上 下
3 / 35
一章 神様はいじわるだけど

2.お友だちになろうお食事会

しおりを挟む
 ブーブー 携帯のバイブがテーブルに振動している。僕は手に取り確認。

 彼とはラ◯ンも交換していたから、そちらで連絡が来た。いつ来てもいいって。
 そろそろ行くかな。姿見の前でおかしくないかチェック。いつも会社帰りに会ってたから、スーツ姿しか知らないもんなあ。

「まあ、マンション内移動だからこんなもんか」

 普通の今どきの格好だし、スキニーとパーカーでいいでしょ、友だちとしてお誘いなんだからおしゃれし過ぎは……ねえ。用意したお菓子を手に七階に向かった。

 ピンポ~ン ガチャリとすぐにドアは開いた。

「いらっしゃい斎藤さん」
「お招きありがとうございます。これ」

 僕はお土産のお菓子を差し出した。

「あ~気を使わせましたね。ありがとうございます」
「いえ、これくらいしか思いつかなくて」
「ふふっ中入って!」
「はい。お邪魔します」

 彼の後ろを着いていくと部屋はいい匂いが広がっていた。リビングは僕んちの倍、カウンターキッチンの前にはダイニングテーブルセット、ソファセットが置けるくらいには広かった。
 家具もそこらの安いお店のではないものばかり。色も統一されていて、シンプルだけどおしゃれ。小物もね。

「座って下さい」
「ああ、はい」

 ソファの方を勧められ座ると、料理が運ばれてきた。煮豚やサラダ、唐揚げとか統一感はなかった。きっと彼の好きなものを作ったんだろう。

「すごいね。煮豚とか大変でしょう」
「いえ、圧力鍋使いますからそんなには」

 朝から頑張ったであろうと品揃えだ。でも、酒のつまみふうだねぇ。

「お酒飲みますよね?」
「え、ええ」

 やはり。まあ予定もないし下に帰るだけだから問題はない。彼は缶ビールを二本とグラスを運んだ。

「あの、手伝いましょうか?」
「いえ、お客さんだから座ってて下さい」
「はい」

 待つ間ソワソワ居心地が悪く、緊張で死にそう。彼は全部支度すると向かいに座り、缶を開けると僕にどうぞとお酌してくれた。

「ありがとう」

 グラスにビールを注いでもらい彼は手酌で。

「あ、僕が」
「いいですよ。ではカンパイ!」
「カンパイ」

 何にカンパイかは分からないけど、ぐびぐび。昼から飲むお酒は美味いね。

「好きなものをどうぞ。何が好きか分からなかったので色々作りました。スーパーでは斎藤さん肉も魚も買ってたから」
「僕好き嫌いはないです」

 とりあえず美味しそうな煮豚を取って一口。うまっ!ホロホロで本当に美味しい。

「料理上手なんだね。とても美味しい」
「ありがとうございます。今はネットでレシピはいくらでもありますから、食べたいのを作ってますね」
「僕も同じです」

 平日は疲れるからセット物、レンジアップだけで食べられる物も買うけどね。彼はグラスを置いた。

「何から話しましょうか。まず敬語やめましょうよ。仲良くなりにくい気がしますから」
「はあ、そうですね」

 じゃあここから敬語禁止ねって。楽しそうに笑う。僕は彼をきちんと見てなかったけど、イケメンだな。どこかかわいい雰囲気もあるし、女性にモテそうだ。

「俺が誘ったからまず、名前以外の自己紹介からね」
「うん」

 彼は九州の方に三年ほど会社の出向で行ってて、最近帰還したそうだ。出世するには地方に行かなくちゃならない、暗黙の決まりがあるそう。戻ると役職が約束されるそうだ。
 仕事は貿易関係だそう。僕も知ってる会社の名前、有名どころだ。

「親は近くにいますが、あんまり帰りませんね。盆と正月くらい。ひとりっ子なんですが、俺にあんまり興味はないようです」
「そんな事は……」

 一人息子が興味ないとか、そんな事ないでしょうよ。

「ん~俺は結婚とか興味ないし、仕事も忙しいから恋人も長く続かなくて。地方にも行ったから余計ね」
「ふーん」

 親が興味ない理由はサラッと流されて聞けなかった。趣味はこれといったものはなく、強いて言えば料理かなって。

「本も読むし、音楽も映画もそこそこ。何かにハマってるなんてのはないね。広く浅くかな」
「僕も似たようなもんだなあ」

 次に僕も自分のことを話した。僕は地方から大学でこちらに来て就職。親は地元にいて妹が一人。すでにあちらで結婚して子供がひとりいる。

「親は僕には興味ないね。そこは同じ」
「ふーん」

 料理とお酒が緊張のせいですすんでしまって、酔ってふわふわしてきた。空きっ腹は回るね。

「あのね。僕と友達になるより彼女作ったほうが建設的なんじゃないかな」

 え?っと言うと困ったようになった。

「うん……そうだよね。でもそれは斎藤さんもだよね。別れたって言ってたじゃない」
「あ~……うん」

 なんて言おうか。彼は友達欲しくてだろうし。彼女じゃなくて彼だとは言いづらい。

「武田さんはなぜ僕に声かけたの?」
「え?」

 どうしようかと考え込んでいるように見えた。うーんと声まで出してる。

「あの、斎藤さんかわいいって……その……直球で聞くけど、ノンケじゃないよね?」
「えっと?」

 僕が驚いた様子に、えっ俺間違った?どうしようってアワアワ。失礼になったよね。ごめんなさい!て。

「そのステキだなあって……声かける前からずっと見てて。見かけると近づいたり…してて…ね」

 あ~ゲイだと思って近づいてきたのか。ほーん。

「それは間違ってない…です」

 ほんと?よかったあ。間違ってたら嫌われるかもと苦笑いだったけど、急に真顔になった。

「好きなんです。付き合って下さい!」
「え?」

 ん?聞き間違いかな?好きって聞こえたよ?恋人いなくて、心の願望でそう聞こえたのか?僕は受け止められなくて呆然としてしまった。

「好きなんです!俺はダメですか?」

 ええ?ホントにそう言ってる?ならこれは僕連れ込まれてるのかな?……いや、僕なんか襲ってもねえ。

「僕は全くそんなこと考えてなくて驚いててて……」
「うん。今から考えてよ!」
「はい?」

 友達のつもりで来たからえっと?つい舐めるように彼を見てしまった。
 かっこいい子、うちの会社にはいないタイプで仕事も出来そうだ。スタイルもいいし、人好きのする笑顔で好みではある。でもねえ。

「なんで僕なの?」

 ん?と不思議そうにした。

「恋愛に理由なんてあるの?ああステキ、こんな人が恋人だったらなあって思ったんだ。別れたばかりと言うことは、恋人いないんだろうって思ったし、今がチャンスかなって」
「ほほう」

 こんなイケメンに好きと言われて嫌な気分はしない。だけどなあ、前の彼との気持ちが整理出来てないんだよね。時間と共にモヤモヤがどんどん湧いたんだ。やっぱりあんな別れ方しても好きだったんだよね。驚きで感じなかった悲しさも後から湧いてきてさ。
 彼の新しい恋人との差が見た目も中身もあんまりなかったのが悔しいし、なんでだよって気持ちが拭いきれない。

「君はかっこいいし素敵だと思う。僕見た目よりウジウジするし……前の彼から母ちゃんみたいって言われたし。世話焼きってわけじゃないんだけど、言いたいこと言わなかったりするし」

 なにマイナスなことしか言わねえんだよ。目の前のグラスを掴んで、残りのビールを飲み干した。

「君もすぐ飽きちゃうよ」

 もういいよ。きっとチャンスなんだと思うけど、僕は小さな会社で平凡なサラリーマンだし、能力も月とスッポンだろう。すぐ違ったって言われてフラれるのも辛い。僕は彼から視線をそらして俯いた。

「斎藤さん!いや、千広さん!俺はそんな軽く見えますか?」
「……いや」

 俺は地方に行くことになって、前の彼に振られたそうだ、待てないって。向こうではいい人も現れなくてひとりだったそうだ。

「女性にはモテましたが、対象外でしたので意味はなかったんです。お試しからでもいいから!ねえ!」
「うーん……」

 彼は立ち上がり僕の隣に座った。

「ねえ千広さん考えてよ」

 僕の顔を覗き込む。彼も酔って顔は赤くなっていて、その真剣な目が……

「うーん。また振られたらキツいんだよ僕」
「それは俺もです」

 肩を掴まれねえって。積極的だね。

「俺はダメ?」
「あの……」

 彼は真剣に聞いてくるけど、僕は一歩踏み出す勇気が出ないんだよ。あの時の彼らの顔が浮かんで、辛い気持ちが胸を刺激した。

「千広さん」

 もう逃げたくなった。きっと彼を好きになれると思う、とても好みだもの。だからこそ僕のほうが夢中になって、前みたいに信じ切ってる時に振られるのは……悪い想像しか浮ばない。

「好きなんです。千広さん」
「でも……」

 こんなに真剣なんだもの、ちゃんと言わなきゃだよね。下向いたまま声を絞り出した。

「あの……怖いんだ。振られるのが怖くて……またひとりになると思うとその、怖いんだ」

 彼は約束は出来ないけど、俺からふったことは今までない。千広さんが嫌って言うまで隣にいるからって。

「あの……」

 あ~こんな自分嫌い。告白されることは以前もあったよ?でもすぐ飛びついて痛い目にしか合ってないんだ。前の彼は同棲までしてからで、ダメージは大きかったし、ゆっくりと現実が押し寄せてきて心を蝕んでさ。あまりに突然言われたから、実感するまでタイムラグがあって今もグジグジしてる。

「千広さん……」

 頬に手が?上に持ち上けられて、驚いて彼を見てると顔が近づいて、チュッと唇が触れた。

「え?」
「かわいくて我慢できなかった。俺のになってよ」

 呆然と彼を見た。驚いてポカーンとして思考停止ぎみ。

「ぼ、僕こんなだよ?すぐ返事も出来ないんだよ?」
「うん。それは千広さんが相手にたくさん愛情をそそぐからでしょ?いいところでしょう?」
「ふえ?」

 顔が近い!酔って頬赤くて色っぽいし……どうすればいいんだよ!

「あの……後悔するよ?」

 何言ってんだよ!断われ僕!

「しないよ。俺は千広さんを大切にする。母ちゃんみたいなんて言わない」
「ああ、うん……」

 見つめていると首に腕が回り……?ほら断われよ僕!何してるんだ!動け!

「千広さん好き」
「あ、あのね……」

 んふふって。んふふってなんだよ!頭が回らん!僕は目が離せず彼を見つめていた。

「体からでもいいでしょ?俺を知ってよ」
「へ?」

 ソファに押し倒されて唇が押し付けられた。何ごとぉ!どうすんのコレ!








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遊園地の帰り、車の中でおしっこが限界になってしまった成人男性は

こじらせた処女
BL
遊園地の帰り、車の中でおしっこが限界になってしまった成人男性の話

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話

こじらせた処女
BL
 網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。  ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

キスから始める恋の話

紫紺(紗子)
BL
「退屈だし、キスが下手」 ある日、僕は付き合い始めたばかりの彼女にフラれてしまった。 「仕方ないなあ。俺が教えてやるよ」 泣きついた先は大学時代の先輩。ネクタイごと胸ぐらをつかまれた僕は、長くて深いキスを食らってしまう。 その日から、先輩との微妙な距離と力関係が始まった……。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが

古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。 女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。 平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。 そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。 いや、だって、そんなことある? あぶれたモブの運命が過酷すぎん? ――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――! BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。

処理中です...