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第4章:俺の声を聴け!

243:イーサ王のスピーチ(原文ママ)

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◇◆◇◆◇



 第57代クリプラント王 初勅
 イーサ王のスピーチ全文



 さぁ、建国史上おそらく最も独裁的で、身勝手で、愚かな王が玉座に着いた。
 この最高の悲劇の瞬間に立ち会ってしまった、愛するクリプラントの諸君に、この声明を送る。

諸君、私が見えるか。
クリプラントの新たな王、イーサだ。この先千年、私は諸君らの前に立ち続ける。この王の顔を、声を、その目と耳に焼き付けるがいい。

 私は諸君らを停滞から変化という苦しみの中に誘う悪しき王だ。

 ついて来れない者は置いて行く。しがみつけ。付いて来さえすれば、必ずや私が諸君を新しい世界へと連れて行ってやる。

 怖がる必要はない……受け入れれば、全てが“日常”となる。まだ見ぬ世界を恐れるな。大丈夫だ。皆は私が先に歩んだ後の道を、信じて歩めばいい。私が、道を作る。怖くはない。

 それが王たる私の、諸君らに対する愛だ。
 私は怖くないのかって?あぁ、怖くはないさ。私は知らぬ場所を恐れるようなタマではないからだ。むしろ、今私はワクワクしている。

 ただ、そんな私にも一つだけ恐ろしい事がある。
 この世に生まれた以上、避けては通れぬ……愛する者との「別れ」だ。

 何故だか、この世界には同じ瞬間に生きているのに、時の流れが違う者が存在する。愛しい者の一日と、自分の一日が異なる。その事実が、これまで多くの悲劇を生んだ。同じであれば、こうも悲しみに暮れる事はなかった。その辛さが憎しみを生む事はなかった。反目し合う事などなかっただろうに。

 そう、何度思った事だろう。

 しかし、本当はそんな事はないのだ。
 私も、愛する者も、同じ時を生きるこの瞬間は……同じ一日であり、同じ時を生きている。それが、私達エルフにとっては、人生の中の僅かばかりの“お茶のひと時”であろうと、それは紛れもなく愛する者と時を同じくした、何者にも代えがたい時間だ。

 自らとは異なる存在を受け入れる事、そして愛する事。
 そして、別れにより身を裂く悲しみを感じる事は……決して同じ所にはない。
 別れの日が来たら、愛した日々を誇り、失った悲しみに涙しろ。私はそうする。そうする事にした。

 さぁ、そろそろお喋りの時間は終わりだ。
 前へと進むとしようじゃないか。

 最後に私はここに誓いを宣言する。

 私は愛する諸君らと、そして愛しいたった一人の人間の為に……ありったけの勇気を持つ事をここに誓う。

……神の加護が我々とともにあらんことを。




◇◆◇◆◇


第57代、クリプラント王による初勅は以上である。
しかし、それは全文……とは記載してあるが、一部省略された箇所がある事は、王宮内のごく一部だけが知る事だ。

このスピーチの後、イーサ王は玉音マナを切り、誰かと話していたようだ。
記録されていない会話の一部は、こうだ。


「サトシ、イーサは上手に出来たか」


 サトシ、という名を持つ人物について。
 クリプラント王宮史に残る記載は一文もない。


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