237 / 355
第八部 学園卒業試験-迷宮攻略編-
第八部 第14話 封印から目覚めた小妖精
しおりを挟むついに、虹色鉱石の封印が解かれた……のだが。
「ふわぁー、よく寝た! あっイクトスお早う。ようやく、私のこと掘り起こしてくれたんだね。もう、ずっと待っていたんだよぉ」
「えっああ、お早う……」
鉱石に封印されていた小妖精のような小さな美少女に笑いかけられて戸惑いながらも、思わず返事をしてしまうオレ。もちろんオレの名前はイクトスではなく、イクトだ。
「あっアズリーサやマリアンヌも一緒なんだね。よかった! またみんなで冒険できる。私、鉱石の中でもずっとみんなのことを忘れないように、毎日みんなの無事を祈っていたんだよ。みんな、勇者イクトスのことが大好きだもんね!」
「あ、ありがとう……」
みんなイクトスのことが大好きというオブラートに包んだ表現に、イクトスという男がハーレム勇者である予感がしてならない。
「マリアンヌにアズリーサですか……。私たち、古代人だったらそんな感じの名前だったのかしら?」
「アズリーサかぁ……結構いい感じの名前だよな。これから、あたしたちのSNS上の名前はマリアンヌとアズリーサにするか?」
のほほんと、談笑するマリアとアズサ。小妖精の美少女に、イクトスとか言う勇者のハーレム要員らしき人物たちと勘違いされている事は、無視しているようだ。
だが、イクトスという名前には聞き覚えがある。遥か昔、地球に産まれた若者の名前だ。イクトスは地球の古代都市で武器防具職人をしていたが、異世界アースプラネットに召喚されてしまい、そのまま異世界で永遠の眠りについた。
偶然、オレの名前もイクトという名前だが、イクトスとの関わりは不明である。
ちなみに、地球でも実際に古代の呼び方で救世主のことをイクトゥスとか、イクトスと呼ぶらしい。そこまで、聖書や古代の名称に詳しいわけではないけれど、インターネットで検索できる情報ではそういうことになっている。
と、いうことはこの虹色鉱石から現れた美少女は、イクトスの関係者か何かだろうか?
現在、オレたちが注目する儀式台の上で、マイペースに腕を伸ばして準備運動をしている小さな妖精のような精霊のような美少女。
「ふぅ……でもよかった。私のことを発掘してくれたのがイクトスで……。私、マイペースだからイクトス以外の人とうまくやっていく自信がなかったんだよね!」
美少女の髪色は、淡いピンク色で高めのポニーテール。瞳は金色で、異世界でもあまり見かけない瞳の色だ。肌は色白で、パステルイエローのミニスカワンピースがよく似合う。すらりとした脚線美がミニスカートから覗き、背中には小さな透き通る羽。
そして、声まで可愛らしく思わずキュンキュンしてしまうような声色だ。体長はおよそ、20センチ前後といったところだろうか?
まるで、美少女フィギュアが動いてしゃべっているような錯覚にさえ襲われる。一言でいうと、リアル萌えキャラといった風貌だ。
「ところで、どうでしょう? この小さな少女……精霊族なのか、妖精族なのか……アズサさん分かりますか?」
封印を解く儀式を行った本人である卑弥呼さんだが、この小さな少女の種族が分からないようでエルフ族であるアズサに見解を求めている。
オレが発掘した虹色の鉱石はすでに役割を終えたのか、精霊の寝床と化している儀式台の上でかけらとなって散らばり、魔法力が小さな火花のようにはじけては消えていく。かなり強い魔力の持ち主のようだ。
「うーん。みたところ小妖精族のピクシーにも見えるけど、ピクシーはここまで魔法力が高くないしなぁ。ごめん、アタシじゃこの精霊の種族は分からないや」
「そうでしたか、アズサさん。ミンティアさんはいかがですか?」
「図鑑で見た小妖精に似ているけれど……感じられる魔法力は精霊族のような気がします」
本人に訊いても、『私はイクトスの相棒だよ』としか答えない。結局、種族は分からずか……。
「イクトス……確か、古代に伝わる勇者の名前がイクトスだったよな。もしかして、イクトのこと、そのイクトス本人だと思っているんじゃないか?」
会話の流れから、アズサがこの小さな少女がオレのことをかつての相棒本人だと勘違いしていることを示唆する。ついでにアズサ達のことも別の誰かと誤解しているようだが……。
「そうみたいだな。どうしよう……」
「ねえ、イクトス。私、魔力回復のフルーツが食べたいな! いつもイクトスが私にくれていた赤い実がほしいんだけど……持っていないの?」
「えっああごめん。今は携帯食料しか持ち合わせていないよ」
「えー! 私あれがないと、きちんと魔法が使えないのに……あとで、市場で買ってね! 約束だよ」
精霊は、オレを古代の勇者イクトスと勘違いしているようだ。頬をかわいらしくぷくっと膨らませてすねる姿も愛くるしい。
起床してすぐに、鉱石の中に封印された精霊がよみがえったとの知らせを受けて、館長室までメンバー勢ぞろいできたのだが……。封印されていた精霊が、あまりにもフレンドリーに話しかけてくるので拍子抜けしてしまった。
「でも、信じてたよ。迎えに来てくれるって……。イクトスは絶対に約束を守ってくれる人だもん。だって、勇者様だから!」
イクトスを慕う、まっすぐな瞳。曇り無く金色の瞳が輝き、イクトスのことを心の底から慕っていることが伝わってくる。
だが、彼女には申し訳ないがオレは少女の相棒であるイクトスではない。古代の人間であるイクトスは、とっくの昔に天に召されてしまっているはずだ。
どうする……?
可哀想だが、古代の勇者イクトスはすでにこの世には居ないことを誰かが教えてあげなくてはならない。けれど、純粋無垢に接してくる少女に対して、どこから説明すればよいのだろう。微妙な空気の中、お互い顔を見合わせる面々。
「あれっ。そこの紫髪の女の子は新顔さん?」
どうやら小さな少女の過去の記憶にはないらしく、新顔さんと呼ばれるシフォン。
「お早う、キミは小妖精さんなのかな。私の名前はシフォン、魔法剣士の卵をやっているの。キミの名前は? よかったら教えてくれる?」
「あなたが私のことを小妖精だと思うなら、きっとそうなんだと思うよ。種族っていうのは、人間達が決めているだけだから。私の名前……それは、相棒のイクトスがその都度つけてくれるの。私がイクトスの相棒になったのは、伝説のハーレムを作り上げた2代目イクトスの頃からだから……。今のイクトスって何代目に当たるんだろう?」
今のイクトスは何代目……?
それってつまり、この小妖精はオレがこれまでのイクトスとは別の人物だって実は認識しているって事?
「えっつまり、キミはオレが2代目イクトスで無いことを、認識していたって事でオーケーなのか?」
「うん! ちょっと寂しいけれど、人間の寿命はノアの大洪水時代から120年前後って神様が決めちゃったんだもの。でも、イクトスの魂は何度生まれ変わってもイクトスだよ!」
何度生まれ変わっても……か。
「ねぇ、イクトス? また私を冒険の旅に連れて行ってくれるんでしょう? 私、炭鉱の石の中でずっとずうっと待ちわびていたんだから!」
まるで、相棒として契約するための儀式のように小さな腕を伸ばして握手を求めてくる。イクトスの魂がそうさせるのか、オレも当然のようにその小さな手を指先で優しく握った。
「ああ、もちろんだよ。よろしくなシュシュ!」
誰に教えられたわけでもないが、自然と出てきた小妖精の名前はシュシュ。
「うれしい、またシュシュって呼んでくれるんだね。みんなも、よろしくね!」
0
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない
AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。
かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。
俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。
*書籍化に際してタイトルを変更いたしました!
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる