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第3章:俺の声はどうだ!

150:サトシ、ヴィタリック推しを暴露する

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「これこそが、六百年前の国家防衛戦線の裏側である!」


 俺がハッキリとそう告げると、それまで黙って俺の事を見ていたイーサが、不満そうに此方を見ていた。

「なんだよ、イーサ」
「そんな都合の良い事があるワケない。そもそも、そこまでの兵力に差がある状態ならば、リーガラント側が撤退する謂れがないだろう」
「まぁ、普通に考えればそうだろうな」

 まぁ、確かにそうだ。普通に考えれば、優勢な筈のリーガラント軍が突然撤退するワケがない。

「それに、ヴィタリックが前線に立ったなんて、そんなのおかしい。アイツはそんなヤツじゃない」
「お前の知ってるヴィタリックなんて、今の完全に出来上がった“王様”の姿をしているヴィタリックだろう?あの頃、まだお前は生まれてない。お前が知ってる“ヴィタリック”なんて、ほんの一部でしかないんだよ」
「そんなの、サトシだって同じだろう」
「俺はお前より、ヴィタリックの事を知ってるね!」
「なんで」
「だって、俺はすっっっごい!」

 俺は一気に腹の中に空気を溜め込むと、腹の底から本気の本音を吐き出した。

「ヴィタリックが大好きだからだ!」
「っ!」
「大好きな人の事は、知りたいと思うモンだろ!だから、俺はお前よりもヴィタリックの事を知ってるんだ!」


 まぁ、ヴィタリックというより、その名の後ろにある飯塚さんが好きなのだが。まぁ、もちろんヴィタリックが好きでも間違いではない。
なにせ、このヴィタリックというキャラは驚く程、飯塚さん自身に似通っている気がするのだ。とにもかくにも、格好良いの一言に尽きる。

「まぁ、それは置いといてどうしてリーガラント軍が一夜にして撤退したのか、だが」

 やっと静かになったイーサを前に、俺は語りを続ける事にした。確かにこのままでは、ヴィタリックがラッキーで勝ったように皆に思われてしまう。

そうなっては、俺が語った意味がない。

「そもそも、ヴィタリックは分かっていたんだ。あのタイミングでリーガラント軍が撤退する事を。キン、何でか分かるか?」
「……」

 俺がイーサに問いかけてみれば、口を尖らせるばかりで何も返事をしなかった。まったく、こんな所まで金弥にソックリだとは。

「はい、わかんねーよな。それをやったのが宰相のカナニだ。知ってる?カナニ、ヴィタリックの幼馴染で、腹心の部下の。あの、渋くて、高貴で、最高にイカす声の!カ、ナ、ニ!」
「知ってる!だからそう何度も他のヤツの事を格好良いと言うな!そろそろ癇癪を起すぞ!」

まぁ、さすがに父親の代の宰相だ。知らない事はないだろう。あぁ、俺も一度カナニには会ってみたい!城の中をウロついてたら、いつか会えないだろうか!

「癇癪はちょっと待て!まだ話には続きがあるんだから!」
「もう聞きたくない!」
「こっからが熱いんだよ!聞けよ!な?キン!聞いてくれ!おねがい!おねがい!」
「~~っ!なんだっ!」

 俺がイーサの前に両手を合わせて「お願い」すると、イーサは口を尖らせたまま悔しそうに返事をした。ほら、結局のところ、イーサも俺が頼めばイヤとは言わないんだ。こんな所も、金弥ソックリ。

「ボロボロのヴィタリックが城に戻った瞬間な!カナニが一目散でヴィタリックの所に来るんだよ!そして、こう言うんだ!」

 撤退するリーガラント軍を見届け、城に戻ったヴィタリックは満身創痍だった。
そんなボロボロのヴィタリックの元へ、一人の若い男が烈火の如く怒り散らかしながらやって来る。

それが、宰相カナニ。
中里譲さんが声を務めた、ヴィタリックの腹心の部下だ。

中里さんの声を思い出しながら、俺は一気に腹に息を溜め込むと、次の瞬間一気に吐き出した。

 しかし、

「――――!」

 声が、出なかった。
何故だ。此処へ来る前に、イーサの唾液はたくさん貰った筈なのに。そう、俺がイーサの顔を見上げると、イーサは「あぁ」と納得したように頷いた。

「サトシ、酒の飲み過ぎだ。アルコールのせいで、声帯が麻痺したんだ」
「――!?」

 えーー!ここからが良い所なのに!もう少しで最後まで話し終える事が出来るのに!

俺は手に持っていた酒のグラスが知らぬ間に空になっているのに気付くと、酩酊する頭でハタと思い至った。そして此方を見下ろしてくるイーサの唇を見て、思った。

「――!」
(あぁ、ちょうど良かった!ここにはイーサが居るじゃないか!)

 俺はふわふわする頭でハッキリと“良い考え”を思いついた自分を褒めると、そのままイーサの首に手を回し、その唇めがけて自分の口をくっ付けてやった。その瞬間、イーサの目が大きく見開かれ、周囲からも今まで以上の歓声が上がる。

 あぁ、歓声はいつ聞いても良い。気持ち良いモンだ。

 それに、どこかで、テザー先輩の悲鳴染みた声も聞こえてきた。あぁ、やっぱりテザー先輩の声も良い声だ。

「――っ」
「っん、ふ」

 イーサの口の隙間から色のある声が漏れる。最近、数を重ねてきたお陰で、舌を使ったキスにも慣れてきた気がする。俺はイーサの口内から唾液を貪り取るように、舌を縦横無尽に這わせていく。

 舌の裏側、歯茎の隙間、舌の付け根、舌の上。
 イーサの口から漏れる息に、アルコール独特の匂いが混じっている。確かに、イーサも結構飲んでいた。それなのに、その顔色は一切変わらない。もしかしたら、アルコールには強いのかもしれない。

「っはぁ、く」

腹の部分にイーサの下半身が当たるが、既に緩く勃ち上がっている。まったく、ここに来る前にあれほど処理してやったというのに。まったくもって、イーサは元気なモンだ。

「っはぁ!よし!で、でさ!」

 俺は声が出るようになったのを確認すると、さっそく話の続きを再開しようとした。

「……さ、さとし。うぅ」
「ん?」

声のする方へと視線を向けてみると、そこには手を震わせて半泣きになっているイーサが居た。イーサは俺との約束通り、俺がキスをしている間、まったく俺に触ってこなかった。手はグーだ。触ったら“絶交”と言う言葉を、必死に守ってくれたらしい。

その姿に、俺はアルコールで緩くなっていた感情が、ジワリと蘇ってくるのを感じた。

蘇ってきた感情。それは、ちょっとした罪悪感だった。

「ごめんごめん。帰ったら、また俺がシてやるから。な?」
「ほんとに?」
「ほんとほんと。だから、機嫌直せ」
「……うん」
「じゃ、続き話すから聞いて!」
「ん」

 大人しく頷くイーサと共に、俺は周囲を見渡した。しかし、何故だろう。視線を逸らされてしまった。なんだか、あんなに感情移入してくれていた皆の意識が少し散漫になってしまった気がする。

 やっぱり、お話のテンポって大事だよなー。

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