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第一章
第1話『アイドルでも人助けっ!』
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「本日もお疲れ様でした」
私はレッスンでかいた汗を、太陽に包まれた感覚になれるタオルで拭く。
「レッスンお疲れ様でした。今日の予定は全て終わりになります。このまま帰宅されますか?」
マネージャーの草田さんは手帳を確認しながら、垂れた黒髪を耳にかける。
今は20時。
学校の授業が終わって、ここで3時間のレッスン。
普通なら疲れが溜まり始めているため、このまま帰宅してお風呂に入ったりするのが普通かもしれないけど……。
「いいえ、今日も行きたいと思います」
「え、またですか? 今週でもう3回目ですよ?」
「そうです。もう既に3回は行かないとやっていられないんです」
「そう……ですよね。こちらのスケジュール管理不足です。申し訳ありません」
「やめてくださいよ草田さん。上の人が勝手に決めちゃうんだから仕方ないですよ」
申し訳なさそうに深々と頭を下げる草田さんを制止する。
「だから、今日も近くまでよろしくお願いします」
「わかりました。返送の準備はお忘れなく」
「当然ですよ。アイドルがダンジョンでモンスターをなぎ倒している、なんてことを一般の人に見られたらとんでもないことになりますからね」
「それではお気をつけて。無用だとは思いますが、一応のためここら辺で待機しておきます。危ない時は、緊急連絡で私に伝えてくださいね」
「ありがとうございます。予定では30分程度で考えていますので」
「わかりました。お気をつけて」
私は軽く頭を下げる草田さんに会釈で返し、ダンジョンに向かって歩き出す。
さっき草田さんにも言ったけど、アイドルの私がこんなところに居たら、なんて噂になるかわからない。
といっても、大手番組に出られるような人気アイドルではないし、細々と活動しているから、誰かに見られたとしても気づかれない可能性の方が高いだろうけど。
だけど、一応帽子を被ってその中に髪の毛を入れて、太縁メガネをかけてもしもに備えている。
かなり激しい動きをしなければ、大丈夫大丈夫。
「さてさてさて」
10分ぐらい歩いたところ、そろそろモンスターが襲い掛かってくる場所まできた。
――じゃあ武器を出さなくっちゃ。
左手を腰に、鞘を持っているように指で円を作る。
そこから右手を使って、剣を抜刀するように動かす。
抜刀の動きを追いかけるように手に剣が生成されていく。
「やっぱり、この技術って凄いわよね」
詳しいことはわからないけど、このダンジョン内では探索者として適性のある人であればこうして武器を生成できるらしい。
自分の思い描くような武器を生成できると聴いたけど、実際に他の人と一緒にダンジョンへ入ったことがないから正否はわからないけど。
「おっ、きたきた。あなた達に恨みはないんだけど、倒させてもらうわよ」
目の前から、2体の【フィーウルフ】が歩いてきた。
獰猛な……とは残念ながらいえず、どちらかというとちょっと凶暴な犬。
探索者でもない人が観たら、油断しまくってそのままあの世に逝ってしまうかもね。
「いっくよーっ!」
フィーウルフ達も遠慮なくこちらに猛ダッシュしてくる。
それに臆することなく、私も前に駆け出す。
『ガアッ――』
『ガア――』
「ざんねーんっ」
2体同時に真っ直ぐ来るものだから、右手に持つ剣で右のやつを正面から脳天に突き刺し、左のやつは拳で思い切り殴りつける。
すると、2体はその一撃ずつで灰と化し、宙に舞って消えた。
難しいことはわからないけど、ダンジョン内のモンスターはほぼ全部がこうして消滅するらしい。
そして、
「ん~、やっぱり小さいよね~」
地面に落ちた、小指の爪ぐらいの魔鏡石を拾う。
これは探索者としての生活費になるもの。
だから、せっせとモンスターを倒しては魔鏡石を集めるんだけど、これぐらい小さいと値段でいうと30円。
労力によっては、アルバイトをしてお金を稼いだ方がまともな額を手に入れられる。
そんな安定志向もありかもしれない。
でも、やっぱりロマンを求めたいと思ってしまう。
だから私は探索者をやっている。
「さてさて次々」
草田さんには30分って言ってあるし、パパッとやらなきゃ。
と、次の標的を探しに歩き始めようとした時だった。
「うわああああああああああっ!」
「っ!?」
そんな叫び声に、振り向く。
でも、誰の姿もない。
ダンジョンに居るのだから、同業者であるはずだし、簡単に助けてしまうともしかしたら後からめんどくさいことになるかもしれない。
だから、こういうときは知り合いでもないのだから、助けるだけ余計なお節介になってしまうのだけど……。
「――……助けられる命を助けないのは、違うよね」
そう腑に落とし、声の方へ駆け出した。
「やめてくれっ! こっちにくるなっ!」
たどり着くまでにそう時間は掛からなかった。
そこには、一人のかなり派手な服装をした男性と、フィーウルフ5体。
男性は倒れており、じりじりと後方へ下がっているが、完全に追い込み漁状態。
まさに、多勢に無勢。
武器は所持しておらず、胸元に何か不自然なアクセサリーのような物をぶらさげているだけ。
探索者ではないのか、という疑問を抱きつつも、このままただ眺めているわけにはいかない。
「そこから動かないでくださいっ!」
私は再び駆け出し、男性とフィーウルフ群の間に体を滑り込ませる。
走っている最中、何かが私から離れていったような気がするけど、今はそんなものを気にしている場合じゃない。
「き、きみは!? ダメだ、危ないから逃げて!」
「いいえ、私は探索者です。危ない人を見捨てるわけにはいきません」
「キミのような少女が……わかった。言われた通りにするよ」
「ありがとうございます。ではっ」
この数を相手に、攻撃を食らわないというのは難しい。
だから、だからこそ――私は前進し、私だけを狙わせる。
「はぁっ!」
「キミ大丈夫か!?」
私は構わない。
自分の左腕を盾にして、2体が噛みついてきた。
痛い。
でも、耐えられる。
歯を食いしばって顔をしかめながら、剣で1体、2体と一撃で倒していく。
しかし、残る一体が剣を握る腕に噛みついてきた。
右手と左手、両方が使えない。
――でも。
「諦めてたまるかぁああああああああああっ!」
頭を後方に引き下げ、そこから右手の噛みつく1体に頭突きをくらわせる。
すると、一撃で灰と化した。
フィーウルフの牙が肉まで食い込んでいて、出血し始めている。
痛い。
痛い。
痛い。
でもここで倒れるわけにはいかない。
「負けてたまるかぁっ!」
これでもかと歯を食いしばって力を振り絞り、未だ噛みつく2体を剣で串刺しにし、灰と化した。
「き、きみ……大丈夫なのかい……?」
「え、ええ。まだ大丈夫です。私の意識がある内に、ダンジョンから出ましょう」
「……わかった。命を助けてくれて本当にありがとう」
「では行きましょう」
両腕から血が滴り落ちる。
思い切り頭突きをしたせいか、若干だけ視界が揺らぐ。
お願いだからこのまま何事もなく終わって、と願う他なかった。
「え!? み――だ、大丈夫ですか!?」
「ええ大丈夫です」
外まで辿り着き、草田さんが倒れそうにふらふらしている私を抱き締めてくれた。
「今すぐに回復薬を! 車の中に急いでください!」
「ありがとうございます」
「急いでいるところすまない。私はその子に命を救ってもらった。この恩は絶対に忘れない。また近いうちにどこかで会いましょう」
「え? そ、そうだったのですね。急いでいますので」
「はい。ではこれにて失礼します」
私は意識が朦朧とする中、その人は礼儀正しく深々と頭を下げて去って行った。
「さあ美夜さん。早く飲んでください」
「あ、ありがとうございます」
草田さんから渡された緑色の回復薬を口に突っ込まれ、喉を通って体に液体が入ってくる。
すると、たちまち傷口が塞がっていき、痛みが取れていく。
「この回復薬では失った血は戻らないので、沢山ご飯とかを食べてくださいね」
「はい、そうします」
「お疲れでしょうし、今日はこのままお家までお送りします。お願いですから、まだ動けるとかは言わないでくださいね」
「そうですね。今日はちゃんと言うことをききます」
さすがに疲れがやる気を上回り、私は気づいたら眠りについてしまっていた。
私はレッスンでかいた汗を、太陽に包まれた感覚になれるタオルで拭く。
「レッスンお疲れ様でした。今日の予定は全て終わりになります。このまま帰宅されますか?」
マネージャーの草田さんは手帳を確認しながら、垂れた黒髪を耳にかける。
今は20時。
学校の授業が終わって、ここで3時間のレッスン。
普通なら疲れが溜まり始めているため、このまま帰宅してお風呂に入ったりするのが普通かもしれないけど……。
「いいえ、今日も行きたいと思います」
「え、またですか? 今週でもう3回目ですよ?」
「そうです。もう既に3回は行かないとやっていられないんです」
「そう……ですよね。こちらのスケジュール管理不足です。申し訳ありません」
「やめてくださいよ草田さん。上の人が勝手に決めちゃうんだから仕方ないですよ」
申し訳なさそうに深々と頭を下げる草田さんを制止する。
「だから、今日も近くまでよろしくお願いします」
「わかりました。返送の準備はお忘れなく」
「当然ですよ。アイドルがダンジョンでモンスターをなぎ倒している、なんてことを一般の人に見られたらとんでもないことになりますからね」
「それではお気をつけて。無用だとは思いますが、一応のためここら辺で待機しておきます。危ない時は、緊急連絡で私に伝えてくださいね」
「ありがとうございます。予定では30分程度で考えていますので」
「わかりました。お気をつけて」
私は軽く頭を下げる草田さんに会釈で返し、ダンジョンに向かって歩き出す。
さっき草田さんにも言ったけど、アイドルの私がこんなところに居たら、なんて噂になるかわからない。
といっても、大手番組に出られるような人気アイドルではないし、細々と活動しているから、誰かに見られたとしても気づかれない可能性の方が高いだろうけど。
だけど、一応帽子を被ってその中に髪の毛を入れて、太縁メガネをかけてもしもに備えている。
かなり激しい動きをしなければ、大丈夫大丈夫。
「さてさてさて」
10分ぐらい歩いたところ、そろそろモンスターが襲い掛かってくる場所まできた。
――じゃあ武器を出さなくっちゃ。
左手を腰に、鞘を持っているように指で円を作る。
そこから右手を使って、剣を抜刀するように動かす。
抜刀の動きを追いかけるように手に剣が生成されていく。
「やっぱり、この技術って凄いわよね」
詳しいことはわからないけど、このダンジョン内では探索者として適性のある人であればこうして武器を生成できるらしい。
自分の思い描くような武器を生成できると聴いたけど、実際に他の人と一緒にダンジョンへ入ったことがないから正否はわからないけど。
「おっ、きたきた。あなた達に恨みはないんだけど、倒させてもらうわよ」
目の前から、2体の【フィーウルフ】が歩いてきた。
獰猛な……とは残念ながらいえず、どちらかというとちょっと凶暴な犬。
探索者でもない人が観たら、油断しまくってそのままあの世に逝ってしまうかもね。
「いっくよーっ!」
フィーウルフ達も遠慮なくこちらに猛ダッシュしてくる。
それに臆することなく、私も前に駆け出す。
『ガアッ――』
『ガア――』
「ざんねーんっ」
2体同時に真っ直ぐ来るものだから、右手に持つ剣で右のやつを正面から脳天に突き刺し、左のやつは拳で思い切り殴りつける。
すると、2体はその一撃ずつで灰と化し、宙に舞って消えた。
難しいことはわからないけど、ダンジョン内のモンスターはほぼ全部がこうして消滅するらしい。
そして、
「ん~、やっぱり小さいよね~」
地面に落ちた、小指の爪ぐらいの魔鏡石を拾う。
これは探索者としての生活費になるもの。
だから、せっせとモンスターを倒しては魔鏡石を集めるんだけど、これぐらい小さいと値段でいうと30円。
労力によっては、アルバイトをしてお金を稼いだ方がまともな額を手に入れられる。
そんな安定志向もありかもしれない。
でも、やっぱりロマンを求めたいと思ってしまう。
だから私は探索者をやっている。
「さてさて次々」
草田さんには30分って言ってあるし、パパッとやらなきゃ。
と、次の標的を探しに歩き始めようとした時だった。
「うわああああああああああっ!」
「っ!?」
そんな叫び声に、振り向く。
でも、誰の姿もない。
ダンジョンに居るのだから、同業者であるはずだし、簡単に助けてしまうともしかしたら後からめんどくさいことになるかもしれない。
だから、こういうときは知り合いでもないのだから、助けるだけ余計なお節介になってしまうのだけど……。
「――……助けられる命を助けないのは、違うよね」
そう腑に落とし、声の方へ駆け出した。
「やめてくれっ! こっちにくるなっ!」
たどり着くまでにそう時間は掛からなかった。
そこには、一人のかなり派手な服装をした男性と、フィーウルフ5体。
男性は倒れており、じりじりと後方へ下がっているが、完全に追い込み漁状態。
まさに、多勢に無勢。
武器は所持しておらず、胸元に何か不自然なアクセサリーのような物をぶらさげているだけ。
探索者ではないのか、という疑問を抱きつつも、このままただ眺めているわけにはいかない。
「そこから動かないでくださいっ!」
私は再び駆け出し、男性とフィーウルフ群の間に体を滑り込ませる。
走っている最中、何かが私から離れていったような気がするけど、今はそんなものを気にしている場合じゃない。
「き、きみは!? ダメだ、危ないから逃げて!」
「いいえ、私は探索者です。危ない人を見捨てるわけにはいきません」
「キミのような少女が……わかった。言われた通りにするよ」
「ありがとうございます。ではっ」
この数を相手に、攻撃を食らわないというのは難しい。
だから、だからこそ――私は前進し、私だけを狙わせる。
「はぁっ!」
「キミ大丈夫か!?」
私は構わない。
自分の左腕を盾にして、2体が噛みついてきた。
痛い。
でも、耐えられる。
歯を食いしばって顔をしかめながら、剣で1体、2体と一撃で倒していく。
しかし、残る一体が剣を握る腕に噛みついてきた。
右手と左手、両方が使えない。
――でも。
「諦めてたまるかぁああああああああああっ!」
頭を後方に引き下げ、そこから右手の噛みつく1体に頭突きをくらわせる。
すると、一撃で灰と化した。
フィーウルフの牙が肉まで食い込んでいて、出血し始めている。
痛い。
痛い。
痛い。
でもここで倒れるわけにはいかない。
「負けてたまるかぁっ!」
これでもかと歯を食いしばって力を振り絞り、未だ噛みつく2体を剣で串刺しにし、灰と化した。
「き、きみ……大丈夫なのかい……?」
「え、ええ。まだ大丈夫です。私の意識がある内に、ダンジョンから出ましょう」
「……わかった。命を助けてくれて本当にありがとう」
「では行きましょう」
両腕から血が滴り落ちる。
思い切り頭突きをしたせいか、若干だけ視界が揺らぐ。
お願いだからこのまま何事もなく終わって、と願う他なかった。
「え!? み――だ、大丈夫ですか!?」
「ええ大丈夫です」
外まで辿り着き、草田さんが倒れそうにふらふらしている私を抱き締めてくれた。
「今すぐに回復薬を! 車の中に急いでください!」
「ありがとうございます」
「急いでいるところすまない。私はその子に命を救ってもらった。この恩は絶対に忘れない。また近いうちにどこかで会いましょう」
「え? そ、そうだったのですね。急いでいますので」
「はい。ではこれにて失礼します」
私は意識が朦朧とする中、その人は礼儀正しく深々と頭を下げて去って行った。
「さあ美夜さん。早く飲んでください」
「あ、ありがとうございます」
草田さんから渡された緑色の回復薬を口に突っ込まれ、喉を通って体に液体が入ってくる。
すると、たちまち傷口が塞がっていき、痛みが取れていく。
「この回復薬では失った血は戻らないので、沢山ご飯とかを食べてくださいね」
「はい、そうします」
「お疲れでしょうし、今日はこのままお家までお送りします。お願いですから、まだ動けるとかは言わないでくださいね」
「そうですね。今日はちゃんと言うことをききます」
さすがに疲れがやる気を上回り、私は気づいたら眠りについてしまっていた。
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