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旅行記3 時を超える祝祭
12 二十年前のガイドの続きを
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つい先程まで二十年前の精霊像前にいたはずのティアラだったが、ふと気がつくと元通りのゴンドラの上で目を瞑り祈りを終えた直後のようである。
「随分と精霊様から強い光が発せられましたが、大丈夫でしたか。お客様達」
「あぁ。オレの方は大丈夫だが、ティアラはどうだ……調子悪くしていないか」
目を開けると落ち着いた大人の男性のジルがティアラの肩を抱いていて、あの時の少年は夢か何かだったのではないかと思ってしまいそうだった。だが、ティアラを見つめるその澄んだ瞳は鋭さを増しているが、あの少年の面影を感じる。
「大丈夫よ、ジル、船頭さん。魔力を完全にチャージした後の精霊像に祈ったから、少しだけ強いエネルギーが発生したのかも」
夫に心配かけまいと、ティアラはタイムワープの魔法にかけられていたことを伏せて、笑顔で自分が大丈夫であることを伝えた。
「そうかも知れませんね、万が一のことを考えてこれ以上精霊様の魔力を強めないためにも、ゴンドラを降りたらアミュレットをしまってください。祝祭週間が終了しましたら、エネルギーも落ち着くと思うので。あっワンちゃんの首輪くらいなら、大丈夫ですよ」
「きゃわん!」
船頭が申し訳なさそうに、アミュレットをしまうように促してくる。ティアラとジルは胸元にネックレスとして下げているが、ポメに関しては特別魔力の影響を受けている様子も見せないため、そのままチャームとして残すことになった。
* * *
ゴンドラを降りて再び乗り場前に戻ると、テーブルがひとつだけ空いていたバルに入り、エスプレッソを飲みながらアミュレットをしまう。ティアラは手持ちのアクセサリーポーチに、ジルもお守り用の小さな皮の袋を持っているようだ。
「せっかく手に入れたアミュレットだが、祝祭週間が終わるまでは封印ってとこかな? えぇと……この袋の中に……あれ、懐かしいな。昔貰った古銀貨、こんなところにあったのか」
「古銀貨……あら。それって今は、フェルトでしか流通していない古銀貨よね。ジルにとって、大切なものなの?」
タイムワープした時のティアラは二十年前の通貨を持ち合わせていなくて、ジル少年に古銀貨でガイド料を支払ったことを思い出した。けれどまさか、あの時の古銀貨を二十年間も持ち続けているとは考えにくい。
ただの偶然かと思ったが、真相が気になってしまい、含みのある言い回しで訊ねてしまう。
するとジルはちょっとだけバツが悪そうに、『初恋の人から貰った古銀貨だから、大事にとっておいたんだ』とひとこと。まさかタイムワープした時の古銀貨なのではないかと、ティアラは思わず心臓がぎくりする。
「初恋っていうと、子供の頃とか? 結構な年数が経っているはずよね」
「まぁ……もう二十年くらい昔になるのかなあ? ちょうど祝祭の時に、初めてガイドのバイトをしてさ。ガキだからまともに相手をしてくれる人がいなかったんだが、一人だけまともに取り合ってくれる人がいて。その綺麗なお姉さんが、オレにベテランのガイドと同じ報酬をくれたんだ」
子供にあげるにしては古銀貨一枚は高額だったかも知れないが、大人のベテランガイド相手だったら、確かに古銀貨一枚くらいは料金がかかっただろう。女性が歩きやすい道を選んで、広場や運河を案内してくれたジル少年は、ある意味ベテランガイド並みに気が利く存在だった。
「でもせっかくの報酬なのに、使わないで取っておいたのね……」
「当時は物価が安かったから、一か月毎日パニーニが食べられるって思ったんだが。初めてのバイト代、初めての淡い恋、それに滅多に手に入らない異国の貴重な古銀貨だ。おやつ代にするよりも、お守りとして取っておくことにしたんだよ」
ジルは少年時代の思い出が詰まった古銀貨を再び大事そうにしまい、今日手に入れた水の精霊のアミュレットも同じ袋に納めた。ティアラはジルの初恋話を聞かされて、ほんの少しだけ胸がモヤモヤとしてしまう。
先程のタイムワープが本物であれば、ジルの初恋の相手はティアラ自身の可能性もあるが。あの記憶が精霊が見せた夢か何かであれば、本当に別の素敵な女性がジルの初恋の相手ということになるのだ。
「素敵な初恋話ね、でもちょっぴり妬けちゃうかも」
「……そういえば、あの綺麗なお姉さんって、ティアラに雰囲気とか似てるよな。二十年も前の話だし、記憶も曖昧になってるんだろうけど。あの時の相手が誰かはともかく、もう一度ティアラをガイドするよ。古銀貨一枚分の祝祭ガイドを……!」
「ジル……是非、お願いするわっ」
椅子から立ち上がり、エスコートするためにティアラへと手を伸ばすジル。応えるように、ティアラも笑顔でジルの手を取る。
――今こそ二十年前のガイドの続きを……水の精霊の導きのままに。
「随分と精霊様から強い光が発せられましたが、大丈夫でしたか。お客様達」
「あぁ。オレの方は大丈夫だが、ティアラはどうだ……調子悪くしていないか」
目を開けると落ち着いた大人の男性のジルがティアラの肩を抱いていて、あの時の少年は夢か何かだったのではないかと思ってしまいそうだった。だが、ティアラを見つめるその澄んだ瞳は鋭さを増しているが、あの少年の面影を感じる。
「大丈夫よ、ジル、船頭さん。魔力を完全にチャージした後の精霊像に祈ったから、少しだけ強いエネルギーが発生したのかも」
夫に心配かけまいと、ティアラはタイムワープの魔法にかけられていたことを伏せて、笑顔で自分が大丈夫であることを伝えた。
「そうかも知れませんね、万が一のことを考えてこれ以上精霊様の魔力を強めないためにも、ゴンドラを降りたらアミュレットをしまってください。祝祭週間が終了しましたら、エネルギーも落ち着くと思うので。あっワンちゃんの首輪くらいなら、大丈夫ですよ」
「きゃわん!」
船頭が申し訳なさそうに、アミュレットをしまうように促してくる。ティアラとジルは胸元にネックレスとして下げているが、ポメに関しては特別魔力の影響を受けている様子も見せないため、そのままチャームとして残すことになった。
* * *
ゴンドラを降りて再び乗り場前に戻ると、テーブルがひとつだけ空いていたバルに入り、エスプレッソを飲みながらアミュレットをしまう。ティアラは手持ちのアクセサリーポーチに、ジルもお守り用の小さな皮の袋を持っているようだ。
「せっかく手に入れたアミュレットだが、祝祭週間が終わるまでは封印ってとこかな? えぇと……この袋の中に……あれ、懐かしいな。昔貰った古銀貨、こんなところにあったのか」
「古銀貨……あら。それって今は、フェルトでしか流通していない古銀貨よね。ジルにとって、大切なものなの?」
タイムワープした時のティアラは二十年前の通貨を持ち合わせていなくて、ジル少年に古銀貨でガイド料を支払ったことを思い出した。けれどまさか、あの時の古銀貨を二十年間も持ち続けているとは考えにくい。
ただの偶然かと思ったが、真相が気になってしまい、含みのある言い回しで訊ねてしまう。
するとジルはちょっとだけバツが悪そうに、『初恋の人から貰った古銀貨だから、大事にとっておいたんだ』とひとこと。まさかタイムワープした時の古銀貨なのではないかと、ティアラは思わず心臓がぎくりする。
「初恋っていうと、子供の頃とか? 結構な年数が経っているはずよね」
「まぁ……もう二十年くらい昔になるのかなあ? ちょうど祝祭の時に、初めてガイドのバイトをしてさ。ガキだからまともに相手をしてくれる人がいなかったんだが、一人だけまともに取り合ってくれる人がいて。その綺麗なお姉さんが、オレにベテランのガイドと同じ報酬をくれたんだ」
子供にあげるにしては古銀貨一枚は高額だったかも知れないが、大人のベテランガイド相手だったら、確かに古銀貨一枚くらいは料金がかかっただろう。女性が歩きやすい道を選んで、広場や運河を案内してくれたジル少年は、ある意味ベテランガイド並みに気が利く存在だった。
「でもせっかくの報酬なのに、使わないで取っておいたのね……」
「当時は物価が安かったから、一か月毎日パニーニが食べられるって思ったんだが。初めてのバイト代、初めての淡い恋、それに滅多に手に入らない異国の貴重な古銀貨だ。おやつ代にするよりも、お守りとして取っておくことにしたんだよ」
ジルは少年時代の思い出が詰まった古銀貨を再び大事そうにしまい、今日手に入れた水の精霊のアミュレットも同じ袋に納めた。ティアラはジルの初恋話を聞かされて、ほんの少しだけ胸がモヤモヤとしてしまう。
先程のタイムワープが本物であれば、ジルの初恋の相手はティアラ自身の可能性もあるが。あの記憶が精霊が見せた夢か何かであれば、本当に別の素敵な女性がジルの初恋の相手ということになるのだ。
「素敵な初恋話ね、でもちょっぴり妬けちゃうかも」
「……そういえば、あの綺麗なお姉さんって、ティアラに雰囲気とか似てるよな。二十年も前の話だし、記憶も曖昧になってるんだろうけど。あの時の相手が誰かはともかく、もう一度ティアラをガイドするよ。古銀貨一枚分の祝祭ガイドを……!」
「ジル……是非、お願いするわっ」
椅子から立ち上がり、エスコートするためにティアラへと手を伸ばすジル。応えるように、ティアラも笑顔でジルの手を取る。
――今こそ二十年前のガイドの続きを……水の精霊の導きのままに。
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