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旅行記3 時を超える祝祭
06 聖女を喚ぶ過去の声
しおりを挟む揃いで購入した『水の精霊アミュレット』を、早速首に下げるティアラとジル。ゆらゆらと胸元に揺れるコイン型アミュレットは、魔法陣が刻まれているせいかペンデュラムのようで神秘的だ。
ポメの水色の首輪にもアミュレットのコインチャームを着けてやると、ふわふわの毛並みに馴染んでキラリと光る。
「あの橋を潜って水路を右に曲がると、いよいよ水の精霊様の銅像に着きます。橋を潜る際は危ないですので、頭上にお気をつけて下さい」
ちゃぷちゃぷと音を立てて船頭が器用にゴンドラを操縦し、狭い水路を右に曲がると花に囲まれた美しい銅像が祀られている区画に辿り着いた。
運河を見守ると謳われているだけあって、伏し目がちに運河を見下ろす精霊像の表情は優しく聖母のよう。
「昔、一度だけハルトリア一族本宅の噴水前で精霊像を見たことがあったが、オレが大学に入ったあたりに水路に移動したんだった。そうか、今はここで祀られていたのか……」
「ええ、水路を大規模整備する際にハルトリア一族の本宅に預けられてから、ずっとそちらの噴水前に祀られていたそうなのですが。水路の整備が終わった後に、運河に戻すようにとお告げがあったそうで。それからはこの場所が、精霊様の居場所なのです」
つまり、本来の居場所であるこの場所に精霊像が戻ってから、十年程経つ計算になる。その割にはジルが精霊像の行方を知らなかったことをティアラは不思議に思うが、それには理由があるらしい。
「ジルは随分長いこと、精霊像と対面出来なかったみたいだけど。何か事情があるのかしら?」
「実は……運河とエネルギーを調和するまでは再び非公開だったのですが、今回の祝祭から皆さんの目に触れるようになりました。運河を管理するバジーリオ様が、そろそろ魔力の蓄えも済んでいるし、いいんじゃないかと提案されまして」
「へぇ……兄貴が。それで、今回オレとティアラにゴンドラのチケットをプレゼントしてくれたのか」
まだハルトリア一族入りしてから日が浅いティアラは、運河の管理に義兄であるバジーリオを携わっていることは初耳だ。しかし、よく考えてみると最も混むであろう祝祭シーズンのゴンドラチケットを譲ってくれたのは、バジーリオである。
「公開したばかりの精霊様とすぐに対面出来るなんて、ラッキーだったわ! バジーリオさんに感謝ね……。そういえば、せっかくだし精霊様にお願いごとしなきゃ」
ティアラが胸元のアミュレットを手に握り、精霊の前で祝詞を唱えてからお願いごとを祈る。
「おっ……そうだったな。新しい家族が増えたし、みんなで仲良く健康に暮らしていけますように……」
「ジルの妻として頑張れるように、見守って下さい」
「くいーん!」
続いてジルも家庭円満と健康を祈願。ポメも動物語で何やら精霊様にお祈りを捧げているようだ。船頭も帽子を取って精霊様に失礼のないようにしながら、オールを安定させてゴンドラを守る。
全員のお祈りが済んだところで、ゴンドラを再び元来た進路に方向転換すると、何処からともなく不思議な声が聞こえてくる。
『精霊国家フェルトの元・聖女ティアラですね、ようこそハルトリアへ。あなたとお話ししたかった……さあいらしてくださいな。二十年前のあの日の祝祭の日に……!』
「えっ……二十年前? きゃあっ」
不思議な声は精霊像から聴こえて来て、驚く間も無くティアラとポメは青色の光に包まれる。
ティアラの初めてのゴンドラの旅は、祈りと観光では終わることは許されなかった。聖女と幻獣は水の精霊に導かれて、二十年前の祝祭の日までワープしてしまったのである。
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