19 / 87
旅行記1 指輪が見せる記憶の旅
07 二つの国の密かな交渉
しおりを挟む「ティアラ、一体何をしているのだ? まさか、追放されそうな身だからといって、新たな後ろ盾を探しているのではあるまいな。まったく、ハルトリアどのにすり寄るとは大胆な」
まるで、ティアラがハルトリア公爵……つまりジルに擦り寄って、誘惑しているかのような言い方だ。いくら、破綻状態の婚約者とはいえ、もう少し言葉を選べばいいものをと、ティアラは苛立ちを覚えた。
同時に、暗殺者に襲われて怪我をしたジルを手当てしていたという事実は、伏せづらくなった。
「マゼランス殿下、お言葉ですがハルトリア公爵は、我が王宮の警備が手薄だったせいで暗殺者部隊に怪我をさせられました。幸い通りかかった私がすぐに、回復魔法で治癒しましたが。外部にこの話が漏れては、いろいろと良くないのでは?」
「何っ暗殺部隊だと……。そうか、そういえば日頃に比べて庭が乱れているな。これは、暗殺用の苦無か?」
確かに、普段はもう少し整然としている中庭のオーナメントが、乱れている。マゼランスが状況確認のために地面に落ちていた苦無を拾い上げると、毒魔法が切っ先に含まれていた。
「呼び出されて中庭に行ったら、数人手慣れた暗殺者が待ち構えていたんだよ。せっかくの綺麗なモニュメントを、身を隠すための道具に使うなんて風情のない連中なんだろう」
「苦無に魔法で毒を塗り込むとは、闇魔法の使い手が協力しているに違いない。暗殺部隊の背後には、魔術集団がいる可能性……か」
悪政と叩かれているフェルト王やマゼランス王太子だが、自分達なりに革命派と対立しているらしい。珍しく曇るマゼランスの表情からは、焦りの色が見えていた。
「何でも、大公国ハルトリアがよそと連盟になるのは、気に入らないって話だぜ。精霊国家フェルトには、革命の兆しが見え始めている」
僅かに残る腕の傷痕を見せて、マゼランスを納得させると、暗殺部隊の噂をマゼランス自ら認め始めた。
「……近頃、市井で反乱や革命を起こす動きがある。暗殺部隊は、その革命派に雇われている者が多いらしい。おそらく、聖女の魔力に依存している我が国の方針が、気に入らないのだろう。迷惑をかけて申し訳なかった。ハルトリア大公には、のちにお詫びの品を贈るゆえ、出来ればこの件は内密にして頂きたい」
珍しく頭を下げるマゼランスに驚いたのか、ジルはやや考えてから暗殺者部隊が市井で活気付いている情報を、胸の内に隠すことを了承する。
「はぁ分かったよ。この聖女様に免じて目を瞑ってやるけど、聖女様の魔力に依存って。まさかこの国は、精霊の加護が切れてるってことか? その辺を詳しく聞かせてくれないと、大人しく引き下がることは出来ないぜ」
表向き聖女の役割は、フェルトに加護を与える精霊のチカラを高めるサポート的な役割だ。しかし、実際には精霊の加護は見る影もなく聖女を人身供儀のように扱い、魔力を吸い尽くしては放流しているようにしか見えない。
涼しげな夜風が吹く王宮の中庭で、ジルとマゼランスの静かな交渉が始まった。
0
お気に入りに追加
313
あなたにおすすめの小説
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる