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旅行記6 もう一人の聖女を救う旅
17 扉の向こうには明るい未来
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辛うじてパラレルワールドの因果の輪から脱出したティアラとポメは、気がつけば元のハルトリア邸の客間へと帰還していた。
(あらっ……ここは、邸宅の客間だわ。戻って来たのね、けど来客の影もなく、お茶が仕舞われている? ううん……これは時間が巻き戻っているの?)
「きゅいーん」
「ポメ……」
潜在意識の底に飛ばされていた時とは異なり、既にポメとは言葉が通じなくなっていたが、お互い目配せをして意思の疎通が為された。何処となく不安な目でティアラを見つめるポメからは、何かしらの違和感を本能的に感じ取っていると判断していいだろう。
ティアラがキョロキョロと部屋の様子を見渡すと、テーブルにはまだ食器すら並べられておらず。メイドがテーブルを拭いたり、花を用意したりと準備段階のようだ。
「重い内容の話し合いとはいえ、心を和ませれば交渉がスムーズに行くかも知れません。美しい花がきっと役に立ちますわ」
「ええ……ピンクの薔薇と白のかすみ草なんて、可愛らしくて素敵よ」
ちらりと掛け時計を確認すると、まだ来客がくる予定時刻ではなかった。正確には『元のハルトリア邸』ではなく、パラレルワールドに転移した一時間ほど前の時間にタイムワープしているらしい。
「ティアラ様、今日の来客の方は噂によると、闇魔法の研究をされているとか。念のため魔除の印をドア付近に飾った方がいいと、バジーリオ様がこれを……」
「まぁナザールボンジュウね、海外からのお土産品だわ。ええ、さっそく飾りましょう!」
記憶が確かならば、この部屋の入り口には魔除の印であるナザールボンジュウを飾っていないはずだ。異国土産特有の青い目玉の飾りナザールボンジュウが、コトンと音を立てて、ドア付近にかけられた。
「ジル様も話し合いには立ち会うそうなので、安全だとは思いますが。やはり、魔除の印がお部屋の出入り口にプラスされると、安心感がありますね」
「えぇ。それにうちのショップでも取り扱ってみたい商品だったし、こうやって雰囲気を見る機会が出来て良かったわ」
するとスーツ姿で仕事モードのジルが、話し合い用の書類を手に客間を訪れた。
「ティアラ、そろそろ、準備を……あれっこの民族風の青い目玉の飾りって、ナザールボンジュウだっけ?」
「バジーリオさんが、この間来た時にお土産でくれたものなんですって。ショップを経営する立場としては、いろいろな国のお土産を知りたいし、嬉しい限りだわ」
「へぇ……兄貴がねぇ。ん……そろそろ、かな?」
ピンポーン!
元通りの世界線とは少しずつ違う展開に緊張を覚えつつ、来客を迎えるために身嗜みをチェックし、いよいよ玄関へ。
* * *
晴れ渡る青空は交渉の順調な気配を示唆しているのか、気分が爽快になりそうな爽やかさだ。
(女の人? もしかして、闇の精霊が介入しなければ、元からこの女性が来るはずだったってことなの?)
些か強すぎる陽射しに日傘もささず邸宅の門を叩いたのは、伝統的な白魔法使いファッションの女性。胸に下げた聖母のメダイユから、教会信仰をしている派閥であることが窺われた。
「初めまして、白魔法使いのフローレンス・バレットと申します。憧れのハルトリア公爵邸に、お招きいただけるなんて光栄です。あいにく仕事仲間達は、まだフェルトで書類に追われておりまして。私一人でお話しを伺いますが、どうぞよしなに」
ウエーブがかった黒髪と健康的な顔色、柔らかな笑顔は人柄の良さそうな雰囲気を醸し出している。
「フローレンスさん、遠路はるばるお越しいただき、ありがとうございます。念のため確認しますが、今回は魔女狩り防止の話し合いですよね?」
「えぇ……私共も、今時魔女狩りなんて古いと考えておりまして。王宮の言われた通りにしていたという聖女クロエちゃんに対しては、この機会に奉仕活動などで社会貢献を促す提案したいと思っております。一緒に頑張りましょう」
「こちらこそ……!」
キュッと交わされた握手は、新たなルートが開けた証のようで。良き理解者に恵まれて、見事に魔女狩りの歴史にピリオドを打つことに成功した。
ティアラが勇気を出して開けた潜在意識の扉の向こうには、明るい未来が待っていたのである。
(あらっ……ここは、邸宅の客間だわ。戻って来たのね、けど来客の影もなく、お茶が仕舞われている? ううん……これは時間が巻き戻っているの?)
「きゅいーん」
「ポメ……」
潜在意識の底に飛ばされていた時とは異なり、既にポメとは言葉が通じなくなっていたが、お互い目配せをして意思の疎通が為された。何処となく不安な目でティアラを見つめるポメからは、何かしらの違和感を本能的に感じ取っていると判断していいだろう。
ティアラがキョロキョロと部屋の様子を見渡すと、テーブルにはまだ食器すら並べられておらず。メイドがテーブルを拭いたり、花を用意したりと準備段階のようだ。
「重い内容の話し合いとはいえ、心を和ませれば交渉がスムーズに行くかも知れません。美しい花がきっと役に立ちますわ」
「ええ……ピンクの薔薇と白のかすみ草なんて、可愛らしくて素敵よ」
ちらりと掛け時計を確認すると、まだ来客がくる予定時刻ではなかった。正確には『元のハルトリア邸』ではなく、パラレルワールドに転移した一時間ほど前の時間にタイムワープしているらしい。
「ティアラ様、今日の来客の方は噂によると、闇魔法の研究をされているとか。念のため魔除の印をドア付近に飾った方がいいと、バジーリオ様がこれを……」
「まぁナザールボンジュウね、海外からのお土産品だわ。ええ、さっそく飾りましょう!」
記憶が確かならば、この部屋の入り口には魔除の印であるナザールボンジュウを飾っていないはずだ。異国土産特有の青い目玉の飾りナザールボンジュウが、コトンと音を立てて、ドア付近にかけられた。
「ジル様も話し合いには立ち会うそうなので、安全だとは思いますが。やはり、魔除の印がお部屋の出入り口にプラスされると、安心感がありますね」
「えぇ。それにうちのショップでも取り扱ってみたい商品だったし、こうやって雰囲気を見る機会が出来て良かったわ」
するとスーツ姿で仕事モードのジルが、話し合い用の書類を手に客間を訪れた。
「ティアラ、そろそろ、準備を……あれっこの民族風の青い目玉の飾りって、ナザールボンジュウだっけ?」
「バジーリオさんが、この間来た時にお土産でくれたものなんですって。ショップを経営する立場としては、いろいろな国のお土産を知りたいし、嬉しい限りだわ」
「へぇ……兄貴がねぇ。ん……そろそろ、かな?」
ピンポーン!
元通りの世界線とは少しずつ違う展開に緊張を覚えつつ、来客を迎えるために身嗜みをチェックし、いよいよ玄関へ。
* * *
晴れ渡る青空は交渉の順調な気配を示唆しているのか、気分が爽快になりそうな爽やかさだ。
(女の人? もしかして、闇の精霊が介入しなければ、元からこの女性が来るはずだったってことなの?)
些か強すぎる陽射しに日傘もささず邸宅の門を叩いたのは、伝統的な白魔法使いファッションの女性。胸に下げた聖母のメダイユから、教会信仰をしている派閥であることが窺われた。
「初めまして、白魔法使いのフローレンス・バレットと申します。憧れのハルトリア公爵邸に、お招きいただけるなんて光栄です。あいにく仕事仲間達は、まだフェルトで書類に追われておりまして。私一人でお話しを伺いますが、どうぞよしなに」
ウエーブがかった黒髪と健康的な顔色、柔らかな笑顔は人柄の良さそうな雰囲気を醸し出している。
「フローレンスさん、遠路はるばるお越しいただき、ありがとうございます。念のため確認しますが、今回は魔女狩り防止の話し合いですよね?」
「えぇ……私共も、今時魔女狩りなんて古いと考えておりまして。王宮の言われた通りにしていたという聖女クロエちゃんに対しては、この機会に奉仕活動などで社会貢献を促す提案したいと思っております。一緒に頑張りましょう」
「こちらこそ……!」
キュッと交わされた握手は、新たなルートが開けた証のようで。良き理解者に恵まれて、見事に魔女狩りの歴史にピリオドを打つことに成功した。
ティアラが勇気を出して開けた潜在意識の扉の向こうには、明るい未来が待っていたのである。
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