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正編 第1章 追放、そして隣国へ

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 アグレッシブに懐いてくる精霊鳩に押し切られる形で、ペットならぬ使い魔を飼うことになってしまったアメリア。腹が膨れて満足なのか、フッカリとした羽根を羽繕いをする姿は、なかなか愛くるしい。ただし、鳩というよりフクロウに見えるところだけが不思議でならないが。

(でも……まぁ私も心の何処かで、可愛いペットを飼いたい願望がずっと潜んでいたから、きっと自分で引き寄せてしまったのね)

「よろしくね、ポックル君。えぇと、精霊鳩ってやっぱり飼うのに免許登録とか必要なのかしら」
「アメリアさん、こちらこそよろしくです。クルックー。ワタクシどもは、飼うというより契約がメインですので、使い魔センターにて羊皮紙にサッとサインをしていただけたらと」
「成る程、そういう感じなのね。他にも何か必要なものは……私達以外にも精霊鳩を連れている人がいればいいんだけど」

 ギルドカフェのテラス席には、自分達以外では猫や狼の使い魔を連れた冒険者の姿が見えるた。この辺りには、精霊鳩を連れている人は見かけない。

「ふむ、地域性の問題で、鳥系の使い魔は流行って居ないのでしょうか」
「そうね、しかもポックル君って精霊ですものね。正体を知らない人が見たら、フクロウに見えるでしょうけど」

 動物の種類によっては飼い主になるのに特別な許可を得なくてはいけない種類もあるそうだし、特に精霊種であるポックル君はかなりレアな存在だと思われた。ポックル君自身は、レア感をあまり見せないようにフレンドリーに接してくる。

「では早速、ギルド併設の使い魔センターへ挨拶に伺いましょう。ワタクシめがアメリア様のお役に立てるよう、データの登録などをしなくては」
「ははは、すっかり仕切られていますねアメリアさん。こういうのは普通飼い主が、ペットを登録センターに連れて行くのが筋のような気がしますが。いや、ポックル君は伝書鳩的なポジション……移住したての我々よりも、ペルキセウス国について詳しいのか?」


 * * *


 貿易都市国家ペルキセウス国、ギルド併設使い魔センター。領土の広いペルキセウス国だが使い魔センターは施設の数が少なく、多くの人で賑わっていた。
 様々な種類の使い魔を連れた冒険者達が、使い魔免許の更新や書類の取得に来ているようだ。中には鳥系の使い魔を連れている冒険者もいて、アメリアは自分が浮いた存在にならないで済むとが分かりようやく安心出来た。

 一刻も早く登録作業を行いたいらしいポックル君に急かされて、登録カウンターへと進む。


「ようこそ、ギルド使い魔センターへ。まぁフクロウの使い魔ちゃんですね。私の小さい頃は一世風靡した事もあるんですよ。流行しすぎたせいで、今は連れ歩く人が減ってしまって……寂しかったんですが。移住者の方から再びブームが巻き起こるかも!」
「クルックー。ちょっとお待ちください、受付嬢様っ。ワタクシ、こう見えても精霊鳩という召喚精霊の一種でして、決してフクロウでは無いのでございますっ。まぁフクロウが魔法業界で定着した存在なのは、認めざるを得ませんが」

 不自然な程鳥系の使い魔を連れている人が少ない理由が判明する。いわゆる流行り過ぎの果てに、ちょっぴり飽きられてしまったという事情のようだ。それよりも、ごく自然にフクロウ扱いを受けているポックル君に、アメリアは同情してしまった。
 おそらく、自分がレアな精霊鳩であることを誇りに思っているだろう。だが、世間というのは想像以上に厳しいものだ。

「えぇっ? 精霊鳩……そんな、ご冗談を。精霊鳩なんて、かなり高位の精霊神様か……古代伝説に残る聖女様くらいしか飼い主の記録は無いはず。はっ……失礼しました。隣国アスガイアより移住の元王妃候補アメリア様でしたか……それほどのお方なら、精霊鳩を使役される事もございましょう。謹んでお詫び申し上げます」
「そっそんな。私はただ単に、王妃候補を辞めて移住してきた駆け出し魔法使いですよ。顔を上げてください」

 そして出来ることなら自分ではなく、フクロウと間違えたことをポックル君に謝った方がいい気がしたが。受付嬢は、アスガイア国の元王妃候補というアメリアの肩書きしか見ていない。妹に王妃の座を譲って移住してきたという設定なのだから、いわゆる王族扱いも仕方がないのだが。

「しかしながら、我がペルキセウス国には古代伝説として精霊鳩を連れた聖女の伝説があるのです。まるで、今の状況はその古代伝説の再現のようで……つい」
「ふぅむ。僕もその古代伝説は聞いたことがありますが、ペルキセウス国では随分と信仰されている伝説なんですね」
「はい。幼少期より聖女伝説に人々を馴染ませるため、子供が眠る時の読み聞かせや学芸会の課題シナリオに選ばれたりもしています」

 そういえば、つい最近訪問した孤児院にも鳥と聖女の絵画が飾られて居たことを思い出す。きっとあれは、この国に残る聖女伝説を描いたものなのだろう。

「へぇ……聖女伝説がそこまで浸透している国も珍しいわね。アスガイアも神殿の巫女の中で、霊能力が高い者を聖女として扱う慣わしがあるけど。ペルキセウス国の日常に馴染んで聖女伝説があるだなんて知らなかったわ」
「はい。我が国は聖女に試練を与えるための霊山がありまして、もう何百年も昔の言い伝えですが。もしかすると、いずれアメリア様が挑戦することになる可能性も。あっ……このポストカード、精霊鳩と聖女の絵画をモチーフにしたものです。記念に是非……」

 白い山脈を背景に歩く若い女性と、彼女を導くように飛ぶ精霊鳩のポストカード。アメリアはそう遠くない将来、自分がこの山に呼ばれるような……そんな気がしたのであった。
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