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第二章

第18話『すぐ登録できないってマジ?』

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「えぇ?? すぐ冒険者登録ができないってマジですか」
「はい、結果は異常になります。その、マジ・・というのはどういう意味ですか?」
「あ、い、いえ、なんでもないです。忘れてください。取り乱してしまいごめんなさい」

 俺はつい、冒険者登録の際に使われるであろう個室にて、今回対応してくれる黒髪ストレートロングの女性に気持ちを露わにしてしまった。
 なんてことのない二畳ぐらいの一室に机と二人分の椅子しかない部屋なのだが、机の上に出された一枚の用紙と彼女から聞かされた衝撃的事実に動揺を隠せないでいる。

 だってそうだろう?
 たかが冒険者登録をするだけだっていうのに、筆記試験や実技試験があるならまだしも、口頭質問に答えただけで終わり、それだけではなくこのままでは冒険者登録ができないと言われたのだ。
 わけがわからない。
 たぶん、他の部屋でも俺と全く同じ反応をしているであろうみんなの顔が思い浮かぶ。

「あの、理由を訊いても大丈夫でしょうか」

 まさかこのまま理不尽に追い返されるわけでもあるまい、と思いたい。

「これと言って複雑な理由はないのですが、とりあえず一つ目としては時間帯です」
「あー」
「単純な話で、これから日が暮れてしまいますので後日改めてお越しになっていただくことになります」
「そういうことでしたか」
「後は、試験を実施してもらう必要があるからです」
「そうですよね、わかりました」

 まあ理に適ってはいるな。
 現実世界でいう公務員的な立ち位置なんだろうし、受付対応は夜までやっているだろうが、試験官が不在になってしまうのだろう。
 タイミングが悪かったということで、それは仕方がない。

「それでは、明日のどれぐらいにこちらへ来ればいいですか?」
「先ほどのお仲間様方と一緒にですと、お昼前ぐらいに受付へ話をしてもらえますと大丈夫です」
「わかりました。ではまた明日来ますので、その時はよろしくお願いします」

 話が終わり個室から退室し、その足で館内の一角にある休憩所へ向かう、と、そこにはみんなの姿が。
 少しだけ肩を落としてみんなの元へ歩き寄る。

「そんなことある?」

 俺は本音を漏らす。

「まあ、仕方ないんじゃないかな」
「時間帯的に、私達が遅かったからね」
「しかしなあ、まだ日は高いっていうのになぁ」

 ケイヤとアケミの言っていることはわかるし、俺も先ほどそこで腑に落とした。
 だからこれ以上の愚痴を零すのは、先ほど真摯に対応してくれた受付の人に申し訳ない。

「とりあえず、アルマとバルドさんは明日用事があるって言っていたし、まあ問題ないな」
「じゃあこれから帰るだけなら、最後に【花の蜜】へ行っちゃう?」
「いいわねそれ。ちょうど特別給与が入ったわけだし」

 時間があるからって、味が好みだからと昼ぐらいに行ったにもかかわらず、本日二度目の来店を果たそうとしているのか。
 ミサヤらしい提案ではあるが、アンナも話に乗ってしまうと話が盛り上がってしまう。
 しかし、それを許してしまうわけにはいかない。

「それはダメだ。お金だって無限じゃないんだぞ」
「今はお金が減っていくだけなんだし、ここはぐっと堪えないとね。帰ったら晩御飯だって食べられるんだし」

 俺は不意にアケミの顔に視線を向けてしまった。
 こんな流れになってしまえば、スイーツが大好きなアケミも乗ってしまうのだとばかり思っていたからだ。
 でもここで以外だな、と口を滑らせようものならば、さっきのミサヤみたいにお腹へ手刀がクリティカルヒットすることだろう。

 とりあえずこれを好機と捉え、便乗する。

「どうせ明日から冒険者になれるんだし、そうしたら稼いだ分は全部自分のものになるんだから、それからでもいいんじゃないか」
「……それもそうね」
「えーっ、アンナが裏切ったー」
「人聞きの悪いことを言わないでちょうだい。あたしはあんたみたいに食い意地が悪くないのよ」
「ぶーぶー――わ、わかったよ」

 これまた意外な反応だ。
 てっきり、ミサヤのことだからもっと駄々を捏ねると思っていたんだが……あれか、今チラッと視界の端に映った、アケミがスッと手を持ち上げたことが起因しているのだろうか。
 一瞬だけ言葉が詰まっていたし、たぶんそうなんだろう……こわ。

「とりあえず用事も済んだことだし、外に出るか」

 日暮れまで時間がまだまだあると思っていたが、それは間違いだったようだ。

 昼間に訪れた冒険者専用依頼委託所と同じく、建物前には三段に別れた噴水を中心に広場があり、ところかしこから冒険者であろう人々が行き交う。
 夕陽に照らされながら噴水から流れる水は哀愁を漂わせ、冒険者達によって活気溢れるというよりは、功績を称え合ったり反省会をしながら歩いている。
 これから一日の終わりが訪れることを嫌でも肌で感じさせられた。

 なんでだろうな。
 毎日のように学校へ行き、帰宅したら寝るまでほとんどゲームをしていた。
 学校にいる間でもゲームのことばかりを考えていて、少なくとも優等生ではなかったが、みんなと歩む時間はとても楽しく、毎日があっという間に過ぎ去っていたな。

 なんでだろうな。
 そんな廃ゲーマーみたいな生活が楽しくて仕方なかったというのに、こんな世界に来てわけもわからないはずなのに、毎日の時間があっという間に過ぎていく。
 理由なんて考えなくても良くて、どんな状況下だったとしてもみんなと一緒にいるから、なんだろうな。

「寄り道せず、宿に帰るか」

 ボス攻略後の反省会みたいな、寝る前のみんなとする雑談みたいな、遊び終わって名残惜しい気持ちを抱いたまま家へ向かう帰り道みたいな。

 俺の心境なんて考えもせず、みんなは楽しそうに何かを話している。
 話を聞いていないのかと足を止められるも、俺が何も言わずに歩き出すとみんなも自然と歩き出す。

 夕陽に照らさせる通路を歩き出すと、気になっていた街灯が点灯し始める。
 どんな幻想的なものかと一瞬は期待したが、なんてことのない、現実世界と全く一緒の白い感じの光。
 ここは紫色とか蒼色にでもなったら面白かったんだが、と思うもこれはこれで安心感が物凄くある。

「すんげー今更なんだけど、ここバネッサってゲームにあったけ?」
「どうだったかなぁ。僕の記憶を遡ってもなかったと思う」
「だよなー」
「もしかして、私達がやっていた時ってマップの端っこが設けられていたから、その外側に本来あった街だったり?」
「わお、アケミお前天才か」

 間違いなく俺一人だった場合、そんな結論に行き着くのはかなり後になっていただろう。

「ほとんどがゲームの中と同じだったのにもかかわらず、異世界のような感覚の違和感が今のでなくなった」
「仮説だよ?」
「そうかもしれないが、その案で考えた方がいろいろと合致する。と、するならば、俺達が蓄えた知識をフルで有効活用できる。ははっ、面白くなってきたな」

 俺達が生きた、もう一つの現実が本当に現実になったということだ。
 生身で過ごす生活も一つの現実で、ゲームのキャラとして生きた時間だってもう一つの世界。
 それが全て一つとなったってんだから、心が躍らないはずがない。

 明日、俺達は冒険者になる。
 そこからがスタートだ。
 俺達はこの世界を隅々まで遊び尽くしてやる。
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