上 下
50 / 87
旅行記4 夫婦初めての共同クエスト

06 注目と再会は突然に

しおりを挟む
「これがトップ聖女の潜在魔力? 当ギルド始まって以来の最高数値だっ! はっ……取り乱してしまって申し訳ありません。確かに潜在魔力はトップですが、現在魔法は初級しか使えないとのこと。特殊なケースですので、専用のクエストを組みます。しばらくお待ち下さい」

 最初は冷静に魔力検査を行っていた検査係も、底知れぬティアラの魔力に感嘆の声をあげてしまう。気付けば興味本位なのか、もしくは野次馬根性が沸いてしまったのか……他の受験者がティアラの様子をチラチラと見ている。

『あの銀髪の女の人って、フェルトのトップ聖女のティアラさんじゃないか? 確か、魔力切れを起こして退任されたはずだったのでは』
『それがさ、ハルトリア公爵家の次男に見初められて、この国に嫁いで来たらしいよ。魔力は戻ったとしても初級ランクだろうし、魔法がちょっと出来る公爵夫人として生活するのでは?』
『てっきりフェルトのお妃様になるのかと思っていたけど、マゼランス殿下には既にクロエ様がいるしなぁ。良い縁談があれば、ハルトリアでまとまってもらうのが良い方法か』

 銀髪碧眼というハルトリアでは若干珍しいティアラの容姿は、目に留まりやすい。フェルト移住組の中には彼女が元トップ聖女ティアラ本人であることを認識しているようだ。かつてのティアラは、それこそフェルトが誇る凄腕聖女だったが、今では魔力切れを起こしていて一般レベル魔力に落ちていることも認識していた。

(私のことを認識している魔法使いが、何人かギルド入会試験を受けにきているみたいね。顔見知りは王宮関係で働いていた人だけのはずだから、王宮を退職した人が増えているってことかしら?)

 結婚に関してはフェルト公認の縁組みだと誤解している人も多いようで、本当は駆け落ちのようなノリで逃げてきたことを知る者は少ないだろう。すると、人懐こい性格の元王宮勤めの黒魔法使いが、ティアラに話しかけてきた。

「ティアラ様? あぁっ! やっぱりそうだわ、ハルトリアにいらっしゃるというお噂は本当だったのね。お久しぶりです、元・フェルト王宮所属黒魔法使いのサーシャです。覚えていらっしゃいますか」

 焦げ茶色の髪をおかっぱに切り揃えた少女サーシャは、昨年王宮に入ったばかりの新人黒魔法使いだ。王宮に慣れずに困っていたサーシャをティアラが助けたことが幾度かあり、懐かれていたが別れを告げる間もなくティアラは追放されてしまった。
 大公国ハルトリアのギルド入会会場にサーシャがいるということは、既に王宮を辞めてしまった証拠でもある。

「サーシャ、まぁお久しぶりね。聖女を退任した時には、ろくに挨拶もさせてもらえない状況だったけど。フェルトの移住者も元気そうで何よりだわ……本当に良かった」
「実は、ティアラ様が退任されてからさらに王宮の内政は悪化してしまって、経費削減のために黒魔法使い部隊は解散になったんです。フェルト国民は移住希望者が増えていて、四方八方に散り散り状態ですが。ティアラ様がいるなら、この大公国ハルトリアは安泰ですね」

 以前と同じように期待と羨望の眼差しで話しかけてくるサーシャに、もう昔のような魔力を持たないティアラは申し訳ない気持ちになってしまう。今のティアラは、以前のような魔力はないため、頼られる側ではなく頼る方の人間だ。

 あまり期待しないで欲しい旨を伝えたかったが、それぞれ番号を呼ばれてテスト受付に戻ることになってしまった。

「ティアラ様、このメモを……今の我々黒魔法使いチームが暮らしている魔法使い寄宿舎の住所です。もし良ければ遊びに来てください! ご武運を祈ってます」
「ありがとう、入会テストお互い頑張りましょうね」


 * * *


 ティアラに課せられた専用の入会テストは、錬金術師になりたいという将来設計を踏まえた魔法錬金素材の採取と納品のクエストだった。テストに合格し錬金素材に詳しくなれば、オリジナルのポーションや装備品を作ることも可能だ。

「おっ……テストの内容は採取メインの納品クエストか。ところで、知り合いに会ったみたいだな、さっきの魔法使いの少女は王宮出身者か?」

 テスト内容の用紙を受け取りジルの元へと戻ると、先ほどの黒魔法使いの少女サーシャについて問われる。

「えぇ、王宮黒魔法使いのチームは、まるごと解散になったそうで。今はハルトリアの魔法使い寄宿舎で、暮らしているそうよ。フェルトがお抱えの魔法使いを切るなんて、いよいよ国が解散するカウントダウンが始まっているのね」
「もしかしたら、ハルトリアのギルドは今後、崩壊後のフェルトの支援をしていくことになるかも知れない。まずは、このギルド入会テストを成功させないと」

 ――ティアラとジルの夫婦共同クエストが、ついに幕を開けた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】無能な聖女はいらないと婚約破棄され、追放されたので自由に生きようと思います

黒幸
恋愛
辺境伯令嬢レイチェルは学園の卒業パーティーでイラリオ王子から、婚約破棄を告げられ、国外追放を言い渡されてしまう。 レイチェルは一言も言い返さないまま、パーティー会場から姿を消した。 邪魔者がいなくなったと我が世の春を謳歌するイラリオと新たな婚約者ヒメナ。 しかし、レイチェルが国からいなくなり、不可解な事態が起き始めるのだった。 章を分けるとかえって、ややこしいとの御指摘を受け、章分けを基に戻しました。 どうやら、作者がメダパニ状態だったようです。 表紙イラストはイラストAC様から、お借りしています。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

婚約破棄されて満足したので聖女辞めますね、神様【完結、以降おまけの日常編】

佐原香奈
恋愛
聖女は生まれる前から強い加護を持つ存在。 人々に加護を分け与え、神に祈りを捧げる忙しい日々を送っていた。 名ばかりの婚約者に毎朝祈りを捧げるのも仕事の一つだったが、いつものように訪れると婚約破棄を言い渡された。 婚約破棄をされて喜んだ聖女は、これ以上の加護を望むのは強欲だと聖女引退を決意する。 それから神の寵愛を無視し続ける聖女と、愛し子に無視される神に泣きつかれた神官長。 婚約破棄を言い出した婚約者はもちろんざまぁ。 だけどどうにかなっちゃうかも!? 誰もかれもがどうにもならない恋愛ストーリー。 作者は神官長推しだけど、お馬鹿な王子も嫌いではない。 王子が頑張れるのか頑張れないのか全ては未定。 勢いで描いたショートストーリー。 サイドストーリーで熱が入って、何故かドタバタ本格展開に! 以降は甘々おまけストーリーの予定だけど、どうなるかは未定

身に覚えがないのに断罪されるつもりはありません

おこめ
恋愛
シャーロット・ノックスは卒業記念パーティーで婚約者のエリオットに婚約破棄を言い渡される。 ゲームの世界に転生した悪役令嬢が婚約破棄後の断罪を回避するお話です。 さらっとハッピーエンド。 ぬるい設定なので生温かい目でお願いします。

処理中です...