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一章 神様はいじわるだけど

1.人見知りの僕に何が起きた?

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 週末行きつけのショットバーで飲んで、ほろ酔いで駅に向かった。こんな時ってカップルがやたら目について余計辛くなるんだよね。この間まで気にもしてなかったのにさ。
 駅の近くは人が多いなあ。週末だしみんな楽しそうだね。さらに惨めな気分になってしまった。ふらふらと人を避けて歩いて、喉が乾いたから自販機で水買って近くの公園、ビルの公開空地だけどそのベンチに座った。

「はあ……あはは。ひとりってこんなだったっけか」

 誰も待っていない部屋。1LDKの部屋なのにとても広く感じた。あんなクズでもいれば楽しかったんだなって……くうっ視界が滲んで、僕思ったより打たれ弱いなあ。
 こんな事何度もあったじゃないか、なんで次があるさって思えないんだろう。あ~いやだ。ここにずっといても仕方ないから立ち上がり、うーんと背伸びして駅に向かって歩き出した。

 翌日からも代わり映えしない毎日。仕事して部屋に帰って一人分の御飯作って食べて。僕はひとりだとなんにも出来なくなっていた。

「僕このまま外回り行って直帰するから、後はよろしく」
「はい!お疲れ様でした」

 メンテに呼ばれた会社に行ってそのまま帰宅。いつものスーパーで肉とか魚とか眺めていた。寒くなってきたし鍋とかいいよねぇ……うっ、一人で鍋とかどんなだよ。思い出して寂しさに拍車をかけるでしょ。
 でも鍋セットシール貼ってあって安いし、これでいいやって掴もうとしたら誰かの手。驚いて反射で引っ込めた。

「あっごめんなさい」
「い、いえこちらこそ。俺はこっちにしますから」

 顔を上げるとステキな笑顔のサラリーマン。

「あの、いつもこの時間いますよね」
「え?」

 アワアワとごめんなさい。最近良く見かけるなあって思って。別に何かしようとかではないですでは!といなくなった。はあ、何だったの?

「でも僕結構ここ来てるよねぇ」

 まあいいやと鍋セットを手に取りカゴへ。朝のパンとか諸々買って外に出ると、先程の彼がいた。

「あの!さっきはごめんなさい」
「ああ、気にしてませんよ」

 そっか良かったと微笑んだ。不躾に話しかけたから、不審者と思われたらどうしようと思ったそうだ。

「最近この辺に引っ越してきて、僕土地勘なくてこの店しか来てないんです。だから見かけてもおかしくないんですよ」
「そうなんですか。俺もこの辺です。自炊好きでここはよく来るんです」
「へえ」

 言葉に詰まった。後なに話すの?

「あの、失礼します」
「あ、はい」

 なんかよく分かんない展開だった。引っ越してから、会社の人以外と始めて喋った気がする。うーん、そろそろこの辺の店も開拓するか。僕ゲイバーとか苦手だし、居酒屋とか近所のおじさんが来るようなバーとか。友達くらい出来るかもしれないしなあ。

 大通りを抜けて、途中の路地に入り少し歩くと僕のマンション。築浅なのにお家賃安め、会社には少し遠いけど気に入ってはいる。
 エレベーターのボタンを押して待っていると、

「あっ」

 声に後ろを振り返ると先程の彼。

「同じマンションでしたか」
「はあ……」

 なんなの。かれこれ数ヶ月は住んでるけど彼に会ったことなかったよ?

「何階ですか」

 エレベーターに乗り込み彼は聞いてきた。

「五階です……」
「俺は七階、二週間前にここに越して来たんです」
「へえ」

 知らなくて当たり前か。エレベーターがいやにゆっくりに感じたけど、五階に付いて降りた。

「では失礼します」
「はい……」

 ドアが閉まり上に上がったのを確認、自分の部屋に向かった。七階、最上階だね。僕と歳は変わらないくらいに見えたから、いいところにお勤めなんだろう。上は広い部屋だったって気がするから。

 そんなことがあったことも忘れた頃、スーパーでまた彼に会った。いや、同じマンションなんだから会うか。

「こんばんは」

 ニコニコと彼が声を掛けてきた。

「こんばんは……」

 知らない人はブロックする心のカギ発動。でも彼はニコニコ楽しそうに話しかけてくる。

「今日は何にするんですか?」
「はあ、今日はお肉にしようかと」
「そうですか。俺もそうしよっかな」

 一緒に肉売り場に移動した。なんでだよ。

「このお肉いいなあ」
「そうですね」

 たっか!ブランド牛かよ!僕は無理!普段食べる値段じゃない。僕はサッと輸入牛のパックを掴んで会計に急いだ。
 そして逃げるように部屋に帰ろうとしたけど、エレベーターが来ねぇ!!早く来い!ボタン連打してガチャガチャ

「ああ、よかった追いついた!」
「うっ」

 手をサッと引いた。僕、営業はしてるけど知らない人と話すの苦手なんだよ。

「なんで先に行くんですか。同じマンションなんだから一緒に帰りましょうよ」
「はあ……でもあなたと友だちでもないですし」
「ああ、そうでした」

 ふふっと微笑む声がした。僕は彼を見ないようにドアを真っ直ぐ見ている。

「なら友達になってもらえませんか?」
「え?」

 振り返ると少し困ったような顔をしていた。

「俺こっちに戻って来たばっかりで、この辺に友達いないんですよ。ぜひ」

 エレベーターが来てふたりで乗り込んだ。いたたまれない気持ちと空気。買い物袋はガサガサ音を立ててる。

「ダメですか?」
「いえ、ダメではないですけど……僕つまんないですよ」
「そんな事は仲良くしてみなきゃ分かりません」
「はあ……」

 五階に着いて降りたら彼も降りた。なんで?

「あの、ここ五階ですが?」
「友達になって下さい」

 どうしようかなあ。僕別れたダメージが今ジワジワ来てて、メンタルだだ落ちなんだけど。新しい交友関係増やすにはまだ気分が乗らない。

「僕恋人と別れたばかりでテンション低めですよ?」

 知らない人にはなんでも言えるような気がしてぶっちゃけた。

「あらそれは……なら友達がいれば気持ちが紛れますよ!」
「そうかな」

 ひとりでいると頭の中でグルグルするのは確かだけどさ。

「ええ!俺は武田広翔たけだひろとと言います。二十七です」

 おお、一つ下か。

「僕は斎藤千広さいとうちひろと申します。二十八です」
「そっか。同い年になるのかな。俺は今年二十八になるんです」
「あ~僕はもうすぐ九になるから一つ上だね」
「そっか。斎藤さん週末暇ですか?」
「ええ、いつでも暇ですね」

 俺もですよって。土曜にうちに来ませんかってお誘い。はあ?暇だけど展開早いね。

「なんで?」
「お昼御飯一緒に食べませんか?俺作りますから。お友だちになるにはたくさん話さなきゃ」
「あ~でも大変じゃないですか?外でもいいですよ」

 時間制限あるのは嫌だから、俺の部屋にしましょうって。

「せっかく同じマンションだし、人のために作るって楽しいじゃないですか!」
「まあ……」

 胸がズキンとした。もう半年近く人のために作ってはいなかったのを思い出して。

「斎藤さん、電話番号教えて?」
「あ、はい」

 番号を交換すると彼は帰っていった。まあね、住所バレてて今更番号なんてどうでもいい。
 土曜かあ。なんかお菓子でも買っておこうかな。手ぶらはさすがに社会人として如何なものだよね。

 そしてあっという間に週末になった。








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