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第1章
第10話 前世の推しキャラ、現る!
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「うーん! たくさん歩いて疲れてたせいか、よく寝たっ。ええと、アルサルは……」
「オハヨウゴザイマス、オジョウサマ。サァ、ハリキッテ今日モ参リマセウ」
爽やかに朝が始まると思いきや。目の下に激しいクマが発生しているアルサルが、床に転がっているのを目撃して、思わず悲鳴をあげる。
「きゃああっ! 何よ、そのクマ! せっかくの庭師系イケメンが台無しじゃないっ。まさか、本当にヒストリア王子の闇魔法で……いや、そんなハズないか」
「ええ、そんなハズは無いのデスが。女性ト2人っきりで一夜を過ごすのはハジメテでして。ピュアボーイには、拷問に近イ試練デスタ。ところで、褒め言葉にしても庭師系イケメンって謎の用語デスネ」
庭師アルサル十八歳――大人っぽい容姿で遊んでいるのかと思いきや、自己申告が本当なら女性関係は地味な模様。というか、とてもピュアな人のようだ。
「えっと……庭師って、古典小説でもチャラ男っぽい役どころで現れて、女の人と恋愛しているイメージだったけど。人は見かけによらないのね。ごめんなさい……てっきり遊び人だと思っていたわ」
これまで職業と容姿だけで、偏見の目で見ていて申し訳ない気持ちに陥る。けれど、乙女ゲームのイケメンキャラは比較的プレイボーイが多い気ので、そういうイメージでも仕方がないだろう。
むしろ、プレイボーイを自慢するキャラの方が多い気がする。随分とレアなキャラ設定である。
「ハァ、ヨク言われますが。実はオレには女に接触すると、ヒストリア王子から未知の呪いがかかる仕組みデシテ。『オマエに子供が出来ても、僕は支援出来ないから』とかなんとか。未然に女性とのトラブルが防がれているのデス。別に、バカ兄貴のことなんか頼って居ナイのに」
バカ兄貴? まるでヒストリア王子がアルサルの兄のような言い方だが。はて?
「そう。随分と不思議な呪いが、かかっているのね。大丈夫よ、きっとそのうち呪いは解けるから」
私が着替えている間は、アルサルは廊下に出て待機してくれている。昨日の夜、宿に設置されているコインランドリーで洗濯したお陰で、剣士服は清潔な香り。
いろいろ工夫をして身支度を済ませて朝食を摂り、再び旅が再開された。
* * *
「修行とはいえ歩くのも疲れますし、今日中には『香久夜御殿』に辿り着きたいものですね」
「そういえば、アルサルって起きたては具合悪そうだったけど、復活できて良かったわね」
いつの間にか、元どおりのイケメン庭師に戻っていたアルサル。実は、彼が突然元気になったのには、理由があるようだ。
「ええ、錬金術で栄養ポーションを作ってクマを治したんです。異国のドリンクで『アオジル』っていうんですけど。すっっごく苦いんですよ。もし、いざとなったらお嬢様の分もお作りしますけど。あぁ! 何かと配合すれば、飲みやすくなると思うんですけどねぇ」
意外なことに、彼の錬金術ポーションの1つは有名な『青汁』だった。そういえば、朝シェーカーでカシャカシャして、飲んでいた気がする。まさか、あのカシャカシャが錬金術とか言わないよね。
でも、びっくりするくらいクマが消えているし、やっぱり普通の青汁とは違うのかしら?
「え、ええ。ありがとう……。フルーツ味とかいいんじゃないかしら? ん……あぁっ! ねえ、見て……もしかして、あの目の前にいるのって!」
「プルルーン! ぼく、悪いモンスターだよぉ~」
ぽいんぽいんと、水まんじゅうのような飛び跳ねる生き物が、丘へとのぼる道を占拠していた。色はピンク色で可愛らしい見た目だが、自分で悪いモンスターだと申告しているし……もしかして敵?
「しまった! 実は、ここまでの道のりは『魔除けの聖水』を振りまきながら来ていたんですが。このエリアからは、聖水は無効みたいですね。相手は雑魚だし、やっちゃいましょう!」
「よ、よし! 初バトルよね。見習い剣士ガーネット、行きますっ。はぁああああっ!」
スカッ!
ガーネットの攻撃はミスった!
プルピンクに、ゼロダメージ。
「プルルーン! そんな太刀筋じゃ当たらないプル~。女の子は、おうちでお裁縫でもしてればいいのプル」
雑魚モンスターのプルピンクは、どこからどう見ても初心者剣士ガーネットのことなんか、まるっきり相手にしていない。
「うぅ! 雑魚にバカにされた……やっぱり、レベル1未満の見習いじゃ、ダメなの?」
「プル? もう1人の男の方は見たことあるプル。はっ……まさか、オマエは超極悪非道の闇賢者ヒストリアの手下の1人! ここで会ったが百年目プルッ。親分様を呼んで、ギタギタにするプル~」
プルプルとモンスターっぽい鳴き声で、周囲に何かを呼びかける。もしかして、あれが『仲間を呼ぶ』という技だろうか。
「オレはヒストリアの手下じゃねーよ。マズイ、あいつ自体は弱いけど親分を呼ばれたら……。お嬢様、下がって居てください!」
手に小さなロッドを握り、応戦体制に入るアルサル。どうやら、庭師、錬金術師と言いつつ魔法を嗜んでいるようだ。まぁこの国は魔法国家だし、剣士の方が貴重なのだから。
「グゥうう。よぉ~兄ちゃん。今日は、いつものお仲間と一緒じゃないなぁ。その弱そうな女を庇いながら、どこまでヤレるか」
けれど、プルピンクに呼ばれた親分モンスターは、いわゆるオーク。しかも鎧などもフル装備。どう見ても物理攻撃で戦わなきゃいけないモンスターである。さらに、弱そうな私のことをターゲットにするっぽい?
「グォオオオオオオ!」
激しい雄叫びが辺りに鳴り響いて、思わず立ちすくんでしまう。アルサルは、私を守るので多分精一杯。
せっかく断罪ルートを回避出来たのに、ここまでか……。
ザシュッッッ!
「ぐ、はぁああ」
一瞬で、何かが斬られた音がして思わず目を瞑ってしまう。どうしよう、アルサルが……アルサルが。
「まったく、見てられんな! アルサル手加減なんかしないで、もっと強力な魔法を使えばいいものを。まぁガーネット様を守る方を優先したか……」
ふと、聞こえてきた低いトーンの男性の声にゆっくりと目を開ける。さっきの声は、前世の私『早乙女紗奈子』時代にさんざん毎日のように聴き惚れていた声だ。
緩やかに揺れる銀色の髪、切れ長の金色の眼、間違いない、あの人は……!
「騎士団長、エルファムさんっ?」
「ご無事で何より、ガーネット嬢。ここからは、このエルファムも同行させていただきます」
そう、私とアルサルの危機を救ったのは、前世で夢中になっていたいわゆる『推しキャラ・騎士団長エルファム』その人だったのである。
「オハヨウゴザイマス、オジョウサマ。サァ、ハリキッテ今日モ参リマセウ」
爽やかに朝が始まると思いきや。目の下に激しいクマが発生しているアルサルが、床に転がっているのを目撃して、思わず悲鳴をあげる。
「きゃああっ! 何よ、そのクマ! せっかくの庭師系イケメンが台無しじゃないっ。まさか、本当にヒストリア王子の闇魔法で……いや、そんなハズないか」
「ええ、そんなハズは無いのデスが。女性ト2人っきりで一夜を過ごすのはハジメテでして。ピュアボーイには、拷問に近イ試練デスタ。ところで、褒め言葉にしても庭師系イケメンって謎の用語デスネ」
庭師アルサル十八歳――大人っぽい容姿で遊んでいるのかと思いきや、自己申告が本当なら女性関係は地味な模様。というか、とてもピュアな人のようだ。
「えっと……庭師って、古典小説でもチャラ男っぽい役どころで現れて、女の人と恋愛しているイメージだったけど。人は見かけによらないのね。ごめんなさい……てっきり遊び人だと思っていたわ」
これまで職業と容姿だけで、偏見の目で見ていて申し訳ない気持ちに陥る。けれど、乙女ゲームのイケメンキャラは比較的プレイボーイが多い気ので、そういうイメージでも仕方がないだろう。
むしろ、プレイボーイを自慢するキャラの方が多い気がする。随分とレアなキャラ設定である。
「ハァ、ヨク言われますが。実はオレには女に接触すると、ヒストリア王子から未知の呪いがかかる仕組みデシテ。『オマエに子供が出来ても、僕は支援出来ないから』とかなんとか。未然に女性とのトラブルが防がれているのデス。別に、バカ兄貴のことなんか頼って居ナイのに」
バカ兄貴? まるでヒストリア王子がアルサルの兄のような言い方だが。はて?
「そう。随分と不思議な呪いが、かかっているのね。大丈夫よ、きっとそのうち呪いは解けるから」
私が着替えている間は、アルサルは廊下に出て待機してくれている。昨日の夜、宿に設置されているコインランドリーで洗濯したお陰で、剣士服は清潔な香り。
いろいろ工夫をして身支度を済ませて朝食を摂り、再び旅が再開された。
* * *
「修行とはいえ歩くのも疲れますし、今日中には『香久夜御殿』に辿り着きたいものですね」
「そういえば、アルサルって起きたては具合悪そうだったけど、復活できて良かったわね」
いつの間にか、元どおりのイケメン庭師に戻っていたアルサル。実は、彼が突然元気になったのには、理由があるようだ。
「ええ、錬金術で栄養ポーションを作ってクマを治したんです。異国のドリンクで『アオジル』っていうんですけど。すっっごく苦いんですよ。もし、いざとなったらお嬢様の分もお作りしますけど。あぁ! 何かと配合すれば、飲みやすくなると思うんですけどねぇ」
意外なことに、彼の錬金術ポーションの1つは有名な『青汁』だった。そういえば、朝シェーカーでカシャカシャして、飲んでいた気がする。まさか、あのカシャカシャが錬金術とか言わないよね。
でも、びっくりするくらいクマが消えているし、やっぱり普通の青汁とは違うのかしら?
「え、ええ。ありがとう……。フルーツ味とかいいんじゃないかしら? ん……あぁっ! ねえ、見て……もしかして、あの目の前にいるのって!」
「プルルーン! ぼく、悪いモンスターだよぉ~」
ぽいんぽいんと、水まんじゅうのような飛び跳ねる生き物が、丘へとのぼる道を占拠していた。色はピンク色で可愛らしい見た目だが、自分で悪いモンスターだと申告しているし……もしかして敵?
「しまった! 実は、ここまでの道のりは『魔除けの聖水』を振りまきながら来ていたんですが。このエリアからは、聖水は無効みたいですね。相手は雑魚だし、やっちゃいましょう!」
「よ、よし! 初バトルよね。見習い剣士ガーネット、行きますっ。はぁああああっ!」
スカッ!
ガーネットの攻撃はミスった!
プルピンクに、ゼロダメージ。
「プルルーン! そんな太刀筋じゃ当たらないプル~。女の子は、おうちでお裁縫でもしてればいいのプル」
雑魚モンスターのプルピンクは、どこからどう見ても初心者剣士ガーネットのことなんか、まるっきり相手にしていない。
「うぅ! 雑魚にバカにされた……やっぱり、レベル1未満の見習いじゃ、ダメなの?」
「プル? もう1人の男の方は見たことあるプル。はっ……まさか、オマエは超極悪非道の闇賢者ヒストリアの手下の1人! ここで会ったが百年目プルッ。親分様を呼んで、ギタギタにするプル~」
プルプルとモンスターっぽい鳴き声で、周囲に何かを呼びかける。もしかして、あれが『仲間を呼ぶ』という技だろうか。
「オレはヒストリアの手下じゃねーよ。マズイ、あいつ自体は弱いけど親分を呼ばれたら……。お嬢様、下がって居てください!」
手に小さなロッドを握り、応戦体制に入るアルサル。どうやら、庭師、錬金術師と言いつつ魔法を嗜んでいるようだ。まぁこの国は魔法国家だし、剣士の方が貴重なのだから。
「グゥうう。よぉ~兄ちゃん。今日は、いつものお仲間と一緒じゃないなぁ。その弱そうな女を庇いながら、どこまでヤレるか」
けれど、プルピンクに呼ばれた親分モンスターは、いわゆるオーク。しかも鎧などもフル装備。どう見ても物理攻撃で戦わなきゃいけないモンスターである。さらに、弱そうな私のことをターゲットにするっぽい?
「グォオオオオオオ!」
激しい雄叫びが辺りに鳴り響いて、思わず立ちすくんでしまう。アルサルは、私を守るので多分精一杯。
せっかく断罪ルートを回避出来たのに、ここまでか……。
ザシュッッッ!
「ぐ、はぁああ」
一瞬で、何かが斬られた音がして思わず目を瞑ってしまう。どうしよう、アルサルが……アルサルが。
「まったく、見てられんな! アルサル手加減なんかしないで、もっと強力な魔法を使えばいいものを。まぁガーネット様を守る方を優先したか……」
ふと、聞こえてきた低いトーンの男性の声にゆっくりと目を開ける。さっきの声は、前世の私『早乙女紗奈子』時代にさんざん毎日のように聴き惚れていた声だ。
緩やかに揺れる銀色の髪、切れ長の金色の眼、間違いない、あの人は……!
「騎士団長、エルファムさんっ?」
「ご無事で何より、ガーネット嬢。ここからは、このエルファムも同行させていただきます」
そう、私とアルサルの危機を救ったのは、前世で夢中になっていたいわゆる『推しキャラ・騎士団長エルファム』その人だったのである。
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