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旅行記3 時を超える祝祭
09 優しく甘い母のジェラート
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何気なく提案したジェラートだったが、偶然の一致とは不思議なもので、ジル少年の母親が働く屋台を勧められてしまう。
(まさか、お母様がジェラート屋台で働いているなんて。普通に考えてみれば、駆け落ちして裕福じゃないって話だし。両親共働きでも、おかしくないわよね)
「母さんの働いているジェラート屋台は、遠くから来た観光客にも人気でさ。お姉さんもきっと気にいると思うよ」
「そうなの、ジェラートって一般的にはバニラとかがいいんだろうけど。何味にしようかしら?」
「女の人にはストロベリーとかチョコ味も人気なんだ。今日は祝祭と重なっているから、普段よりも店が多いはずだけど。その分、行列は少し緩和されているだろうし、すぐ注文できると思うよ」
あれこれ話しているうちに、屋台がひしめく広場に到着する。お馴染みのパニーニ屋台、コーヒーショップさながらのバル屋台、そしてジェラート屋台だ。
売り子さんは女性が多いが、一体誰がジルのお母様なのだろうと辺りを見回すと……ジェラート屋台に一人、とても既視感のある美女の姿が。
「……あらっ? あのジェラート屋台の売り子の女性。何処かで見た顔立ちのような」
「ああ! オレと母さんって顔立ちが似てるから、すぐ分かっちゃうのかも。母さ~ん」
ジル少年はティアラの言う『何処かで見た顔立ち』という意味を自分自身と似ていると解釈したようだ。確かに、ジル少年とジェラート屋台の売り子の美女は似た系統の顔立ちである。
だが、この場合のティアラが感じた既視感はもっとハッキリとしたまるで、そっくりな誰かについ最近顔を合わせたようなそんな既視感なのだった。
「いらっしゃいませ、観光客の方ですか? 女性のお客様にはチョコレートジェラートが人気ですよ。まぁジル、ガイドのアルバイト頑張っているみたいね」
「へへっ。お姉さんがジェラートを食べたいって言うから、母さんが働いて居る店がいいよって教えてあげたんだ」
ティアラの中で既視感の正体がはっきりとした形で、認識出来るようになってくる。さらに似て居ると感じるさせるのは、女性の顔立ちだけではなかった。清潔感のある優しげなその声色は、ティアラをこの時代へと導いた精霊様の声に酷似して居るのである。
『さあ、いらして下さい。二十年前の祝祭の日に……!』
それとも、あの喚び声は精霊様の声だとティアラが思い込んでいただけで、本当はジルの母親の声なのだろうか。未来では亡くなっているかと思うと、明るく微笑む彼女にティアラの胸が痛んだ。
「お姉さん、どの種類のジェラートにするかもう決まった」
「えっ? そうね、じゃあ女性に一番人気のチョコレートにしようかしら。ジル君も同じでいい?」
「ありがとうございます。チョコレートジェラート2つですね。ジェラートはすぐに溶けてしまいますので、お早目にお召し上がり下さい」
ニコッと笑ってティアラにジェラートを手渡すジルの母親は目鼻立ちから髪型まで、精霊様そのもので。まるで、精霊像が擬人化して普通の女性として暮らしているかのような、錯覚すら起こしてしまいそうだ。
呆然とするティアラをよそに、ジル少年は仕事中の母親に手を振り、観光客が飲食するベンチまでティアラとポメを案内する。
「さっ早くしないとジェラート溶けちゃうよっ。うんっ美味しい!」
「そ、そうね……甘くて美味しいわっ」
蕩けてしまいそうなチョコレートジェラートは、確かにハルトリアで一番と呼ばれても間違いなしの美味しさで。ティアラの困惑する心を優しく甘い母のジェラートが、癒していくのであった。
(まさか、お母様がジェラート屋台で働いているなんて。普通に考えてみれば、駆け落ちして裕福じゃないって話だし。両親共働きでも、おかしくないわよね)
「母さんの働いているジェラート屋台は、遠くから来た観光客にも人気でさ。お姉さんもきっと気にいると思うよ」
「そうなの、ジェラートって一般的にはバニラとかがいいんだろうけど。何味にしようかしら?」
「女の人にはストロベリーとかチョコ味も人気なんだ。今日は祝祭と重なっているから、普段よりも店が多いはずだけど。その分、行列は少し緩和されているだろうし、すぐ注文できると思うよ」
あれこれ話しているうちに、屋台がひしめく広場に到着する。お馴染みのパニーニ屋台、コーヒーショップさながらのバル屋台、そしてジェラート屋台だ。
売り子さんは女性が多いが、一体誰がジルのお母様なのだろうと辺りを見回すと……ジェラート屋台に一人、とても既視感のある美女の姿が。
「……あらっ? あのジェラート屋台の売り子の女性。何処かで見た顔立ちのような」
「ああ! オレと母さんって顔立ちが似てるから、すぐ分かっちゃうのかも。母さ~ん」
ジル少年はティアラの言う『何処かで見た顔立ち』という意味を自分自身と似ていると解釈したようだ。確かに、ジル少年とジェラート屋台の売り子の美女は似た系統の顔立ちである。
だが、この場合のティアラが感じた既視感はもっとハッキリとしたまるで、そっくりな誰かについ最近顔を合わせたようなそんな既視感なのだった。
「いらっしゃいませ、観光客の方ですか? 女性のお客様にはチョコレートジェラートが人気ですよ。まぁジル、ガイドのアルバイト頑張っているみたいね」
「へへっ。お姉さんがジェラートを食べたいって言うから、母さんが働いて居る店がいいよって教えてあげたんだ」
ティアラの中で既視感の正体がはっきりとした形で、認識出来るようになってくる。さらに似て居ると感じるさせるのは、女性の顔立ちだけではなかった。清潔感のある優しげなその声色は、ティアラをこの時代へと導いた精霊様の声に酷似して居るのである。
『さあ、いらして下さい。二十年前の祝祭の日に……!』
それとも、あの喚び声は精霊様の声だとティアラが思い込んでいただけで、本当はジルの母親の声なのだろうか。未来では亡くなっているかと思うと、明るく微笑む彼女にティアラの胸が痛んだ。
「お姉さん、どの種類のジェラートにするかもう決まった」
「えっ? そうね、じゃあ女性に一番人気のチョコレートにしようかしら。ジル君も同じでいい?」
「ありがとうございます。チョコレートジェラート2つですね。ジェラートはすぐに溶けてしまいますので、お早目にお召し上がり下さい」
ニコッと笑ってティアラにジェラートを手渡すジルの母親は目鼻立ちから髪型まで、精霊様そのもので。まるで、精霊像が擬人化して普通の女性として暮らしているかのような、錯覚すら起こしてしまいそうだ。
呆然とするティアラをよそに、ジル少年は仕事中の母親に手を振り、観光客が飲食するベンチまでティアラとポメを案内する。
「さっ早くしないとジェラート溶けちゃうよっ。うんっ美味しい!」
「そ、そうね……甘くて美味しいわっ」
蕩けてしまいそうなチョコレートジェラートは、確かにハルトリアで一番と呼ばれても間違いなしの美味しさで。ティアラの困惑する心を優しく甘い母のジェラートが、癒していくのであった。
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