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第1章

第02話 前世の知識を活かして、回避ルートを探しましょう

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 優雅なティータイムが一転、自分自身が断罪一歩手前の危険状態であることを知る、わたくし公爵令嬢ガーネット。今住んでいる『魔法国家ゼルドガイア』は、前世プレイしていた乙女ゲームの舞台で、自分のポジションはよりによって『悪役令嬢』であることを思い出したのです。
 ――俗に言う、前世の記憶を思い出すというシチュエーション。

 キッカケは、お父様が早めの誕生日プレゼントにと贈ってくれた魔法のブローチ。これは、身に付けるだけで前世の記憶が蘇るミラクルアイテムでしたの。まさか、本当に自分自身の前世が蘇ってくるとは、驚きですわ。

「わたくしは、悪役令嬢。断罪される悪役令嬢……そん、なっ!」

 これまでの人生――贅沢三昧、唯我独尊、ゴーイングマイウェイ、世界はわたくしを中心にまわっている、といったカンジで自己中全開に生きてきましたの。
 その自己中ストーリーのラストが、『まさかの無実の罪による追放と断罪、もちろん第三王子とは婚約破棄で無一文。その後、彼女を見たものは誰もいない』という不幸全開な顛末とは思いもしませんでした。

「ど、どうしたらいいんですのっ。はっそうだっ! 神からもらったチートスキルで無双すれば、何故かゲームのシナリオが変更されて……。あぁっ! わたくし悪役令嬢だから、神様からチートスキルなんて頂いておりませんわっ」

 すると、タイミング悪く体温計を片手に戻ってきたメイドAが、『ひとりでブツブツと何かを呟きながら、頭を抱える公爵令嬢ガーネット』を目撃。魔法のアイテムのせいで悪魔に取り憑かれ、気が狂れたと思ったようなのです。

「ガーネット様ぁっ。まさか、魔法のアイテムに潜んでいた悪魔に取り憑かれるとは、お可哀想に。確かに、ガーネット様はちょっぴり我儘で贅沢症で、傍若無人かも知れませんが。それも、第三王子の婚約者というポジションを守るために、強気キャラを演じているに過ぎません! 根は優しい方なんです。悪魔よ、出てけっ」

 メイドAってば、わたくしのことをそんな風に思っていましたのね。でも、強気お嬢様キャラが演技であると感じていたということは、わたくしの本質は悪役令嬢ガーネットではなく、早乙女紗奈子なんでしょうか?

 すると、少し離れた場所で庭の手入れをしていた『田舎出身の庭師アルサル』も、悪魔祓いに参加し始めました。庭師は田舎出身で純朴という設定ですが、見た目は乙女ゲーム定番のホストかビジュアル系といった感じのイケメンで、そこそこ信者のいる中堅人気キャラです。

「まさか、お嬢様が悪魔に取り憑かれるとは思わなかったが。いいか、悪魔め。お嬢様はなぁ、見た目が他の娘よりもちょっと幼いから、頑張って大人に見せるために着飾ってるだけなんだ。一族繁栄のため、第三王子に気に入られるように、努力してただけなんだぞ。勘弁して出ていってくれっ」

 いつも「お嬢様は、毎日お綺麗だ」とか言っていた庭師ですが。実は内心、わたくしのことを同世代に比べて、見た目が幼いと思っていたんですのね。どうりで、子供扱いをしてくると思ったら。

 2人だけでは悪魔祓いは出来ないと踏んだのか、庭の警備兵がたまたま我が家に遊びに来ていた騎士団長エルファム連れてきました。

「ガーネット様ッ! おぉっ。そんなに胸を押さえつけて、どれだけ苦しんでいるのかッ。魂を欲しているのなら、オレの魂を持っていけば良いものをっ」

 騎士団長エルファムといえば、銀髪金眼の『ザ・乙女ゲームイケメン』で、前世のわたくし早乙女紗奈子が最も気に入っていたいわゆる『推しキャラ』です。けれど、悪役令嬢ガーネットに密かに想いを寄せているという設定の彼を落とすことは難しく、大抵のプレイヤーはメインキャラのヒストリア王子攻略を優先するのでした。

(あぁっ! 前世の推しにまで、こんな情けない姿を見られちゃうなんて、私の人生終わっちゃうよ。んっ今の私って、早乙女紗奈子じゃなくて悪役令嬢ガーネットなんだっけ? ということは……)

 そう、紗奈子は混乱のさなか『自分はすでに、悪役令嬢ガーネットに転生してしまっている』ことを認識出来るようになってきました。ということは、少なくとも騎士団長エルファムには、思いを寄せられていることになります。

 このまま順当に乙女ゲームのシナリオが進行すると、悪役令嬢ガーネットは百パーセント断罪ルートです。けれど、前世の知識をフル活用すれば回避ルートが見つかるかも知れない。

 上手くいけば、騎士団長エルファム様をはじめとする他の攻略キャラとフラグをたてて、ハッピーエンドの可能性も。

 薄れゆく意識の中で、わたくしガーネットは前世の自分自身である紗奈子と対面しました。

「私と手を組んで、不幸を回避しよう、ガーネット。2人で組めば、前世の知識を持ち合わせた悪役令嬢としてやっていける。ううん、そうすればあなたはもう悪役令嬢なんて呼ばれなくなる。私が呼ばせないっ」
「紗奈子、そうですわね。前世のわたくしと今世のわたくし。2人の私達が手を組めば、きっと新しい人生が待っているはず。断罪以外の素晴らしい人生が……不幸の回避ルートが見つかるわ」

 心の中で手を取りあって、運命共同体となる2人の私。まずは、前世の知識を頼りにガーネットを取り巻く人間関係をおさらいしなくちゃ……と、決意を固めながら眠りにつくのでした。
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