上 下
49 / 50
第六章

第49話『ボスとして一切の不足なし』

しおりを挟む
『グラアァ!』
「ふんっ!」

 そんな見え見えに俺へ直行されて、真正面から受け応えるわけがないだろ。
 俺は闘牛ばりに突進してきた攻撃を、右へ跳んで回避する。

 それにしても助かった。
 屋敷の敷地は豪邸のそれとしか言えず、かなり広大。
 立ち回れる空間が広いというのはありがたい。

「そんなにゆっくりだと、次は攻撃しちゃうぞ」
『グルルルル』
「おー怖い怖い」

 大型と戦闘した時、力比べをしたが……今回もそれをやったら、あの強靭な顎によって盾どころか腕が砕かれてしまうだろうな。

『ガァッ!』
「やばっ」

 若干だけ姿勢を低くし、そこからの跳躍はかなりの速さ。
 俺は油断をしていたわけではないが反応が遅れてしまい、あいつの攻撃を盾で防ぐほかなかった。

「なかなかやるじゃないか」

 大型とは力の差が半端じゃない、と先ほどまでいた場所を見て思う。
 なんせ、たったの一撃を防いだだけだというのに、大体3mは後方へ飛ばされている。
 これでハッキリとわかった。
 たったの一撃、あの攻撃を防御なしにくらえば、その部位がなくなるか命を落とす。

「面白くなってきたな」

 だから、面白いんじゃないか。
 蘇ってくるあの楽しかった日々。
 相手がモンスターだろうが、人間だろうが、自分のありとあらゆるものを行使し戦い、勝つ。

 あの緊張感。
 あの高揚感。
 あの優越感。

 今、この瞬間に味わっている血が滾るこの感覚。
 ああ最高だ。
 今、この瞬間こそが俺にとって最高に楽しい時。
 ああ最高だ。

『グラァ!』
「【ブロック】」
『ガア!?』
「ああ、驚いたか?」

 先ほどとは違い、俺は1mmも動かず剣と同じ鋭さをもつであろう爪を受け止める。

「ふんっ! ――おいおい、避けるなんて寂しいじゃないか」

 終始、こちらをただの獲物としか思っていなかったであろうその表情から一変。
 なぜ自分の攻撃が防がれたのか、という疑問が隠しきれていない困り顔は、そこら辺に居る犬となんら変わりない。
 攻撃されたとしてもさほど痛まないであろう、俺の剣撃を避けてしまうほどには困惑しているというわけだ。

「まだまだこれからだ。一緒に楽しく踊ろうじゃないか」



「本当に、大丈夫なんだね……?」
「え、ええ」

 アルマと合流を果たした一行は、屋敷一階にて時間がないなりに現状の説明とこれからの行動を端的に伝えた。
 カナトが戦闘しているところを見られる、窓際で。

 理解はしてもらえたが、とても了承できる内容ではなく。
 しかもそれが自分達を助けるためということだから尚更。

「あんな大きいやつと一対一なんて……あのお方は本当に大丈夫なのですか」
「俺達のことは気にせず皆さんで倒した方が――」

 アルマだけではなく、メイドと執事も同様に。

「私達もそうは思うのですが、どこにモンスターが潜伏しているのかわからない今は、私達と一緒に行動した方が安全です。それに――」
「カナトは大丈夫だよ~」
「そうね、カナトならね」
「カナトはあんまり理解していないようだけど、みんながリーダーとして推したのはちゃんと理由があるんだ」

 三人は思わず首を傾げる。

「盾を装備していつもみんなを護ってくれるけれど、実は一番強いんだ」
「それだけじゃないよ~。カナトって一番ヤバいんだ」
「珍しく意見が合うじゃない。人のことを研究熱心だの天才だの言ってるけれど、カナトが一番ヤバいって話よ。あれはもう、なんて言えばいいのかしらね。変態?」
「あはは……みんな凄い言いようだね。でも、大体合ってるから否定できないのよね。カナトはね、いつもはあんな感じだけど、集中力も判断力も戦闘力もいろいろとおかしいんだよ。それに、目を凝らして表情を見てみて」

 言われた通りに三人は窓からカナトの表情に目を凝らす。

「「「……なるほど」」」

 巨大なウルフと一対一で渡り合っているという事実もさることながら、笑みを浮かべながら戦う姿を見てしまえば、言われていることを納得せざるをえない。

「要するに、助ける助けないとかではなく――現状で僕達は足手まといになってしまうから、カナトが集中して戦えるように退避してほしいってことだね」

 アルマは諦めた表情で吐露する。

「わかったよ。それに、こちらには怪我人も居るし、みんなの助けがないと逃げることもできないのは事実だ」
「ごめんなさい……」

 メイドは自分の不甲斐なさに頭を下げようとするも、

「大丈夫。私達が絶対に護ってみせるし――」

 アケミはアルマの凛々しい表情を見る。

「そうだね。僕だって戦えるから」
「よし、そうと決まれば急ぐわよ」



「ボスとして一切の不足なし。強えーぜ、お前」

 自分の体力が見えるのなら、相手の体力も見えるようにしてくれよ。
 時間が確認できないのと同じく、変なところで現実味を出さないでくれ。

「お」

 快く納得はしてくれなかったのだろうが、みんなが屋敷から逃げ出していくのが視界に入る。
 走って移動していないということは……なるほどな。
 アルマのやつ、本当に人を護るためこんな窮地に残って籠城していたってことか。
 やるじゃねえか。

『グッ』

 こいつ……。

「【ヘイトスティール】――おいおい、寂しいことをしてくれるじゃねえか」

 目の前に居る俺を差し置き、弱者が居るあちらへ視線を向けようだなんて随分のなめてくれるじゃねえか。

「おい犬っころ。ここからは殺し合いだ」
『グァアッ!』

 ここからは俺から仕掛ける。

「はあっ!」

 地面を蹴って、盾を前に突進。

『グウッ』
「【ブロック】はっ!」

 さっきまでのこちらから仕掛けた攻撃が通じなかったのを良いことに、完全になめ切っている。
 攻撃が防がれたのも忘れ、爪で攻撃を仕掛けてきたのをスキルを使用して防ぎ、剣を足に突き刺す。

『グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
「やっぱりそうか」

 頭から胴体にかけて生える毛――いや、剛毛は、予想通り剣の攻撃は通用しなかった。
 しかし、それ以外の部位はどうか、と実践してみた結果、やはりそういうことらしい。

「……それもそうか」

 今の今まで、モンスターはゲームの時と同じく血なんか流れないと思っていた。
 だが、この剣に付着した真っ赤な血は、その考えを全否定してくる。
 一撃で倒せれば消滅するだけなのか、またはボスモンスターのみなのか。

 ――いけない。
 こんな時だというのに、あいつが後退して時間ができてしまったものだからつい考察を始めてしまった。
 まだ戦いは終わっていない。

 俺は付着した血を払い落とし、盾を前に構える。

「いくぞっ」

 最初の時みたいな瞬発力はなくなったのだろう、それに踏ん張ることもできなさそうだな。
 爪の攻撃ではなく、牙で俺を食らいたいようだが……。

「いいぜ、力比べだ。【ブロック】」

 勢いそのままに口の中に飛び込み、閉じられる牙の間に盾が挟む。

「やっぱりいいな、ボス戦っていうのは。燃える」

 燃える体――しかし、頭は冷静。
 だから、俺にはしっかりと見えている。

「弱点を晒すってのは、お馬鹿がすることだぜ。――はーっ!」

 こいつが思い切り噛み締めて盾を固定してくれているからこそ、思い切り踏ん張って力を込められる。
 左手に力を込め、半見開いた体をねじり、右手に握る剣をこいつの口内に突き刺す。

『――』

 声なき声が鳴るが、それは終わりへの合図。

「これで終わりだ」

 柔らかい肉を斬り分けながら、剣を地面まで振り下ろした。
 すると、もはや悲鳴の一つすらなく、こいつの体はファサッと灰になって風に流されていく。

「さて、行くか」

 このまま勝利の余韻に浸って座り込んで空を仰ぐというのも良いが、そんなことよりみんなと合流が先だな。
 それに、村の中にまだ小型とかのウルフが残っているかもしれない。
 まだ終わりではない。

 剣に付着してた血が消えたのを確認し、この仕様に関しては不思議でしかないが、納刀し、みんなの方へ駆け出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

「天災」の名を持つ超能力を手にした少年はこの世界を破壊する

daichi
ファンタジー
超能力と呼ばれる異能な力が存在する街に住む高校生・城ヶ崎陽翔 陽翔は妹の紫音と共に、中高一貫校 時雨学園に入学した。 これから学園生活が始まると思っていたその夜、事件に巻き込まれ、無能力者の陽翔は超能力 【disaster】を手に入れて、この街の謎に迫ってゆく……

深刻な女神パワー不足によりチートスキルを貰えず転移した俺だが、そのおかげで敵からマークされなかった

ぐうのすけ
ファンタジー
日本の社会人として暮らす|大倉潤《おおくらじゅん》は女神に英雄【ジュン】として18才に若返り異世界に召喚される。 ジュンがチートスキルを持たず、他の転移者はチートスキルを保持している為、転移してすぐにジュンはパーティーを追放された。 ジュンは最弱ジョブの投資家でロクなスキルが無いと絶望するが【経験値投資】スキルは規格外の力を持っていた。 この力でレベルを上げつつ助けたみんなに感謝され、更に超絶美少女が俺の眷属になっていく。 一方俺を追放した勇者パーティーは横暴な態度で味方に嫌われ、素行の悪さから幸運値が下がり、敵にマークされる事で衰退していく。 女神から英雄の役目は世界を救う事で、どんな手を使っても構わないし人格は問わないと聞くが、ジュンは気づく。 あのゆるふわ女神の世界管理に問題があるんじゃね? あの女神の完璧な美貌と笑顔に騙されていたが、あいつの性格はゆるふわJKだ! あいつの管理を変えないと世界が滅びる! ゲームのように普通の動きをしたら駄目だ! ジュンは世界を救う為【深刻な女神力不足】の改善を進める。 念のためR15にしてます。 カクヨムにも先行投稿中

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

処理中です...