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正編 第1章 追放、そして隣国へ
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しおりを挟むお告げ会が終わった後、神殿に残ったのは王太子トーラス、聖女レティア、そしてアメリア。突然の婚約破棄宣言が嘘のように、平然とした態度でいつも通り片付け作業を行っていたが、重苦しい雰囲気。
「レティア、アメリア……実は大事な話があるんだ。片付けはほどほどにして、祭壇前に来て欲しい」
「えっ……分かりました。王太子様」
「はぁい! レティアもすぐにいっきまぁす」
最初に口火を切ったのは、普段は優柔不断で知られる王太子トーラスだ。蝋燭の火がゆらゆらと揺らめく祭壇は、花などが片付けられて何処となく寂しげである。
「アメリア、先程はさぞ驚いただろう……非礼は詫びるよ。さて、非常に申し上げにくいのだが、我が国の民は皆、聖女であるレティアとオレの婚姻を心待ちにしている。かと言って、レティアの異母姉妹であるお前を人前で追放するのは、イメージが悪いのでな」
「追放……ですか? 一体、どういった理由で」
「体裁上は追放なんて、出来るはずない……自ら望んだと言う設定で少し、遠くに行って欲しい。お告げ会での婚約解消設定に、話を合わせて欲しいんだ。一年、いや五年……理由は自分探しの旅とか、スキル取得のための留学とかなんでも良い。これまでお告げ会で貯めた貯金があるだろう……それで好きな場所へ行けるはずだ」
銀髪を掻き毟って上手く言葉を繋げない様子の王太子トーラスは、自分からアメリアに出て行けというのは嫌だったようだ。彼は民に好かれるために温厚な王太子という設定で、あまり怒ったり喚いたりする男では無い。今もイラつく気持ちを抑えつつ、なんとか上手くアメリアを国外に追いやり、丸く納めようとしていた。
「申し訳ありませんが、私は今の仕事をご神託を受けて行っております。きちんとした理由を貰わなければ、自分から国外へ移動することなんて無理なのです」
「あぁ……そういえば、お前が儀式に立ち会っているのは神からの命令だったな。うむ……では王家からの提案ということで、アメリアにはご神託係の役割を降りてもらいたい」
「王太子様は神の御用命よりも王家の提案の方が、この神殿で通ると仰るのですか?」
アメリアとて神から命じられてお告げの仕事を手伝っているのだから、きちんとした理由を述べられなくては国外へ離脱は出来ない。だから、おいそれと適当な理由で国外へ離脱する訳にはいかないのだが、王太子にはいわゆる信仰というものが欠けているようだった。
融通の効かない姉アメリアにいい加減我慢の限界が来たのか、妹レティアが切れたように姉を責め始めた。
「あぁっ! もうっこれだから、グズで馬鹿は民に嫌われるのよっ! いいこと、お姉様。国民は地味で役立たずなお姉様よりも、神から寵愛されている私に王妃となって欲しいのっ! お姉様は適当な理由をつけて、早く国外に出ていってっ。邪魔っホントーに、邪魔っ」
「えぇっ? でも、まだあと数年はお告げの仕事が……だって、私がいないと……」
お告げの仕事は、常に姉妹セットで引き受けていた。アメリアは責任感から常にレティアに付き添って、ご神託を壇上で見守っているのだ。そしてその付き添いには、王太子が気づいていないある事情が隠されていた。
「きぃいいいっ。だから、お姉様さえいなきゃお告げの場だって、もっと華やかになるのよっ! いい加減、空気読まないと暗部に訴えて殺すわよっ。出てって……出てけっっ! 早くっ今すぐにっっ!」
「きゃああっ」
ドンッ!
怒りに任せてアメリアの背中を蹴って、裏口に追いやり荷物を投げつける。儀式の後ということもあり、裸足の状態で蹴りを入れているため、怪我をするほどではない。だが、アメリアがいくら我慢強いとはいえ、足蹴にされている感が否めなかった。
「もう帰って来るんじゃないわよ、お姉様っ。この国の王妃になるのは、聖女の私なんだからっっ。はんっ。せいせいしたっ」
「済まない、アメリア。取り敢えずは隣国のギルドが、キミの新たな受け入れ先になってくれるはずだ。退職金は後で振り込むし、荷物には旅行費とギルド所属の紹介状が入っている。働きながら今後を考えて、どうにか凌ぐように」
半ば無理矢理、姉のアメリアを神殿から、そしてこの国から追い払った聖女レティア。今後の引き取り先として、隣国のギルドを既に手配済みだった王太子。
特にレティアの方は姉に、セリフの続きを言わせないために、必死の形相だった。
「そ、そんな……だけど。それじゃあ困るのは……レティア、貴女自身よ。だって……貴女本当は予言なんか出来ないじゃない」
「あ~煩いっ! 早くどっか行けっっ」
バタンッ!
無情にも神殿の裏口ドアが閉ざされて、完全に締め出されてしまった。何処からともなく美しい青年の声が聴こえてくる。
『大丈夫ですよ、清らかな聖女アメリア。貴女は……貴女こそが私のいとし子なのですから……!』
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