ガーベラ

一条 瑠樹

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幸せな2人

Gerbera10話 一片の光心の傷

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Gerbera 10話       一片の光 心の傷

                                   一条 瑠樹

彼は眼を開けた…


涙ぐむ2人…
そして泣き崩れながら…震えながら…少し報われた気持ちになりながら…母親は喜びのナースコールを思い切りおした…



彼は深い眠りにから覚めた。



まるで冬眠から覚めて来たような
冬を越して覚めた様にこちらを観ている…
まるで冷たい山の山頂から急に暖かい山小屋の中に運ばれて来た遭難者の如くに…
女手2人がどれだけ看病と云う暗闇を踠き苦しんで心を心配と不安で苛まれたかも解る筈もない…
言うまでもなく看病と云う裏方に徹しその陰で金策に走りろくろく湯船にも漬からず些細な笑いを楽しむことも…知りはしない…



長い哀しみを束の間と思えた事が今は彼女と母親の中で一番幸いな瞬間なのだから…



この日を何ヶ月も待ってもしかしたらこんな日が来ないかもしれないと何時も心の奥底で感じては朝を迎え…夜は互いに孤独に苛まれていたのだし…



しかし、あの事故の当事者の汚い八重歯をむき出しにして笑うあの中年の女の顔が少し彼女の頭の中でよぎるが今はリベンジしてやろうと言う気持ちは忘れていた。



ナースコールを鳴らして看護士が来てもう病院を後にした筈の女医が暫くしてから白衣も身に付けないで小走りで病室のドアを開けて様子を調べる…
その時また彼は少し眠りに入っていた…手術の甲斐もあったことを女医が1番悟っていた。



少し出て来ますと母親が病室を出た。



何時もお参りに行くらしい神社に手を合わせるためだ…お願い事の御礼に行きたいらしい…
置き去りにしていた花瓶のガーベラの花は彼女が彼の病室の小机にそっと置いて母親が病室を後にしたあと彼からの反応が無いかを伺いながら生き生きと咲くこの花に女の子らしい期待をかけてまた女医が彼を観ている後ろに身を置き縮こまりながら彼の髪の毛の辺りを見つめていた…窓の外は晴天の空と少し緩めの風がさしこみ遠くの方に見えるビルの谷間から旅客機が上に向かって飛んで行くのが見えた…



その頃母親は神社にまた彼の回復祈願の為に小さな手を合わして信心深い御礼をする為にありがとうございますの入り口で唇を濯ぎ境内に脚を踏み入れた…



肌を刺す冷たい風も無く鳥居の奥は凛としている…
母親は手を合わせたら御守りを買ってその足ですぐ病院へと歩みを進めた…



病院ではまだ話まで出来ない彼が眼を開けたり閉じたりしている中話しかける彼女の姿があった…



暫くの間また寝たり起きたりの繰り返しだが付き添い陣2人の指揮は高まったのは言うまでも無いだろう…



彼がまた2、3時間寝てる…
そして眼を覚ました…



「みんなありがとう…あのあとどうなった…convenience storeの近くで僕は車に体当たりされたんだろ…君は大丈夫だったの?」


「貴方は生きてるわお母さんの息子だもん、意識が戻って良かったわね…」


彼に事の説明をしていた…彼女は後ろから頭を下にしたまま涙を流して…思い出したくも無いのだろう…


母親の説明を聞いてまた彼は点滴を打ってる間に浅い眠りにから深い眠りについた…



彼の横にある黄色いガーベラも彼に寄り添いたいと言わんばかりに彼を見守っているのだろうか…




彼は言った…




「ねぇ母さん僕はなんて幸せなんだろう。ねぇ母さんあの頃にくらべたら僕はなんて幸せなんだろう…今は僕に何か困った事があれば母さんも彼女もいてくれるんだよね…」



その通りだった…彼はどんな目に遭ったとしても今は幸せだと思うだろう…



彼は幼い頃彼の両親の離婚後に父親に引き取られた。
母親は彼を何度も何度も引き取りに行ったが裁判には至らず彼を手放す事になった…
父親の事業が失敗したのは仕方がない彼の父親は彼の母親の実家から無理から独立して母親の両親や母親の兄弟からもかなり優遇されてるにも関わらず我儘をやり過ぎてしまいには会社の金銭を横領してまで家族はほったらかしで遊び三昧やらかしていたのだから…



両親の離婚後に父親に引き取られた彼はろくろく小学校にも行かしてもらえなかった日があったり酒に溺れた父親に顔を殴られたくらいならまだ良かった…
「ねぇパパ…僕勉強好きじゃないけどノート買いたいんだよそれと学校へ行きたいんだ…算数と国語は友達に置いていかれるよ…大好きな作文を書きたいんだよ、お願い明日からパパ学校へいかせて、僕超合金のオモチャとかあれ欲しいこれ欲しいって言わないから鉛筆を買ってね、もうあまり残りが無いんだよね~お願いオヤツも我慢するから…」


それから父親の暴力が始まった…決して他人から見えないように…
成績の良いクラスでも幼いのに謙虚な彼への嫌がらせが始まったのだ…



「お前は鼻に付く奴だなぁ~お前は俺に逆らう眼をしてるなぁ…この糞ガキが!」



子供相手にこのアル中の父親は嫌がらせを開始し始めた…




夜になったら金属バットで彼の周りを素振りして見せて顔を素手で殴ったりタバコの火を彼の服の上から揉み消したり熱さに転げ回る子供を尻目に…
泣きわめく子供を真冬に水風呂へ突っ込み熱を出させたり…




「嬉しいか…糞ガキ…悲しいか糞ガキお前なんて俺の子供じゃない…あの女の腐った血がお前に遺伝してんだよ…悲しいか糞ガキ苦しんでるのは俺の方なんだよ…お前は俺に一生跪いてろ跪坐くんだよ!!」





2年間彼はろくろく小学校にも行かしてもらえなかった…毎日酒を買いに行く…毎日殴られる蹴られる…クライマックスはタバコの火を押し付けられる…
でも当時幼い彼は彼ながらにこれで母親が幸せならば…これで僕が父親に逆らわなければすべて母親に迷惑はかからないんだと…信じていた…父親の暴力は毎日益々、エスカレートして行く一方だ…




幼い彼がある日学校に登校した…
事態は急変したのだ…学校の教師が直ぐに彼がおかしい事や保健室で彼の身体検査をした事…彼が何日も風呂に入ってない事…48箇所も火傷の痕がある事などを挙げて全てが幼児虐待である事を確認…
……


父親は警察へ…母親が彼を迎えに来て転校させて彼が大学に入るまでの間同居していたのだ…



そんな哀しい過去が彼と母親に過ぎった……



現在あの父親は何をしているのだろう…


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