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第六部 ハーレム勇者認定試験-前期編-
第六部 第33話 玉手箱と異世界の時間軸
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「ログアウトする権利……つまり玉手箱に興味はあるか?」
オト姫様から玉手箱という言葉が出てくるのは何となく想像ついていたが、まさかログアウトなんて用語が飛び出すとは予想外だ。
「玉手箱って、開けると煙が出てきて年を取るという……。玉手箱がログアウトと関係あるんですか? 今、私の身体は……現実世界での私たち転生者の身体は無事なんですかっ」
珍しく動揺した様子の女勇者レイン。
そういえば、レインはログアウト希望者だ。オレみたいに異世界にとどまるか現実世界に還るか否かで迷っている訳じゃないから、今回の情報は彼女にとってはかなり重要だろう。
もちろん、現実世界では自分の身体がどうなっているか気になるのはオレも同じだけれど。
オト姫様は、詰め寄るレインにも動じた様子をみせない。
少女らしい外見に似合わず、落ち着き払った態度で対応する。
「……そうか、レイン殿は自分自身の身体が地球ではどうなっているのか把握しておらんのじゃな。安心して良いぞ、まだお主達の身体は地球では無事じゃ。もちろん、転生したばかりの若い頃の状態でな」
不安げなレインをなだめるように、城主の風格でレインの頭を優しく撫でた。
「オト姫様……」
次第に落ち着きを取り戻すレイン。
オト姫様は、レインの様子からオレ達が自分たちの現実世界での身体が今どのような状態なのか、知らされていないことに気づいたようだ。
「……その様子じゃと、もしや、お主達……」
オレはエリスと顔を見合わせて、現在のオレ達の知りうる状況を伝える。
「実は、オレ達この身体がアバターに近い状態だって、つい最近知ったんです。時間が経つと本当の自分の肉体になるらしいけれど……」
「知らない……とな」
意外なのか、顔をしかめるオト姫様。
オレ達の今の情報量は、彼女にとって予想外だったようだ。オレやレイン、エリスの顔をひとりひとり見つめ直してから、従者の人魚に『例のモノ』を持ってくるようにと伝えて、再び本題へと戻る。
「ふむ。勇者イクトとその仲間達はハーレム勇者認定協会の認定試験なんぞ受けていると訊いていたから、てっきり転生時の状態について把握していると思ったのじゃが……。これは、わらわの方から説明しておく必要があるのう」
「私たち……本当になにも知らないんだね」
「仕方ないさ、ログアウトについてだって話題になったのここ数ヶ月だぜ」
「そうですわ、レインさん。今では、魔法学園のギルドメンバー全員が知る話になりましたけれど……最初はみんな話題に出すことすらタブー視していた訳ですし……」
目の前の豪華なごちそうをぼんやりと見つめて、ため息を突くレイン。
すっかり箸が止まってしまったことに気づいたのか、オト姫様は明るく元のペースに戻ってポンっと手を叩く。
「おお、すまなかったな、せっかくのごちそうじゃ。食事をしながらゆっくり聞いてくれればよいぞ。なんせこの席はお主達をもてなすための宴なのじゃからな」
オト姫様に促されて再び箸を動かす。
艶やかな赤マグロやイクラ、濃厚で脂ののったサーモン、つるんとしたイカが魅力的な海鮮丼に手を伸ばす。口の中に広がる海の幸、とれたてのものだけあって極上だ。
この身体は、魂をログインさせたアバターのようなものらしいが、こうやって食事をすれば美味しいし、味覚も痛覚もすべて地球にいた頃と変わらない。
そして、地球の時の自分と全く同じ容姿。
まるで、本物の自分の肉体のようで違和感がないのだ。
食事をしながら、ぽつり、ぽつりと話を再開する。
「もしかしてオト姫様は、私たちが状況を把握していると思って、竜宮パレスに呼んだんですか?」
「まぁな……まさか守護天使がきちんと説明していないとは……いや、仕方がないか。ログアウトに失敗して魂の死を招くよりも、もう既に転生した時点で、肉体は死んでしまったと考える方が魂は無事でいられるし……どこから説明したらよいのじゃろう」
オト姫様がログアウトについてどう説明するか検討していると、従者の人魚が大事そうに、白い包みを三つ運んできた。
「オト姫様、例のモノをお持ちしました」
「うむ、ご苦労。お主達、これを……」
コトン、と差し出された包みの中には、小さな黒い漆塗りの小箱と銀色の懐中時計。時計は珍しい24時間式だ。
「この小箱って……もしかして……」
黒の漆塗りの小箱は金箔がふんだんに散りばめられており、同じく金色で波の模様が描かれている。
「左様、俗に言う玉手箱じゃ。といっても今はまだごく普通の漆塗りの小箱じゃがな。ここに魔法契約を施すことで、お主達の地球での肉体を収納できるのじゃ。もちろんアバターである疑似ネフィリム体もな」
「肉体を収納? 本物の身体をここに? アバターも?」
「そうじゃ。かの有名な浦島太郎の時代は、異世界と現実世界の時間軸が大幅にずれておってな。地球で肉体を寝かせて置いては危険だったんじゃよ。だから、この玉手箱に肉体を収納して……地球に還るときに玉手箱も一緒に手渡したそうじゃ。本来の肉体を収納した箱を開けると、その身体に再びログインする……結果浦島太郎はおじいさんの姿になってしまったらしいが……」
「それって、やっぱり地球に還ったら……あれっでもさっきオレ達の肉体は、若い状態だって……」
「うむ、その懐中時計はな、お主たちの本来の身体がある方の時間の流れを示しておる。24時間針があるじゃろう? 手にとって見ればわかるぞ。お主達の時計の針は何時じゃ?」
おそるおそる、銀色の懐中時計に手を伸ばすときらりと光を放ち……時計の針が猛スピードでくるくると動き始め……。
20時35分。
「おかしいな、さっきまで14時くらいだったよな。これが地球での時間? もう20時台だ」
「えっ私の時計は21時台だよ。イクト君と私の時計、少し時間差があるね」
「あら? 私の時計は今、15時台ですわ。もうすぐ16時台になりそうでうすけれど……私はアースプラネット出身だから、ここでの時間を示しているのかしら」
「エリスの時計がこの世界の時間軸ってこと? でもオレもレインも地球では同じ日本に暮らしているよな。どうして時差が……?」
「そうか……それがお主達の今の時間か……」
オト姫様が納得したように頷いているが、何故?
「現在の地球とアースプラネットの時間差は一時間イコール一年じゃ。魔獣が復活して、そのような時差になったからな」
確かに、一時間イコール一年と計算すると合致がいく。
まるでゲームのプレイ時間だ。
「そっか以前の転移も時間に含めると二十年はこの世界で経ってるもんな……オレが二十時間、レインが二十一時間、エリスは現地出身だから今の肉体の時間……ってこと?」
「良かった……まだ地球では二十四時間経っていないんだね」
安堵したのか、嬉しそうに時計を握りしめて胸をなで下ろすレイン。
「まだ、間に合うな……しかし、急がなくてはならぬ」
「どういうことですか」
「お主達に残された時間はあと三時間から四時間じゃ。この世界では四年あるがな……ログアウトのタイムリミットはゲーム開始から二十四時間なのじゃ」
「ええっ?」
初めて知ったぞ、そんな情報。超重要じゃないか?
「だが、玉手箱に肉体を納めれば、二十四時間を越えてもこの世界に留まれるぞ。いわば自在にログアウトする権利。どうじゃ? 契約するか」
全員顔を見合わせて無言で頷くと、オト姫様は立ち上がり、従者達に指示を下す。
「よし、封印の間の扉を開けよ! 契約準備開始じゃ」
オト姫様から玉手箱という言葉が出てくるのは何となく想像ついていたが、まさかログアウトなんて用語が飛び出すとは予想外だ。
「玉手箱って、開けると煙が出てきて年を取るという……。玉手箱がログアウトと関係あるんですか? 今、私の身体は……現実世界での私たち転生者の身体は無事なんですかっ」
珍しく動揺した様子の女勇者レイン。
そういえば、レインはログアウト希望者だ。オレみたいに異世界にとどまるか現実世界に還るか否かで迷っている訳じゃないから、今回の情報は彼女にとってはかなり重要だろう。
もちろん、現実世界では自分の身体がどうなっているか気になるのはオレも同じだけれど。
オト姫様は、詰め寄るレインにも動じた様子をみせない。
少女らしい外見に似合わず、落ち着き払った態度で対応する。
「……そうか、レイン殿は自分自身の身体が地球ではどうなっているのか把握しておらんのじゃな。安心して良いぞ、まだお主達の身体は地球では無事じゃ。もちろん、転生したばかりの若い頃の状態でな」
不安げなレインをなだめるように、城主の風格でレインの頭を優しく撫でた。
「オト姫様……」
次第に落ち着きを取り戻すレイン。
オト姫様は、レインの様子からオレ達が自分たちの現実世界での身体が今どのような状態なのか、知らされていないことに気づいたようだ。
「……その様子じゃと、もしや、お主達……」
オレはエリスと顔を見合わせて、現在のオレ達の知りうる状況を伝える。
「実は、オレ達この身体がアバターに近い状態だって、つい最近知ったんです。時間が経つと本当の自分の肉体になるらしいけれど……」
「知らない……とな」
意外なのか、顔をしかめるオト姫様。
オレ達の今の情報量は、彼女にとって予想外だったようだ。オレやレイン、エリスの顔をひとりひとり見つめ直してから、従者の人魚に『例のモノ』を持ってくるようにと伝えて、再び本題へと戻る。
「ふむ。勇者イクトとその仲間達はハーレム勇者認定協会の認定試験なんぞ受けていると訊いていたから、てっきり転生時の状態について把握していると思ったのじゃが……。これは、わらわの方から説明しておく必要があるのう」
「私たち……本当になにも知らないんだね」
「仕方ないさ、ログアウトについてだって話題になったのここ数ヶ月だぜ」
「そうですわ、レインさん。今では、魔法学園のギルドメンバー全員が知る話になりましたけれど……最初はみんな話題に出すことすらタブー視していた訳ですし……」
目の前の豪華なごちそうをぼんやりと見つめて、ため息を突くレイン。
すっかり箸が止まってしまったことに気づいたのか、オト姫様は明るく元のペースに戻ってポンっと手を叩く。
「おお、すまなかったな、せっかくのごちそうじゃ。食事をしながらゆっくり聞いてくれればよいぞ。なんせこの席はお主達をもてなすための宴なのじゃからな」
オト姫様に促されて再び箸を動かす。
艶やかな赤マグロやイクラ、濃厚で脂ののったサーモン、つるんとしたイカが魅力的な海鮮丼に手を伸ばす。口の中に広がる海の幸、とれたてのものだけあって極上だ。
この身体は、魂をログインさせたアバターのようなものらしいが、こうやって食事をすれば美味しいし、味覚も痛覚もすべて地球にいた頃と変わらない。
そして、地球の時の自分と全く同じ容姿。
まるで、本物の自分の肉体のようで違和感がないのだ。
食事をしながら、ぽつり、ぽつりと話を再開する。
「もしかしてオト姫様は、私たちが状況を把握していると思って、竜宮パレスに呼んだんですか?」
「まぁな……まさか守護天使がきちんと説明していないとは……いや、仕方がないか。ログアウトに失敗して魂の死を招くよりも、もう既に転生した時点で、肉体は死んでしまったと考える方が魂は無事でいられるし……どこから説明したらよいのじゃろう」
オト姫様がログアウトについてどう説明するか検討していると、従者の人魚が大事そうに、白い包みを三つ運んできた。
「オト姫様、例のモノをお持ちしました」
「うむ、ご苦労。お主達、これを……」
コトン、と差し出された包みの中には、小さな黒い漆塗りの小箱と銀色の懐中時計。時計は珍しい24時間式だ。
「この小箱って……もしかして……」
黒の漆塗りの小箱は金箔がふんだんに散りばめられており、同じく金色で波の模様が描かれている。
「左様、俗に言う玉手箱じゃ。といっても今はまだごく普通の漆塗りの小箱じゃがな。ここに魔法契約を施すことで、お主達の地球での肉体を収納できるのじゃ。もちろんアバターである疑似ネフィリム体もな」
「肉体を収納? 本物の身体をここに? アバターも?」
「そうじゃ。かの有名な浦島太郎の時代は、異世界と現実世界の時間軸が大幅にずれておってな。地球で肉体を寝かせて置いては危険だったんじゃよ。だから、この玉手箱に肉体を収納して……地球に還るときに玉手箱も一緒に手渡したそうじゃ。本来の肉体を収納した箱を開けると、その身体に再びログインする……結果浦島太郎はおじいさんの姿になってしまったらしいが……」
「それって、やっぱり地球に還ったら……あれっでもさっきオレ達の肉体は、若い状態だって……」
「うむ、その懐中時計はな、お主たちの本来の身体がある方の時間の流れを示しておる。24時間針があるじゃろう? 手にとって見ればわかるぞ。お主達の時計の針は何時じゃ?」
おそるおそる、銀色の懐中時計に手を伸ばすときらりと光を放ち……時計の針が猛スピードでくるくると動き始め……。
20時35分。
「おかしいな、さっきまで14時くらいだったよな。これが地球での時間? もう20時台だ」
「えっ私の時計は21時台だよ。イクト君と私の時計、少し時間差があるね」
「あら? 私の時計は今、15時台ですわ。もうすぐ16時台になりそうでうすけれど……私はアースプラネット出身だから、ここでの時間を示しているのかしら」
「エリスの時計がこの世界の時間軸ってこと? でもオレもレインも地球では同じ日本に暮らしているよな。どうして時差が……?」
「そうか……それがお主達の今の時間か……」
オト姫様が納得したように頷いているが、何故?
「現在の地球とアースプラネットの時間差は一時間イコール一年じゃ。魔獣が復活して、そのような時差になったからな」
確かに、一時間イコール一年と計算すると合致がいく。
まるでゲームのプレイ時間だ。
「そっか以前の転移も時間に含めると二十年はこの世界で経ってるもんな……オレが二十時間、レインが二十一時間、エリスは現地出身だから今の肉体の時間……ってこと?」
「良かった……まだ地球では二十四時間経っていないんだね」
安堵したのか、嬉しそうに時計を握りしめて胸をなで下ろすレイン。
「まだ、間に合うな……しかし、急がなくてはならぬ」
「どういうことですか」
「お主達に残された時間はあと三時間から四時間じゃ。この世界では四年あるがな……ログアウトのタイムリミットはゲーム開始から二十四時間なのじゃ」
「ええっ?」
初めて知ったぞ、そんな情報。超重要じゃないか?
「だが、玉手箱に肉体を納めれば、二十四時間を越えてもこの世界に留まれるぞ。いわば自在にログアウトする権利。どうじゃ? 契約するか」
全員顔を見合わせて無言で頷くと、オト姫様は立ち上がり、従者達に指示を下す。
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