上 下
7 / 50
第二章

第7話『ゲームじゃないから大変だな』

しおりを挟む
 盛大な空腹音が鳴る。
 そういえば、朝食も食べずにあんなに体を動かせば腹も鳴るか。
 だが、俺に向けられる、「カナトの腹が鳴ってる」みたいな可哀そうな人を見る感じだけはやめろ。
 まるで俺が堪え性のない人間みたいじゃないか。

「そろそろご飯の支度が始まるから、カナトとケイヤは薪に使えそうな枝とかを集めてきてよ」
「お、おう」

 アケミからそんな指示を飛ばされるものだから、拒否のしようがない。
 断ったら怖いっていうのもあるが、ケイヤは知らないが少なくとも俺に料理の腕があるはずもなく。

 回れ右に歩き出そうとした時だった。

「じゃあボクも行ってきまーすっ」
「ミサヤ、戻って来なさい」
「ひえっ」

 俺達と一緒にこの場から逃げようとしたであろうミサヤはアケミに止められる。
 真偽はわからないが、あの感じだとミサヤも料理をしたくないのだろう。
 悲しきかな、ドンマイ。

「ボクは料理なんてしたくないんだー」
「そんなことを言ってちゃダメだよ。こんな状況になったんだから、私達がちゃんと料理をできるようにならないと」
「うわーん、いーやーだーっ」

 駄々を捏ねるミサヤは、たぶん後ろの方でアケミに脇腹を突かれているのだろう、「あいたっいたた」と痛みを言葉にしている。

 俺とかもいずれは少しずつできるようになった方が良さそうだな。



 薪を探しながら、ふと思う。

「そういや、俺達の服とかってどうなんだろうな」
「修復とかできるかってこと?」
「それもあるが、ゲームの中だと衣類選択のインベントリがあったり、クリックだけで服装チェンジできてただろ? そういうのができるのかなって」
「なるほどね。確かに言われてみれば、今のところは斬れたりしていないから大丈夫だけど、すぐに交換しないとだしね」

 俺達は咄嗟に服を掴んで匂いを嗅ぐ。

「以外にも匂いがないんだな。ケイヤ、匂いを嗅がせてくれ」
「いいよ」

 自分の時と同様に匂いがしない。

「これはあれか。もしかして、俺達に関与する物とかはゲームの時みたいに修復ができるし匂いもない。って感じなのかな」
「かもしれないね。だけど、僕達自身に影響のある空腹や睡眠ってのは必要、と」
「てことはあれか? もしかしたら、装備を強化するとかもできるんじゃないか。しかも、摩耗はするが破損はしないもしくはそのどちらもしない」
「もしもそうだったとしたら、かなりやりたい放題にできる気もするね」
「そこまでできるんだったら、息が上がったり疲れを感じさせないようにもしてほしかったよな」
「あはは、でもそこまでしたら本当に僕達は人間離れしてしまうね」

 微笑するケイヤは話の流れでそう言ったのだろうが、確かにそうだ。
 もしもそこまでできてしまったのなら、俺は俺と言えるのだろうか。
 便利といえば便利だが、それはキャラクターという箱の中に人間の魂だけが囚われていることになるだろう。

 そんな状況だったら、なんだかつまらないな。
 そうじゃなくてよかったぜ。

「さて、そろそろ戻らないとアケミにどやされるな」
「そうだね。これ、結構重いしゴツゴツして痛いね」
「ゲームだったらこんな苦労はしないんだろうがな」



 野営設営地まで戻ると、じんわりと体に染み渡る匂いが漂っていた。

「二人共おかえり。上手にできているかわからないけれど、スープができたよ」
「さすがはアケミ」

 俺とケイヤは中央にある火元付近へ薪にする枝を置き、地面に腰を下ろす。
 アルマに執事、冒険者三人に俺達の五人、全員が中央にある大鍋を囲んだ。

「それでは皆さん召し上がれ」

 配膳された木のお椀と木のフォーク。
 中には、名前がわからない野菜みたいなのとか肉みたいなのとかがいろいろ入っている。
 匂いからしてよく煮込まれているのはわかるが、こうも得体の知れない食べ物が一ヵ所にまとめられていると、思い切りかっ込むことができない。
 ミサヤは調理の途中で横取りして味見をしたのだろう、この場に居る誰よりも男勝りにガーッと口の中に流し込んでもぐもぐしている。
 アンナも一緒に調理していたから、淡々と口に運んでいる。
 冒険者三人も同じく、二人も同じく。

 俺は隣にいるケイヤに顔を向ける。

 ケイヤもちょうど俺と同じことを考えていたようだ。
 目を少し見開いて、声も出さず、ただ一度だけ首を縦に振った。
 それは、「食うしかない」という意味。

 一瞬、どこからか鋭利な視線が俺を刺した気がして、一瞬心臓が止まったかのような感覚に襲われた。
 間違いない、アケミからの「さっさと食え」という意味が込められたものだろう。

「い、いただきます」

 意を決して芋っぽい何かをフォークで掬って口に運ぶ。

「お、これは美味い」

 元暮らしていた環境では口にした事がないものではあるが、想像通りの芋っぽい何かではある。
 味も大体じゃがいも的な里芋的なそんな感じ。
 確かに言えるのは、元居た世界の食べ物の名称には当てはめられない。
 だが、少ししょっぱめの味付けによって、食欲がそそられる。
 箸もといフォークが進む進む。
 他の野菜的な何かも肉的な何かも、最初こそは躊躇ったものの、予想外に見た目ほど悪くはない。
 なんだろうな、現実世界的にいうと……もつ煮込みやごった煮って感じかな。

「こりゃあいい」
「こういう煮込み料理を食べるのは初めてですか?」

 と、アルマが不思議そうな目線を送ってくる。

「あ、いや。そういうわけじゃないんですけど、具材のラインナップが珍しかったのと、アケミが作る料理がとても美味しくて、つい本音が零れてしまいました」
「ひぇっ」
「どうしたアケミ」
「い、いや別に!」

 奇声を上げたかと思ったら、急にミサヤみたいにかっ込み始めた。
 それを見たミサヤが、なぜかアケミに対して大食い勝負を申し込み始めている。
 わけがわからない状況ではあるが、アルマは俺の言い分に納得してくれた。

 こんな感じに和気藹々と食事の時間が過ぎていく。

 何かとゲームの世界らしくてそれを楽しんでいるんだから、せっかくならと疲労とかそういう現実味を排除して欲しいと思ってしまう。
 だけど、こういう楽しみもあるんだったら、これはこれでありなのかもしれないな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ビフレスト ~どうやら異世界転移をしたみたいです~

とやっき
ファンタジー
 思いもよらぬ異世界転移をした主人公。  適当な日々を過ごしながら、少しずつ異世界の生活をエンジョイしていく・・・。  残念だが、そんなにうまくはいかない。  次々と事件や女の子や魔王に巻き込まれて、多難な日々が幕を開けたのであった。 (というわけで、よくあるチートな能力を持った主人公が、徐々にハーレム作っていく異世界転移ものです) ◇ 2018/ 7 / 25  投稿再開しましたが、アルティメット不定期更新です!  やりすぎハイスペックの手が空いたときにこっそり書いて投稿します。  本編、読みやすいように努力します(ルビ多めとか)  え? 内容? そんなものはテキト・・・いえ、何でもありません。  更新は超不定期更新です。  下部にヒロインと初登場の話数を書いてます。      あ、ネタバレ注意? ヒロイン ドジっ子駄勇者(第2話登場) 魔王の妹な魔法使い(第4話登場) 口数少ない貧乳エルフ(第4話登場) 見た目ロリなドラゴン(第18時登場) 爆乳お姫様(第21話登場・2章の閑話で先に登場) 従順な侍女(第13話登場) Sな死霊術師(第13話登場・1章の閑話で先に登場) 登場予定のヒロイン 男性苦手な水神(3章~4章くらいに登場?) 人懐っこい猫魔王(4章~5章くらいに登場?) ちょいヤンデレ雪娘(4章~5章くらいに登場?)  だいたいこんな感じを予定してます。これからも頑張っていきますので、宜しくお願いいたします!

時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。 なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。 銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。 時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。 【概要】 主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。 現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道~悪いな勇者、この物語の主役は俺なんだ~

萩鵜アキ
ファンタジー
 主人公はプロミネント・デスティニーという名作ゲームを完全攻略した途端に絶命。気がつくとゲームの中の悪役貴族エルヴィン・ファンケルベルクに転移していた。  エルヴィンは勇者を追い詰め、亡き者にしようと画策したことがバレ、処刑を命じられた。  享年16才。ゲームの中ではわりと序盤に死ぬ役割だ。  そんなエルヴィンに転生?  ふざけるな!  せっかく大好きなプロデニの世界に転移したんだから、寿命までこの世界を全力で楽しんでやる!  エルヴィンの中に転移したのは丁度初等部三年生の春のこと。今から処刑までは7年の猶予がある。  それまでに、ゲームの知識を駆使してデッドエンドを回避する!  こうして始まった処刑回避作戦であるが、エルヴィンの行動が静かな波紋となって広がっていく。  無自覚な行動により、いくつものフラグが立ったり折れたり、家臣の心を掌握したり過大な評価を受けたりしながら、ついに勇者と相まみえる。  果たしてエルヴィン・ファンケルベルクはバッドエンドを回避出来るのか……?

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...