上 下
49 / 87
旅行記4 夫婦初めての共同クエスト

05 トップ聖女の潜在魔力

しおりを挟む
 初めて訪れる魔法系ギルド協会本部は、入会試験のために集まった人々でいっぱいだった。想像よりも多い人だかりに、ティアラは大公国ハルトリアにも魔法の使い手がこんなにたくさんいたのかと困惑する。

「フェルトにいた頃は、魔法使いがたくさんいるのが当たり前だったけど。ハルトリアはそれほど魔法にチカラを入れていない国だと聞いていたから、この受験者の数には驚きだわ」
「いや、ハルトリアにこれほど魔法使いが増えているのは、多分フェルトからの移住者が増えたからなんじゃないかな。現にティアラだって、フェルトからの移住者だろう?」
「あっ……そういえば」

 言われてみれば、この一ヶ月半で精霊国家フェルトからの人口流入は、過去最多だという情報だった。

 ティアラが追放された後もフェルトの治安は良くなる気配はなく、国民は移住出来そうな国を探して流出する一方だという。自分が聖女として祈りをずっと捧げていた国が、いよいよ解散となりそうなのは哀しいものである。だが、この時代の変換期を乗り越えてこそ、新たな希望が見えるのかも知れない。

「まぁハルトリアも以前よりは魔法教育にチカラを入れているし、他の国に引けを取らないように頑張るんだろうな。けどオレみたいなガンナーが、一線でやっていけるのもハルトリアの良いところだ。今日のテスト、しっかりサポートしてやるからな」
「ジル、ありがとうね。私の我がままに付き合ってくれて。一度魔力を失くしている私の挑戦を応援してくれて」

 新たな第一歩を他の移住者達と同時期に踏み出すことになったティアラだが、彼女は他の魔法使いと違って魔力を一旦失っている。本当の意味で初心者として、再スタートを切らなくてはいけないのだ。

 お礼を述べながらも不安な気持ちが増してきたティアラに、ジルは優しく微笑んで『夫婦なんだから、協力するのは当たり前だろ』と、そっと耳元で囁く。

(この人を好きになって……夫婦になって良かった)

 半ば勢いで結婚してしまったジルとティアラだが、いざという時に助けてくれる人、信頼出来る人に嫁ぐことが出来たことをティアラは心の奥底から幸運に思う。
 やがて書類の手続きが全て終わり、ついにギルド特有の基礎ステータス検査となった。ギルドの魔力検査係の男魔導師が数値検査用の魔導書を開き、魔法陣のページの上に手を乗せるように促す。


「えっと……以前は聖女として回復魔法を得意としていましたが、一度魔力切れで退任しておりまして。今は微量に魔力が戻っているので、初級魔法使いから始めてゆくゆくは、中級以上の錬金術師を目指したいと思っています。よろしくお願いします」
「ほうっ……ティアラ・ハルトリアさん、十八歳。以前の職業は……フェルト公認聖女。ふむ、魔力切れのためSランク職業から、初級ランク職業への転職希望ですか……。なかなか珍しいケースですが、魔力切れで転職を余儀なくされるの方はたまに見かけますよ。でははじめましょう……あくまでも潜在数値を割り出すので、以前の魔力も換算されます」

 検査係がステータス確認の呪文詠唱をすると、魔法陣にかざした手を中心にティアラの潜在的な能力が一気に魔導書に刻まれていく。

 マジックポイントを表す数値がみるみるうちに上がっていき……いち、じゅう、ひゃく、せん……。

「こっっこれはっ! こんな数値見たことがない、いや噂には聞いていたが。規格外の上級魔力……これが、トップ聖女の潜在魔力っっ?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

【完結】4人の令嬢とその婚約者達

cc.
恋愛
仲の良い4人の令嬢には、それぞれ幼い頃から決められた婚約者がいた。 優れた才能を持つ婚約者達は、騎士団に入り活躍をみせると、その評判は瞬く間に広まっていく。 年に、数回だけ行われる婚約者との交流も活躍すればする程、回数は減り気がつけばもう数年以上もお互い顔を合わせていなかった。 そんな中、4人の令嬢が街にお忍びで遊びに来たある日… 有名な娼館の前で話している男女数組を見かける。 真昼間から、騎士団の制服で娼館に来ているなんて… 呆れていると、そのうちの1人… いや、もう1人… あれ、あと2人も… まさかの、自分たちの婚約者であった。 貴方達が、好き勝手するならば、私達も自由に生きたい! そう決意した4人の令嬢の、我慢をやめたお話である。 *20話完結予定です。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

処理中です...