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第九部 魔獣と夜空の召喚士編

第九部 第17話 ギルドメンバー再結成に向けて

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 パートナー聖女ミンティアこと行柄(ゆきえ)ミチアと魔獣封印への誓いを交わし、勇者としての決意を新たにした。

 コテージの管理者リーメイはオレとミチアが2人っきりで話せるようにとお茶を出してくれた後は、別室で待機していてくれている。
 ソファに座り、ゆっくりとブレンドティーを飲む。特にミチアは寒い中移動してきたばかりだし、温かい飲み物で暖をとるといいだろう。
 コトン……とカップをテーブルに置くとミチアはだいぶ情緒が安定したのか、先程よりもしっかりとした口調で話始めた。

「イクト君、ありがとう、私の病気のことまで考えてくれて……。やっぱりイクト君は本物の勇者様なんだね」

 涙ながらに、言葉のひとつひとつを噛みしめるようにお礼を言うミチア。きっと自らが不治の病であることを思い出して辛かったのだろう。記憶を封じられた状態で……まるで生まれた時から異世界人であったかのようにアバターの肉体へ魂を宿していたのだから。

 まるでミチアは、オレのことを聖人君子かのようにことを捉えているようだが、そんな大層なもんじゃない。首を軽く横に振り、思わず否定しながら自分自身の思いを伝える事にする。

「いいんだよ、ミチア。オレにしろ他の勇者候補たちにしろ、異世界へ呼ばれた勇者だからといって、宿命だから戦っていたわけじゃない。おそらく、スマホRPGの延長線上としてクエストをこなして……。だけど、気がついたら異世界の平和に貢献しているような……それが嬉しいって感じる。そういう人が多い……けれどさ」

 淡々とこれまでの自分の勇者としてのスタンスを素直に告げ、その先にある気持ちの変化を伝えようとする。

「多分、イクト君だけじゃなく、スマホRPG異世界に転生した人は少なからずそう言う感情を持っていると思うよ……。でも、イクト君はそれだけじゃなくなったんだね」

 同じスマホゲームのユーザーとして、黙ってオレの告白に耳を傾けていたミチアが思わずその言葉の先を促すように問いかける。もしかしたら、彼女も勇者や聖女という宿命的な職業の生き方について、思うところがあったのかもしれない。

「ああ。ミンティアが……ミチアが戦っている不治の病の原因が魔獣に魔力を吸い取られていることならば、オレは自分の持てる力をもってしてでも魔獣に挑むべきだと思えるようになった。これは、例えオレが勇者に選ばれなくても、きっとそういう風にしていたよ」

 そうだ、オレがミチアを助けるために魔獣へと挑む決意をしたのは勇者の宿命を背負っているから……という訳ではない。
 オレが、ただのごく普通の高校生結崎イクトだとしても……。行柄ミチアという【淡い恋心を胸に秘めて接していた友達】を助けたい気持ちは、生まれていただろう。
 そして、偶然にも勇者という魔獣封印に適した職業に転生出来たことは神に感謝するべきことなのだ。

「……! イクト君……。私にとっては、助かる見込みの少ない病で入院をしていて絶望の明日しかない行柄ミチアにとっての勇者様は、間違いなくイクト君だった。あの日偶然、動かなくなった車椅子を元の場所に戻してくれたあなたが、私を等身大の女の子にしてくれた……。だから、過去も未来も……結崎イクトという人が、誰かが否定しても、私にとってはイクト君が運命の勇者様……」

 初めてミンティアとダーツ魔法学園で出会った時にも告げられたセリフ。
 だが、当時スピリチュアルを含んだニュアンスで何気なく使っていた運命というのは、もっと身近ですぐそばにあるものだった。何気ない小さな縁が少しずつ結ばれて、次第に運命に切り替わる。それが、本来的なオレたちの真実だった。

「嬉しいよ、ミチア。例えばさ、オレたちの出会いが偶然だとしても本来降りかかるはずだった運命を変えることが出来れば、きっとそれが【運命の出会い】に変わるんだ。だから、2人で……いや、冒険の仲間みんなで出来るところまで変えていこう……後悔しないように」

 話し合いと言う名のお互いの想いを確認する時間が、無事に終わり……やがて時刻は夜を迎えた。
 クエスト報酬の限定武器やアクセサリーを手土産に上機嫌の萌子たちが、コテージに帰還。

 ミンティア……行柄ミチアの再加入を歓迎するために、そして聖人たちのお祝いの日である万聖節のために、その日はささやかなパーティーとなった。


 * * *


 あれから数日が経ち、いよいよ龍の里の開放期間が終了する。だが、事実上パーティーメンバーたちと解散状態に追い込まれていたオレは、上からの指示待ちでギルドクオリアに戻ることが出来ずにいた。一応は、出立準備をしてコテージで待機することに。

「イクトはこれからの予定はどうするの? 私は、ルーン会長とチームを組んで生徒会メンバー出身者ギルドで活動し直すことになったけど……」

 マルスと婚約破棄となった萌子は、女勇者として完全復帰することに。卒業後は特定のギルドに所属していなかった萌子の所属先は、ダーツ魔法学園生徒会出身メンバーで構成される小規模ギルド。
 表立って活動しているギルドではないが、ルーン会長とともにメンバーを組み直すならそこに所属するのが妥当だろう。

「ああ、まだマリアたちの采配が決まっていないんだ。今後のギルドメンバーたちとの活動をどうするのか。そろそろククリから連絡が来るはずなんだけど……」

 すると、大まかな事情を把握しているルーン会長がポツリと懸念材料を指摘する。

「ふむ、アカウントBAN騒動もあったし、いつ異世界から地球へと強制送還されるか分からない我々転生者と現地人であるマリアさんたちを組ませる気があるかどうか……。ハーレム勇者認定協会の判断次第だろうね」

 萌子行方不明事件やアカウントBAN騒動が起きてから、一時的に解散となった異世界人のギルドメンバー。再び再結成しても良い話の流れになっているはずだが、なかなか返事が来ない。

 すると、ハロウィン期間終了とともに呪いが解けたランターンさんが、気になる情報を呟く。

「……実は、昨日の夜異世界転生者ギルドクオリアのマスターから連絡があって……。クオリアの本部を移転するって、報告が来たよ。ネオ関西の現在の本部は支店扱いになって……大きなギルドの傘下に入ることになるんだ」
「えっクオリアの本部を移転……つまり企業買収にあったってことですか……」

 転生者ギルドクオリアの突然の本部移転……これまでは、転生者たちのみで独立活動を行ってきたギルドだったが……。

「うん。やっぱり、アカウントBANされたマルス君が所属していたことが関係していると思う。僕個人としてはマルス君のこと結構いい奴だと思っているし、今も何だかんだ言って信用しているけどね。萌子さんのことだって、本当に結婚したいと願っていたんだと思っているよ」 
「ランターンさん……ありがとう。私の気にしていたところをフォローしてくれて……」

 マルスがBANされた当初は、マルスのことをいろいろと言っていたランターンさん。悔しそうな表情で、語る今の彼からはそのような素振りは見えない。一応は、本当にマルスのことを仲間だと信じていたのだろう。
 萌子も以前よりは吹っ切れているが、恋愛感情がマルスにあったのか気にしていた部分だったようでしんみりとした表情だ。

 BAN騒動の余波で婚約破棄となった萌子に気を使って語らないようにしていたミチアが、実は思うところがあったのかポツリポツリと語り始めた。

「やっぱり、うちの会社が突然BANを始めたから、萌子ちゃんも婚約破棄に……。けど、マルスさんはどうしてBANされてしまったのかな? 兄が、そんな簡単に自社の人間を切るようなことするなんて信じられない……」

 ミチアの疑問にルーン会長が新たな疑問を呟く。

「ああ、そういえばミチアさんはアースプラネットクロニクルの製作者である行柄リゲル社長の妹さんなんだよね……。あれっ……行柄社長は今どういう状態なんだろう?」
「確かに今の手荒なアカウントBANは、行柄社長っぽくないやり方で違和感があるよな。ルーン会長の疑問は当たっているかも知れない」

 オレもルーン会長の気になっている点と同じ箇所が気になる。

「ええ……兄は、私が異世界のアバター体に転生してからもたまに会いに来てくれて……。ごく自然に、会いに来るから記憶を取り戻すまでは自分のこと現地の異世界人だと信じていたし。兄もこの異世界でハイレベル召喚士ギルドで修行を……」
「つまり、行柄社長も今はアバター体を使って異世界で活動しているってことか。まぁ地球での1時間がここでの1年という時間軸じゃ、こっちを拠点にするのが自然……?」

 何だろう……ものすごい違和感が襲ってきた。重要な何かに気づいてしまったのだろう。その証拠に、重たい沈黙が居間を包む。

「じゃあ……一体、誰がこの異世界で運営としてアカウントBANしたり出来るの。というより、今の運営者は誰なの? 万が一、行柄社長以外の誰かがいるとして……」

 萌子が、オレたち全員の気持ちを代弁するかのごとく肝心の部分を突いた。実在する異世界とリンクしている管理された異世界……そう信じていたが。今の状況は、行柄リゲル社長の管理ではない可能性。だが、それ以上この推論は続かず再び沈黙……。

 すると、沈黙を破るように、龍の里ギルドに呼ばれて外へ出ていたアイラとリーメイがコテージに戻って来た。笑顔の2人から明るい報告が届く。

「お兄ちゃん、ハーレム勇者認定協会から采配のお知らせが来たよ! マリアさんたちとは条件付きでもう一度パーティーを組んでいいって。ククリからも直接話しがあるらしいけれど……契約クエストって設定なんだって!」

 条件付きのようだが、長いこと一緒に組んできたマリアたちとの再活動許可が降りてホッとする。だが、どうやらすぐに担当のククリと話せるわけではないようだ。しかも、契約クエストとは……?

「認定協会の意向で、龍の里の外でお話ししたいとのことですわ。どうやら、リス型精霊のククリさんにはこの龍の里のオーラはエネルギーが強すぎるとか……。もしかするとククリさんも我々と同じく擬態能力を備えた種族なのかもしれませんわね。一緒に、この近くにある魔法少女育成施設へと移動しましょう」
「擬態能力……それってククリは実はリス型精霊じゃなくて、別の種族ってこと?」

 可愛いらしいマスコット的存在のリス型精霊ククリには、意外な秘密があるらしい。

「ええ……私の推測ですが、リスとしてのお姿は世をしのぶ仮の姿の可能性も……。それから龍族である私との契約中は、拠点として龍の里を解放期間終了後もみなさんを入場させることが出来るようになりました。ぜひ、これからもこの拠点をご利用下さい!」
「ありがとう、助かるよ。じゃあ、気持ちを改めて行こうか……次のクエストへ!」
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