがあって今もグジグジしてる。
「千広さん……」
頬に手が?上に持ち上けられて、驚いて彼を見てると顔が近づいて、チュッと唇が触れた。
「え?」
「かわいくて我慢できなかった。俺のになってよ」
呆然と彼を見た。驚いてポカーンとして思考停止ぎみ。
「ぼ、僕こんなだよ?すぐ返事も出来ないんだよ?」
「うん。それは千広さんが相手にたくさん愛情をそそぐからでしょ?いいところでしょう?」
「ふえ?」
顔が近い!酔って頬赤くて色っぽいし……どうすればいいんだよ!
「あの……後悔するよ?」
何言ってんだよ!断われ僕!
「しないよ。俺は千広さんを大切にする。母ちゃんみたいなんて言わない」
「ああ、うん……」
見つめていると首に腕が回り……?ほら断われよ僕!何してるんだ!動け!
「千広さん好き」
「あ、あのね……」
んふふって。んふふってなんだよ!頭が回らん!僕は目が離せず彼を見つめていた。
「体からでもいいでしょ?俺を知ってよ」
「へ?」
ソファに押し倒されて唇が押し付けられた。何ごとぉ!どうすんのコレ!
彼とはラ◯ンも交換していたから、そちらで連絡が来た。いつ来てもいいって。
そろそろ行くかな。姿見の前でおかしくないかチェック。いつも会社帰りに会ってたから、スーツ姿しか知らないもんなあ。
「まあ、マンション内移動だからこんなもんか」
普通の今どきの格好だし、スキニーとパーカーでいいでしょ、友だちとしてお誘いなんだからおしゃれし過ぎは……ねえ。用意したお菓子を手に七階に向かった。
ピンポ~ン ガチャリとすぐにドアは開いた。
「いらっしゃい斎藤さん」
「お招きありがとうございます。これ」
僕はお土産のお菓子を差し出した。
「あ~気を使わせましたね。ありがとうございます」
「いえ、これくらいしか思いつかなくて」
「ふふっ中入って!」
「はい。お邪魔します」
彼の後ろを着いていくと部屋はいい匂いが広がっていた。リビングは僕んちの倍、カウンターキッチンの前にはダイニングテーブルセット、ソファセットが置けるくらいには広かった。
家具もそこらの安いお店のではないものばかり。色も統一されていて、シンプルだけどおしゃれ。小物もね。
「座って下さい」
「ああ、はい」
ソファの方を勧められ座ると、料理が運ばれてきた。煮豚やサラダ、唐揚げとか統一感はなかった。きっと彼の好きなものを作ったんだろう。
「すごいね。煮豚とか大変でしょう」
「いえ、圧力鍋使いますからそんなには」
朝から頑張ったであろうと品揃えだ。でも、酒のつまみふうだねぇ。
「お酒飲みますよね?」
「え、ええ」
やはり。まあ予定もないし下に帰るだけだから問題はない。彼は缶ビールを二本とグラスを運んだ。
「あの、手伝いましょうか?」
「いえ、お客さんだから座ってて下さい」
「はい」
待つ間ソワソワ居心地が悪く、緊張で死にそう。彼は全部支度すると向かいに座り、缶を開けると僕にどうぞとお酌してくれた。
「ありがとう」
グラスにビールを注いでもらい彼は手酌で。
「あ、僕が」
「いいですよ。ではカンパイ!」
「カンパイ」
何にカンパイかは分からないけど、ぐびぐび。昼から飲むお酒は美味いね。
「好きなものをどうぞ。何が好きか分からなかったので色々作りました。スーパーでは斎藤さん肉も魚も買ってたから」
「僕好き嫌いはないです」
とりあえず美味しそうな煮豚を取って一口。うまっ!ホロホロで本当に美味しい。
「料理上手なんだね。とても美味しい」
「ありがとうございます。今はネットでレシピはいくらでもありますから、食べたいのを作ってますね」
「僕も同じです」
平日は疲れるからセット物、レンジアップだけで食べられる物も買うけどね。彼はグラスを置いた。
「何から話しましょうか。まず敬語やめましょうよ。仲良くなりにくい気がしますから」
「はあ、そうですね」
じゃあここから敬語禁止ねって。楽しそうに笑う。僕は彼をきちんと見てなかったけど、イケメンだな。どこかかわいい雰囲気もあるし、女性にモテそうだ。
「俺が誘ったからまず、名前以外の自己紹介からね」
「うん」
彼は九州の方に三年ほど会社の出向で行ってて、最近帰還したそうだ。出世するには地方に行かなくちゃならない、暗黙の決まりがあるそう。戻ると役職が約束されるそうだ。
仕事は貿易関係だそう。僕も知ってる会社の名前、有名どころだ。
「親は近くにいますが、あんまり帰りませんね。盆と正月くらい。ひとりっ子なんですが、俺にあんまり興味はないようです」
「そんな事は……」
一人息子が興味ないとか、そんな事ないでしょうよ。
「ん~俺は結婚とか興味ないし、仕事も忙しいから恋人も長く続かなくて。地方にも行ったから余計ね」
「ふーん」
親が興味ない理由はサラッと流されて聞けなかった。趣味はこれといったものはなく、強いて言えば料理かなって。
「本も読むし、音楽も映画もそこそこ。何かにハマってるなんてのはないね。広く浅くかな」
「僕も似たようなもんだなあ」
次に僕も自分のことを話した。僕は地方から大学でこちらに来て就職。親は地元にいて妹が一人。すでにあちらで結婚して子供がひとりいる。
「親は僕には興味ないね。そこは同じ」
「ふーん」
料理とお酒が緊張のせいですすんでしまって、酔ってふわふわしてきた。空きっ腹は回るね。
「あのね。僕と友達になるより彼女作ったほうが建設的なんじゃないかな」
え?っと言うと困ったようになった。
「うん……そうだよね。でもそれは斎藤さんもだよね。別れたって言ってたじゃない」
「あ~……うん」
なんて言おうか。彼は友達欲しくてだろうし。彼女じゃなくて彼だとは言いづらい。
「武田さんはなぜ僕に声かけたの?」
「え?」
どうしようかと考え込んでいるように見えた。うーんと声まで出してる。
「あの、斎藤さんかわいいって……その……直球で聞くけど、ノンケじゃないよね?」
「えっと?」
僕が驚いた様子に、えっ俺間違った?どうしようってアワアワ。失礼になったよね。ごめんなさい!て。
「そのステキだなあって……声かける前からずっと見てて。見かけると近づいたり…してて…ね」
あ~ゲイだと思って近づいてきたのか。ほーん。
「それは間違ってない…です」
ほんと?よかったあ。間違ってたら嫌われるかもと苦笑いだったけど、急に真顔になった。
「好きなんです。付き合って下さい!」
「え?」
ん?聞き間違いかな?好きって聞こえたよ?恋人いなくて、心の願望でそう聞こえたのか?僕は受け止められなくて呆然としてしまった。
「好きなんです!俺はダメですか?」
ええ?ホントにそう言ってる?ならこれは僕連れ込まれてるのかな?……いや、僕なんか襲ってもねえ。
「僕は全くそんなこと考えてなくて驚いててて……」
「うん。今から考えてよ!」
「はい?」
友達のつもりで来たからえっと?つい舐めるように彼を見てしまった。
かっこいい子、うちの会社にはいないタイプで仕事も出来そうだ。スタイルもいいし、人好きのする笑顔で好みではある。でもねえ。
「なんで僕なの?」
ん?と不思議そうにした。
「恋愛に理由なんてあるの?ああステキ、こんな人が恋人だったらなあって思ったんだ。別れたばかりと言うことは、恋人いないんだろうって思ったし、今がチャンスかなって」
「ほほう」
こんなイケメンに好きと言われて嫌な気分はしない。だけどなあ、前の彼との気持ちが整理出来てないんだよね。時間と共にモヤモヤがどんどん湧いたんだ。やっぱりあんな別れ方しても好きだったんだよね。驚きで感じなかった悲しさも後から湧いてきてさ。
彼の新しい恋人との差が見た目も中身もあんまりなかったのが悔しいし、なんでだよって気持ちが拭いきれない。
「君はかっこいいし素敵だと思う。僕見た目よりウジウジするし……前の彼から母ちゃんみたいって言われたし。世話焼きってわけじゃないんだけど、言いたいこと言わなかったりするし」
なにマイナスなことしか言わねえんだよ。目の前のグラスを掴んで、残りのビールを飲み干した。
「君もすぐ飽きちゃうよ」
もういいよ。きっとチャンスなんだと思うけど、僕は小さな会社で平凡なサラリーマンだし、能力も月とスッポンだろう。すぐ違ったって言われてフラれるのも辛い。僕は彼から視線をそらして俯いた。
「斎藤さん!いや、千広さん!俺はそんな軽く見えますか?」
「……いや」
俺は地方に行くことになって、前の彼に振られたそうだ、待てないって。向こうではいい人も現れなくてひとりだったそうだ。
「女性にはモテましたが、対象外でしたので意味はなかったんです。お試しからでもいいから!ねえ!」
「うーん……」
彼は立ち上がり僕の隣に座った。
「ねえ千広さん考えてよ」
僕の顔を覗き込む。彼も酔って顔は赤くなっていて、その真剣な目が……
「うーん。また振られたらキツいんだよ僕」
「それは俺もです」
肩を掴まれねえって。積極的だね。
「俺はダメ?」
「あの……」
彼は真剣に聞いてくるけど、僕は一歩踏み出す勇気が出ないんだよ。あの時の彼らの顔が浮かんで、辛い気持ちが胸を刺激した。
「千広さん」
もう逃げたくなった。きっと彼を好きになれると思う、とても好みだもの。だからこそ僕のほうが夢中になって、前みたいに信じ切ってる時に振られるのは……悪い想像しか浮ばない。
「好きなんです。千広さん」
「でも……」
こんなに真剣なんだもの、ちゃんと言わなきゃだよね。下向いたまま声を絞り出した。
「あの……怖いんだ。振られるのが怖くて……またひとりになると思うとその、怖いんだ」
彼は約束は出来ないけど、俺からふったことは今までない。千広さんが嫌って言うまで隣にいるからって。
「あの……」
あ~こんな自分嫌い。告白されることは以前もあったよ?でもすぐ飛びついて痛い目にしか合ってないんだ。前の彼は同棲までしてからで、ダメージは大きかったし、ゆっくりと現実が押し寄せてきて心を蝕んでさ。あまりに突然言われたから、実感するまでタイムラグがあって今もグジグジしてる。
「千広さん……」
頬に手が?上に持ち上けられて、驚いて彼を見てると顔が近づいて、チュッと唇が触れた。
「え?」
「かわいくて我慢できなかった。俺のになってよ」
呆然と彼を見た。驚いてポカーンとして思考停止ぎみ。
「ぼ、僕こんなだよ?すぐ返事も出来ないんだよ?」
「うん。それは千広さんが相手にたくさん愛情をそそぐからでしょ?いいところでしょう?」
「ふえ?」
顔が近い!酔って頬赤くて色っぽいし……どうすればいいんだよ!
「あの……後悔するよ?」
何言ってんだよ!断われ僕!
「しないよ。俺は千広さんを大切にする。母ちゃんみたいなんて言わない」
「ああ、うん……」
見つめていると首に腕が回り……?ほら断われよ僕!何してるんだ!動け!
「千広さん好き」
「あ、あのね……」
んふふって。んふふってなんだよ!頭が回らん!僕は目が離せず彼を見つめていた。
「体からでもいいでしょ?俺を知ってよ」
「へ?」
ソファに押し倒されて唇が押し付けられた。何ごとぉ!どうすんのコレ!
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