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旅行記3 時を超える祝祭

02 運河を見守る水の精霊

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「ハルトリアは、運河を渡るゴンドラが有名なんでしょう? 嬉しい……私、そんな素敵な初デートが出来るなんて思ってなかったわ」
「実は兄貴がオレ達にって、くれたものなんだ。運河には水の精霊様がいるし、ティアラの体調不良の原因が精霊様との繋がりが切れたことかも知れないからって。でも流石は兄貴だよな……女性の気持ちを掴むのになれていて」
「そうだったの。バジーリオさんの厚意だし、愉しいデートにしたいわ。水の精霊様への挨拶も出来るなんて、ラッキーだもの」

 ティアラがゴンドラに興味があるようで、ジルは心の奥底からホッとした。色男揃いとされているハルトリア一族のジルだが、好きな女性が喜んでくれるだけで嬉しいものだ。

 運河には様々な周遊コースが用意されていて、犬連れも可能となっているチケットは複数の周遊コースに対応していた。ジルは思案した結果、少年時代の思い出がたくさんある奥まったストリート周辺の水路を選ぶことにした。

 ふと、兄からゴンドラチケットを貰った際の会話を思い出す。


 * * *


 初夜を迎えたからと言って、まさか3日も寝込んでしまうとは思いもよらず。ジルはティアラのひどい疲れに『自分の女性への扱いが、悪かったのだろうか』と懸念していた。こんな時に頼りになるのは、何だかんだ言って実の兄であるバジーリオだ。

 祝祭という忙しい時期に相談するのは気が引けたが、幸い初夜から3日目の夜はジルもバジーリオも予定がポッカリ空いていた。
 兄弟行きつけのバーでワインを飲み交わしながら、ティアラが寝込んでしまったことを素直に告げる。

「なあ、兄貴。実はさ……ティアラが初夜の次の日から、ずっと調子が悪くて。オレってもしかして、何か女性の扱いを間違ったのかな」
「おいおい、流石の僕でも初夜の現場を番人のごとく、見ていたわけじゃないからね。でも、どんなにウブな生娘でも純潔を夫に捧げたからって、3日も休む人は少数派だろう。つまり直接的な原因は、他にあると見た」
「原因は他にある……? 純潔を捧げたからっていうのは、間接的な原因ってことか」

 ワインと生ハムを交互に含みながら、なかなか想定される原因を話さない兄にジルはもどかしさを感じていた。もしかすると、兄のバジーリオも自分が立てた仮説を弟に話して良いのか、迷っているのかも知れない。

「これはあくまでも、僕の推測だけど。ティアラさんが精霊国家フェルトのトップ聖女だったと、ジルは語っていたね。つまり彼女は数ヶ月前までは、精霊様の御加護の元にいたことになる」
「そういえば、現役聖女時代は毎日のように国のエネルギーのために、精霊の名の下に祈りを捧げていたんだっけ。けど、精霊国家フェルトは実のところ、もう精霊の御加護はほとんど受けていないんだろう?」
「だからそのための取り次ぎ役が、聖女という存在なんだろうね。ティアラさんが体調不良になった原因は、これまであった精霊との繋がりが、夫を作ることで一時的に断ち切られたからなんじゃないかな」

 まるで神に操を立てている修道女か巫女のような存在という推測だが、他の魔法使いよりも魔力が膨大だとされる聖女のチカラの源は古代精霊の御加護だろう。

「……乙女を失うことで、精霊からわずかに受け取っていた魔力エネルギーが途絶えたのか。身体はだいぶ良いみたいだが、回復は自然と待つしかないのか」
「我が大公国ハルトリアには、運河を守る水の精霊様が住んでいる。精霊国家フェルトのように、大きな契約を結んでいるわけじゃないけれど。水の精霊様の元へご挨拶に行くだけでも、随分と体調が良くなるはずだ」
「けど、挨拶って……教会は祝祭の関係でしばらく観光客でいっぱいだし」

「僕達の精霊様は身近にいらっしゃるんだから、直接会いに行くのが良いと思うよ。はい、ゴンドラのチケット! せっかくだから、デートを楽しんでおいで」


 気さくで気がつく兄のおかげで、実現したゴンドラデート。ジルはこの機会に、自分がティアラにまだ話せていない少年時代の記憶を見せることを決意したのだった。
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