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第32話 席替え ⇒ 神座席

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 全開にされた窓から朝の爽やかな風が入り、人熅ひといきれが篭る教室に涼気をもたらしてくれる。
 私の前の席では奈緒ちゃんがお昼寝をし、その左隣では有咲ちゃんが漫画を読んでいる。…ちなみに今は授業中だ。
 そして有咲ちゃんの後ろの席、私の隣をちらっと見ると竜胆さんが真剣な表情で先生のお話を聞いていた。

 …お気づきになられただろうか。
 そう、席順が変化しているのだ。今日の朝のホームルームで席替えが行われた為である。
 なんとその方法は自由。『自由』である。
五十嵐先生曰く「友人同士で仲を深められるように」だそうだ。
 素晴らしきかな、その気遣い。まさしく教師の、人間の鑑である。やっぱ五十嵐先生しか勝たんのよ、皆も崇め奉れ? まじで。

 さて、そんな訳で席替え後は周りが友人たち(超絶可愛い)で囲まれた生活となったのだ。
 これ程までに恵まれた空間が未だかつてあっただろうか。いや、無い。恐らくこの神席の地価は百億円くらいにはなると思う。間違いない。

 高校生活がもっと楽しくなりそうな予感…!


━━━━━━━━━━━━━━━


「小森さん、大丈夫?」

 休み時間、机に突っ伏して試合後のボクサー並みに燃え尽きていた私に竜胆さんが声を掛けてくれた。

「あぁ、竜胆さん…大丈夫だよ、ありがとう」

「具合悪いの?」

「ううん、違うよ…」

「じゃあ、どうしたの?」

 竜胆さんは心配と困惑が混ざったような表情をしながら問いかけてくる。
 心配させてごめん、竜胆さん。でも私のライフはもうゼロなんだ…。

「だって……ない」

「え?」

「だって小テストをやるなんて聞いてない!」

 なんと、さっきの国語の授業で抜き打ちの小テストがあったのだ。
悪魔の所業である。五十嵐先生め、絶許だよ…。

「そんなに出来なかったの?」

「いや…出来たんだけど」

 多分、最低でも八割は取れていると思う。

「なら良いじゃない」

「いや違うんだよ竜胆さん」

 私は小テストが嫌なんじゃない。…いや嘘だ、普通に嫌いだ。でもそれ以上に突然行われるのが嫌なのである。
 だって事前に神社に行って神様に祈っておくことが出来ないんだもん!と、私は竜胆さんに力説した。

 でも、どうやら竜胆さんには理解して貰えなかったようだ。苦笑いされてしまった。
 …理解者なんていない。孤独な女なの、私って。

 私は哀しみを抱えながら窓枠に肘掛け、独り風を感じていた。
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