66 / 87
旅行記5 錬金魔法ショップ開業記
10 同じ未来を夢見るために
しおりを挟む魔法文化を守り魔女狩りの哀しい歴史に終止符を打つべく、ティアラは慈善家を目指すことにした。故郷フェルトにて聖女クロエを魔女として断罪することが、未来予知によって確定したためだ。
例え因縁深い相手であろうと追放された故郷であろうと、これ以上フェルトという国が哀しみに満ちていくことをティアラは見過ごせなかった。
「最後に魔女狩りが行われたのは今から三年前、水晶玉を介して見えた映像が本物であれば聖女クロエの母親が最後の被害者よ」
「クロエのお母さんが断罪されてから、まだ三年しか経っていないのなら、魔女狩りを実行した団体もまだ生き残っているはず。クロエがああいう性格になったのも、弾圧されていたからなのかも」
魔女ベルベッドの情報によるとティアラの予想よりもごく最近に行われた魔女狩りに、ティアラは一瞬言葉を失う。断罪者の娘であるクロエがどのような暮らしをしていたのかは想像し難いが、クロエが常に警戒心と人を疑うような態度をしていたのにも合致がいく。
「今どき魔女狩りという行為そのものが、現代では珍しいことだもの。慈善家としては、魔法文化の保護活動の一環で魔女狩り防止もすることが出来るわ。特に貴女の使っている魔法は、ロンドッシュの魔女文化とは多少異なる古代フェルト独自のものですもの。貴女自身のルーツを守ることにも繋がる」
「私のルーツ、精霊国家フェルトでのみ行われていた自然力の魔法のことですよね。確か他所の国の人々はフェルトの魔法使いのことを【ドルイド】と呼んでいた。もしかすると失われるかもしれないドルイドの文化も後の世に伝えられたら、この活動がフェルトの移住者達にとっても意義のあるものになる」
ほぼ今後の方針が本決まりになったが、夫のジルにこれからのショップ運営や慈善家活動について報告しなくてはいけない。
(ショップ運営についてはかなり協力的なジルだけど、慈善家として生きていきたいという私の目標を果たしてどう感じるかしら)
ティアラはふと不安になったが、自分が好きになった男性なら心根の部分を理解してくれると信じて、想いを素直に打ち明けることを決意する。
* * *
ジルの待つ魔法グッズ管理会本部一階へと戻ると、受付魔法使いの男性とジルが木製のブラシを手に何やら盛り上がっている様子。
「どうです、この北西魔女地域特製のブラシをワンちゃんに使ってみては? ポメラニアンの毛並みがツヤツヤになること請け合いですよ」
「へぇ使い魔用のグッズがこんなに生産されているとは、流石は魔女文化の本拠地ってヤツだな。よし、せっかくポメを飼っていることだし、これも何かの縁だ! この北西魔女地域の生産品を提携して、発注しよう。売り上げの一部を魔女狩り防止の資金として寄付すると、慈善活動としてもいいだろう。今から魔女狩りを廃止すれば、うちの妹の将来も安心だ」
「ジルさん、実に素晴らしい心がけです! 妹さんが本格派の魔女を目指しているとはいえ、なかなか出来ることではありませんよ」
ティアラの聞き間違いでなければ、ジルの口からハッキリと『売り上げの一部を魔女狩り防止の資金として寄付すると、慈善活動としてもいいだろう』との提案の声。
よく考えてみればロンドッシュ周辺地域の生産商品を輸入して販売するのだから、魔女文化とは切っても切れない。妹ミリアの将来を憂いてのことだとしても、自然と寄付や慈善活動に気持ちが向かう人は珍しいだろう。
「おっ……ティアラ、占い終わったみたいだな。そうだ、良い商品が見つかったんだ。北西魔女地域で生産されている使い魔用のこのブラシ、うちのショップにも輸入するといいんじゃないかって。もちろんフェアトレード扱いで売り上げは一部寄付してさ、魔女狩りの歴史に終止符を打つ手伝いも出来る」
「ええ、とても素敵な提案だわ! 実はね、私もジルに報告したいことがあるの」
結局、対照的なようでいて似たもの同士が夫婦になるのだと、ティアラはこの日実感するのであった。二人で同じ未来を夢見るために。
0
お気に入りに追加
313
あなたにおすすめの小説
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
【完結】私が貴女を見捨てたわけじゃない
須木 水夏
恋愛
筆頭公爵家の娘として大事にされて育ったティアリーネは、彼らの本当の娘ではない。
少女は、今はもう廃嫡され儚くなった王子が、平民の聖女と浮気して生まれたと噂されている、『聖女の子』であった。
マスティマリエ公爵家へと引き取られる前の記憶は既に失われていると周囲の人々は思っていたが、少女がまだその恐ろしい夢の中に閉じ込められて居ることに気がついていたのは、ただ一人兄のヴァンだけだった。
※こちらのお話は7/22日に完結いたします。(既に完結まで書き上げ済です)
※誤字のご報告ありがとうごさいますm(*_ _)m
☆貴族社会ですが、現実のものではありません。
☆聖女が出てきます。
☆兄妹の恋愛があります(血の繋がりはなし)
☆子供に対しての残虐な虐待の表現があります。
☆ハッピーエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる