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第七部 ハーレム勇者認定試験-後期編-

第七部 第14話 ふたりが存在する世界線

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 伝統がテーマの今年の体育祭。伝統的なコスチュームの代表であるブルマをハミチラのリスクなしで装備するため、保護色になる紺色の下着セットを合わせてみた。
 が、紺のショーツはブルマとはナチュラルに馴染むものの、白い体操着からは透けブラという状態で、紺のブラが主張しはじめるのだった。

 万事休す……か? 会議室が、重苦しい空気に包まれる。

「結局、振り出しに戻っちゃいましたね……このままだと、ブルマ装備は実装自体中止になる可能性も……」
 副会長が度重なるアクシデントに、今回のブルマ装備実装見送りを視野に入れはじめた。幸いまだ、他の生徒たちは今回の企画について詳しく知らないわけだし……。

「ごめんね、私がアドバイザーとしてついていながら……」
 羽を折り畳み、しょんぼりと申し訳なさそうにする守護天使エステル。
「いや、エステルさんが悪いわけでは……ブラとショーツをセットで着なければならないという我々のこだわりが、このような事態を招いたんだ。素直にブラを白に変更すれば良いだけだが……」
 ルーン会長は、下着はセットで……というこだわりがポリシーだったようだ。きっちりした性格が、そういうところにも出やすいのだろう。

「でも、最近はブラとショーツを別々の色で合わせるお洒落も、流行し始めているらしいよ。ただ、白のブラに紺のショーツはちょっとアンバランスかなぁ……ドラマとか、だと違和感なく体操着が出てくるわけだし……何か、解決策がありそうだけどね」
 ミンティアが最近の流行をふまえた方法を検討するが、なかなか良い案が浮かばない。
「何か、良い方法はないのかっ? おおっ神よっ我々に救いの手を……!」
 神に祈りを捧げ始める会長ルーン、その声に応えるかのごとく、突然萌子(もえこ)のスマホが鳴り始めた。
 
 ピピピピピッ! ピピピピピッ!

「誰だろう? あっアイラか……もしもし、萌子です」
「あっ萌子お姉ちゃん、今話しても良い? あのね、もうすぐ体育祭でしょう……私、かけっこの選手に選ばれちゃって、走りやすいように下着を調達したいんだ。一緒にみてくれる?」
「んっもしかしてブラとか」
「みんなはブラを付け始めているけど、まだ小学生だし恥ずかしいからカップ付きキャミソールを……白いキャミなら透けブラの心配もないし、カップ付きだから、ブラの代わりになるし……」
「カップ付きキャミソール? へえ、そんなのがあるんだ。うん、まだ時間も早いし、これから行くよ」
「ありがとう、お姉ちゃん。じゃあ、正門の前で……」

 ツーツーツー。

 白のカップ付きキャミソールという新たなキーワードを、会話の様子から察したルーン会長が『そんなアイテムがあったのかっっ』とやや興奮気味に叫んで、神に感謝の祈りを捧げ始めた。

「おお、神よ。こんなに早く解決策を提示して下さるとは……透けブラも心配ないし、紺のショーツともキャミならば色が違えど、バランスはそんなに悪くないはずだ」
「やりましたねっ会長! 萌子さんの妹さんに感謝ですっ」
「これで、なんとかなりそうだね」
 意外な形で解決策が見つかり、安堵する一同。

「紺色の下着セット……3セットも購入しましたが……あっ学園祭のメイド服に色がぴったりですね、そういえば……」
 副委員長のせりふから、学園祭はメイド服装備を予定していることを知る……役員というより、コスプレ担当係のようだ……。まあ、今は体育祭を無事に終えることだけを考えよう。
「神よ……無駄なく、すべてのアイテムを使えることに感謝します……」
 会長による感謝の祈りも終わったみたいだし、これで体操着問題も解決だろう。

「すみません、あの……そんなわけで、妹の買い物に付き合うことになったので……」
「おおっ、姉妹水いらずで楽しんできたまえっ! そうだっヒントをくれたお礼に、この商店街のクレープ店無料チケットをふたり分差し上げよう……妹さんとのおやつにちょうど良いだろう。私からの気持ちだ。役員会議は、今日はこの辺で解散するよ」
「えっありがとうございます、妹に伝えておきますね。じゃあ」
「萌子ちゃん行ってらっしゃーい!」
「萌子先輩、お疲れさまでした」


 更衣室で体操着から制服に着替え、待ち合わせ場所の正門へ。下調べをしておいたというアイラはスムーズに買い物を済ませて、ショッピング後の休憩タイム。ルーン生徒会長から貰ったクレープチケットで、一緒におやつ。

「アイラ、これルーン生徒会長が私とアイラにって……アイラが電話くれたおかげで体育祭のヒントになったからお礼だって! 好きなクレープを頼めるよ」
「わぁ、嬉しい。会長さんってクールで美人で近寄りがたい雰囲気だったけど、優しいんだぁ」
「ははは……」
 クールで美人で近づきがたい雰囲気か……確かにそうだが、会長が天然な面のある人だとは思わないのだろう。雑踏を抜けて、夕やけ色に染まる商店街を妹とふたり歩く。


 商店街のクレープ屋さんは、以前ミンティアとイクトがデート試験で立ち寄った店舗だ。相変わらずの人気だが、並んでいる間に何を食べるか決めるのにちょうどいいな。
 店員さんが配るメニューチラシを見ながら、どんなクレープがあるか確認。前回は、ツナとサラダのクレープを食べたが、今は女の子のアバターに変化している影響か甘いものが食べたい。
「あっお姉ちゃん! アイラね、この秋限定クリームたっぷりサツマイモのクレープがいいな」
「へえ、美味しいそうだね。私もこれにしよう……すみませーん、秋限定のサツマイモのクレープ二つ……無料チケット使用で……」

 ベンチに移動し、生クリームたっぷりのサツマイモ入りクレープを堪能。秋の味覚を感じられる季節限定商品だ。
「ふふっ美味しいね、お姉ちゃん」
「うん、会長に感謝だねっ」
 行き交う人を眺めながら、姉妹で仲良くクレープを食べる。まるで、萌子というアバターが、イクトの双子の兄妹でアイラの姉……という設定で本当に存在しているような気がしてきた。
 萌子は、本当にただのイクトのパラレル的な存在なのだろうか?

『嬉しいな……私、このお店のクレープ、ずっと食べてみたかったんだっ』

 風とともに、どこからともなく声が流れ込んできた。アイラとは違う、誰かの声。
 周囲を見渡すが、買い食いをする人、ベンチでのんびり休む人、おしゃべりに夢中の人……それぞれの過ごし方を楽しんでいる。クレープ屋からは少し離れた場所のため、クレープを食べているのは萌子とアイラだけ……それらしき人の姿は見あたらなかった。萌子の心の声だろうか。

「萌子お姉ちゃん、どうしたの?」
「ううん、何でもないよ。このクレープにして良かったね、季節限定だし」
「そうだねっアイラ次の季節もこのクレープ食べたいな。冬のクレープ、どんな感じになるんだろう?」
「うん、次の季節も……」
 その後の言葉を、萌子は紡ぐことが出来なかった。
 次の季節……つまり冬になる頃には、萌子のアバターは消えてしまって再びイクトに戻るのだ。
 萌子は役目を終えたら、どこに行ってしまうのだろう? 萌子の魂は、確かにここに存在するのに……。


 オレは、萌子という存在のアバターが本当は何者なのか、それが知りたくなってしまい、彼女が消える前にアバターの概念や存在についてもっと調べることにした。

 これはオレの希望なのかもしれないが……もしかしたら、彼女とオレが同時に存在する世界線が、成立しうるのではないかと……そんな夢を抱くようになっていた。


 イクトと萌子という、双子の兄妹として……。

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