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イベントストーリー【温泉ミステリー編】

03:旅行の計画を立てながら、すき焼きをしよう!

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 夕日が沈み切る前に、無事ブランローズ邸の魔法庭園管理の館に到着。駐車スペースに車を停めて、食材を館まで運ぶ。

「ふぅ……車で揺られて20分くらいかな? 無事に、アルサルが借りている館についたね。さてと、さっそくすき焼きの準備をしなきゃっ! 今夜は特別に僕が異世界の料理本で仕入れた『カントー風すき焼き』を作るから楽しみにしててっ」
「えっ……もしかして、ヒストリア王子って料理が得意なの?」

 紗奈子は王子様であるヒストリアが自ら包丁を握るとは思わなかったのか、驚いて目をまん丸くしている。

「うん! こう見えても、魔導師達を統括するギルドのマスターだから。サバイバルな現場でも食べやすい鍋料理はぼくの十八番なんだよ。紗奈子にも満足してもらえると思うから。シメの料理までひと工夫して、楽しもうね。そうそう、人参を紅葉型に出来るアイテムを買ったから、見た目も綺麗になるよ」

 アルサルからすると、あまり料理が得意でない紗奈子に自分の料理テクを見せつけて好感度を稼ぐつもりだったのに。何故か、兄ヒストリアの好感度がグングン上がっている気がする。なんだよ、人参が紅葉型になるアイテムって……と用意周到な兄に舌打ちしたい気持ちを紗奈子の手前グッと堪える。

「すごーい、紅葉型なんて秋を満喫出来そう。楽しみだね、アルサル」
「えっっ? あ、ああうん。そうだな、紅葉なんて風流だよな」

 適当に話を合わせて相槌を打ちつつ、手を清潔に洗って料理開始。と言っても殆どはエプロン装備のヒストリア王子が「僕に任せてくれたまえっ」と言った感じでテキパキと準備を進めてしまう。

 さて、異世界から仕入れた料理本のカントー風すき焼きをヒストリア王子が自己流にアレンジしたバージョンは以下のレシピだ。ちなみに、参加人数は3人であるがお代わりを想定して4人分で食材は用意。


『カントー風すき焼き・ヒストリア王子アレンジ』
(材料)
 高級黒毛ビーフ 
 白長ネギ
 白滝のリボン結び
 しいたけ(お星様の切り込み付き)
 えのき茸
 ぶなしめじ
 ブランローズ邸菜園コーナーの春菊
 可愛い紅葉型・人参(ヒストリア王子がカット)
 東の都特製豪華伝統・焼き木綿豆腐
 王家御用達牛脂
 錬金割りした(アルサルお手製)
 ヒストリア王子の愛情

(その他)
 烏骨鶏の生卵
 シメ用のおうどんセット
 東の都産ブランド米で炊いた白米
 ノンアルコールドリンク各種
 高級メーカー『ボーゲンドッシュ』のキャラメルアイス
 

「肝心の割りしたは、アルサルが錬金したものになったけど、まぁいいや。では、家族水入らずのすき焼きパーティーを祝ってカンパーイ」
「カンパーイ」
「カンパーイ!」

 前世では成人済みのアルサルこと朝田先生からすると、このメニューならビールの一杯でも飲みたかった。だが、現在アルサルの肉体年齢はギリギリ10代なのでドリンクはノンアルコールだ。グツグツと煮込まれていく、すき焼き鍋はそろそろいい頃合いだろう。では早速……と、この館を借りている家主アルサルが取り箸を伸ばす。

「へぇ……結構いい感じに煮えてきたなぁ。どれどれ……そろそろ……」
「アルサル、ストップっっっ」

 アルサルが早速お肉に手を出そうとするが、ヒストリアがまだ早いと言わんばかりに手を止める。そして、お皿にささっと1番良さそうなお肉と野菜を取り、紗奈子へ手渡す。

「わぁ! こんなに美味しそうなところばかり、貰っちゃっていいの?」
「もちろん、すき焼きパーティーはレディファーストじゃなきゃね。どっかの亭主関白と違って、僕はいつでも紗奈子が最優先だよ」

(亭主関白だと……っ! しまった、ついクセで)

「ん~。程よく煮込まれた柔らかお肉と、濃厚な生卵のマリアージュっ。ネギも食べやすいし、豆腐もトロプル……」

 溶き卵をくるくると混ぜ合わせて美味しそうに食べ始めた紗奈子は、いつも以上にご機嫌だ。アルサルは、紗奈子との同棲生活を始めてすぐに亭主関白モードに入ってしまったため、以前ほどは気が回らなくなっていた。

 勝ったと言わんばかりの勝ち誇った瞳で、一瞬だけアルサルを横目で見た後、ヒストリアは思い出したように冷蔵庫へ。すぐに戻ってきたヒストリアが手にしていた缶は、誰がどう見てもアルサルが欲してやまない『ビール』だった。

 プシュッ! 小気味好い音を立てて、缶を開けて『トプトプ……』とコップに黄金色のビールを注ぎ……グイッと飲み干すヒストリア。

「はぁ……ひと仕事終えた後の一杯は格別だね。あぁそういえば言ってなかったけど、タイムリープから解放されたお陰でようやく二十歳を迎えることが出来たんだ。ついに、ビール、ワイン、異世界日本酒、ウィスキー、ドンペリなどが解禁されるよ。長かった……」
「えっ……じゃあ今日は、ヒストリア王子がようやく二十歳の誕生日を迎えられた記念すべき『すき焼きパーティー』ねっ。おめでとう!」
「ふふっありがとう紗奈子。おや、アルサルはおめでとうって言ってくれないのかい?」
「えっ……いや、おめでとう」

 気がつけば、『アルサルと紗奈子のラブラブすき焼きパーティー』の予定が、『ヒストリア王子の二十歳おめでとう記念すき焼きパーティー』へと変更されていた。そもそも、すき焼きを食べながら温泉旅行の計画を立てるのが本来の話の筋なのでは? だが、ヒストリアとて馬鹿ではないので、きちんと本題は覚えている様子。

「さてと、食べながらでいいから聞いてほしい。単刀直入に言うと君達が当てた温泉旅行の行き先は、普通の観光地ではなく秘境と呼ばれる超危険区域だ。でも、その地域のモンスターを特定数討伐すれば『東の都』への通行手形が手に入る」
「えっ……本当に? 東の都なんて、かなり高レベルの腕がないといけない区域だと思ってたけど」

 大賢者でギルドマスターという魔力強者のヒストリア王子がわざわざ付き添いするのだ。何か裏があると思っていると、やはり温泉地はハイランクバトル地域みたいだ。

「ふっ……だからさ、覚悟を決めて挑んでほしい。東の都への通行手形が手に入るかも知れない『秘境の温泉あやかしバトルクエスト』を……ねっ」

 東の都への通行手形を巡る温泉旅行の計画改め、攻略会議が今始まる!
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