上 下
292 / 355
第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜

第1章 1:ヒロイン攻略ルート始まる

しおりを挟む

 異世界スマホRPG『蒼穹のエターナルブレイクシリーズ』は、アースプラネットと呼ばれる電子異世界が舞台。その名の通りアース線で繋がれたプラネットを旅行感覚で楽しめるアバター体転生ゲームとして人気だ。
 電子で連携している実在の異世界とでも呼ぶべきだろうか。

 ゴールデンウィークも終わり、世間が日常ムードを取り戻しはじめたある日の午後。異世界ログインの準備を居間でしていると、妹のアイラにふと声をかけられる。

「お兄ちゃん、今回のアップデートから、異世界と地球の共同アカデミーが正式開校なんでしょう? 経過時間も地球での1時間が1週間換算なんだっけ。先に萌子お姉ちゃんは異世界留学してたけど、特別枠だったし。また、みんなで異世界に行き来しやすくなるね」
「あぁ。オレもしばらくの間ログイン勢だったけど、1時間のログインで向こうでは1週間滞在できるなら復帰しやすくなるよ」

 向こうではアバターの肉体と地球における肉体をうまく切り替えながら、適当にクエストをこなしている冒険者もチラホラ。

 今からログインすると、1時間ゲーム内に入るだけで1週間分向こうで遊べるのだ。現実世界では受験を控えた年齢なこともあり、時間を有効に活用できる仕組みは有り難い。
 うちの高校は提携している大学に推薦で入れるので、受験といっても面接だけだが。

「しかも、次のイベントで俗に言う攻略ルートってヤツだよね。ついにお兄ちゃんも年貢の納め時かぁ……誰と結婚する流れになるのかな。地球ではエリスさんが一緒に暮らしているけど、今日もハロー神殿の行事準備で出ちゃってるし。意外とフラグが確定しないよね」

 一時期は一夫多妻制のハーレム勇者として、ギルドメンバーみんなと婚約してしまったオレだったが。地球へ帰還、パートナー聖女ミンティアこと行柄ミチアの手術など、オレ達の環境も変化し、一旦婚約話はうやむやとなった。

「結婚って言ってもゲームシステム上の結婚で、実際の結婚じゃないぞ。オレって女アレルギー持ち出しさ。女の子と仲良くするのに、限界値があるわけで……」
「そうなんだけど、気になるじゃない? ゲーム内の付き合いの延長線上で本物の相手が出来るかも知れないし。それに、伝説のハーレムって設定が忘れられてなかったんだなぁって」

 やはり、きちんとヒロインを選ばないのはハーレムストーリーという体裁上許されないのか……。今回の攻略ルート実装は、運命とでも言うべきだろう。

「まぁ攻略ルートって言っても、あくまでもスマホRPG異世界の中でのことだし。みんなで気軽に遊べるように頑張るよ。じゃあ行ってきます」
「はぁい、行ってらっしゃい! 私、今回は動画配信のお仕事でアカデミーには行けないけど。そのうちダーツ魔法学園経由でギルドクエストには顔出すから、向こうで会ったらよろしくねっ」

 笑顔でオレに手を振るアイラの姿が次第にぼやけはじめて……オレの意識はスマホRPG異世界へとダウンロードされていく。

 スマホの画面の中では、オレそっくりのアバターが準備運動中。そして、データ画面には大型アップデートの文字と学生服姿の冒険者の姿。

 看板には、ついに実装された大型イベント……その名も【異世界学園恋愛奇譚】と表示されている。いわゆる恋愛シミュレーション系のイベント内容で、異世界の学園都市に通いながら青春ラブコメが楽しめるらしい。

(ふう……意識がだいぶアバター体とリンクしてきたな。まずはアバターの召喚先を決めて……。拠点はダーツ魔法学園近くの賃貸住宅っと)
 魔法陣の光に身を委ねて、オレのアバター体はゆっくりと異世界内の目的地へとデータとして姿を現すのだった。


 * * *


(なんだか、この賃貸住宅を見るのも久し振りだなぁ。エステルとククリにはお留守番を頼んじゃってたけど。平気かな?)

 地球とギルドを行ったり来たりするだけの毎日だったので、異世界における賃貸住宅にはあまり顔を出さなくなっていた。ログイン勢の拠点となるハロー神殿に仮拠点の自室が設置されたのも、影響しているだろう。

 だが、異世界アカデミー提携ゲートがあるダーツ魔法学園に近いのはこちらの賃貸住宅の方。また、拠点として活用する機会が増えそうだ。

「ただいまー。エステル、ククリいる? 実は、異世界の学校にまた通うことになってさぁ……しばらくこの家を拠点として利用することになったんだけど……」

 しーん……と静まり返る玄関先。何だか、少しだけ切ない気持ちになる……当たり前か。ギルドクエスト再開時にはククリにマロングラッセや剥き甘栗を納品していたものの、その後はあちらも忙しく疎遠になっていたのだから。
 3ヶ月ほど留守にしておいて、同じような雰囲気で出迎えてくれという方が無理があるだろう。

 異世界に毎日暮らしていた頃だったら、すぐさま守護天使エステルとリス型精霊ククリが駆け寄ってくれたのだが……。

 ため息をついて、自分で玄関の灯りをつけると……パーンッパーンッと派手なクラッカー音が鳴り響く。

「うわっ! びっくりした……なんだ2人ともちゃんとこの家で待っててくれたのか?」

 狭い空間に舞い散る色とりどりの紙吹雪が前髪に、はらりと溢れ落ちた。

 そう……待ってましたとばかりに、エステルとククリがクラッカー片手に派手な出迎えをしてくれたのだ。あれ? なんだか2人ともテンションが高いぞ。

「パンパカパーン! お久しぶりです。イクト君っ! 相変わらずハーレム勇者してますねぇ……休んでいる間も、いろんな噂を聞いていましたよぉ」
「このハーレム勇者認定協会監査役のククリの耳にもイクトさんのハーレム勇者ぶりは、変わっていないと届いております! まぁ魔獣が討伐された影響で、大半の異世界転生者の記憶が曖昧になってしまったことは残念でしたが。萌子さんも婚約破棄してしまいましたし……」

 以前だったら、リス型でオレのそばをくるくると回るククリが今日は珍しく人間型の美少女モードだ。そして、明るさの中にもわずかながら憂いが見受けられた。
 当然か……せっかく縁結びしたオレの双子の姉萌子の赤い糸……何者かに切られただけではなく、いつの間にか別の相手と結ばれているのだから。

「萌子とマルスのことだったら、ククリが気にすることじゃないよ。現実世界じゃ、萌子にとってマルスは元婚約者じゃなくて、頼もしいゲーム仲間という存在だ」
「うぅ……ですが、それだけじゃないですよね。まさか、萌子さんが夜空の召喚士である行柄リゲルさんと年の差プラトニック恋愛のフラグが立ってしまうとは……」

 オレだって、マルスを差し置いてリゲルさんと萌子が交際関係っぽくなったのは驚いた。けれど、今の萌子はリゲルさんの妹ミチアの友人というポジション。
 ミチアは退院できたものの病弱で学校には通えていないし、萌子みたいな友人が重要だろう。その流れで、リゲルさんと萌子のフラグが立ってしまっただけだ。

「例えばさ、マルスからリゲルさんが萌子を奪ったとかなら複雑展開を予想するけど、実際は違うだろう? マルスも萌子のこと友人の1人としか思っていないみたいだし、萌子だって……。スマホRPG上は2人はお似合いに見えていたけど、リアルじゃフラグが立たなかった……それだけだよ」
「うーん、そういう風に解釈すれば良いのでしょうか。このククリ、縁結びの女神として未熟さを痛感していましたが。萌子さんがリゲルさんとの交際フラグでときめいているなら、それはそれで良しとするしかないのでしょう。私は皆さんの幸せを結ぶのが使命なので」

 一時期は、オレの義理の兄になるのではないかと思っていたマルス。けれど、当人たちが異世界と現実のギャップがあるなら仕方がないじゃないか。そうやって、割り切るしかない。

「結局、萌子ちゃんもイクト君と同じタイムリープの因果に巻き込まれた1人なんだね……。ほら、以前にイクト君は実はいろんな女の子たちと婚約してはゲーム異世界をやり直しているって言ったでしょう?」

 自分自身の話なので、あまり深く考え込むと悩みになりそうだが。実は、オレも萌子みたいに何度も記憶を除去されているらしい。しかも、肝心の恋愛感情の部分だけがキッパリと切り取られていたとか。

「あぁ……自分でも覚えていないからよく分からないけれど。そういう事情だって以前、聞いたな。もしかして、今の萌子とマルスみたいな状態か……」
「うん。タイムリープで正式なルートが切り替わってしまうと、リセットされて大切なことも忘れてしまうの。けど、お互い覚えていないから傷つかずに済んでいただけで……だから、ククリちゃんが気にすることは無いと思う」

 久しぶりに3人で会ったのに、何だか重苦しい雰囲気になってしまった。

「そうですね……楽しい記憶はみんな覚えているから、ギルドクエストなんかはまだ人気があるわけで……。ごめんなさい、自分が結んだ縁がこんな風になるなんて思わなかったから……」
「誰もククリを責めていないし、気にすることないよ」

 シュンと俯くククリを見ていると、小動物が落ち込んでいるようで切ない。実際にククリは生活の大半をリストして過ごしているわけで、小動物っぽい。

「ククリちゃん! 今日は、朗報なんだから、前を見て話し合おう。イクト君、新しいスマホRPG異世界のイベントが決まったの……異世界学園恋愛奇譚って言うんだよ。いわゆる各ヒロイン攻略ルートってやつだね」
「あぁ! そうですよ。もしかしたら、記憶を失ったもの同士でも、もう一度恋愛のフラグが立つかもしれない攻略ルートってやつです。イクトさんが度重なるタイムリープで、どれくらいの方と婚約解消をしていたかは分かりませんが……。このイベントをこなせば、わだかまりみたいなものを打ち消せるかもしれません!」

 そう言って、2人から異世界学園のパンフレットを手渡される。以前も、ダーツ魔法学園に入学して卒業しているが……いわゆる中学の勉強まででプロ勇者として旅立つことになってしまった。だから、上級の学校に進学する機会が来るとは思わなかったのだが。

「入学資格は初級冒険者クリアが条件、年齢制限なしの魔法アカデミー。ゲートを通じて、どの地域からも提携可能な広域範囲の学園。恋や魔法の勉強……仲間たちとのギルドライフを楽しんで! って書いてあるぞ。つまり、学園ものの恋愛シミュレーションで、バトルクエストもあるよって感じだよな」
「ええ、恋愛シミュレーションと言っても、スマホRPG異世界のデータとして収集する義務がありますので。ギルドクエストとして貢献するつもりでデートを楽しんでいただきます。もしかすると、本当に運命の赤い糸の女性が見つかるかも……」

 新しいイベントの簡単なコンセプトを説明してくれるククリ。赤い糸にこだわりをもっているあたり、やはり縁結びの女神様だ。

「そうか、それは嬉しいかも……。なんといっても、記憶が一部分除去されているせいで婚約していたミンティアや他の仲間との関係もクリーンになっているからな。改めて、絆を深め直すチャンスか……」
「ええ、今度こそ運命の赤い糸に辿りつけるといいですね。それに、最近実装されたキャラクタークエストも、各章クリア後に次々と追加される予定です。では、始めましょう……最新バージョンアプリアップデート!」

 守護天使エステルが、オレのスマホに魔法をかけると……未知のデータがこの異世界に展開される。

 異世界スマホRPG【蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-】第十部『異世界学園恋愛奇譚』第1章始まりだっ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】冒険者PTを追放されたポーターの僕、チートスキルに目覚めて世界最強に。美少女たちにもモテまくりで、別の意味でツッコミが追いつかない

岡崎 剛柔
ファンタジー
「カンサイ、君は今日限りでポーターをクビだ。さっさと出て行ってくれ」  ポーターとして日々の仕事を頑張っていたカンサイは、自身が所属していた冒険者パーティーのリーダーから給料日前にそう宣告された。  しかもリーダーのクビの理由はあまりにも身勝手で理不尽だったことに加えて、働きぶりが無能だから給料を支払わないとも告げてきたのだ。  もちろん納得がいかなかったカンサイは、リーダーに掴みかかりながら抗議して給料の支払いを求めた。  しかし、リーダーは給料の支払いどころか「無能が俺に触れるな」と平手打ちをしてきた。  パンッ!  その瞬間、カンサイは世界最強かつ空前絶後の超絶スキル――【ツッコミ】スキルに目覚める。  そして心身ともに生まれ変わったカンサイは、この【ツッコミ】スキルを使ってリーダーとその仲間を瞬殺ざまぁした(ざまぁしたのは男だけで女魔法使いは仲間にした)。  やがてカンサイはロリっ子神様(?)と出会うことで、自分の真の正体がわかるどころか【ツッコミ】スキルが【神のツッコミ】スキルへと変化する。  その後、カンサイは女魔法使い、ロリっ子神様(?)、第三王女たちと独自のハーレムを築いたり、魔人を倒して国王に力を認められて領地をもらったり、少し変な少女に振り回されたりしながらも何やかんやと〝ツッコミ〟をしながら成り上がっていく。  平手打ちから始まったポーターのツッコミ無双ファンタジー、ここに大開幕!!

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...