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第二章

第11話『一方、特装隊では』

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 全ての処理を終えた特装隊のメンバーは、車に揺られていた。

神乃戯かみのぎ先輩、あの子凄かったっすね」
「だな。音暖ののと仲良くなれるんじゃないか?」

 黒髪オールバックの神乃戯かみのぎ真騎しんきは、チョロッと垂れた前髪をかき上げて問いかける。

「いやいや、どうっすかね。年齢だけなら近そうでしたけど、あたし達の仲間入りは大分厳しいんじゃないっすかね」
「そりゃあそっか」
「なんかわかんないっすけど、キラキラしてましたから」

 能乃之ののの音暖ののは、涼し気なウルフカットを揺らして窓の外に視線を向ける。

 特装隊のリーダーである神乃戯かみのぎ真騎しんきは、音暖ののがいう、美夜が別世界の住人というイメージを同じく抱いていた。

攻義こうぎはどうせ今日も暴れ足りないだとか言い出すんだろ」
「え! さすが神乃戯かみのぎ先輩、わかってるじゃないっすか!」
「そりゃあお前、ショッピングモールに突入してすぐ覆面グループの1人を、素手でぶちのめしてただろうが。んで――」
「ヒャッハーって、叫んでましたね。だって、殴るのって気持ちいいんですよ?」
「知るか」

 欠仇かけあだ攻義こうぎは、まるでコーギーのように下を出し、短髪の頭を前後に揺らしながら今もなお興奮気味。

「まあ、暴れ足りないって話なら雅も一緒だろうが」
「やめてよ。私は少しでも楽ができるなら大歓迎よ。頭のおかしい功義こうぎと一緒にしないでよ」
「え~っ、浅葱あさぎ先輩そんなことを言われると傷つくなぁ」
「どの口が言うのよ。冗談は顔だけにして」

 浅葱あさぎまさは足を組みつつ、緑髪のボブヘアーをサラサラと撫でながら辛辣を投げる。

 功義こうぎはしょぼんと落ち込んでいるように肩を落とす。

「まあどっちにしても炎墨えんぼくがほとんどやっちゃったから、どっちにしても出番はなかったわよ」
「そんなことはありませんよ。皆さんが彼らの注意を集めてくれていたおかげです」
「その強さは特装隊向きなのに、謙虚さというか自分を出さないってのは唯一特装隊向きじゃないわよね」
「所属させてもらえているだけで光栄ですので」
「そう」

 未明みあけ炎墨えんぼくは両手を膝の上に置いたまま軽く頭を下げる。

「そういえば、それって新しいサングラス?」
「はい。前のは壊れてたわけではないのですが、心機一転ということで」

 炎墨えんぼくは窓から射し込む夕陽を反射すらしないサングラスをクイッと持ち上げた。

 そして真騎しんきが本題を話し始める。

「さて、今回のテロリスト紛いなんだが、最近の情勢から発生したものだろう」
「最近インターネットで流れてる、配信やら動画やらで犯罪を助長する輩の件ね」
「ああそうだ」
「いやぁ、海外でお偉い政治家さんに捌きの鉄槌を下した、とかなんとかで一部から英雄視されてる人達っすよね」
「言葉で語らず、力で脅す。なんとも典型的というか、人間的というか。悩ましい話なんだがな」
「いいじゃないっすか、考えられない頭の人間にはもってこいってことですよぉ!」

 功義こうぎのまさにそれらしい発言には、全員がため息を吐いて頭を押さえる。

「え? 俺は好きっすよ?」
功義こうぎさん、それでは相手方の肩を持つということなんですよ」
「えっ! そうなの!? じゃあやっぱりダメ!」
功義こうぎは少し黙っておいてほしいっす」
「なんだと音暖のの。やんのか?」
「だ・か・ら! そういう、やるかやらないかしか考えられないから静かにしておいてほしいんす」
「えっ……俺ってそんなに馬鹿なの……? 泣きそう」

 音暖ののからの説教にしゅんっと落ち込む功義こうぎ

「んで、最近だとSNSだの配信だので騒いでるから、国も頑張って放送されないように奇声をかけても復活され、次には別の方法でやられているわけだ」
「こればかりは本当に面倒ですね。我々にはダンジョンでの役割もあるというのに」
「そうなんだよなぁ」

 真騎しんきはため息を吐いて両肘を膝に突く。

「探索者の人口は地味に増えていっているけど、結局副業気分だったり休日だけダンジョンに行くとかばかりだものね」
「まあ、みんな自分の命は惜しいっすからね。ある程度は仕方がないっすよ」
「はぁ……人間相手よりモンスターをぼっこぼっこにした方が楽しいのになぁ……めんどくせえ! あーダンジョン行きてぇ!」
功義こうぎ、もう一度車内で叫んだら歩いて帰ってもらうわよ」
「ひぃ! ご、ごめんなさい」

 まさの眉間を寄せた殺気を帯びた目線に、功義こうぎは顎をガタガタと震わせる。

「まあとりあえずだ。この件に関してはすぐに解決することはないから、今日みたいに出動することがあると思う」
「移動に時間がかかるのだけは勘弁してほしいわね」
「もうそれなら、このメンバーみんなで配信でもしてみるってのはどうっすか」
「いや無理だろ。何を配信するんだよ」
「お料理とか?」
「んなアホな。誰が料理できるんだよ」
「あら忘れたの? 功義こうぎの料理はお店を出せるレベルよ」
「え、なにそれ。俺知らないんだが」

 功義こうぎは自分の話題が出て犬のようにはしゃぎたくなるが、まさから先ほど言われたことがフラッシュバックし、ハッと目を見開いて堪える。

「んまあ、ハンなんとか法典みたいな感じで、配信には配信を、みたいな感じで対抗できたら何かが変わるのかもしれないがな」
「そんなの、絶対に誰もやらないっすよ。配信者なんて、自己肯定感の塊みたいな人達ばっかりっすから」
「全員が全員そうではないにしても、今ある人気を下げてまで国内に抗議しようなんて人、いるわけないわよ」
「今時、そんな自分のためより誰かのために動ける人間なんて居ないよな」
「……」

 炎墨えんぼくは口を結んだ。
 もしかしたら彼女なら、アイドルとして活動し配信もしている彼女なら、もしかしたら。
 しかし、こうも思う。
 あんな場所でたった1人の宣伝活動をしている子が、影響力があるはずもない、と。

「このまま話をしても平行線だからな。飯の話でもするか」
「おっ、いいっすね。あたしはラーメンがいいっす」
「私は焼き肉」
「お、俺は、ハンバーグ」
「僕は回転寿司で」
「おいおい、個性出すぎだろ。じゃあここはじゃんけんで決めるぞ」

 激しい戦いが続き、勝者は炎墨えんぼくとなった。

 ここからすぐ、運転手を含んだ――計6人でぎゅうぎゅうに座ってわいわい騒ぎながら皿を積み重ねた。
 全員が黒のスーツというなかなかに奇妙な光景で。
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