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第2章 二周目
第03話 異なる分岐点の始まり
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いろいろと検討した結果、思い切って知恵の輪大会低学年の部に参加することとなったわたくし。学級閉鎖で休みが長くなったこともあり、フィヨルドが付きっきりで毎日特訓してくれることになりました。
「こういう複雑な知恵の輪は、ちょっとずらして工夫して……ほら、取れただろう?」
「えぇっ。もう解けちゃったんですの? あぁ! やっぱり、わたくしには難しいですわ」
小学生ながらも、ちょっとしたデート気分でフィヨルドに知恵の輪レッスンしてもらっていたけれど。やってみると、意外に難しいのが知恵の輪というもの。
(タイムリープした関係で、頭の中身は十七歳になっているから、もしかしたら……と思いましたけど。全然、ダメね)
ふうっとため息をついて、しばし休憩。すると、わたくしの部屋の外から様子を見ていたのか、タイミングを見計らってメイドさんが紅茶とチーズケーキを持って来てくれました。
「ヒルデお嬢様、フィヨルド君。頭に栄養を補給すると、知恵の輪も上達しますよっ。今日は、メイド手作りのレモン入りクリームチーズケーキです」
「うわぁ美味しそうですわっ。うふふ早速頂きましょう」
「うん。食べよう」
子供に戻って良かったことといえば、毎日手作りのおやつが食べられることです。お母様が長期入院でいない分、メイドさん達が代わりにたくさんの手作りおやつを作ってくれる。今思うと、わたくしってこの頃までは、結構可愛がられて育っていたのね。
「それにしても、優勝候補なだけあってフィヨルドは、物凄く器用に知恵の輪を解きますのね。これなら優勝は……」
と言いかけて、思わず言葉が止まる。本来の歴史どうりなら、優勝者はフィヨルドではなく、覆面で参加したジークなのである。既にフィヨルドの負けが確定している大会に、思わずテンションが下がりそうになった。
フィヨルドはタイムリープ以前も、わたくしの面倒をずっと見ていて練習する時間が持てなかったから、それで優勝を逃したのかも知れない。
言葉に迷っていると、フィヨルドは優しい笑顔でわたくしの言わんとしている言葉を繋いだ。しかしながらその内容は、わたくしの考えとは大いに違うものだった。
「本当は、オレが優勝者候補なんだけど。この街にはジークっていう、もう1人の優勝者候補がいるだろう? どちらが本物の知恵の輪チャンピオンか判明出来るといいんだけど。ジークがさ……もしかすると大会に出られないかも知れないって。このまま不戦敗で優勝しても、しっくりこないよな」
「えっ? ジークは大会に出られない。なんで」
一周目どうりに歴史が動けば確かジークは、夏の神殿祭りで事故に巻き込まれたお父様の喪中だったから、わざわざ覆面で大会に出場したはずだ。
亡きお父様との約束を果たしたくて、覆面で出場したジークは案外有名だったけど。フィヨルドは度重なる記憶喪失で、その辺りの事情を失念していた気がする。
(二周目のフィヨルドは、自分が不戦敗で優勝すると予測を立てていた。尚且つ、彼の話によるとジークも出ないという。やっぱり、その流れで覆面のジークが出て優勝を攫うのだろうか?)
けれど、フィヨルドの口から出たセリフは、わたくしの予想の範疇を大きく超えたものだった。
「それがさ、ジークは『お父様とコンビで親子剣術大会に出場』しなきゃいけないらしくて。魔法系の学校を受験するなら、魔力測定を兼ねた知恵の輪大会は重要なんだろうけど。ジークは英雄王の子孫で、勇者を目指すんだろうから。多分、英雄王から引き継いだパワーで親子剣術大会を制覇……」
本来の歴史と全く違う情報に、思わず頭の中が真っ白になった。
(ジークがお父様と親子で、剣術大会に出場する?)
わたくしの記憶では、ジークのお父様は夏に亡くなっているんじゃなかったかしら。カレンダーによると今はもう十一月、とっくに夏は過ぎている。
「んっいきなり黙って。どうしたの?」
「ふぇっ? いえいえ、なんでもありませんわ。ただ、大会の日程が被っているとは。ジークとの決着が着かないのはちょっと、惜しい気もしますわね」
何となく話を誤魔化すが、想定外の展開に動揺が隠せない。けれど、フィヨルドは、進路の決め方が二者択一になっていることに驚いただけと思っているみたいだ。
「ヒルデもさ、ジークみたいなのを両方の大会に挑戦させてもいい気がするだろう? 多分、神殿側も剣術系と魔法系のどちらかに、進路を絞って欲しいんだろうね。オレはもう、魔法か錬金術師のコースって決めているけどさ」
「わたくしも、剣は絶対に無理ですから。ほぼ間違いなく知恵の輪大会で魔力測定コースですわ。あっ冷めないうちに紅茶を頂かないと」
(どういうことですの? 神殿祭りの事故が無かったことになっている。ジークのお父様は生きていらっしゃるのね。喜ばしいことなんでしょうけど、この違いが二周目ということなの?)
ジークの細かい因果を知らなかったわたくしは、まさか一周目のジークは『死の運命をお父様に引き受けてもらって延命しただけである』ということに気が付かないのでした。
そしてそれぞれ3人が、一周目とは違った分岐点……つまり運命の分かれ道を進み始めているということにも。
「こういう複雑な知恵の輪は、ちょっとずらして工夫して……ほら、取れただろう?」
「えぇっ。もう解けちゃったんですの? あぁ! やっぱり、わたくしには難しいですわ」
小学生ながらも、ちょっとしたデート気分でフィヨルドに知恵の輪レッスンしてもらっていたけれど。やってみると、意外に難しいのが知恵の輪というもの。
(タイムリープした関係で、頭の中身は十七歳になっているから、もしかしたら……と思いましたけど。全然、ダメね)
ふうっとため息をついて、しばし休憩。すると、わたくしの部屋の外から様子を見ていたのか、タイミングを見計らってメイドさんが紅茶とチーズケーキを持って来てくれました。
「ヒルデお嬢様、フィヨルド君。頭に栄養を補給すると、知恵の輪も上達しますよっ。今日は、メイド手作りのレモン入りクリームチーズケーキです」
「うわぁ美味しそうですわっ。うふふ早速頂きましょう」
「うん。食べよう」
子供に戻って良かったことといえば、毎日手作りのおやつが食べられることです。お母様が長期入院でいない分、メイドさん達が代わりにたくさんの手作りおやつを作ってくれる。今思うと、わたくしってこの頃までは、結構可愛がられて育っていたのね。
「それにしても、優勝候補なだけあってフィヨルドは、物凄く器用に知恵の輪を解きますのね。これなら優勝は……」
と言いかけて、思わず言葉が止まる。本来の歴史どうりなら、優勝者はフィヨルドではなく、覆面で参加したジークなのである。既にフィヨルドの負けが確定している大会に、思わずテンションが下がりそうになった。
フィヨルドはタイムリープ以前も、わたくしの面倒をずっと見ていて練習する時間が持てなかったから、それで優勝を逃したのかも知れない。
言葉に迷っていると、フィヨルドは優しい笑顔でわたくしの言わんとしている言葉を繋いだ。しかしながらその内容は、わたくしの考えとは大いに違うものだった。
「本当は、オレが優勝者候補なんだけど。この街にはジークっていう、もう1人の優勝者候補がいるだろう? どちらが本物の知恵の輪チャンピオンか判明出来るといいんだけど。ジークがさ……もしかすると大会に出られないかも知れないって。このまま不戦敗で優勝しても、しっくりこないよな」
「えっ? ジークは大会に出られない。なんで」
一周目どうりに歴史が動けば確かジークは、夏の神殿祭りで事故に巻き込まれたお父様の喪中だったから、わざわざ覆面で大会に出場したはずだ。
亡きお父様との約束を果たしたくて、覆面で出場したジークは案外有名だったけど。フィヨルドは度重なる記憶喪失で、その辺りの事情を失念していた気がする。
(二周目のフィヨルドは、自分が不戦敗で優勝すると予測を立てていた。尚且つ、彼の話によるとジークも出ないという。やっぱり、その流れで覆面のジークが出て優勝を攫うのだろうか?)
けれど、フィヨルドの口から出たセリフは、わたくしの予想の範疇を大きく超えたものだった。
「それがさ、ジークは『お父様とコンビで親子剣術大会に出場』しなきゃいけないらしくて。魔法系の学校を受験するなら、魔力測定を兼ねた知恵の輪大会は重要なんだろうけど。ジークは英雄王の子孫で、勇者を目指すんだろうから。多分、英雄王から引き継いだパワーで親子剣術大会を制覇……」
本来の歴史と全く違う情報に、思わず頭の中が真っ白になった。
(ジークがお父様と親子で、剣術大会に出場する?)
わたくしの記憶では、ジークのお父様は夏に亡くなっているんじゃなかったかしら。カレンダーによると今はもう十一月、とっくに夏は過ぎている。
「んっいきなり黙って。どうしたの?」
「ふぇっ? いえいえ、なんでもありませんわ。ただ、大会の日程が被っているとは。ジークとの決着が着かないのはちょっと、惜しい気もしますわね」
何となく話を誤魔化すが、想定外の展開に動揺が隠せない。けれど、フィヨルドは、進路の決め方が二者択一になっていることに驚いただけと思っているみたいだ。
「ヒルデもさ、ジークみたいなのを両方の大会に挑戦させてもいい気がするだろう? 多分、神殿側も剣術系と魔法系のどちらかに、進路を絞って欲しいんだろうね。オレはもう、魔法か錬金術師のコースって決めているけどさ」
「わたくしも、剣は絶対に無理ですから。ほぼ間違いなく知恵の輪大会で魔力測定コースですわ。あっ冷めないうちに紅茶を頂かないと」
(どういうことですの? 神殿祭りの事故が無かったことになっている。ジークのお父様は生きていらっしゃるのね。喜ばしいことなんでしょうけど、この違いが二周目ということなの?)
ジークの細かい因果を知らなかったわたくしは、まさか一周目のジークは『死の運命をお父様に引き受けてもらって延命しただけである』ということに気が付かないのでした。
そしてそれぞれ3人が、一周目とは違った分岐点……つまり運命の分かれ道を進み始めているということにも。
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