上 下
24 / 87
旅行記2 婚約者の家族と一緒に

02 義妹に懐かれて

しおりを挟む

 ジルの帰りを待ちわびていたという少女は、二十歳ほど歳の離れたジルの妹だという。腹違いのせいか妹の方は、黒髪のジルよりもやや明るめの亜麻色の髪色だ。
 だが、パッチリ二重でつり目がちの瞳はジルの目に似ていて、同じ父親譲りの遺伝であることが察せられた。

「お兄ちゃんっ出張お疲れ様。あれっその綺麗な人が、例のお嫁さん? 良かった落ち合えたんだねっ。ところで、お土産は~」
「……ミリア、立派なレディになりたければ、もう少し落ち着きなさい。ほら、お土産は頼まれていた薔薇のコロンだぞ」
「うわぁいっ。今日から、お洋服に使おうっと」

 精霊国家フェルトのコロンは、国お抱えの錬金術師が特別な魔力練金で作っているため、他国からも人気が高い。マゼランス王太子と聖女クロエが散財しなければ、意外とフェルトの財政は安定する要素も有るのに、とティアラは勿体無いなく思った。

「ジル様、お帰りなさいませ。ご無事で何より、ティアラ様もお話は伺っております」
「あぁそれにしても、久々の遊びでミリアがはしゃいで大変だったろう。ご苦労だったな」

 お土産を見て大喜びする美少女を見て、すぐにジルの妹と判断できる者は少ないだろう。変に早とちりして、失言しなくて良かったと胸を撫で下ろす。

(ミリアちゃんは、はっきりと『ジルお兄ちゃん』と呼んでいるし。かなり歳の差のある兄妹なのは、本当のことみたい)

「初めまして、私ミリアって言います。ティアラさんはお兄ちゃんの怪我を治すために、持ってる魔力を全部使ってくれたんでしょう? 私からもお礼を言わせてね」
「えっ……う、うん。私の最後の魔法でジルを助けられて良かったわ。ミリアちゃん、こちらこそよろしくね」
「うふふ! あれっこのカゴに入っているワンちゃん、ポメラニアンだぁ可愛い~。明日のお祭りは一緒に回ろうね」

 ポメを幻獣ではなく本物のポメラニアンだと思っているようだが、疲れてしまい説明する気力が湧かないティアラ。

「んっ? ティアラも長旅で疲れているみたいだし、屋敷に戻る前にバルで食事にするか。あっバルって言うのは、うちの国のカフェみたいなもんだよ」
「そういえば、ジルってカフェのエスプレッソが好きって言ってたものね。この国では、バルって呼ばれているんだ」

 元気なミリアに押され気味のティアラを見て、疲れが溜まっていると思ったのか、ジルが家族水入らずで食事を提案。

「わぁい! お兄ちゃんがいない間はバルに連れて行ってもらえなかったから、ミリアも嬉しいな。ティアラさん、ミリアね聖女様にすごく憧れていたの。いろいろお話し聞かせてね」

 キラキラと瞳を輝かせて、元・聖女のティアラを見つめるミリアに、思わず心がハッとする。聖女を引退しても、レディとしてジルの隣に恥ずかしくないように立ちたいと思うようになってきた。
 それに少しずつだが、異国の文化に馴染まなくてはいけない。ティアラは追放されて、人生そのものを引退したわけではない。むしろこれから、彼女の女としての人生の本番が始まるのだ。

「ミリアちゃん、私ね。御伽噺の聖女様のような暮らしは、していなかったけど。それでもいい?」
「うん! ティアラさんが、どうやって回復魔法を覚えたんだろうとか、そういうことが知りたいのっ」
「はははっ。ミリアに懐かれて大変そうだな、ティアラ。けどまぁ家族になるんだから、仲良くなるのはいいことだ」

 とっくの昔に失くしたはずの家族という響きに、ティアラの心がチクリと痛む。ハルトリアでの暮らしは、想像よりも賑やかなものになりそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

処理中です...