25 / 59
正編 第2章 パンドラの箱〜聖女の痕跡を辿って〜
02
しおりを挟む「探索部隊の手当て、私達も手伝います!」
「あぁアメリアさん、ラルドさん。助かります……とてもじゃないけど、手当が間に合わないの!」
ギルド施設から走って、五分ほどの距離に建つ王立騎士団の兵士詰所に到着。転移魔法で逃れてきたと言う探索部隊の隊員達は、軽傷者もいればかなり酷い傷のものも多い。
ポックル君が室内をパタパタと飛んで、部屋の怪我人の数を把握してくれたが、一人ずつ手当てをする余裕はなさそうだった。
「クルックー。怪我人の数が多く一刻を争う場合には、全体回復魔法で一旦回復をして、酷い傷の人達の手当てを改めて行うのが一般的です」
「冒険者の治癒魔法として有名な全体回復魔法ね。書物で読んで呪文は習得済みだけど、実践する機会がなかったから初めて使うの。上手くいくといいけど」
「僕も錬金術でポーションやあとアメリアさんのMP回復薬を作って、サポートしましょう。みんなでチカラを合わせれば、なんとか間に合うはずです」
ラルドとポックル君が手分けをして、重傷者に回復ポーションを配っている。彼らが奮闘している間に、アメリアが深呼吸をして難易度の高い全体回復魔法の呪文を詠唱し始めた。
「大地の神ガイアの名の下に、水の神、風の神、そして火の神マルスよ。そして命を守る白の精霊よ……この部屋にいる全ての者の、あらゆる怪我を病いを治癒するチカラを我に授けよ……!」
パァアアアアッ!
『うぅ……おや、痛みが消えてゆく』
『凄い、さっきまで身体が千切れるような痛みだったのに。こんなに楽になるなんて』
『はぁ……ようやく、呼吸が楽に……』
アメリアの周辺に幾つもの魔法陣が光となってとなって形成されて、回復の魔法が部屋中の全ての人に行き渡る。
「……上手くいったのかしら? あの、皆さん傷は……?」
それまで傷に苦しみ唸っていた兵士達だったが、突然の魔法によりみるみるうちに回復したことに驚いている様子。そして、その全体回復魔法の使い手の存在に気付き、ザワザワとどよめきが起こる。
「もしかして、精霊魔法国家アスガイアから移住してきたという元王妃候補のアメリア様?」
「我が国のギルドに加入してきたという噂だったが、まさかオレらみたいな一般兵のためにこんな凄い魔法を使って下さるなんて!」
「ありがとうございます! アメリア様……あぁこれで、探索部隊も報われる。なぁ……アッシュ。アッシュ……? 何処だ……アイツが今回の功績者だっていうのに」
部隊の隊員全てがこの詰所に転移魔法で送られてきたという情報だったが、どうやら一人だけここにいないらしい。
「アッシュ、あいつ……探索部隊用の剣なんかで、黒いドラゴンみたいなハイレベルモンスターに挑むから。攻撃が通っただけでも奇跡みたいなもんなのに……無茶しやがって」
「ドラゴンの鱗を採取できたのは、アッシュだけなんだ。けど、こんな結末じゃあ。ちっと生意気だが、この部隊じゃ最年少で成人すらしてないのに」
「アッシュは神話の精霊様と同じ黒髪青目で、男のくせにやたら綺麗なツラしてやがったから。揶揄われたり嫉妬されたりして……もうすぐ18歳だったか。まだオレからみりゃただのガキだった。可哀想なことを……」
そのアッシュと言う名の兵士の不在に、がっくりとして落ち込む者に事情を訊いてみることにした。
「あ、あの……アッシュさんと言う方は、今どこに? もしかしたら、今回復魔法をかければ助けられるかも知れない」
「ここにいないとなると、一番重傷のヤツを搬送する特別室にいる可能性が。けど、オレら一般兵の回復なんて普段は後回しだし、もしかしたらもう……」
特別室は一般兵の治療には滅多に使われないということで、その線は無いだろうと踏んだらしい。諦めているのか既にそのアッシュという少年は、この世にいないという言い方だ。
「そんな! 諦めちゃダメよっ。一人だけいないということは、運良く運ばれたかも知れないわ。特別室ね、そこへ……」
「アメリアさん! このMP回復薬を使った方がいいですよ。これだけの人数に魔法をかけたら、貴女も相当疲労しているはずだ。それと、ポックル君もアメリアさんに着いて行ってあげて下さい」
ポーションを錬金出来るラルドがこの場に残り、残る一人の重傷者の治療はアメリアとポックル君が引き受けることになった。
「ラルドさん、ありがとう。行くわよ、ポックル君」
「クルックー、参りましょうアメリア様。我々が決して最後まで諦めないことを、その黒いドラゴンとやらに見せてやりましょう!」
* * *
兵士に教えられた特別室があるという場所へ向かうと、見るからに位の高そうな服装の男達の口論が展開されていた。
「なんでよりによって、アッシュ様をそのような危険な場所へと探索に向わせたんだっ! アッシュ様の身に何かあったら、もうこの国は終わりなんだぞっ。女王になるはずだった姫様は既に嫁ぎ先が内定されている。現状、国を継ぐのに相応しいのはアッシュ様だけなんだっ」
「しかし、ほとんどの兵達はアッシュ様がごく普通の一般兵だと思い込んでいるのです。事情も事情ですし……時が来るまで身分を隠すようにと」
「いや、あの黒いドラゴンはペルキセウス王家の血にしか反応しないともいう。アッシュ様の王の器や血に反応した可能性も……。18歳になるまで待たず、やはり民や兵にアッシュ様が王子だと公表し、王宮に縛っておくべきだったか」
盗み聞きするつもりは無かったが、そのアッシュという少年の情報が随分と先程の兵士からのものと違うようで困惑する。王宮関係者らしき人達が皆、『アッシュ様』、『王族の血』と話していてまるで彼こそがこの国を継ぐ王子のような言い方だった。
「あ、あの。私、アメリア・アーウィンと申します。もしよろしければ、そのアッシュさんという方の治療を行いたいのですが……」
「アメリア・アーウィン様……隣国の聖女の……。おぉっ神はまだ、我々を見捨ててはいなかった! お願いしますっ。是非、アッシュ様を……アッシュ王子を助けて下さい!」
14
お気に入りに追加
1,950
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~
juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。
しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。
彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。
知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。
新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。
新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。
そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。
もう、あなたを愛することはないでしょう
春野オカリナ
恋愛
第一章 完結番外編更新中
異母妹に嫉妬して修道院で孤独な死を迎えたベアトリーチェは、目覚めたら10才に戻っていた。過去の婚約者だったレイノルドに別れを告げ、新しい人生を歩もうとした矢先、レイノルドとフェリシア王女の身代わりに呪いを受けてしまう。呪い封じの魔術の所為で、ベアトリーチェは銀色翠眼の容姿が黒髪灰眼に変化した。しかも、回帰前の記憶も全て失くしてしまい。記憶に残っているのは数日間の出来事だけだった。
実の両親に愛されている記憶しか持たないベアトリーチェは、これから新しい思い出を作ればいいと両親に言われ、生まれ育ったアルカイドを後にする。
第二章
ベアトリーチェは15才になった。本来なら13才から通える魔法魔術学園の入学を数年遅らせる事になったのは、フロンティアの事を学ぶ必要があるからだった。
フロンティアはアルカイドとは比べ物にならないぐらい、高度な技術が発達していた。街には路面電車が走り、空にはエイが飛んでいる。そして、自動階段やエレベーター、冷蔵庫にエアコンというものまであるのだ。全て魔道具で魔石によって動いている先進技術帝国フロンティア。
護衛騎士デミオン・クレージュと共に新しい学園生活を始めるベアトリーチェ。学園で出会った新しい学友、変わった教授の授業。様々な出来事がベアトリーチェを大きく変えていく。
一方、国王の命でフロンティアの技術を学ぶためにレイノルドやジュリア、ルシーラ達も留学してきて楽しい学園生活は不穏な空気を孕みつつ進んでいく。
第二章は青春恋愛モード全開のシリアス&ラブコメディ風になる予定です。
ベアトリーチェを巡る新しい恋の予感もお楽しみに!
※印は回帰前の物語です。
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません
との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗
「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ!
あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。
断罪劇? いや、珍喜劇だね。
魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。
留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。
私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で?
治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな?
聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。
我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし?
面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。
訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結まで予約投稿済み
R15は念の為・・
妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜
雪島 由
恋愛
聖女として国を守ってきたマリア。
だが、突然妹ミアとともに現れた婚約者である第一王子に婚約を破棄され、ミアに聖女の座まで譲れと言われてしまう。
国を頑張って守ってきたことが馬鹿馬鹿しくなったマリアは潔くミアに聖女の座を譲って国を離れることを決意した。
「あ、そういえばミアの魔力量じゃ国を守護するの難しそうだけど……まぁなんとかするよね、きっと」
*この作品はなろうでも連載しています。
前世の記憶を取り戻したら貴男が好きじゃなくなりました
砂礫レキ
恋愛
公爵令嬢エミア・シュタイトは婚約者である第二王子アリオス・ルーンファクトを心から愛していた。
けれど幼い頃からの恋心をアリオスは手酷く否定し続ける。その度にエミアの心は傷つき自己嫌悪が深くなっていった。
そして婚約から十年経った時「お前は俺の子を産むだけの存在にしか過ぎない」とアリオスに言われエミアの自尊心は限界を迎える。
消えてしまいたいと強く願った彼女は己の人格と引き換えに前世の記憶を取り戻した。
救国の聖女「エミヤ」の記憶を。
表紙は三日月アルペジオ様からお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる