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第二章

第14話『観光したいけど、依頼が先か』

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「それでは、用事を済ませてきます」
「俺達もここら辺で話すことがあるので、焦らずに行ってきてください」
「わかりました。では行ってきます」

 アルマ、バルドさん、三人は冒険者専用依頼委託所と記された看板が壁に掛かる建物の中へ入っていった。
 何から何まで規模感が予想外だったが、ここもここで学校の体育館ぐらいはある。

 そして俺達はその建物の前に広がる、憩いの場とも言える場所の噴水の淵に集まって話を始めた。

「この街の感想は、夜にでも食べ物を囲みながら語り合おうじゃないか」

 今すぐにでも修学旅行気分で街を闊歩したい気分ではあるが、ここは護衛という依頼を優先しないのは不義理というもの……とはわかってはいるが、くぅ――駆け回って、様々な店に入って、できることならスクリーンショットとかで撮影したい。

「それで、だ。みんなも物珍しさに目が惹かれたと思うが、現実世界での名称として知られる獣人種の人達。こちらの世界では、総称としては獣人種らしいんだが、いわゆる犬・猫・虎・狐等々の種類によって名称があるようだ。それ以上の詳しい話は聞き出せなかったから、それぞれ失礼のないよう詮索しながら話しかけるようにしてくれ」
「あのもふもふな尻尾とか触ったら怒られるのかな?」
「そりゃあ怒られるだろ。絶対にやめろよ」
「ちぇー」

 ミサヤはため息を吐いて肩を落している。

「そして、人種の話を続けるが、ここがゲームの中だとすれば他にも人種がいるはずだ。巨人族に小人族、その他も居るはずだ。そこら辺も気を付けてくれ」
「豪人族・細人族・妖人族とかだよね」
「後は特別族っていうのも居るってことなんじゃない?」
「龍人種・魔人種・聖人種とかだっけ」
「そそ、でもそこまで居るってなると、相当数の種族を憶えるってことよね。今から頭が痛いわ」

 アケミの記憶力は流石すぎる。
 ため息を吐くアンナ――わかるぞ、その気持ち。

「まあ、慣れるしかないな」

 俺も忘れていたが、そういえばそんなに種族数があるのか。
 とりあえずこの世界に慣れるためには、できることなら積極的にこの世界の住人とコミュニケーションをとったほうがいいと思う。
 だが、むやみやたらに話しかけ粗相を働いて敵を作ってしまうのは、絶対に避けなければならない。

「さっきみんなも見た通り、この世界の文字は俺達にも理解ができるようだ。一番の幸運は言葉が通じるということだから、積極的に活用していこう。文字が書けるかは……あの字体を見る限りでは書けないと思うが、もしかしたらアシスト的なものが働いて書けるかもしれないから宿に着いたら試してみよう」
「そうだね。もしかしたら冒険者登録をする際に記入事項があるかもしれないし」
「あー、そういえばそうか。さすがケイヤ、盲点だった」

 もしも記入するとしても名前とかだけだろうし、練習すると言ってもそこまで大変ではないだろう。
 練習するとなったら、それはそれでなんか面白そうではある。
 みんなで勉強合宿って感じで。

 ん……?

「そういや俺達ってそもそもの話、どれぐらいの所持金を持っているんだ?」

 俺の一言に全員が「あ」と呟く。

「ゲームの時はインベントリのところにあったが、ないよな?」
「そうだね。それに今思い出したんだけど、インベントリって数種類あったよね」
「あったわね。消耗品・装備・課金アイテム・ドロップ品だったかしら」
「そうそう。じゃあそれを見つけられればありそうだね」

 確かにそうだったな。
 いつもは当たり前のように使っていたから、こうして自分で確認しないといけない状況になると思考が追いつかない。
 まあそれもそうか。
 俺は根っからのゲーマーではあるが、そもそもの地頭があるかと言われたら、自信をもって首を縦には振れない。
 ということもあってよくアケミにいろいろと質問していたから、「私を検索機能みたいに使うのはやめてよね」と何回か注意されたのを憶えている。

「あったよーっ」
「僕もみつけた」
「俺もみつけた」

 ミヤサとケイヤと同じぐらいに俺も計四枚のインベントリを発見した。

 一つはアイテム用・二つは装備用・三つはドロップ用・四つは換金用。
 驚くことにドロップ品には複数のウルフからドロップしたであろう毛皮などが入っていた。
 たぶん、ウルフ達が必要以上に追いかけてきていたのは、これが原因になっていたと思う。
 換金用のところには【ウルフの心臓】というものが入っていた。
 価値等はわからないが、ちょっと……頼むから、生々しいものでないことを祈る。

「それにしても、ここら辺は疑う余地のないゲームシステムそのものだよな。アイテムを取得しても自動収納かつ自動分配か、あまりにも便利すぎるな」
「ゲームの時にはなかったから少しだけ期待していたんだけど……魔石みたいなのはないんだね」
「なんだケイヤ、そんな願望があったのか」
「だってさ、アニメとかでは異世界のモンスターといったら魔石っていうのがつきものだったから、一度は拝見してみたかったんだよね」
「あー、そういうことか。言われてみればそうだな」
「そうそう、他にもまだまだあるよ――」
「あ、もしもその話を続けるならば、宿に行った時にだ」

 危ない。
 ケイヤは普段から冷静で落ちついてはいるが、こういう自分が好きなものを語る時に限ってはこの場に居る誰よりも超絶饒舌になるんだ。
 どこかの何かで見た記憶では、これをオタク特有の早口というらしいが、まあ誰でも好きなものを語る時はそんなもんだろ。

 少しだけしゅんっとなっているケイヤを横目に、話を続ける。

「お金は、2000Gって書いてあるな。みんなはどうだ?」

 全員から「同じく」と返ってきた。

「あー、これはあれか。そういえばそうだったな。ゲームでも、初心者が行き詰ってしまわないようにこうやって回復薬を買える救済処置があったな」
「懐かしいね」

 この中で一番最後に加入したアケミは、記憶に残っていたのだろうが、他の三人は「そんなのあったっけ?」というのを思っているのが表情から伝わってくる。

「だがしかし、ゲームで宿に泊まるっていうシステムがなかったから、どれくらいのお金がかかるのかわからないな」

 最悪の場合、アルマに頼む他ないな。

「まあ、たぶん宿より先に冒険者ギルドへ行こうって考えてるから、そこら辺はおいおいだな」

 話のキリが良いところで、五人が戻ってきた。

「お待たせしました」
「いえ、話の方もひと段落着いたのでちょうど良かったです」

 そして、いよいよ別れの時。

「いろいろと世話になっちまったな」
「私達より一杯働いてもらっちゃってありがとうね」
「こっちももっと頑張んねえと」
「短い時間でしたけれど、一緒に旅ができて楽しかったです。ありがとうございました」
「まだまだ若いのに礼儀が正しすぎんだよっ。こういう時ぐらい子供らしくしろってんだ」

 と、俺の肩に手を回し、抱き寄せられた。
 苦笑いを浮かべていると、みんなから見えないように体の向きを変えられ、胸を小突かれる。

「え」
「受け取れ」

 他の人には聞こえないよう耳打ちでコソッとそう言われ、麻袋を手渡された。
 ほんの少しだけジャラッと音が鳴るも、確認する前に腋の方まで袋を潜り込ませられ、体が解放される。

「じゃあな、俺達ももっと頑張るからよ。風邪引かねえで元気でな」

 そう言い終えるとすぐに、彼らは俺達に背中を向けて歩き出した。

 先ほどの袋を確認しようとしたが、これは凄い、自動でインベントリに収納されている。
 ついさっき学んだ用量でインベントリを確認すると、袋が。
 視線を合わせてみると、そこには5000Gと記されている。

 ――なんて人達だ。
 口調が少しだけ荒っぽいだけでなく、俺達をちゃんと子供扱いして――でも、全然悪い人達じゃないっていうのはわかった。
 俺は去り行く三人に伝わらないとわかっていても、深々と頭を下げる。

 ありがとうございました。
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