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イベントストーリー【温泉ミステリー編】
06:ヒストリア王子と似ている『世界のどこかの彼の兄』
しおりを挟む世の中には、似ている人が3人いると言われており、中には宇宙のどこか遠い場所、時空のどこか遠い場所にいる場合もあるらしい。つまり、僕ヒストリアとそっくりな人間が弟のアルサル以外にも、この世界のどこかにもう1人くらいいるかも知れないということだ。
地球とこの異世界も、ところどころ似た部分があると言われている。まったく別の場所にいるはずなのに、遠い場所と全く似た景色ということもあるんだとか。
この魔法国家ゼルドガイアではあまり食べられない東の都の料理『すき焼き』を食べて、浮かれてしまったのか。二十歳を超えた嬉しさで飲んだお酒でうとうとしてしまった僕は、シャワーを浴びて髪を乾かすと管理の館の一室でスヤスヤと眠ってしまった。
おそらくこの夢は、僕ヒストリアと似た誰かの記憶の夢だろう。週末には家族水入らずで温泉に行くのだから、体調を整えなくてはいけない。よく眠らないと……。
* * *
僕によく似た地球の『彼』には、腹違いの弟がいて弟さんの名前は『朝田有去(アサダユキ)』というようだ。一応、賢者という職業に就いているから漢字と呼ばれる文字も多少は分かるが『有去・アルサルと書いてユキと読む』らしい。僕の弟の名前もアルサルだから、さらに既視感が沸く。
両親が離婚してしまい身寄りがなくなった頃の有去(ユキ)君は、まだ高校生だったこともあり身体も華奢でいわゆる少年めいた容姿だった。
不憫に思ったユキ君の腹違いのお兄さんは、ユキ君が高校を中退しないように学費を支払い住まいを手配して、さらに大学進学から塾の費用まで全て面倒をみることにした。どうして、接点がこれまでなかった弟の面倒をみたくなったのかは他人の僕には分からない。だけど、お兄さんには婚約者がいたが可哀想なことに死別をしてしまい、孤独感が激しかったのだと思われる。
絶望の淵から立ち上がるためには、自分が頼られる存在となり誰かのために働いて責任感を持ちたかったのだ。結果として、弟を幸せに出来るならそれで良いと感じていたようだ。しばらくして、『東京』と呼ばれる都会の大学へ進学を志すことにした有去(ユキ)君は、とあるお家で下宿することになった。そこで出会ったのが、下宿先のひとり娘の紗奈子ちゃんだ。
「よろしくね、有去(ユキ)君」
「おっおう……よろしく。えっと……紗奈子ちゃん?」
有去(ユキ)君はお約束の展開で三歳年下の紗奈子ちゃんに恋をしてしまう。中学生と高校生の成長速度には差があり、可愛かった有去(ユキ)君はわずか1年ほどで高身長の大人びたイケメンへと成長した。だから、出会った頃はお似合いに見えていた有去(ユキ)君と紗奈子ちゃんの2人は……なんだか大人と子供のような容姿のカップルになってしまった。
だが、2人の心はすでにぴったりと結ばれており、あとは紗奈子ちゃんが大人の女性になるのを待って結婚するだけとなるのだった。
僕に似た彼は、有去(ユキ)君が二十歳を過ぎた頃……大きくなったら連れていきたいと思っていた温泉旅館へと誘った。兄弟らしく家族らしく思い出づくりをしたかっただけだが、普通の温泉に男2人兄弟で行くのも妙かなと思い最も辿り着くのが大変そうなサバイバルな秘境の温泉を選ぶ。これなら行くだけでも大変だし、弟と2人でも不思議に思われないだろう……と。
お稲荷様が作ったという昔話も日本の伝統で気になるし、白人とのハーフである彼は和のロマンが結構好きなのだ。
初めて男同士の裸の付き合い……いわゆる温泉に入ると、弟はすっかり大人になっていた。身体が大きくなっただけではなく、女性とお付き合いして中身もいろいろ変わったのだろう。
(最近まで子供だったのに、たった三年で大人になったな。あっという間に結婚か……いや、そっちの方が気が楽かな? 保護者ヅラ出来ていたのもたったの三年だったけど。まぁいいや)
僕に似た彼は弟のあっという間の成長を嬉しさ半分、寂しさ半分で見守る。温泉は身体に心地よく、魂をも浄化してくれるようだった。
「ところで、やっぱりユキ君の彼女は下宿先の紗奈子ちゃんという子なのかな?」
「えっとぉ……」
しどろもどろになりながらも、有去(ユキ)君は、紗奈子ちゃんの写真をお兄さんに見せることを決意。途中、お稲荷様のお社を館内の中庭で発見して喜んで参拝。手持ちは缶ビールと小銭しかったが、気持ちだけでもと思いお祈りしてきた。
部屋に戻り、有去(ユキ)君がガサゴソとカバンからスマホを取り出す姿を見つめる。紗奈子ちゃんとは一体どんな女の子なのかと、ワクワクしながら弟の恋人の写真を待つ。
「はい、兄貴。この子が紗奈子だよ……見た目は子供っぽいけど、オレとは三歳しか変わらないからな」
「はいはいっ」
(子供っぽいという話だけど、よく考えてみたら弟もそれくらいの年までは見るからに少年だった。紗奈子ちゃんも、あと少しで大人になるだろう)
だが、紗奈子ちゃんの顔を見て別の意味で彼の時間が一瞬止まる。確かに幼い少女であるが……そっくりなのだ。彼の死に別れた恋人……ガーネットに。
『どうして、この子はガーネットに似ているんだ?』
* * *
あまりの夢の展開にヒストリアは真夜中にフッ……と目を覚ます。僕と似た別の彼は、因縁まで僕と似ているらしい。僕自身ではないけれど、僕と似た境遇の彼にとても興味が湧いてしまう。
「もしかしたら……例の温泉に行けば、いくつか秘密が分かるかも」
異世界の源泉と通じているという秘境の温泉に期待と不安が入り混じりながら、ヒストリアは再び眠りの世界へと誘われるのであった。
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