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第4章:俺の声を聴け!

224:イーサ、一人

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 そうと決まれば話は早い。


 俺は弾かれたように扉の前から動き出すと、奥にある衣装室へと向かった。そして、目の前に現れたズラリと並ぶ煌びやかな衣装を前に思わず眉をしかめる。
 こんな派手で動きにくそうな服など着てしまったら、外に出た瞬間にすぐに“イーサ王”だとバレてしまう。そんな事になったら、俺はすぐに城に連れ戻されてしまうではないか。

「王様とは本当に面倒な職業だな……。裸で外に出るワケにもいかないし」

 思わず溜息が漏れる。
 本当ならマナを使って姿カタチを変えてしまうのが早いのだが、あれには常時大量のマナを要する。短時間ならまだしも、これから長時間見た目を変え続けるのはさすがにキツいものがある。
 それに、この後リーガラントへ向かう為の転移にも俺のマナを使わなければならない。リーガラントでも何が起こるのか分からない事を考えれば、多少はマナを節約しておく必要があるのだ。

「ふむ」

 衣装部屋にかけられている服を右から左に順に眺めていく。すると、ふと、視界の端に四角い茶色の箱が目に入った。はて、これは一体何だっただろうか。

「……おぉっ!これは」

 一つだけ扱いの違うソレに吸い込まれるように箱を開けてみると、そこに入っていたのはクリプラント兵の隊服だった。どうやら、有事の際、兵に扮して王族が逃げおおせられるようにと、置かれていた変装用の服だったようだ。

「サトシとおそろいではないか!」

 俺は歓喜のあまりその服を抱き締めると、迷うことなく袖を通した。真新しいシャツはヒンヤリしていて、当たり前だが何の匂いもしない。それに、生地もどこかパッキリしており一切肌馴染みしなかった。そのせいか、少しゴワつく。
 しかし、“お揃い”というだけでサトシに抱きしめて貰っている気がするのだから不思議だ。

「凄いぞ!これを着ただけで一気に王様ではなくなった!」

 鏡に映った自分の姿に、俺は思わず目を瞬かせた。
 そこに映ったのは、どこからどう見ても“クリプラントの一般兵”の姿だった。特に功を奏したのは、サトシに言われて短く切った髪の毛だ。きっとこれなら、マティックやその他の重鎮達、それに家族を除いては俺とバレる事はないだろう。そもそも、百年も部屋に引きこもっていたのだ。誰も“イーサ”の顔など覚えてなどいないに違いない。

 今までずっと王族としての自分しか見た事がなかったが、中々兵士の姿もサマになっているように見えた。

「戴冠式前で良かった。これで本当に今からの俺は、ただの“イーサ”だ」

 ただの“イーサ”。サトシの前にその姿で会いに行ける事が嬉しくて仕方が無かった。こんなに簡単に脱ぎ捨ててしまえるのであれば、もっと早くに衣を脱ぎ捨ててサトシの隣へと走れば良かったとさえ思う。

「所詮、権力や地位は着て身に纏うモノだったという事か!イーサはとんでもない学びを得たぞ!あははっ!」

 俺は“王様”ではなくなった自分に殊更気分が良くなるのを感じると、ベッドまで駆け抜けた。ベッドの上にはいつも黙って俺の傍に居てくれたあもが笑って寝転んでいる。
 しかし、先程までサトシと一緒に抱き合って気持ち良い事をしていたせいか、どこか不満そうな顔に見える。

「可哀想に。俺があもを抱き締めてやらなかったせいで、きっとスネているに違いない。悪かったな、あも」

 俺は静かに言うと、いつものようにあもをこれでもかという程抱き締めてやった。

「あも、イーサはこれからリーガラントに行く!サトシより先に行ってビックリさせてやるんだ!あも、お前も行くか?」

 俺はモノ言わぬあもに語りかける。サトシが居たならば、きっとあもの声で答えてくれただろう。しかし、今のあもは縫い付けられた目でジッと此方を見てくるだけ。しかし、それでも俺には伝わった。全部、余すところなく。

「うん。一緒に行きたいようだな。わかった、わかった。そうだろうとも。あもはイーサと片時も離れるのが嫌なんだな。だって、あもはイーサが大好きだものな!イーサがサトシを好きなのと同じだ!」

 俺は更にもう一度だけあもをギュッと抱き締めると、すぐにあもの頬を撫でて掌サイズにしてやった。本当は元のままのサイズで連れて行ってやりたかったが、それでは如何せん目立ってしまう。

「では、今すぐ転移ゲートを使ってリーガラントへ行くぞ!あも!」

 ポケットの中で俺にピッタリとくっついたあもは嬉しそうにニコリと笑っていた――

のだが!


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