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第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜
第1章 1:ヒロイン攻略ルート始まる
しおりを挟む異世界スマホRPG『蒼穹のエターナルブレイクシリーズ』は、アースプラネットと呼ばれる電子異世界が舞台。その名の通りアース線で繋がれたプラネットを旅行感覚で楽しめるアバター体転生ゲームとして人気だ。
電子で連携している実在の異世界とでも呼ぶべきだろうか。
ゴールデンウィークも終わり、世間が日常ムードを取り戻しはじめたある日の午後。異世界ログインの準備を居間でしていると、妹のアイラにふと声をかけられる。
「お兄ちゃん、今回のアップデートから、異世界と地球の共同アカデミーが正式開校なんでしょう? 経過時間も地球での1時間が1週間換算なんだっけ。先に萌子お姉ちゃんは異世界留学してたけど、特別枠だったし。また、みんなで異世界に行き来しやすくなるね」
「あぁ。オレもしばらくの間ログイン勢だったけど、1時間のログインで向こうでは1週間滞在できるなら復帰しやすくなるよ」
向こうではアバターの肉体と地球における肉体をうまく切り替えながら、適当にクエストをこなしている冒険者もチラホラ。
今からログインすると、1時間ゲーム内に入るだけで1週間分向こうで遊べるのだ。現実世界では受験を控えた年齢なこともあり、時間を有効に活用できる仕組みは有り難い。
うちの高校は提携している大学に推薦で入れるので、受験といっても面接だけだが。
「しかも、次のイベントで俗に言う攻略ルートってヤツだよね。ついにお兄ちゃんも年貢の納め時かぁ……誰と結婚する流れになるのかな。地球ではエリスさんが一緒に暮らしているけど、今日もハロー神殿の行事準備で出ちゃってるし。意外とフラグが確定しないよね」
一時期は一夫多妻制のハーレム勇者として、ギルドメンバーみんなと婚約してしまったオレだったが。地球へ帰還、パートナー聖女ミンティアこと行柄ミチアの手術など、オレ達の環境も変化し、一旦婚約話はうやむやとなった。
「結婚って言ってもゲームシステム上の結婚で、実際の結婚じゃないぞ。オレって女アレルギー持ち出しさ。女の子と仲良くするのに、限界値があるわけで……」
「そうなんだけど、気になるじゃない? ゲーム内の付き合いの延長線上で本物の相手が出来るかも知れないし。それに、伝説のハーレムって設定が忘れられてなかったんだなぁって」
やはり、きちんとヒロインを選ばないのはハーレムストーリーという体裁上許されないのか……。今回の攻略ルート実装は、運命とでも言うべきだろう。
「まぁ攻略ルートって言っても、あくまでもスマホRPG異世界の中でのことだし。みんなで気軽に遊べるように頑張るよ。じゃあ行ってきます」
「はぁい、行ってらっしゃい! 私、今回は動画配信のお仕事でアカデミーには行けないけど。そのうちダーツ魔法学園経由でギルドクエストには顔出すから、向こうで会ったらよろしくねっ」
笑顔でオレに手を振るアイラの姿が次第にぼやけはじめて……オレの意識はスマホRPG異世界へとダウンロードされていく。
スマホの画面の中では、オレそっくりのアバターが準備運動中。そして、データ画面には大型アップデートの文字と学生服姿の冒険者の姿。
看板には、ついに実装された大型イベント……その名も【異世界学園恋愛奇譚】と表示されている。いわゆる恋愛シミュレーション系のイベント内容で、異世界の学園都市に通いながら青春ラブコメが楽しめるらしい。
(ふう……意識がだいぶアバター体とリンクしてきたな。まずはアバターの召喚先を決めて……。拠点はダーツ魔法学園近くの賃貸住宅っと)
魔法陣の光に身を委ねて、オレのアバター体はゆっくりと異世界内の目的地へとデータとして姿を現すのだった。
* * *
(なんだか、この賃貸住宅を見るのも久し振りだなぁ。エステルとククリにはお留守番を頼んじゃってたけど。平気かな?)
地球とギルドを行ったり来たりするだけの毎日だったので、異世界における賃貸住宅にはあまり顔を出さなくなっていた。ログイン勢の拠点となるハロー神殿に仮拠点の自室が設置されたのも、影響しているだろう。
だが、異世界アカデミー提携ゲートがあるダーツ魔法学園に近いのはこちらの賃貸住宅の方。また、拠点として活用する機会が増えそうだ。
「ただいまー。エステル、ククリいる? 実は、異世界の学校にまた通うことになってさぁ……しばらくこの家を拠点として利用することになったんだけど……」
しーん……と静まり返る玄関先。何だか、少しだけ切ない気持ちになる……当たり前か。ギルドクエスト再開時にはククリにマロングラッセや剥き甘栗を納品していたものの、その後はあちらも忙しく疎遠になっていたのだから。
3ヶ月ほど留守にしておいて、同じような雰囲気で出迎えてくれという方が無理があるだろう。
異世界に毎日暮らしていた頃だったら、すぐさま守護天使エステルとリス型精霊ククリが駆け寄ってくれたのだが……。
ため息をついて、自分で玄関の灯りをつけると……パーンッパーンッと派手なクラッカー音が鳴り響く。
「うわっ! びっくりした……なんだ2人ともちゃんとこの家で待っててくれたのか?」
狭い空間に舞い散る色とりどりの紙吹雪が前髪に、はらりと溢れ落ちた。
そう……待ってましたとばかりに、エステルとククリがクラッカー片手に派手な出迎えをしてくれたのだ。あれ? なんだか2人ともテンションが高いぞ。
「パンパカパーン! お久しぶりです。イクト君っ! 相変わらずハーレム勇者してますねぇ……休んでいる間も、いろんな噂を聞いていましたよぉ」
「このハーレム勇者認定協会監査役のククリの耳にもイクトさんのハーレム勇者ぶりは、変わっていないと届いております! まぁ魔獣が討伐された影響で、大半の異世界転生者の記憶が曖昧になってしまったことは残念でしたが。萌子さんも婚約破棄してしまいましたし……」
以前だったら、リス型でオレのそばをくるくると回るククリが今日は珍しく人間型の美少女モードだ。そして、明るさの中にもわずかながら憂いが見受けられた。
当然か……せっかく縁結びしたオレの双子の姉萌子の赤い糸……何者かに切られただけではなく、いつの間にか別の相手と結ばれているのだから。
「萌子とマルスのことだったら、ククリが気にすることじゃないよ。現実世界じゃ、萌子にとってマルスは元婚約者じゃなくて、頼もしいゲーム仲間という存在だ」
「うぅ……ですが、それだけじゃないですよね。まさか、萌子さんが夜空の召喚士である行柄リゲルさんと年の差プラトニック恋愛のフラグが立ってしまうとは……」
オレだって、マルスを差し置いてリゲルさんと萌子が交際関係っぽくなったのは驚いた。けれど、今の萌子はリゲルさんの妹ミチアの友人というポジション。
ミチアは退院できたものの病弱で学校には通えていないし、萌子みたいな友人が重要だろう。その流れで、リゲルさんと萌子のフラグが立ってしまっただけだ。
「例えばさ、マルスからリゲルさんが萌子を奪ったとかなら複雑展開を予想するけど、実際は違うだろう? マルスも萌子のこと友人の1人としか思っていないみたいだし、萌子だって……。スマホRPG上は2人はお似合いに見えていたけど、リアルじゃフラグが立たなかった……それだけだよ」
「うーん、そういう風に解釈すれば良いのでしょうか。このククリ、縁結びの女神として未熟さを痛感していましたが。萌子さんがリゲルさんとの交際フラグでときめいているなら、それはそれで良しとするしかないのでしょう。私は皆さんの幸せを結ぶのが使命なので」
一時期は、オレの義理の兄になるのではないかと思っていたマルス。けれど、当人たちが異世界と現実のギャップがあるなら仕方がないじゃないか。そうやって、割り切るしかない。
「結局、萌子ちゃんもイクト君と同じタイムリープの因果に巻き込まれた1人なんだね……。ほら、以前にイクト君は実はいろんな女の子たちと婚約してはゲーム異世界をやり直しているって言ったでしょう?」
自分自身の話なので、あまり深く考え込むと悩みになりそうだが。実は、オレも萌子みたいに何度も記憶を除去されているらしい。しかも、肝心の恋愛感情の部分だけがキッパリと切り取られていたとか。
「あぁ……自分でも覚えていないからよく分からないけれど。そういう事情だって以前、聞いたな。もしかして、今の萌子とマルスみたいな状態か……」
「うん。タイムリープで正式なルートが切り替わってしまうと、リセットされて大切なことも忘れてしまうの。けど、お互い覚えていないから傷つかずに済んでいただけで……だから、ククリちゃんが気にすることは無いと思う」
久しぶりに3人で会ったのに、何だか重苦しい雰囲気になってしまった。
「そうですね……楽しい記憶はみんな覚えているから、ギルドクエストなんかはまだ人気があるわけで……。ごめんなさい、自分が結んだ縁がこんな風になるなんて思わなかったから……」
「誰もククリを責めていないし、気にすることないよ」
シュンと俯くククリを見ていると、小動物が落ち込んでいるようで切ない。実際にククリは生活の大半をリストして過ごしているわけで、小動物っぽい。
「ククリちゃん! 今日は、朗報なんだから、前を見て話し合おう。イクト君、新しいスマホRPG異世界のイベントが決まったの……異世界学園恋愛奇譚って言うんだよ。いわゆる各ヒロイン攻略ルートってやつだね」
「あぁ! そうですよ。もしかしたら、記憶を失ったもの同士でも、もう一度恋愛のフラグが立つかもしれない攻略ルートってやつです。イクトさんが度重なるタイムリープで、どれくらいの方と婚約解消をしていたかは分かりませんが……。このイベントをこなせば、わだかまりみたいなものを打ち消せるかもしれません!」
そう言って、2人から異世界学園のパンフレットを手渡される。以前も、ダーツ魔法学園に入学して卒業しているが……いわゆる中学の勉強まででプロ勇者として旅立つことになってしまった。だから、上級の学校に進学する機会が来るとは思わなかったのだが。
「入学資格は初級冒険者クリアが条件、年齢制限なしの魔法アカデミー。ゲートを通じて、どの地域からも提携可能な広域範囲の学園。恋や魔法の勉強……仲間たちとのギルドライフを楽しんで! って書いてあるぞ。つまり、学園ものの恋愛シミュレーションで、バトルクエストもあるよって感じだよな」
「ええ、恋愛シミュレーションと言っても、スマホRPG異世界のデータとして収集する義務がありますので。ギルドクエストとして貢献するつもりでデートを楽しんでいただきます。もしかすると、本当に運命の赤い糸の女性が見つかるかも……」
新しいイベントの簡単なコンセプトを説明してくれるククリ。赤い糸にこだわりをもっているあたり、やはり縁結びの女神様だ。
「そうか、それは嬉しいかも……。なんといっても、記憶が一部分除去されているせいで婚約していたミンティアや他の仲間との関係もクリーンになっているからな。改めて、絆を深め直すチャンスか……」
「ええ、今度こそ運命の赤い糸に辿りつけるといいですね。それに、最近実装されたキャラクタークエストも、各章クリア後に次々と追加される予定です。では、始めましょう……最新バージョンアプリアップデート!」
守護天使エステルが、オレのスマホに魔法をかけると……未知のデータがこの異世界に展開される。
異世界スマホRPG【蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-】第十部『異世界学園恋愛奇譚』第1章始まりだっ!
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