3 / 13
03
しおりを挟む「それにしてもお菓子の方も上等ですが、この指輪、仮面夫婦にしては随分と奮発したんですね」
「いやいや、妖精国産の特上プラチナに魔法誕生石の指輪なら、貴族の婚約業界では常識と言えるでしょう。我々の果てしなく続く【愛】をアピールするためにも必須かと」
黄金色のお菓子、即ち金貨の存在を確認したのち、さっそく左手薬指に婚約指輪を嵌めてもらいます。仮面夫婦には勿体無いほどのサファイアがきらりと光って、契約結婚ぶりに拍車を掛けます。
(綺麗、こんな妖精の国でしか産出できない上品なプラチナのリング、しかも魔法のチカラを宿す誕生石付きで。細工もいちいち凝っていて凄いなぁ。あれっ裏側に名前が記してあるんだ)
「この異世界の貴族って、本当は優雅な暮らしをしているんですね。私、以前もお話しましたけど、前世でも今世でもお金の苦労ばかりで。一生、いえ何度生まれ変わっても、こんな素敵な指輪を貰えることはないと思っていました」
「一般的に人間は、前世での業を引き継いで生まれてくるとされています。ですが、あなたの業は今世でスッキリと解消されることでしょう! あなたも僕も、前世の記憶持ちという共通点がある。この美しくも時代錯誤な異世界で、同じ地球での転生者である我々が夫婦になることは必然。例え、契約結婚であってもね」
前世では家業の工場経営が危うくなり、学費を自分で賄う苦学生だった私。そして恐ろしいことに今世でも、自転車操業のように田舎の畑を経営する辺境伯のご令嬢に生まれ変わってしまった。この契約結婚は、私の輪廻転生の歴史をガラリと変える画期的な、玉の輿プログラムなのです。
「よく似合ってますよ。これだけ上手くやれば、誰も僕達が『契約結婚』だなんて気づかないでしょう。では、おやすみなさい」
「ええ。おやすみ……んっ?」
気分が盛り上がっているのか、仮面夫婦であるはずの旦那様から、甘く柔らかな口づけをされてしまいます。小鳥さんのような可愛いらしい口づけが、次第に深くなり……あれっ?
「あ……んっ」
「ふっ……慣れていないのかな? 息継ぎを上手くして、ん……」
「……ん、ん。ちょ、ちょっと待ってください。あのこれ、契約結婚ですよね?」
びっくりして、慌ててクライン公爵を引き剥がすと、当然のようにポカンとした顔で私を見つめて意図を説明し始めます。
「はい。けど、結婚式のために口づけは、練習しておいた方がいいですよ。あと、使用人を黙らせたい時とか。では、そろそろお風呂の時間ですので」
ちゅっ。
今度は軽く、ほっぺたにキス。
(なんていうか、ほっぺたのキスは結婚式では必要ないだろうし、練習いらないんじゃないかな?)
キス現場を目撃してしまったばあやさんが『あぁっ公爵様もついに、好きな女性が出来て、嬉しい限りですっ』と涙を流す始末。
ぽぽぽぽぽっ!
と、思わず顔が赤くなっていく私を見ると、クライン公爵はちょっと意地悪そうに微笑んで。『初めてのキス、ご馳走様でした』と、イケボをアピールしながら耳元で囁いて退室されました。
自然の流れでファーストキスを奪われてしまい、『契約結婚』ってどんなだったっけ。と、ここまでの流れを懸命に思い出すのでした。
0
お気に入りに追加
601
あなたにおすすめの小説
獅子騎士と小さな許嫁
yu-kie
恋愛
第3王子獅子の一族の騎士ラパス27歳は同盟したハミン国へ使いで来た。そこで出会った少女は、野うさぎのように小さく可愛らしい生き物…否、人間…ハミン国の王女クラン17歳だった!
※シリアス?ほのぼの、天然?な、二人の恋がゆっくり始まる~。
※不思議なフワフワをお楽しみください。
完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!
音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。
頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。
都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。
「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」
断末魔に涙した彼女は……
転生おばさんは有能な侍女
吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした
え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀?
転生おばさんは忙しい
そして、新しい恋の予感……
てへ
豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!
どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら
風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」
伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。
男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。
それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。
何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。
そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。
学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに!
これで死なずにすむのでは!?
ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ――
あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
婚約破棄させてください!
佐崎咲
恋愛
「ユージーン=エスライト! あなたとは婚約破棄させてもらうわ!」
「断る」
「なんでよ! 婚約破棄させてよ! お願いだから!」
伯爵令嬢の私、メイシアはユージーンとの婚約破棄を願い出たものの、即座に却下され戸惑っていた。
どうして?
彼は他に好きな人がいるはずなのに。
だから身を引こうと思ったのに。
意地っ張りで、かわいくない私となんて、結婚したくなんかないだろうと思ったのに。
============
第1~4話 メイシア視点
第5~9話 ユージーン視点
エピローグ
ユージーンが好きすぎていつも逃げてしまうメイシアと、
その裏のユージーンの葛藤(答え合わせ的な)です。
※無断転載・複写はお断りいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる