28 / 355
第一部 異世界は人気スマホRPG編
第一部 第28話 異世界コラボの温泉へ
しおりを挟む「いらっしゃいませ!」
今日オープンしたばかり、という都内のスパ温泉施設。
異国情緒あふれるローマ風の入り口、カウンターの親切そうな受付嬢が出迎えてくれる。ロビーも広く、オープンしたばかりというだけあって非常に綺麗だ。
中には室内、露天を含む天然温泉が数種類、足湯、岩盤浴、サウナ、レストラン、カラオケボックス、ゲームコーナー、占いコーナー、マッサージ機つき休憩ルームなどがあり、一日中遊べるように出来ている。
上品な浴衣のレンタルもあり、女性陣は大喜びだ。
「かなり広いですね!」
現実世界の温泉に入りたいと言って興味津々だったマリアやエリスは、ご機嫌のようだ。
よし、ここはオレが温泉の伝統を教えてあげよう!
「風呂上がりには、瓶のコーヒー牛乳を腰に手を当てて飲むのが日本の伝統なんだぞ!」
オレはかなりレトロな銭湯や温泉のイメージで、異世界人であるマリア達にコーヒー牛乳を勧めてみる。
「えー お兄ちゃん私フルーツ牛乳の方が好き!」
妹のアイラはフルーツ牛乳派のようで兄妹で意見が分かれてしまったが、マリア達は笑って「両方試してみます」と、優しく微笑んだ。
そんなわけで、交流会を兼ねて温泉スパに来たオレ達だったが、従業員からパンフレットと記念品をもらい、異変に気付く……。
『本日オープン! 温泉スパ異世界ご入湯記念品プレゼント中!』
「異世界? この温泉、異世界って名前だったのか?」
「そういえば、ここってなんかアースプラネットみたいな雰囲気ですね」
「にゃー! カゴでの移動は疲れたのにゃー! アタシも温泉につかってゆっくりしたいのにゃー!」
「ミーコ⁈」
ごく普通の黒猫に戻っていたはずのミーコが猫耳メイドの姿で現れた。しかも、ミーコの隣には現実世界のメイドのランコさんも一緒だ……2人が並ぶと、まるで双子のようだった。
「異世界と現実世界が融合し始めたから、異世界アースプラネットも現実世界でビジネスを始めているんだよ。だからこの温泉はアースプラネットの温泉なんだよ」
お客さんのドワーフのおじさんが親切に教えてくれた。説明によると、このスパ温泉の空間のみアースプラネットにリンクしていて、外に出ると現実世界に戻るという。
不思議なのは、アースプラネットから来たお客さんは外に出ると、アースプラネットにきちんと帰れるという。オレ達は、全員現実世界の方から入ったから、今回は現実世界の出口に戻るそうだ。
ふと、ロビー周辺を見るといつの間にか魔族やエルフ、猫耳族がソファーでまったりくつろいでいる。
人間のお客さんが魔族に気付き、
「あの魔族のコスプレ凄くない? すみません、一緒に写真撮って下さーい!」
すると魔族も意外な事に感じよく、
「あっいいですよ!」
「きゃあ! 本物の魔族みたい!」
カシャっ、デジカメで記念撮影だ。
「ちなみに、写真撮影可能なのはロビーやカラオケルーム・飲食スペースなどの施設のみで、脱衣所や温泉内では撮影不可だから、気をつけようね」
スパでのマナーを優しく教える魔族……もしかして、すでに人間との記念撮影に慣れ始めているのか?
「あっはい、ありがとうございました!」
現実世界のお客さんもたくさん来ているようだが、アトラクション温泉か何かだと思っているようで、ごく普通に楽しんでいるみたいだった。
受付嬢が、にこやかにゲームコラボについて説明する。
「蒼穹のエターナルブレイクシリーズは、今人気急上昇中のオンラインゲームなんですよ。この温泉は、ゲームとコラボしているので、ゲームファンの方もたくさんいらっしゃるんです」
「コラボ温泉扱いなのか?」
「人気あるんだね、お兄ちゃん……私も今度ダウンロードしてみようかな? あれっ私のスマホにも既にダウンロードしてある……いつ、このアプリ入れたんだっけ?」
アイラもゲームをプレイしたくなったようだ。しかし、記憶になくてもダウンロードされているとは……もしかしたらアイラは異世界転生した頃の記憶が曖昧で覚えていないのかもしれない。
「なんだか、アースプラネットの人達は商売上手だな」
オープン記念効果も手伝ってこの温泉は人が多く賑やかだ。
人間だけではなく、本来は仲が良くないと言われている魔族やエルフが楽しそうに、ひとつの温泉施設を利用しているところをみると、魔王の脅威が迫っているなんて嘘みたいに感じる。
「今日は全てを忘れてリラックスするか」
早速2階の和風温泉コーナーに移動し、『冒険者にオススメ和風薬湯風呂』に入ることにする。
和風コーナーには他にも定番のにごり湯などがあるらしいが、まずは冒険の疲れを癒したい。
「じゃあ、オレは男湯の方に行くから……」
「お兄ちゃんまた後でね!」
「のぼせないでにゃん!」
* * *
男湯と書かれたコーナーに行き、脱衣所で入浴の準備をしていると、水饅頭によく似たザコモンスタープルプルに話しかけられた。
「プルプル……お客サン……美人さんをたくさん連れていてうらやましいですよ! 女性陣8人なのに、男性はあなた1人ですよ! 誰がカノジョさんなんですか⁈ しかも、あの超話題の魔法少女アイドルアイラ・なむらも一緒にいましたよね⁈」
このプルプル……アイラ・なむらのこと知ってるんだ。
「アイラはオレの妹だし、他のみんなも仲間なだけで、恋人とかじゃないから……」
妹というのが若干意外だったようだが、プルプルはオレの顔をじっと見つめて、
「プルプル……そうなんですか……アイラ姫のお兄様、そういえば結構お顔立ちが似ていますね。でも美人さんに囲まれていて同じ男としてうらやましい限りですよ!」
「はぁ……ははは」
返答に困り、ちょっと照れ笑いするオレ。
「じゃあ私はもう上がるんで……」とプルプルさんは去って行ってしまった。
プルプル族は見た目では年齢がよく分からないが、雰囲気的にオレより年上だったのか?
脱衣を済ませ、まずは全身を洗う。嬉しい事に、ボディーソープやシャンプー類は全て備え付けだ。
ボディーソープの泡をたっぷりとさせて丹念に汚れを洗い流し、シャンプーで髪の汚れを落とし、コンディショナーで手入れしてやる。
備え付けのシャンプー類は現品をロビーで販売しているそうで、温泉内に広告が出ており値段を確認するとかなりお高めだが、格安の入浴料に使用料も含まれている。
普段、おそらく使うことのない高級メーカーのボディーソープやシャンプー類を揃えているようで、これらを自由に使えるだけでもなんだかお得な気分である。
さらに、シャワーでもう一度身を清めて、お待ちかねの温泉だ!
まずは目当ての薬湯に入って旅の疲れを癒すか……。
カポーン!
人間、魔族、エルフ、猫耳族、ドワーフ、プルプルなどのモンスターたち……種族をこえた憩いの場が、そこにはあった。
「平和だな……」
オレは薬湯に浸かりながら、そんなことを思った。
* * *
そのころ女湯では……。
(いきなり温泉にみんなで入るなんて聞いてないよ!)
イクトの幼馴染であるカノンは、突然の温泉展開に戸惑っていた。脱衣コーナーで、服を脱ぎ始めた周りを見てオロオロしてしまう。
(しかもイクトの仲間たちって、美人でスタイルのいい人ばかりじゃん!)
右隣で服を脱ぎ始めたアズサをチラリと見るも、やはり人間族と異なるエルフ族であるアズサの肌は色白すべすべで美しく、自分にちょっぴり自信のないカノンは脱ぐのを躊躇した。
(アズサさん……肌超綺麗……やっぱりエルフって、特別な美容とかしてるのかな?)
さらに、左隣には着痩せするタイプだったのか、かなり巨乳でくびれるところはきちんと細い、ナイスバディのマリアが脱衣を完了し、抜群のスタイルを露わにしていた。
(賢者のマリアさん……なんか胸が大きいな……Fくらいありそう……どうしよう……私、恥ずかしくてタオル取れないよ……)
仕方ないので服を脱いだものの、タオルを全身に巻いてなるべく身体を隠すようにするカノン。
(なむらちゃん……すごいな……無表情で堂々としてる……)
カノンの完全防備は不自然に見えたのか、それとも新しく仲間になったばかりで遠慮していると勘違いしたのか、フレンドリーにマリアがカノンにタオルを取るようにアドバイスしてきた。
「カノンさん! 女同志なんですから、恥ずかしがらなくていいんですよ!」
たわわな胸をオープンにしたマリアがカノンを優しく諭す。
プルルン……カノンの目にマリアの巨乳が焼き付き、思わず動揺する。
「タオル取って入浴するのがマナーなんだぞ! ほら!」
アズサもDカップくらいありそうなバストを堂々と晒しており、カノンにくすぐり攻撃をしてきて……タオルを剥がす。
「あっダメ! コチョコチョしないで……あん、くすぐったい!」
(マリアさんとアズサさんに促されてタオルを取る羽目になっちゃった……)
「恥ずかしい……」
全裸になり頬を赤らめて照れるカノンに、
「カノンさん、キレイなスタイルしているじゃないですか?」
「よぉし! 仲間になった記念に、背中を流してやるぜ!」
優しいマリアさんとノリノリのアズサさん。
「早く温泉に入ろうよ!」
無邪気な笑顔でスパをエンジョイする楽しそうなアイラちゃん……。
(なんでみんな堂々としているの? どうしよう……)
いろいろ馴染めずに、恥ずかしさで困惑するカノンなのであった。
0
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない
AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。
かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。
俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。
*書籍化に際してタイトルを変更いたしました!
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる