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旅行記2 婚約者の家族と一緒に

05 忘れていた家族とのひととき

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 オープンテラスで迎える甘いドルチェの朝食、エスプレッソとクリーム入りのクロワッサン『ブリオッシュ』に心まで蕩けてしまう。ミリアも甘酸っぱいラズベリードーナツにご満悦で、ドルチェは女子に大人気だ。

 内海周辺特有の爽やかな太陽の光は、冬の季節を忘れるほど朗らかな温かさ。時折、ポメに餌を分けにくる愛犬家もいて、犬好き国家なのが伝わってくる。
 すると隣のテラス席のトイプードルの飼い主が、吠えてしまった事を気にしているのか、犬用ジャーキーを手にティアラ達の席へと謝りに来た。

「この子、ポメちゃんって言うんですか? さっきはうちのプルルが吠えて、申し訳ありませんでした。このジャーキー、仲直りの印にどうぞ」
「まぁ……気になさらないでくださいな。ポメ、良かったわね。大好きなジャーキーを隣のテーブルの人から分けてもらって」
「くうーん」

 もふもふと毛並みを風に揺らしてジャーキーを堪能するポメは、ティアラの目から見てもポメラニアンそのもので。その正体が、幻獣カーバンクルであることを忘れてしまいそうだ。

 穏やかな朝食がくれたものは、美味しいドルチェや他の犬好き住民との触れ合いだけではない。ジルからは聞いていなかったハルトリア公爵一族の内情も、ミリアとのお喋りで何となく理解出来るようになってきた。

「パパはね、昔は大きなお城があったっていう旧都市の方で、葡萄畑や鉱山を見回りして、あとはずっと書類にハンコを捺してるんだって。ママはそのお手伝いで、ずっとパパに付きっきりなの。天国にいるジルのママさんの分まで、奥さんのお仕事とメイドさんのお仕事を頑張ってるんだって」

(天国にいるジルのママさん……ミリアちゃんと彼女のお母さんが当たり前のように、ハルトリア公爵家で受け入れられているのはそういう事情だったんだわ)

「それでミリアちゃんは、新都市のお屋敷で暮らしているのね」
「うん。今はお手伝いの人達しかお屋敷にいないから、ミリアちょっとだけ寂しかったんだ。ママがそばに居ないし、ジルお兄ちゃんはずっとフェルトでお仕事だったし」

 大公国ハルトリアの大公であるジルの父は、旧都市の本宅を拠点として仕事をしていて忙しい。本来はジルが新都市地域の仕事を任されていたらしいが、精霊国家フェルトとの交渉で数ヶ月の間は留守だった。
 ミリアのママは元メイドのスキルを活かして、サポートに徹しているという。そしてジルの母は、既にこの世にいないこともミリアの話から判明した。

(何となく家族構成からして、そういう雰囲気はあったけど。やっぱりジルのお母様は、既に亡くなられていたのね)

「悪かったな、ミリア。今年はティアラとの結婚を控えているから、新都市の屋敷を拠点にして活動する。遊ぶ時間も取れるぞ」
「えへへ。良かった! お受験で疲れていたし、必須試験の回復魔法がまだ使いこなせないの。たまにこうして外でお食事出来るだけでもいいから、遊びたいなっ」

 ミリアは魔法学校受験に向けて、勉強中だそうだが、回復魔法の初歩魔法がまだ使えないと言う。そこでティアラは、自分が回復魔法の家庭教師役を買って出ることにした。
 魔力が途切れたティアラに出来る魔法授業には限りがあるが、正しい呪文詠唱くらいならチェック可能だ。

「回復魔法は精霊に呼びかけるスペルの意味を認識すると、成功率が上がるのよ。とはいえ、精霊語は発音が難しいし、呪文詠唱の確認くらいなら、魔力を失った私でも見てあげられるわ」
「本当に、いいの? 元・聖女様が見てくれるなら、合格点が取れるかも! 嬉しいな」

 精霊国家フェルトで聖女として仕えていた頃は、すっかり忘れてしまっていた家族とのひとときをティアラは取り戻していた。
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