216 / 284
第4章:俺の声を聴け!
幕間16:クリアデータ7 07:10
しおりを挟む「うーん、無事にリーガラント軍を撤退させる事は出来たけど、皆に私がこの世界の住人じゃないってバレちゃったわね」
体を投げ出した体勢でベッドを背もたれにしながら、栞はジッとテレビ画面を眺めた。そこには、驚いた表情で此方を見つめてくるテザーやエーイチ、そしてエイダのスチルが表示されている。
「……でも、いいわねぇ。この隠していた正体が皆にバレて驚かれる瞬間って。いやぁ、こういう女子のアガる展開のツボを抑えててくれるから【セブンスナイト】シリーズは最高なのよ」
栞はコントローラーから手を離すと、近くに置いてあったペンを手に取った。そして、机の上にあるノートへとサラサラと手を滑らせる。ゲーム画面は一旦停止させ、これまでの会話ログのページを開き展開の確認していく。
「どんな風にサイトにまとめたら見やすいかしら?やっぱ、チャート式がいいわよね?えっと……」
栞は現在、サイトに掲載する為の攻略情報をノートに細かく録していた。
これまでも栞は、ゲームの合間に提示された選択肢と、それにまつわる展開の内容を記録し続けている。こういう記録が、後々レビュー動画を作る際に最も大切な資料になるのだ。
栞にとって「ゲームをプレイする」というのは、「サイトに攻略方法をまとめる」「レビュー動画をアップする」というトコロまでがセットだ。
だからこそ、ここぞというタイトルのゲームが発売された時は有休をフルで使う。
「昔からこういうの好きなのよ……。魔法少女だってバレちゃいけないのに、ピンチを前に皆の前で魔法を使う状況然り。男装して男子校に入学した主人公が女だってバレる瞬間然り」
女の子の秘密がバレるって最高に夢があるわー!
栞は動かす手を止める事なく、うっとりとした表情で驚くイケメン達の顔を眺めた。そりゃあもう器用に“作業”と“トキメキ”を両立させている。そう、上白垣栞はマルチタスクを使いこなす、とことんデキる女なのだ。ただ、それが真価を発揮させるのはオタ活の時のみだ。実社会で発揮される事は殆どない。
「まぁ、イーサやマティックにしか知らせてなかったもんね。ほんと、リーガラント軍を全軍撤退させるのは骨が折れましたよ。ラスト目前とは言え選択肢の数とその難易度上げすぎ。こんなの、絶対に途中で詰む子が出てくるわよ?ねぇ?製作スタッフのみなさーん」
栞はサラサラとノートの上に滑らせていた手を止めると、ふうと軽く息を吐いた。最後に「これが最終章への道!」とペンで丸を書き記す。
「まったく、何回リセットしてやり直した事か……」
パラパラとノートを捲る。そこには殴り書きではあるものの、これまでのエイダとの会話と、それによって発生した大量の選択肢、及びその後の展開の全てが書き記されていた。このエイダとの会話だけで、一体どれ程の時間を要した事か。
「今から急いでこの情報をネットに上げるわよ!さぁ!私の後に続きなさい!恋するプレイヤー達よ!」
これも全て、後に続くプレイヤー達の為だ。
きっと栞の攻略サイトがなければ、多くのプレイヤー達がトゥルーエンドに辿り着く事は出来ないだろう。栞はこの【セブンスナイト4】をプレイする先頭走者として、後に続くプレイヤー達に道を示しているのだ。完全に趣味として。
「それにしても、最後の主人公の“鶴の一声”は本当に良かったわ」
ノートを片手にパソコンへと向かいながら、栞はこれまでの展開を思いしみじみと口にした。
「これまでの六人を攻略済だからこそ、リーガラント軍を撤退させるに至った最高にして意外過ぎる一言。まったく凄いストーリー展開よ。六人全員のエンディングを、このイーサルートで“伏線”にしちゃうんだから」
栞は寝不足にも関わらず、一切疲れを感じていなかった。それは、自分が寝不足を越えた先の限界点に居るからなのか、面白過ぎるゲームに没頭してしまっているからなのか。
答えはもちろん“両方”だろう。
「これからは【セブンスナイト4】はシリーズ最高峰って呼ばれるようになるわね。クリアした後に公開するレビュー動画のサムネもそんな感じにしよう!『シリーズ最高峰!究極にして神作!』……煽り過ぎ?いや、このくらい煽らなきゃ!」
栞はカタカタとキーボードを打ち込みながらクスクスと笑った。明日から有給明けで仕事だというのに、まだまだやる事は盛りだくさんだ。ゲームをクリアして、攻略サイトを完成させる、感想ブログを書いて、レビュー動画を撮影してアップする。
本当に忙しい。忙しいけれど、これほど充実した一週間は成人して一度も無かった気がする。
「はーー、もうすぐ終わりなんて寂しいなぁ。早くラストが見たいけど、まだまだ遊びたい……でも、終わらせなきゃ」
栞はノートをパタリと閉じ、キーボードの上を滑らせていた手も止めた。
「終わらせて次に行く事でしか、新しいモノには出会えないんだから。だって、今回の【セブンスない4】のテーマは」
【世代交代】なのだから。
栞は放り投げていたコントローラーを再び持ち直すと、停止させていた画面を動かし始めた。
「さて、ここから最終章ね。このまま一気にトゥルーエンドへ突き進むわよー!」
どうせ終わってもやる事は山盛りだ。終わらせたってロスを起こしている暇は欠片も無い。栞はご機嫌でボタンを押すと、ゲームの世界へと没入していったのであった。
30
お気に入りに追加
225
あなたにおすすめの小説
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~
白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。
そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!?
前世は嫌われもの。今世は愛されもの。
自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!!
****************
というようなものを書こうと思っています。
初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。
暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。
なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。
この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。
R15は保険です。
どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~
黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。
※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。
※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。
弟いわく、ここは乙女ゲームの世界らしいです
慎
BL
――‥ 昔、あるとき弟が言った。此処はある乙女ゲームの世界の中だ、と。我が侯爵家 ハワードは今の代で終わりを迎え、父・母の散財により没落貴族に堕ちる、と… 。そして、これまでの悪事が晒され、父・母と共に令息である僕自身も母の息の掛かった婚約者の悪役令嬢と共に公開処刑にて断罪される… と。あの日、珍しく滑舌に喋り出した弟は予言めいた言葉を口にした――‥ 。
35歳からの楽しいホストクラブ
綺沙きさき(きさきさき)
BL
『35歳、職業ホスト。指名はまだ、ありません――』
35歳で会社を辞めさせられた青葉幸助は、学生時代の後輩の紹介でホストクラブで働くことになったが……――。
慣れないホスト業界や若者たちに戸惑いつつも、35歳のおじさんが新米ホストとして奮闘する物語。
・売れっ子ホスト(22)×リストラされた元リーマン(35)
・のんびり平凡総受け
・攻めは俺様ホストやエリート親友、変人コック、オタク王子、溺愛兄など
※本編では性描写はありません。
(総受けのため、番外編のパラレル設定で性描写ありの小話をのせる予定です)
悪役令息の兄には全てが視えている
翡翠飾
BL
「そういえば、この間臣麗くんにお兄さんが居るって聞きました!意外です、てっきり臣麗くんは一人っ子だと思っていたので」
駄目だ、それを言っては。それを言ったら君は───。
大企業の御曹司で跡取りである美少年高校生、神水流皇麗。彼はある日、噂の編入生と自身の弟である神水流臣麗がもめているのを止めてほしいと頼まれ、そちらへ向かう。けれどそこで聞いた編入生の言葉に、酷い頭痛を覚え前世の記憶を思い出す。
そして彼は気付いた、現代学園もののファンタジー乙女ゲームに転生していた事に。そして自身の弟は悪役令息。自殺したり、家が没落したり、殺人鬼として少年院に入れられたり、父に勘当されキャラ全員を皆殺しにしたり───?!?!しかもそんな中、皇麗はことごとく死亡し臣麗の闇堕ちに体よく使われる?!
絶対死んでたまるか、臣麗も死なせないし人も殺させない。臣麗は僕の弟、だから僕の使命として彼を幸せにする。
僕の持っている予知能力で、全てを見透してみせるから───。
けれど見えてくるのは、乙女ゲームの暗い闇で?!
これは人が能力を使う世界での、予知能力を持った秀才美少年のお話。
俺のまったり生活はどこへ?
グランラババー
BL
異世界に転生したリューイは、前世での死因を鑑みて、今世は若いうちだけ頑張って仕事をして、不労所得獲得を目指し、20代後半からはのんびり、まったり生活することにする。
しかし、次代の王となる第一王子に気に入られたり、伝説のドラゴンを倒したりと、今世も仕事からは逃れられそうにない。
さて、リューイは無事に不労所得獲得と、のんびり、まったり生活を実現できるのか?
「俺と第一王子との婚約なんて聞いてない!!」
BLではありますが、軽い恋愛要素があるぐらいで、R18には至りません。
以前は別の名前で投稿してたのですが、小説の内容がどうしても題名に沿わなくなってしまったため、題名を変更しました。
題名変更に伴い、小説の内容を少しずつ変更していきます。
小説の修正が終わりましたら、新章を投稿していきたいと思っています。
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる