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第五章
第35話『無理でも観察して活かそう!』
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「じゃあここから先は画面が揺れたりすると思うので、苦手な人はごめんなさい」
階層間を移動する階段を降りた私達は準備を始める。
《きたきたきた》
《画面酔いする人へ。マウスカーソルを画面の中央に置いておくよ酔いにくいよ》
《マジか! あざす!》
《合成の映像じゃなければ、これってマジもんのダンジョンってことか》
《え? モンスターとか出てくるん?》
みんなそれぞれに武器を出現させた。
ダンジョンはどこまで行ってもダンジョン。
ここよりもっと下の階層はわからないけど、土や岩、天井に生える明かりを発する苔は健在。
変わったものはといえば、出現するモンスターだけ。
今目の前に立ち塞がっているのは、現実世界でいうところの鴉の大きいバージョンのモンスター数羽が宙に留まって、攻撃態勢に移っている。
「キラちゃん、あいつらは今までのモンスターよりスピードがあるから注意してね」
「わかりました」
「それではいきましょうか」
歩いている最中で少しだけ話題に出していた、エンボクさんと私のペアで前に歩き出る。
『カァー』
《うおー、デケー鴉だ》
《地上の鴉と大差ないんだね》
《キタキタキター》
《うひょー、始まるでー》
《※画面酔い注意》
『クワー』
集中。
普段も地上で観ているからといって油断はできない。
私がいつも相手にしているモンスターより間違いなく格上なんだから。
目線を逸らさず、しっかりとカウンターを狙う。
『クワァッ!』
早い。
でも、これなら見切れる!
「はぁっ!」
居合切りの真似事で、一刀両断。
一撃で消滅した。
《うおおおおお》
《ひゅー》
《きもちえええ》
《キラちゃんも凄いけど、相方の人ヤバすぎ》
《サングラスの人、肉体はにもほどがあるンゴ》
「うわあ……」
「ここら辺はこれぐらいですかね」
私は1体を討伐するのに物凄い集中力を有したのに……横で8体もすぐに討伐されてしまうと、圧倒的な実力差を痛感してしまう。
「じゃあ次はあたし達に番っすね」
「うわ」
「交代っすよ~。ウォーミングアップにはちょうどよさそうっす」
ノノに催促されて、私とエンボクさんは後方へ下がる。
普通がわからないけど、あれだけの数をたった2人だけで対処するのは厳しいと思う。
だったら下がっていないで加勢しないのか、と問われるとその通りなんだけど、たぶん私が行ったところで邪魔になってしまうのは目に見えている。
ならしっかり映すのと、勉強の一環として目に焼き付けなきゃ。
「先輩、お先っす」
先陣を切ったのはノノ。
私の剣より半分以下の短剣2本を器用に上手・逆手と持ち替えて、跳んだり翻ったりと自由自在に体を動かして次々に討伐していく。
アサさんもブンブンと両刃剣を振り回しながら突撃していく。
プロペラみたいに回る剣は、1体、また1体とあっという間に消滅していってしまう。
2人共、器用に武器を扱っているだけのように見えるけど、どれもほぼ急所を狙って攻撃をしているのだから凄い。
私のように偶然、急所に当たりました――なんてことはないのだから目を疑ってしまう。
激しい動きの中にも冷静な状況判断と観察力を兼ね備え、狙ったところに攻撃を当てる精密さも必要だ。
あれをすぐにできる必要はない、とわかってはいても、ありもしないプレッシャーが勝手に押し寄せてくる。
「エンボクさん。私ももっと戦えるようになりたいです。少しでも大丈夫ですので、なにかアドバイスをいただけたりしませんか……?」
「最初に言えるのは、あの2人の真似をしようと思わなくても大丈夫ということです。というのも、武器の形状は似ているものの、戦闘スタイルが似て非なるものだからです」
「確かに。私はあのお2人のような気分に動くことはできないし、器用に動かすこともできないです」
「そういうことです。うちで参考にできるとすれば、リーダーがキラさんと武器も同じ系統なのですが……とりあえず、キラさんは呼吸を整えて冷静に状況判断をし、先ほどみたいに1撃――1振りに全集中してみてください」
「わかりました。やってみます」
たしかに、今エンボクさんから他にいろんなアドバイスをもらえたとして、私にはできない。
なら、今の自分にできることを精一杯やることが最善。
よし――私がこれからやるのは、呼吸を意識的に整えて冷静な状況判断を行い、弱点を見極めて正確な1撃を放つこと、だ。
これがしっかりできるようになれば、自分の身を自分で護れるようにもなる。
そんなことを考えていると、マサさんとノノの戦闘が終わってしまった。
「マサ先輩もいい感じっすね」
「ノノは相変わらずヤバい動きだったわよ」
「褒めてもらえるなんて光栄っす」
そんなやり取りをしながら2人はこちらに合流。
「ちょこっと進んだら、簡易的な安全地帯があるの。だからそこまでは4人でバーッと進みながら戦闘をしてみましょう」
「いいっすね。あたし、もう少しだけ動き足りなかったんす」
「わかりました。それでいきましょう」
「は、はい!」
さっき自分の中で決めたことが、まさかの実行できない状況になってしまうなんて……。
でも、これも様々な状況で戦闘をする、という練習にもなるから、気を抜かずにやらないと。
足を引っ張らないように頑張るぞーっ。
階層間を移動する階段を降りた私達は準備を始める。
《きたきたきた》
《画面酔いする人へ。マウスカーソルを画面の中央に置いておくよ酔いにくいよ》
《マジか! あざす!》
《合成の映像じゃなければ、これってマジもんのダンジョンってことか》
《え? モンスターとか出てくるん?》
みんなそれぞれに武器を出現させた。
ダンジョンはどこまで行ってもダンジョン。
ここよりもっと下の階層はわからないけど、土や岩、天井に生える明かりを発する苔は健在。
変わったものはといえば、出現するモンスターだけ。
今目の前に立ち塞がっているのは、現実世界でいうところの鴉の大きいバージョンのモンスター数羽が宙に留まって、攻撃態勢に移っている。
「キラちゃん、あいつらは今までのモンスターよりスピードがあるから注意してね」
「わかりました」
「それではいきましょうか」
歩いている最中で少しだけ話題に出していた、エンボクさんと私のペアで前に歩き出る。
『カァー』
《うおー、デケー鴉だ》
《地上の鴉と大差ないんだね》
《キタキタキター》
《うひょー、始まるでー》
《※画面酔い注意》
『クワー』
集中。
普段も地上で観ているからといって油断はできない。
私がいつも相手にしているモンスターより間違いなく格上なんだから。
目線を逸らさず、しっかりとカウンターを狙う。
『クワァッ!』
早い。
でも、これなら見切れる!
「はぁっ!」
居合切りの真似事で、一刀両断。
一撃で消滅した。
《うおおおおお》
《ひゅー》
《きもちえええ》
《キラちゃんも凄いけど、相方の人ヤバすぎ》
《サングラスの人、肉体はにもほどがあるンゴ》
「うわあ……」
「ここら辺はこれぐらいですかね」
私は1体を討伐するのに物凄い集中力を有したのに……横で8体もすぐに討伐されてしまうと、圧倒的な実力差を痛感してしまう。
「じゃあ次はあたし達に番っすね」
「うわ」
「交代っすよ~。ウォーミングアップにはちょうどよさそうっす」
ノノに催促されて、私とエンボクさんは後方へ下がる。
普通がわからないけど、あれだけの数をたった2人だけで対処するのは厳しいと思う。
だったら下がっていないで加勢しないのか、と問われるとその通りなんだけど、たぶん私が行ったところで邪魔になってしまうのは目に見えている。
ならしっかり映すのと、勉強の一環として目に焼き付けなきゃ。
「先輩、お先っす」
先陣を切ったのはノノ。
私の剣より半分以下の短剣2本を器用に上手・逆手と持ち替えて、跳んだり翻ったりと自由自在に体を動かして次々に討伐していく。
アサさんもブンブンと両刃剣を振り回しながら突撃していく。
プロペラみたいに回る剣は、1体、また1体とあっという間に消滅していってしまう。
2人共、器用に武器を扱っているだけのように見えるけど、どれもほぼ急所を狙って攻撃をしているのだから凄い。
私のように偶然、急所に当たりました――なんてことはないのだから目を疑ってしまう。
激しい動きの中にも冷静な状況判断と観察力を兼ね備え、狙ったところに攻撃を当てる精密さも必要だ。
あれをすぐにできる必要はない、とわかってはいても、ありもしないプレッシャーが勝手に押し寄せてくる。
「エンボクさん。私ももっと戦えるようになりたいです。少しでも大丈夫ですので、なにかアドバイスをいただけたりしませんか……?」
「最初に言えるのは、あの2人の真似をしようと思わなくても大丈夫ということです。というのも、武器の形状は似ているものの、戦闘スタイルが似て非なるものだからです」
「確かに。私はあのお2人のような気分に動くことはできないし、器用に動かすこともできないです」
「そういうことです。うちで参考にできるとすれば、リーダーがキラさんと武器も同じ系統なのですが……とりあえず、キラさんは呼吸を整えて冷静に状況判断をし、先ほどみたいに1撃――1振りに全集中してみてください」
「わかりました。やってみます」
たしかに、今エンボクさんから他にいろんなアドバイスをもらえたとして、私にはできない。
なら、今の自分にできることを精一杯やることが最善。
よし――私がこれからやるのは、呼吸を意識的に整えて冷静な状況判断を行い、弱点を見極めて正確な1撃を放つこと、だ。
これがしっかりできるようになれば、自分の身を自分で護れるようにもなる。
そんなことを考えていると、マサさんとノノの戦闘が終わってしまった。
「マサ先輩もいい感じっすね」
「ノノは相変わらずヤバい動きだったわよ」
「褒めてもらえるなんて光栄っす」
そんなやり取りをしながら2人はこちらに合流。
「ちょこっと進んだら、簡易的な安全地帯があるの。だからそこまでは4人でバーッと進みながら戦闘をしてみましょう」
「いいっすね。あたし、もう少しだけ動き足りなかったんす」
「わかりました。それでいきましょう」
「は、はい!」
さっき自分の中で決めたことが、まさかの実行できない状況になってしまうなんて……。
でも、これも様々な状況で戦闘をする、という練習にもなるから、気を抜かずにやらないと。
足を引っ張らないように頑張るぞーっ。
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