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反撃

決意

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決意


 「失礼する。」
「どうしたんですか朝から。松岡さんは?」
「いや、松岡が1人にしてくれと騒ぐものでな。しばらくこちらに居させてくれないか?」
「別に構いませんが…。」 
 特に予定もなかった俺は岩村の部屋で“気になっていたこと”について調べていた。
「…何故だ?1件も引っかからないはずが無い…。一体どうなっている…。」
「何を検索しているのですか?」
「昨日松岡が口にした“一文路”という言葉だ。」
「一文路…ですって…」
「知っているのか?生態研究科に関係ありそうな言葉だったが。」
「知っているも何も一文路さんは生態研究科のトップですよ…!」
「だったらネット検索で出てもいいと思うが…。」
「向こうのトップ層の情報はネットに流れないように厳重にチェックされているらしいですから。」
「情報統制か、恐ろしいねぇ。だが、なら何故お前は一文路を知っている?」
「俺の生まれは生態研究科ですから。」


 「よう、松岡。1人か?」
「ああ。えっと確かお前は…。」
「木村だよ。高校で同級だったろ。」
「そうだったな。お前こそ廊下をウロウロなんてしてどうしたんだ。」
「体動かしていないと落ち着かなくてな。」
「あー、すごくわかる。俺も暇な時はランニングしているからな。」
「流石、陸上をやっていただけあるな。」
「戦いが無ければまた本格的な大会とかにも出たいとは思っているけどな。」
「そうだ、戦いといえば変な話だがかなりのやつが徴兵以降非科学的な力を得たと話しているのだがお前はどう思う?」
「どう思うって実際俺もそういう特殊能力みたいなの手に入れたし…。」
「マジか。冗談かと思っていたけど本当っぽいな。いや、俺はそういうの得てないんだ。」
「えっ、全員ではないのか。」
「俺は選ばれてないんだよ。いいなーチート能力。」
「便利ではあるが気持ち悪くもあるぜ。」
「あ、でもそういえばその能力に異常が発生しているんだって?」
「被害が増えたのはそのせいだと俺は思う。岩村が来たあたりからだっけか。」
「絶対それ岩村が関係しているだろ!」
「俺も疑ってはいるが…。別にあいつは怪しい動きをしていないからなぁ。」
「存在がそもそも原因だったり?」
「そんな妨害電波を発するみたいな…妨害電波?」
妨害電波という言葉で全てが繋がったような気がしたがそもそもMM企画について知らない木村は訳が分からないといった顔をした。
「妨害電波がどうした。超能力を妨害する電波なんて聞いたこともない。」
「実は俺たちが得た超能力というのは生態研究科が開発したマイクロチップの仕業なんだ。」
「生態研究科…マイクロチップ…。」
「あの生態研究科のことだ。俺たちの調子を狂わせるため“そういう”能力のバージョンも開発しているのだろう。」
「それを持つのが岩村海翔ということか。」
「俺の中ではそれが答えだ。筋は通っているだろう?」
「確かに…。」
だとしたらやるべき事は決まっている…。そう言おうと思って木村の目を見たがどうやら言葉は必要無いらしい。向こうも同じようなことを考えているようだった。


 2ヶ月あればなんとかなると大口を叩いてから早1ヶ月。まだ俺は生きていた。この1ヶ月で第一段階は完了した。というよりはむしろこれで当初の目的、被験者の特定は可能となった。まず俺は体内のマイクロチップの有無を調べる手段を見つける必要があった。出撃の合間に反応する電波や物質がないか調べた。その後簡易的で量産可能な検査キットを作る作業に取り掛かった。ここまでで3週間。俺にしては仕事が早かった方だ。これを各部屋に配布し、回収するところまでは済んだ。今データをまとめているところである。
 さて、次の問題は突然マイクロチップに異変が生じた原因だ。これがわかればもしかしたら玉砕は回避できるかもしれない。タイミングからして岩村にも何かあると考えた俺はあいつの分も含め全ての隊員の人物情報を見直した。
「出会い以外は特に変わったところは無さそうだが…ん?そういえばこれは岩村だけなのか…。まさかこんなものマイクロチップには影響しないと思うが…。」


 「だいぶまとまってきたね。」
「そうだな。だいぶ被験者となってしまった者も減ってきたようだ。」
「…まさか死傷者のほとんどが被験者に選ばれた人?」
「爆発などに巻き込まれた者もいるからそうとは言いきれないが…そうだな、被験者の方が圧倒的に被害が多い。」
「向こうは被験者だけを狙って全員処分するつもりだ…!須藤さん、このままじゃ…!」
俺ももう長くはないとわかってはいた。だが予知夢という能力の性質上他の者と異なり能力の異常が直接的に死に関わってくるわけでも無さそうだ。それに俺の能力はあの音が無い夢を見た時から既に狂い始めているはずだ。
「そもそもなんで俺はまだ生き残っているんだろう?確かに俺は絶対被験者ではないけど白城と違って普通の人間だ。」
「…確かに。だがそれと同じようなやつがもう1人いるじゃないか。」
「岩村海翔?」
「ああ。あいつだってここの者でもなければ不老不死でもない。出生以外は至って普通の人間だ。」
「でも松岡さん言ってた。岩村は生態研究科からの刺客だって。」
「生態研究科だと?」
「マイクロチップの調子を狂わせるため向こうが送ってきたと噂されているよ。」
「…それは俺も考えた。だが本当に岩村は向こうからの刺客なのだろうか。」
「無口だから情報を吐かないという点では送り込むのに向いていそうだけど…。いや、岩村の場合は違うな…。」
「違う?どういうことだ?」
「あいつを拾った須藤さんならわかるでしょ。あいつが俺に向けてくる目には人間に対する恐怖、警戒、そんな感情がこもっている。どちらかと言えばあれは刺客なんかじゃなく利用されている方だ。」
思い返してみれば岩村を助けた時俯き気味で分かりにくかったが俺たちに怯えている様子だった。それになかなかあいつは目を合わせて話そうとしなかった。だが俺は剣崎のような発想に至ることは出来なかった。
「…やはりお前に託すべきなのだろうか。」
「え、何を?」
「機会があったら岩村を安全なところに逃がしてはくれないか。」
「それって…。」
「皆この異変の原因は岩村じゃないかと思っているだろう。最近うちの被害も甚大だ。そろそろ何か起きるぞ…。」
「確かに…。」
「俺は立場上船から離れられない。いざって時には誰かに頼らざるを得ない。…お前なら大丈夫そうだ。」
「わかった。それが“艦長命令”でしょ?」
「いや、須藤康成の“願い”だ。」
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