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第一章

第2話『ここは正真正銘の異世界だな』

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 声の聞こえた場所まで辿り着いた。

 そこには白い狼の群れに襲われ、応戦している人々――計五人。
 武具を装備した三人が、後方に居る二人を護りながら戦っていると予想できる。

「いつも通り行くぞ! 扇陣」

 俺達は足を止めることなく、俺の合図の元、俺を先端・右後方に槍のケイヤ・左後方にミサヤ・俺の真後ろに細剣のアケミ・最後方に杖のアンナという陣形でモンスターの群れに突っ込む。

「スキルはあてにするな、自分の感覚で戦うんだ!」

 俺はその指示後、勢いそのままに狼の群れの中心部まで、剣で斬りつけたり盾を前に構えてタックルをしていく。
 掻き分けるようにそんなことをすれば、当然のように全部のヘイトが俺へ集中する。

「はぁあああああっ」

 俺は声を上げ、更に注意を引き付ける。

「今だ!」

 視線はモンスターから外さず。
 自分の行為を悔いているわけじゃない。
 俺は、仲間を信じている。

「はっ!」
「てりゃっ」
「はぁあ!」

 ケイヤの槍が、アケミの細剣が、ミサヤの刀が次々と狼の体を斬り付け貫いていく。
 その度に、狼は短い断末魔を上げながら白い灰となって散っていった。

 ――完勝と思ったが、しかし。

「うわあ!」
「くそっ、間に合わない」

 護衛である三人の間をすり抜けて、一匹の狼が無防備な二人の方へ飛び掛かっていってしまった。
 ここにいる全員が間に合う距離感じゃない。

「【ファイアボール】」

 その声がした次の瞬間、視界外から炎の球が狼にぶち当たり、地面に落ちて悶えた後に灰となった。

「アンナ、だな」

 俺は左の口角が上がった。
 俺達前衛は武器があるから戦える、だが、魔法で戦うアンナは今回戦力外だと思っていた……が、それは思考ミスだったようだ。

 辺りを見渡すも、他には見当たらない。
 勢いそのままに、戦いのことだけを考えて行動してしまったが、これからどうしたものか。
 俺達は少なくともここら辺の人間ではない。
 どうコミュニケーションをとったものか。
 言葉は通じるのか? 確か、日本では当たり前に意思提示のためやっている仕草でも、海外でやったら嫌悪を振り撒き無礼になるようなものもあったような気がする。
 なんだったか、わかったと親指を立てるのがダメだったとかたしかそんな。

「あの! 助けていただきありがとうございました」
「いえいえ、俺達は偶然にも通りがかっただけで」

 後方に居た一人、俺らと同い年ぐらいの金髪の少年が何度も頭を下げている。
 そして、身を挺して守ろうとしていた黒髪をビシッと固めた初老の男性も深々と。
 パッと見ただけでも、どこかの金持ちの少年に執事、雇われの護衛三人という構図なんだろう。

 あれてか、言葉が通じるじゃん。

「本当に助かったよ。こっちだけじゃ手一杯で、あのままじゃ危なかった」

 と、冒険者のリーダーっぽい薄赤色の短髪の青年が会話に入ってきた。

「気軽に受けたんだけど、まさかだったよ」
「依頼主を前にして言うことじゃないけど、間違いなくここにいる全員がそう思っているよね」

 その仲間である黒髪細目の男性と、緑髪を短めのポニーテールにしている女性が会話に加わる。
 五人は俺達を見渡して、挨拶をしようとするが、全員が全員と挨拶をしていては時間の無駄だ。
 ここは、俺が総括で話を進めよう。

「細かい挨拶は後にしましょう。怪我人は居ませんか?」

 五人は自分の体を触り見渡し終え、互いに目線を合わせて首を横に振っている。

「大丈夫……のようだ」
「わかりました。では、あの、散らばってしまった荷物を回収しましょう」

 俺は彼らの後方に散らばってしまっている、木箱から飛び出る荷物へ視線を送った。



「馬も荷台も無事でよかったですね」

 全員で作業を行ったおかげで荷物の回収はすぐに終わった。
 作業を始める前は、馬は逃げ出してしまい荷台もどこかへ行ってしまったかと思っていたが、予想外に馬は近場に身を潜めており荷台もそこに行くまでに見つけられた。

「何から何まで本当にありがとうございます」

 旅団の主であろう少年が再び深々と頭を下げた。

「いいんですよ。困ったときはお互い様って言うじゃないですか」
「本当にありがとうございます。失礼しました。僕の名前はアルマ・ダン・アーガットと申します」
「俺の名前は――カナトです」

 今の空いた一瞬の間は? と首を傾げて不思議そうに見ているが、それだけは許してくれ。
 今の俺達はゲーム名で呼び合っていた手前、本名で自己紹介するというのもなんだかむずがゆい。

「大丈夫です。冒険者の皆さんは、基本的には自分の名前を提示しません。偽名で活動している人も居ますので、不審には思っていません」
「そ、そうですね」

 なんでなのか今はわからないけど、とりあえず合わせておこう。

「それにしても凄いですね。あんな戦いぶり、皆さんは相当お強いのではないでしょうか」
「ま、まあ? そこそこは」

 これに関してもどんな表情をすればいいんだ。
 純粋に目を輝かせている相手に対し、俺らはレベル1なんですよ、なんて言えるはずがない。
 良心が痛むけど、今回の嘘だけは許してくれ。

「そんなお強い方々が、どうしてこんなところにいらっしゃったんですか? これからどこかへ向かうご予定でも?」
「あー、それは……」
「僕達は、これからバネッサという街に向かう途中だったんです」
「そうそう、俺達もその街に向かおうとしていたんだが、方向を見失ってしまって。お恥ずかしい話、俺達のパーティはこう見えて方向音痴揃いで困りものなんですよ」

 作り笑みを浮かべながら、話を合わせる。
 こうすれば、

「ならこれも何かの縁ですよ。もしよかったらなのですが、ご一緒にいかがでしょうか? 当然、しっかりと護衛の料金を支払わせていただきますので」
「それはありがたい。それに、彼らも一緒に戦ってもらえるのなら更に心強いです」

 こういう流れになってくれる。

 俺らの会話に聞き耳を立てているであろう彼らも持ち上げる。
 さっきこそは利害の一致で助け合うかたちになったが、ここで仕事を奪って逆恨みなんていうのはごめんだからな。

「そうですね。こちらとしても、人数が多いととても助かりますし、食糧等も全然間に合います。それではよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」

 俺達は握手を交わした。

「じゃあ早速出発しましょうか。俺達は後方で護衛します」
「わかりました、お願いします」

 執事が馬車の前方に乗って手綱を握り、アルマは荷台の中へ乗る。

「これからの旅、お互いによろしくお願いします」
「こちらこそよろしくな。お前達と一緒なら、どんなモンスターの大群が相手でも怖くないぜ」
「あはは、そうならないことを願いたいですがね」
「まあそうだな。んじゃ、後方は頼んだぜ」
「任せてください」

 軽い挨拶を終え、三人は馬車の前方へ向かって行った。

 おい頼むぜ。
 さっきのあなたが言ったセリフ、それは俺達の世界では立派なフラグって言うんだぞ。

 まあ、俺達なら大丈夫か。
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