Prisoners(千年放浪記-本編4)

しらき

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 「烏丸さん、聞きましたわ。…その、私もあのことを知った時には大変ショックを受けましたが…あれは本当にあなたが…?」
「そうだって話ならそうなんだよ。」
「ですが…」
「てめぇだって内心俺のことを汚らわしいものだと思ってんだろ。仲間だったから、とかそんな情けはいらねぇし、そういう気遣いが一番不快だ。」
「…」
「よかったじゃないか、問題児を追い出せたんだぜ?クソ親父も教会も欲に塗れた俗物なんか後継ぎに相応しくないと思ってたんだろ?俺も国からの加護以外興味なかったしな。」
確かに心の中で彼のことを異端視していたかもしれない。彼が仕切るようになってから利益を得るような活動も増え教えに反するのではと内心冷や冷やしたこともあった。でもそれは貧しい教会の状況を良くしようと思ってのことだと、何だかんだ言いながらも彼は実家を愛しているのだと思っていた。Piece Noire社の数々の汚職、聖職者特権の悪用、そして”ロン”の新興宗教…。紳士的で頼もしい若き神父、烏丸エリックは嘘の顔だったのだ。
「じゃ、俺は私物を取りに来ただけだ。あまりお喋りに付き合ってると仕事場に戻れなくなりそうだからそろそろ消えるぜ。」
「待って!逃げるつもりなの!?もう誰もあなたを守ってはくれない。これ以上何もできないわ!あなたは詰んでいるのよ!」
「いや、まだ俺にはやることがある。それまではくれぐれも邪魔しないでくれよ。」
「あっ…」
行ってしまった。後ろ盾も失って様々な悪事も暴かれて、それでも悔い改めることなく一体何をするつもりなのだろう。真っ直ぐ、正しい道を歩んできた私にはわからない。今も昔も邪悪なものは滅するべきもの、避けるべきものと思っているけれどきっと社会というものは綺麗なものの話だけしていては理解できないのだろう。闇を退けるためには強い光を用いるだけでなく、闇の本質について知らなければならない。

 烏丸さんの件で気付いたことがあった。私は今まで無意識に綺麗なもの、真っ当なものばかりを選択していた。例えばこんな裏路地などには極力近付かないようにしていた。しかし本来はこのような日陰の部分にこそ救うべきものがあるはずなのだ。ホルニッセ王子の件についても街の大通りよりむしろこのような治安の悪いところで聞き込みをした方が案外情報が手に入るかもしれない。そうは言ってもあちらこちらに散らばるゴミや漂う不潔な臭い、浮浪者、一歩歩けば暴漢が出てくるかもしれないという恐怖、やはりできることなら避けたいと思うのが自然なことだろう。
「ちょっとあんた、普通の人間がこんなところうろつくもんじゃない…」
「あら、心配ありがとう。」
「…!」
どうしたのだろう、私に声をかけてきた少年はこちらが返事をすると固まってしまった。
「…見つけた…俺の女神さま…」
「?何か言いました?」
「えっ、あ、いや…」
「そうだ、せっかくだからあなたにも聞きたいわ。ホルニッセ王子の失踪について何か御存じでしょうか?」
「えっ、な、なんで…」
動揺されたのは初めてだ。大抵は申し訳なさそうに知らないと答えるか、あからさまに嫌そうな顔で忙しいと断ってくるかのどちらかが多いのだけれど。もしかして彼は何か知っているのかしら。
「あんた、ホルニッセ…王子の知り合いか?それとも国の捜索隊か?」
「いえ、そんな大層なものではないですわ。私はただのシスターです。人々の話を聞いているうちにホルニッセ王子の安否が気になってしまって…」
「…」
…驚いているのかしら。確かにこんなところに聖職者がいるとは思わないだろう。
「…あなたは美しいうえに行動力もあるんだな…。それに比べて俺は何をしているのだろう…」
「…?」
「理想の人に出会えたんだ…あのわがまま女を裏切って消し炭にされてもいいや。…シスターさん、実は俺…」

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