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第一部 異世界は人気スマホRPG編

第一部 第28話 異世界コラボの温泉へ

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「いらっしゃいませ!」

 今日オープンしたばかり、という都内のスパ温泉施設。

 異国情緒あふれるローマ風の入り口、カウンターの親切そうな受付嬢が出迎えてくれる。ロビーも広く、オープンしたばかりというだけあって非常に綺麗だ。

 中には室内、露天を含む天然温泉が数種類、足湯、岩盤浴、サウナ、レストラン、カラオケボックス、ゲームコーナー、占いコーナー、マッサージ機つき休憩ルームなどがあり、一日中遊べるように出来ている。
 上品な浴衣のレンタルもあり、女性陣は大喜びだ。

「かなり広いですね!」
 現実世界の温泉に入りたいと言って興味津々だったマリアやエリスは、ご機嫌のようだ。

 よし、ここはオレが温泉の伝統を教えてあげよう!

「風呂上がりには、瓶のコーヒー牛乳を腰に手を当てて飲むのが日本の伝統なんだぞ!」
 オレはかなりレトロな銭湯や温泉のイメージで、異世界人であるマリア達にコーヒー牛乳を勧めてみる。
「えー お兄ちゃん私フルーツ牛乳の方が好き!」
 妹のアイラはフルーツ牛乳派のようで兄妹で意見が分かれてしまったが、マリア達は笑って「両方試してみます」と、優しく微笑んだ。

 そんなわけで、交流会を兼ねて温泉スパに来たオレ達だったが、従業員からパンフレットと記念品をもらい、異変に気付く……。

『本日オープン! 温泉スパ異世界ご入湯記念品プレゼント中!』

「異世界? この温泉、異世界って名前だったのか?」
「そういえば、ここってなんかアースプラネットみたいな雰囲気ですね」

「にゃー! カゴでの移動は疲れたのにゃー! アタシも温泉につかってゆっくりしたいのにゃー!」
「ミーコ⁈」

 ごく普通の黒猫に戻っていたはずのミーコが猫耳メイドの姿で現れた。しかも、ミーコの隣には現実世界のメイドのランコさんも一緒だ……2人が並ぶと、まるで双子のようだった。

「異世界と現実世界が融合し始めたから、異世界アースプラネットも現実世界でビジネスを始めているんだよ。だからこの温泉はアースプラネットの温泉なんだよ」

 お客さんのドワーフのおじさんが親切に教えてくれた。説明によると、このスパ温泉の空間のみアースプラネットにリンクしていて、外に出ると現実世界に戻るという。

 不思議なのは、アースプラネットから来たお客さんは外に出ると、アースプラネットにきちんと帰れるという。オレ達は、全員現実世界の方から入ったから、今回は現実世界の出口に戻るそうだ。

 ふと、ロビー周辺を見るといつの間にか魔族やエルフ、猫耳族がソファーでまったりくつろいでいる。

 人間のお客さんが魔族に気付き、
「あの魔族のコスプレ凄くない? すみません、一緒に写真撮って下さーい!」
 すると魔族も意外な事に感じよく、
「あっいいですよ!」
「きゃあ! 本物の魔族みたい!」
 カシャっ、デジカメで記念撮影だ。
「ちなみに、写真撮影可能なのはロビーやカラオケルーム・飲食スペースなどの施設のみで、脱衣所や温泉内では撮影不可だから、気をつけようね」
 スパでのマナーを優しく教える魔族……もしかして、すでに人間との記念撮影に慣れ始めているのか?

「あっはい、ありがとうございました!」

 現実世界のお客さんもたくさん来ているようだが、アトラクション温泉か何かだと思っているようで、ごく普通に楽しんでいるみたいだった。

 受付嬢が、にこやかにゲームコラボについて説明する。
「蒼穹のエターナルブレイクシリーズは、今人気急上昇中のオンラインゲームなんですよ。この温泉は、ゲームとコラボしているので、ゲームファンの方もたくさんいらっしゃるんです」

「コラボ温泉扱いなのか?」
「人気あるんだね、お兄ちゃん……私も今度ダウンロードしてみようかな? あれっ私のスマホにも既にダウンロードしてある……いつ、このアプリ入れたんだっけ?」

 アイラもゲームをプレイしたくなったようだ。しかし、記憶になくてもダウンロードされているとは……もしかしたらアイラは異世界転生した頃の記憶が曖昧で覚えていないのかもしれない。
「なんだか、アースプラネットの人達は商売上手だな」

 オープン記念効果も手伝ってこの温泉は人が多く賑やかだ。
 人間だけではなく、本来は仲が良くないと言われている魔族やエルフが楽しそうに、ひとつの温泉施設を利用しているところをみると、魔王の脅威が迫っているなんて嘘みたいに感じる。

「今日は全てを忘れてリラックスするか」
 早速2階の和風温泉コーナーに移動し、『冒険者にオススメ和風薬湯風呂』に入ることにする。
 和風コーナーには他にも定番のにごり湯などがあるらしいが、まずは冒険の疲れを癒したい。
「じゃあ、オレは男湯の方に行くから……」
「お兄ちゃんまた後でね!」
「のぼせないでにゃん!」


 * * *


 男湯と書かれたコーナーに行き、脱衣所で入浴の準備をしていると、水饅頭によく似たザコモンスタープルプルに話しかけられた。

「プルプル……お客サン……美人さんをたくさん連れていてうらやましいですよ! 女性陣8人なのに、男性はあなた1人ですよ! 誰がカノジョさんなんですか⁈ しかも、あの超話題の魔法少女アイドルアイラ・なむらも一緒にいましたよね⁈」
 このプルプル……アイラ・なむらのこと知ってるんだ。

「アイラはオレの妹だし、他のみんなも仲間なだけで、恋人とかじゃないから……」
 妹というのが若干意外だったようだが、プルプルはオレの顔をじっと見つめて、
「プルプル……そうなんですか……アイラ姫のお兄様、そういえば結構お顔立ちが似ていますね。でも美人さんに囲まれていて同じ男としてうらやましい限りですよ!」
「はぁ……ははは」

 返答に困り、ちょっと照れ笑いするオレ。

「じゃあ私はもう上がるんで……」とプルプルさんは去って行ってしまった。
 プルプル族は見た目では年齢がよく分からないが、雰囲気的にオレより年上だったのか?

 脱衣を済ませ、まずは全身を洗う。嬉しい事に、ボディーソープやシャンプー類は全て備え付けだ。
 ボディーソープの泡をたっぷりとさせて丹念に汚れを洗い流し、シャンプーで髪の汚れを落とし、コンディショナーで手入れしてやる。

 備え付けのシャンプー類は現品をロビーで販売しているそうで、温泉内に広告が出ており値段を確認するとかなりお高めだが、格安の入浴料に使用料も含まれている。
 普段、おそらく使うことのない高級メーカーのボディーソープやシャンプー類を揃えているようで、これらを自由に使えるだけでもなんだかお得な気分である。

 さらに、シャワーでもう一度身を清めて、お待ちかねの温泉だ!
 まずは目当ての薬湯に入って旅の疲れを癒すか……。

 カポーン!

 人間、魔族、エルフ、猫耳族、ドワーフ、プルプルなどのモンスターたち……種族をこえた憩いの場が、そこにはあった。

「平和だな……」

 オレは薬湯に浸かりながら、そんなことを思った。


 * * *


 そのころ女湯では……。

(いきなり温泉にみんなで入るなんて聞いてないよ!)

 イクトの幼馴染であるカノンは、突然の温泉展開に戸惑っていた。脱衣コーナーで、服を脱ぎ始めた周りを見てオロオロしてしまう。

(しかもイクトの仲間たちって、美人でスタイルのいい人ばかりじゃん!)

 右隣で服を脱ぎ始めたアズサをチラリと見るも、やはり人間族と異なるエルフ族であるアズサの肌は色白すべすべで美しく、自分にちょっぴり自信のないカノンは脱ぐのを躊躇した。

(アズサさん……肌超綺麗……やっぱりエルフって、特別な美容とかしてるのかな?)

 さらに、左隣には着痩せするタイプだったのか、かなり巨乳でくびれるところはきちんと細い、ナイスバディのマリアが脱衣を完了し、抜群のスタイルを露わにしていた。

(賢者のマリアさん……なんか胸が大きいな……Fくらいありそう……どうしよう……私、恥ずかしくてタオル取れないよ……)
 仕方ないので服を脱いだものの、タオルを全身に巻いてなるべく身体を隠すようにするカノン。

(なむらちゃん……すごいな……無表情で堂々としてる……)

 カノンの完全防備は不自然に見えたのか、それとも新しく仲間になったばかりで遠慮していると勘違いしたのか、フレンドリーにマリアがカノンにタオルを取るようにアドバイスしてきた。

「カノンさん! 女同志なんですから、恥ずかしがらなくていいんですよ!」
 たわわな胸をオープンにしたマリアがカノンを優しく諭す。
 プルルン……カノンの目にマリアの巨乳が焼き付き、思わず動揺する。

「タオル取って入浴するのがマナーなんだぞ! ほら!」
 アズサもDカップくらいありそうなバストを堂々と晒しており、カノンにくすぐり攻撃をしてきて……タオルを剥がす。
「あっダメ! コチョコチョしないで……あん、くすぐったい!」

(マリアさんとアズサさんに促されてタオルを取る羽目になっちゃった……)

「恥ずかしい……」
 全裸になり頬を赤らめて照れるカノンに、
「カノンさん、キレイなスタイルしているじゃないですか?」
「よぉし! 仲間になった記念に、背中を流してやるぜ!」
 優しいマリアさんとノリノリのアズサさん。
「早く温泉に入ろうよ!」
 無邪気な笑顔でスパをエンジョイする楽しそうなアイラちゃん……。

(なんでみんな堂々としているの? どうしよう……)

 いろいろ馴染めずに、恥ずかしさで困惑するカノンなのであった。
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