Prisoners(千年放浪記-本編4)

しらき

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Aspiration

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 「あ~、今日もホルニは麗しかったわ!でもまだあたしのこと好きになってくれないのよね…」
「あんたの力なら奴の心を操作することくらい容易いだろ。」
「違うの!魔法の力じゃなくて本当にあたしのことを好きになってもらわなきゃ意味がないの!ほんっとハヤテは乙女心がわからないわね!」
「…わかりたくもないが。」
わがままな魔女と手を組んでからしばらく経った。こいつはホルニッセのことが大好きで、俺はあのクソ王子のことを生理的に受け付けない。我々は正反対の考えを持つが、それでも付いていこうと思ったのはこいつを手伝えばホルニッセへの嫌がらせになるだろうと思ったのと、可憐な少女に協力を迫られたからだ。蓋を開けて見れば可憐な少女ではなく横暴なババアだったわけだが、年齢のことについてはタブーらしいので触れないようにしている。万が一三十路がどうとか口にすれば雷が落ちる。…それに誰にでも明かされたくない秘密の1つや2つはあるものだ。
「あっ、そういえば魔道具が切れそうなんだった!ハヤテ、買い出し!」
「…はあ。」
 
 「…よし、これで全部か。いつも俺に丸投げしやがるが1回くらいメモの指示を無視して買ってこようか…。」
それにしてもナタリーは一体どこから魔道具を買うための資金を捻出しているのだろう。オイルや粉末なんかは天然の素材で自作することもできるが、そういった類のものさえブランド指定で購入している。彼女の書斎には魔導書も沢山あるし、薬の調合の道具だって安くはない。用心棒としての駄賃だと言って俺にくれた銀ナイフもかなり高価なものだったはず。
 高価なものの価値はそれに触れることができる世界の人間だけがわかる…。ナタリーに会う前までは追いはぎや万引きもしてなんとか食いつないでいた俺だが、それでも上流階級に生まれた事実を無かったものにすることはできない。”浜野ハヤテ”などと名乗っているが本当は浜野の姓すら捨ててしまいたいものだ。それをしなかったのは自由を求めたふりをして限界がきたら裕福な実家に戻るつもりだからだろう…、要は保険だ。
 「やけに街に人が多いな。ホルニッセの失踪で祭りは禁止されたんじゃなかったっけか…。哀れな奴だ、自分のせいで愛する国民がこんな目に遭っているなんて思ってもいないだろう。」
どうやら人が集まっているのは広場にあるスクリーン周辺のようだった。それこそ最近は国からのお知らせくらいしか流れていなかったはずなのに何があったのだろうか。
「ああ、やっぱりロンの歌は心が洗われるよ。マジで救世主なんじゃないか。」
「音楽に飢えてたってのもあるかもしれないが、本当にあの歌は素晴らしい!」
「あれまで禁止されたら俺生きていけないよ。」
ロンの歌…?それが人を集めているものなのだろうか。確か祭りだけでなく一切の音楽イベントも自粛…と言う名の禁止であったはずだが、そのアーティストは国家の圧を無視しているのか?だとしたら随分と度胸があるが…。
 …まあ俺には関係のない話だ。とにかく今は早く帰らないとわがまま女がしびれを切らしているに違いない。ごちゃごちゃと文句を言われるのは心底面倒だからな。
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